Flower

文字の大きさ
438 / 591
4月

閑話79.宇野衛

しおりを挟む
あれから随分年月が経って今年で自分は十五になった。早生まれなので直ぐ様高校生になったわけだが、高校は勿論近郊の両親の卒業した都立第三高校に余裕で入ったのは言うまでもない。しかし、体育教師で古くからの友達でもある悌君が、しかも学年主事とかやっているのには驚いてしまう。普通体育教師が学年主事ってないんじゃなかろうか、と問いかけると俺もそう思うと悌君自身が言っているから希望でなったわけではないらしい。三十五で学年主事に生徒指導とは、随分と破格の出世だと思う。並んで歩きながら、昔よりだいぶ近くなった顔を眺める。

「奥さん、産休開けるのいつ?悌君。」
「学校じゃ先生。あともう少しだなー。今からヤル気満々過ぎてなぁ。」

悌君の奥さんは同じ高校の美術の先生だ。女性のわりに凄くサッパリした人で、女子からは姉御のように慕われているし男子からも人気なのだ。元は高校のOGで、実はうちの母の同級生でもある。結婚したのはうちの両親の方が早かったが、子供が出来るのはほぼ同じ時期だった。しかも、もう一人の同級生でもある人もほぼ一ヶ月位の差で出産しているらしいから、三人相変わらず仲がよいと言えば仲のよい話だ。

「そういうお前のとこはどうなんだよ?双子だったんだろ?」
「父も母もてんやわんやしてるよ、祖父母も必死。」

そう、うちの両親は自分の下に、なんと双子が生まれてしまったのだ。母も初産で双子とは、体は小柄なのに随分とチャレンジャーな話だ。お陰で男女の双子な訳で一気に弟と妹が出来たのは正直嬉しいのだが、面白いくらいに同時に泣き出すので世話の大変さが二倍の感じ。

「ま、嬉しそうに世話してるからいいけど。信哉君は?」
「まあ、そろそろってとこかな?」

信哉君もソロソロ結婚するかもと言う話はチラホラしているのだが、まだ決定打がないらしい。それにしてもたった八年程で身の回りの変化は大きくて、正直驚いてしまうことばかりだ。自分の成長だって目を見張るほどなのに、煮え切らない感じの父に母の方から逆プロポーズしたのは二年前の事。母が大学を卒業して、尚且つ栄養士になって調理師の免許もとって、喫茶店をやりたいと言い出したのは結婚して暫くしてのことだ。自分は知らない父の両親がやっていたようなお店をやりたいと、母は昔から考えていたらしいと知ったのはその時が初めて。しかも昔から料理上手だった母の店はそれほど大きくないのに、来店客の口コミと友人達のお陰でかなり繁盛している。
それにしても結局母の方から、プロポーズされてしまったわけで。今は父も脱サラして一緒に喫茶店をやりながら趣味の園芸をしつつ生活している。自分としてはちょっとヘタレ加減が情けないところだが、父は昔っからそういう人間だったし母だってそういう父が好きなのだから仕方がない。それでも父と母の間に子供が出来て、自分はずっと弟妹ができるのを待っていたのだから正直嬉しい。まだ少しハイハイができそうな気配な感じではあるが、自分の事をそれぞれに呼んだらどんなに可愛いだろうと思う。母が癒し系の見た目だからなのか、癒し系な弟妹の這う姿がどうしてもゴマフアザラシの子供に見えてしまうのはやむを得ない。
幼馴染みの貴史と並んで帰途を歩きながら、街並みを眺めると最近出回り始めた新型スマホのポスターが目に入る。写っているのは建築家なのにモデルもやっているとか言う多彩な有名人。かなり人気な人でポスターが至るところに張られていて、相変わらず直ぐポスター盗難されてしまうらしい。他にもドラマでよく見る俳優のポスターも張り出されているのを何の気なしに眺めたが、この人最近のドラマで見ないことないよなと貴史と笑う。最近ドラマの中で冷淡な殺人鬼の役をやったかと思ったら、昨日は別なドラマで田舎丸出しの素朴な男の役で、公園で出会った女の子に一目惚れするなんて役だった。二人で建築家とモデルの二足のわらじって想像もできないし、あんなに色々役柄なんてなぁと話しながら、呑気に歩き続ける。

