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二度目の5月

閑話88.修学旅行の夜・男子side

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修学旅行の裏側(香坂智美の視点)
「二泊三日……。」

思わずそう呟いた智美に、一応僕の後見人で世話役でもある友村礼慈はおかしそうに笑う。正直な話この足のこともあるし礼慈が目が見えなくなってまだ半年、修学旅行は行かないつもりだった。それを曲げさせたのは担任の土志田悌順と以前からの知人・鳥飼信哉、槙山忠志と宇佐川義人、

「なに?修学旅行、行かないつもり?何で。」
「何でって、この体だし忙しい。」
「アホか?一大イベントじゃんかよ?」

悌順と忠志に挟まれて意見を無視された智美は不満そうに、呆れ顔で見ている信哉と義人に視線を向け同意を求める。ところが想定と違ってこの件に関しては、あと二人の呆れ顔は自分に向けられていたのだ。

「大事だぞ?この時期の同級生との思い出。」
「そうですよね、どこかの人達みたいに旅先で福上先生を泣かせたりね。」
「あ、それは言うなよ、まだ貧乏神根に持ってんだぞ?」

貧相でガリガリだから貧乏神。この呼び名をつけたのは麻希子溺愛の彼氏・宇野智雪らしいし、最初の辺りにネットの2チャンネル系で読んでいた伝説の三人が結局信哉と悌順と、宇野智雪なのはもう知っている。ただネットの噂は何処まで本当か微妙なのだが、この三人組の話は案外破天荒過ぎて本当の事が多いのには驚かされる。マトモな高校生ではないので修学旅行でも一騒動起こして、当時の担任で学年主任だった福上がホテルで酔って号泣したらしい。しかも現在自分達のクラスがその時の再来と呼ばれ、最初の担任が断固拒絶して土志田が当てられたと言うのは有名だ。

「それが一人減るんだから、担任としてもいいだろ?」
「馬鹿言うな、お前が減ったら、ガッカリするのがいるだろうが。」

そういわれて真っ先頭に浮かぶのは、シマエナガがシューンとしている姿。大事にしたいと考えたけど相手には宇野がいるから、あえて自分では可愛い動物を保護して愛でるつもりを貫いている。貫いているけど、何故か香苗と早紀は何かを感づいているような。確かにシマエナガは行かないと言ったら、敷島を呼び出して乗り込んできそうだ。何しろいつの間にか礼慈だけでなく敷島とも連絡先は交換してるし、時々敷島経由で礼慈に手作りお菓子を届けてきたりしている。

「それに一回だけなんですよ?」
「そうそう、一回だけなんだぞ?」

うっ……何で四人係で行けと勧める上に、礼慈もどうぞいってらっしゃいなんて顔するんだ。断りにくいと思っている矢先、まるで狙い済ましたようにシマエナガと名前を勝手に変更しておいたLINEが鳴った。

《行かないなんて言ったら、皆にLINE回すからね!》

なんなんだ、全く鈍感の天然麻希子の癖に。相変わらずこういうところには、異様なほどに勘が回るんだ。思わず脱力してしまった智美に、悌順はにこやかにいない間は任しとけと呑気に笑うのだった。



※※※



子供じゃあるまいしと思っていたのだが、なんでか飛行機が飛びだった途端、隣の席の子供がソワソワし始めたのにつられた。そりゃ、人間たかだか身長二メートル以下、ビルの高層階でもメートル範囲なわけで。上空一万とかの空間に繰れば、気圧も下がって頭への血液循環も変わるんだ。少し位窓の外にウキウキするのも、分からなくはない。しかも仁の隣の席の透が実は高所恐怖症だと知ったら、もう反応が面白くて仕方がないんだ。そんなわけで初日から、おかしなテンションのままホテルまで行った上になんでか大浴場に盛り上がっている。智美の足の傷は知っている人間も何人かいるし隠すものでもないから堂々としたものだが、間近で初めて見た五十嵐はポカーンとしてこんなことを口にしたのだ。

「それ、怪我?」
「怪我でなくてこんな傷になるか?変なこと言うな?お前。」

杖をついて歩いているのを見てて何でその反応だよと言いたげな智美に、五十嵐は思わぬ反応をする。傷跡は特に右足が酷いが、結局は両足に広範囲。他にも初めて見た奴等が香坂の足って本当に怪我だったんだと、ヒソヒソしているのは大したことじゃない。

