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二度目の5月

382.ヒソップ

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5月25日 木曜日
そんなわけで一昨日の夜に、センセに雪ちゃん共々お説教された私。でも背後で何時まで経っても鳥飼さんの笑いの発作が収まらなくて、終いにセンセの怒りが鳥飼さんに向かっていた気がする。笑うんじゃねぇなんてドスの効いた声で怒られても、全く止まらない笑いの発作に雪ちゃんも可笑しくなったんじゃないか?と言い出す始末だった。

一体鳥飼さんは何がそんなに可笑しかったんだろうか………?

それは兎も角、今朝聞いたら昨日の診察で雪ちゃんの手術の傷は、後少しで糸が全部とれそうだっていう話。清潔のための消毒が擽ったくて地獄なんだよと雪ちゃんが話しているけど、傷を綺麗にしておくの大事だよね!うん。でも確かに後ろの脇腹の傷を消毒って、ちょっと擽ったそうかも。私もまだ傷を直に見たことがないんだけど、傷って大きいのかなぁ…後で痛んだりしないか、本当は少し心配。
退院に関しては運動会前が無理ならと、雪ちゃんも少し諦めたみたいなんだ。だってまだ糸も残ってるのに退院なんてって思わない?思うよね?糸が残ってて退院なんてあり得るのかなぁ?今度梨央さんに聞いてみようかな。

そんなことを考えながら朝登校すると、なにやら智美君と若瀬君が二人で神妙な顔を突き合わせて話している。

「おはよ、智美君、若瀬君。何かあったの?」
「由々しき事態。」
「いや、それ流石にオーバー過ぎだろ、智美。」

由々しき事態って何かあったの?って聞いたら、なんとまぁ相変わらずチャレンジメニューの話。好きだなぁ、智美君達ってばって思ってたら、どうやらこの間五十嵐君も一緒に行ったラーメン屋さんで智美君達より食べる人が出たんだって。その情報って何時入手するのって聞いたら、若瀬君が塾に行くときに店の前を通ったらポスターにかいてあったらしい。

「ラーメン十玉と大盛り炒飯と餃子十個。」

は?何か今変な言葉が聞こえた。誰か大食いレースしたの?なんで三種類も食べてるの?って顔したら、若瀬君が智美がこの間八玉と炒飯を食ったんだと教えてくれる。しかもその大食いの人ってその量を三十分で平らげて、平然と帰っていったらしい。

「そういうのって凄い体の大きい人なんじゃないの?」
「どんな人かは出てないんだよね。でも、智美だって八玉と炒飯で三十分は切らないもんな。」

うん、既におかしい、その会話。食べたもの何処に入るのかなぁ?そういえば雪ちゃん、病院のご飯少ないって嘆いてたけど、梨央さん曰く既に全面的にかなり大盛りらしいんだよね。病院の食事ってそんなとこにも、自由が効くんだって驚き。

「そう言うのに競うものじゃないと思うなぁ。おいしく食べれたらいいんじゃないの?」
「麻希子の癖に正論できたな。でも、何かモヤッとするのも本音だ。」

いやいや、智美君、私の癖にってなに?そんなこと言ってると食べ物に怒られますよ!不純な気持ちは浄化した方がいいと思うな~。ご飯は楽しく美味しくが一番でしょ。

「うん、確かに。」
「あ、おはよう、仁君。」

話に加わった仁君が納得してるのに、負けず嫌いな智美君は不満そうだ。まあ十玉美味しく食べれるならいいんじゃない?って私がいったら、よしって。いや、よしってやる気ですか?お腹壊しても知らないよー?そんなわけで呑気な木曜日。大きな事件もないし、部活も長閑にって思ってたら、最後の最後部活動でまた一波乱だった。

なんでかなぁ

人が集まると何でかこういうことをする人間が、必ず一人か二人は何処からか出てくるみたい。部室に行ったら一目で何か違和感があって、香苗と二人で眺めててそれがなんだか理解できた。

「なんなんだろな……全く。」

イーゼルの一つが倒されていて、部員のキャンバスが床に倒されている。時々美術選択の生徒がぶつかって倒しちゃうことはあるんだ、そう言うのは直してて欲しいけど仕方ないよね。でも、それはそういう間違いで倒したわけではなかった。

「如月君の?」
「うん、どうしたらいいかね?来週私らいないしなぁ。」

香苗が溜め息混じりにそういいながら、デッサン途中なのに裂けてしまったキャンバスを見下ろす。十中八九意図的に破損させられているとは思うんだけど犯人もわからないし、もしかしたら本当に間違ってぶつかって裂けちゃった可能性もある。香苗は一昨日の最後に美術室を出てるけどその時はこんなじゃなかったと言うし、昨日は家庭教師の日だから残らなかった。私も今は雪ちゃんのところに行くから放課後長い時間は残らないんだよね。

「あ、先輩!」
「如月君。」
「如月、あのね、誰かイーゼル倒しちゃったみたいで……。」

ハッキリしてないからそう告げた香苗の言葉に、見る間に如月君の顔がションボリりした柴犬みたいにシューンって萎れいく。何でかなぁ、去年私も凄くやな思いしたから、こういうのって本当にメンタルにきついよね。でも、うまく対処しないと更に酷くなるしなぁ。

「ほっとけ、如月。」
「香坂先輩……。」

いつの間に来たんだか智美君が平然とそんなこと言う。う、確かに智美君は教科書糊付けされたのスルーしてたけど、結構キツイんだよ?こういうの。っていう私の顔に、智美君は静かに口を開く。

「僕が何とかしてやるから、気にしないで新しいキャンバスつくりな。」

その言葉に私も香苗も目を丸くして、平然としている智美君を見つめていた。
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