「双子の弟妹ねぇ。十五も離れてるとどうよ?」
「可愛い。」
「煩くないか?」
「いや、全然。」

ずっと期待してたし、自分としては希望通り。しかも泣いてても自分の顔を見ると二人ともヘニャっと嬉しそうに笑うなんて、昔の母そっくりで見るだけでとっても癒される。これで将来大きくなって、いつか誰かと付き合いますとか結婚するとかなったら、まさに父親のように反対してしまいそうだ。何しろ父は母一筋なので娘の結婚にまで反対する意欲があるかどうか、想像もできないし。母の友人達と自分は今も親しくしていて、色々と社会ってものを感じることがあるが、自分としては随分と日々は穏やかな日常に見える。

「ただいまー、貴史もいるんだけど。」
「おかえりー、なにか食べる?簡単なのでいいかな?」
「あ、すみません、麻希子さん。」
「ひとんちの母親名前で呼ぶなよ。」
「えー、衛だって麻希子さんって呼んでるじゃん。」
「俺は昔からだからいいの。」
「だって、おばさんって感じじゃないしさぁ、麻希子さん若いし。」

確かに母は二十六になったばかりで、父より十一も年下だから実際かなり若い。自分とだって十一しか違わないのだから、妙な話といえば妙な話したけど本当のことだから仕方がない。貴史は自分の本当の母が子供の時に死んでいるのは知っているし、小学生時代にまだ高校生の母と会ってもいるから驚きもしなかったし今ではすっかり慣れてしまっている。母は手早くオムライスを仕上げて二人の前に出してくれ、他の客にもにこやかに話しかけている。

「麻希子さん、雪は?」
「奥で真智と智樹のお世話してもらってるの。」

真智と智樹は言わずと知れた妹と弟のことだ。真智の方がお姉ちゃんで智樹の方が末っ子ってことなのだが、どっちも可愛い弟妹。あっという間に二人でオムライスを平らげてから、奥のドアを開いて家に足を踏み入れる。こんな幸せな空間をキチンと記憶しておける目を持っていて本当に自分は幸せだと感じながら、自分はもう一度ただいまと家の中に声を張り上げる。



※※※



そんなところで目が覚めて、僕は暫く夢の中の事を反芻しようとする。雪とまーちゃんが夫婦になってて何処かで喫茶店をやってて、僕には双子の弟妹ができていて、高校は悌君が仕事をしているところに通ってて。次第に夢だからドンドン薄らいでしまっていくんだけど、それでも僕は何度も繰り返して覚えておこうと何度も夢の中身を繰り返す。悌君はもう結婚してて赤ちゃんがいて、信哉君はソロソロ結婚しそうで、あとは、あとは。

「真智と智樹」

僕の妹と弟の名前。もう殆ど夢の中は朧気に変わってきていて、夢の中では鮮明だった未来の弟妹の顔も覚えていない有り様だ。早くこれが本当のことになるといいんだけど。そんなことを考えながら僕の頭の中に残っていた夢は淡雪みたいに溶けきってしまっていた。記憶力と夢は関係ないらしくて、ほんのちょっとしか覚えていられない。まーちゃんがいつお嫁さんになってくれるのか、とかハッキリしておきたいところは全然駄目だ。勿論これは夢なんだから本当のことじゃないってことくらいは僕にだってわかってるけど。僕はそう思いながら残念だなって思いながら、起き上がると顔を洗いに歩き出す。歩き出しちゃうとすっかり夢のことは消えてしまって、いい夢を見たなぁくらいにしかならないんだけどね。
そうそう、ゴールデンウィークの五月の方で、まーちゃんママ達がお出かけに連れていってくれるんだ。まーちゃんと雪はなしで、まーちゃんママ曰く『よこうえんしゅう』ってやつなんだって。どういう意味って聞いたら、将来の練習ってことで仲良くする練習なんだって。僕もまーちゃんママもまーちゃんパパも仲いいのにっていったら、僕らじゃなくてまーちゃんと雪の事なんだってさ、納得。二人が早く仲良しになってお嫁さんになってくれたら僕も嬉しいし。
雪は昨日は仕事を持って帰ってきてて夜遅くまで仕事してて、五月の連休はお休みする予定で必死だ。早くまーちゃんと雪が沢山仲良くしてくれるといいんだけどなって僕は思いながら冷蔵庫のドアを開けて卵を取り出した。
しおりを挟む
感想 236

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...