「お前、苦労したんだな。」
「は?」
「いや、大変だったろ?リハビリ。」

何だよ、思ったより優しいこと言うんだなと智美は目を丸くする。五十嵐自身は傷跡はないが昔サッカーをしていて、試合中の怪我でサッカーを辞めたのだという。その時暫くリハビリしたのが辛かったけど、そんなもんじゃないよなと真顔で言うのだ。

「お前、性格悪いけど、そういうとこマトモなんだな。五十嵐。」

智美が言った言葉になんでか五十嵐は苦笑いして、他の奴等と何でか腹筋の話になっている。去年もプールで確かに腹筋談義になったなぁと考えるが、流石に一年経つと木村や浦野達の腹筋の成長は著しい。とは言え身長が伸びた自分も早々悪い体型でもないと、智美も話題に加わる。

「ちょっと待て、シックスパックってお前のまだだろ、近藤。」
「あー?割れてるだろ、六に。」
「いや、四だね、まだ。」
「まじか!ってなんだよ、フードファイターの癖にその腹筋、信じらんねぇ!」

仁の腹筋が六つに割れてると近藤が悲鳴をあげてて、爆笑になっている。モノの大きさ何て話は下世話だが、まあ男同士だしなと呑気にしていた瞬間、大浴場に甲高い黄色い笑い声が響き渡った。

「あ!麻希子、おっぱい大きくなった!!」

その場がギョッとして凍りつく。な、何で女子の声?!なんて思わずそれぞれ湯気の中を見上げれば、壁が完全に塞がってる訳じゃなくて中空が開いている。なるほど湯気や湿度管理のために、壁が開いているのかとなっとくするが、内容が内容。

「なっ!なってないよっ!香苗こそおっきくなったでしょ!!」
「小学生よりはおっきくなった。麻希子のも。」
「か、香苗のばかーっ!!」

女子の声の反響は予想外の威力で、男側の大浴場がなんでか一瞬でシーンと静まり返ってしまう。一体向こう側がどうなっているのかと、モヤモヤするのは健康な男子高校生としては………思わず麻希子と同じく香苗の馬鹿と頭の中で呟いてしまったのは言うまでもない。
そんなわけで八人部屋。こんなに泊まれる部屋があるものなんだなと思うが、ファミリータイプなんだよと透が言う。智美は悪いがベットを優先してもらって、他の七人は大じゃんけん大会だ。何しろ布団が小上がりに四人なので、あっちにいくと寝返りで蹴りを入れられかねないと浦野が言うのだ。

「そういう一言がフラグなんだぞ!太一!」
「絶対ベットを貰う!!」

なんだろうな、この異様な盛り上り。たかが寝床を選ぶじゃんけんとは思えない仲間の盛り上りに、外野の智美は腹を抱えて笑う。

「くっそー!あとベット一個!」
「俺負けたらソファーで寝る!」
「馬鹿言うなソファーだって勝ち取りだぞ!!」

既にじゃんけんに勝った透と仁が順にベットを占拠して、残り五人の舌戦に智美と一緒に笑いだしている。

「勝ち抜け!」
「勇、ちょっと遅くなかったか?!今の!」
「遅かった!無効!!孝、今のなし!」
「何でだよ!」

いや、本当にこのたかが場所取りのためのじゃんけんに、この盛り上りようが可笑しくて仕方がない。結局孝は押しきられて再度じゃんけんになった上に、勝ったのが太一でソファーは孝。座敷は勇と五十嵐と近藤。座敷四人より三人はそれほど狭くはないからましかもしれないが、男三人くっついて寝るのが嫌だと騒ぐ勇に笑いが止まらない。

「くっそー!そんなに笑うな!智美!」

ボフッと枕が投げつけられたのに応戦した途端、部屋中に枕が飛び交い初めて大騒動になっていた。

「お前ら!いい加減にしろ!」

流石に大騒ぎしすぎて隣の部屋から連絡が入ったのか、悌順が仁王のように怒鳴り込んできたのに再び智美の笑いが止まらなくなる。その笑いの発作が伝染して、他の奴等も笑いが止まらなくなっているのに悌順は本気でお前ら廊下に正座したいのかと怒鳴る始末だった。
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