Vanishing Twins 

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22.瀬戸遥

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あからさまな敵意。
これほど明らかな敵意を向けられた経験は、遥が生まれてから一度も無かった。学生の時の虐めすらこれほどの敵意はなかったし、カナタにも向けられたことのない激しく強い憎悪の感情に遥はたじろぐ。

いったい……彼女は何なの?

どうみても彼女は自分だった。
もし、あれが私と別人でもう一人人間として居るとしたら、あの凄まじい敵意からどうやって逃げればいいのか考えもつかない。ただ、どうみても化粧もしていない姿は自分自身なのだと思うしかない。

解離性精神障害……

その言葉が彼女の脳裏に浮かぶ。
看護師としての医療知識が囁く言葉に、知識としては理解できても現実の現象としては理解が出来なかった。そんなものになる理由が思いつかないのだ。虐められたことはあるが、現実から逃げ出したい、自分を消してしまいたいと思うほど追い詰められてはいないはずだ。解離してしまうほどの衝撃を受けた記憶は、遥には残念ながらない。
ただ、ここには証拠がある。
少なくとも自分と瓜二つの顔をした悪意の塊のような女が、ここで一人カメラをいじり撮影をしたという確かな証拠がある。
名前も知らない自分と瓜二つの人物が此処にいた証拠。
そして何より、おそらく直人を襲ったのも恐らく彼女なのだ。彼女は遥の電話で遥のふりをして直人呼び出し、遥の持ち物で彼を襲って傷つけたのだ。

どうしたらいいの……?

必死に知識を探る。
精神科・カウンセリング・心理療法……様々な方法が心の中を過ぎった。しかし、そのどれもが受けるためには自分の現状を、他人に理解してもらわないとならない。つまりは現状を誰かに話すことになる。
一体何処をどれくらいまで説明すればいいのか?もしかしたら淫らな格好で外を出歩いて見ず知らずの男と遊んでいると話すのか?そこまで考えた瞬間、町で見ず知らずの男に腕を捕まえられた事が閃いた。

あの時とあの男の人は、私をかおると呼んだわ。

その名前が画面の女のものだと不意に理解した。理屈ではなく、それが彼女の名前だと遥には分かった。
突然それに反応するように腹に鋭い痛みが走った。痛みは遥に抗議しているように脈打つ。ドンドンと叩きつけられるような疼きと熱を伴って腹の中に痛みが弾ける。
遥は思わず痛む場所を両手で押さえながら、そのままうずくまり気を失った。




目を覚ました時、真っ先に思ったのは自分が同じ体勢で座り込んでいて良かったということだった。同じ体勢で気を失ったままだったのなら、あの恐ろしい女は出てきていないことになる。そう思いながら軋む体を動かすと酷い倦怠感に眩暈がした。

こんな体勢でどれくらい…………

頭を起こした視界の中の部屋の様子が変わっていることに、遥は目を見開いた。
目の前の化粧台に、また見知らぬ化粧品がズラリと並べられている。そして視界を巡らせた自分の視線の先の足の指には、青いペディキュアが艶やかに輝く。息をのみながら恐る恐る手のひらを返せば、ズラリと手の爪が青のネイルアートで彩られている。
ブルブルと震えながら視線を姿見に向ければ、そこにはあのテレビの画面にいた女が艶やかに進化の唇を歪め微笑んでいる。

悲鳴が小さな呻きに変わる。

また痛みが襲いかかり立ち上がることもできずに、遥は別人の姿をした自分を見つめる。前屈みになった遥の視線の先には、胸元の殆どが見えてしまいそうなはしたない格好の女がいる。
鏡の中から自分を見る女の悪意が恐ろしい。
この腹部の痛みはもしかしたら淫らな行為の結果が引き起こしているのではないかとすら思う。テレビ越しにあの女は笑いながら、平気な顔で性的なことを口にしていた。

意識を失うのが怖い。
眠るのも怖い。
今度意識がない間にあの女が何をする気なのかが怖い。

私は恐怖に再び泣き出しながら、この淫らな服を剥ぎ取るように脱ぎ始める。体の怠さなんて気にするわけにはいかなかった。服の下の破廉恥な下着を剥がすようにして脱ぐと、この間と同じ感触が股間にあることが分かって悲鳴をあげたくなる。

誰か助けて!

そう心の中で叫びながら服を脱ぎ捨てて、裸になると姿見の中の肌に違和感を感じて遥は凍りついた。

何……これ?

見たことのないものに遥は呆然と立ち竦み、ただまじまじとそれを見直す。
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