シンデレラになりたい私の話

毬谷 朝一

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かぐや姫伝説は疫病とともに

第24話

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げほっ



「……大丈夫?咳、止まらないね。」


街の隅っこ、質素な家に弱々しく明かりが灯っている。その家の中で、老婆は震える体を抱きしめながら咳をしていた。
隣には小さな女の子がいて、老婆の背中を心配そうにさすっている。


「……心配ないさ。すぐに良くなる。」


老婆は安心させるように少女に笑いかけたが、咳は酷くなるばかりであった。


少女の親は早くに亡くなっていて、老婆は少女を引き取り、慎ましく暮らしていた。

しかし、老婆は風邪をこじらせてしまったのか近頃仕事をすることができずに、蓄えていた食料も底をつきそうである。


少ないお金をかき集めて医者にみせたが、どんな薬を使っても良くなることは無かった。

医者が言うには、薬の見つかっていない新しい病であるらしい。そして、この国全土で同じような症状の者がじわじわと出てきていると。街の優しい医者は、貧しい者にも平等に治療を施していた。

酷い咳、高熱、体の震えなどの症状は、体力のない子供やお年寄りを限りなく死に近づける。

辛そうに咳をする老婆をベッドに寝かせ、熱の高い額に水に浸した古いタオルを乗せた。


今宵は満月。少女は泣きそうな顔で月の女神に祈る。


「神様、私これからいい子にするわ。魔法だって勉強だってきちんとやる。お転婆をしておばあちゃんを困らせたりしないし、お手伝いだって自分からするわ。綺麗な指輪も、カフェの新作チョコレートも我慢する。わがままも言わないから、だから」


窓から覗いた煌々と輝く満月の光を浴びた栗色の髪の少女は、その頬にひとすじの涙を流した。


「……だから、助けて……」



────────────────────




街の至る所から、ゴホゴホと咳の音が聞こえる。私は少し不安げに広場を見渡した。


いつもは活気づいている広場の店も、日に日に閉まっていく店が増えている。風邪でも流行っているのだろうか、薬の需要が凄まじいらしく、何でも屋としての仕事もあるジャックやレディはここ最近姿を現さない。


蓬莱の玉の枝について話をしようと、私が会いたがっているとギャリーを通して伝えてもらおうとした。しかし、どうにも捕まらず葉の増えた日から2週間がたっていた。


アルやギャリー、ヘヴンやヘルは竜クラスの個人依頼で各地方を飛び回っている。どうにも、ここ最近の流行病は国中に広がっていて、地方の魔物討伐が滞り町に被害が出ているらしい。
カッツェやヴェレナは顔を見かけるものの、商会の人手が足りずに奔走している。


冒険者ギルドに着いて、いつもの様にドアを開けた。ギルドの中は人が少なく、広い室内はがらんとして寂しかった。
受付のマリンは私に気づくと笑顔で挨拶をした。しかし、その顔色は悪く体調が優れないようだ。


「……おはようございます!頑張っていますね、もう少しで“鷲ランク”を卒業して“虎ランク”に上がれそうですよ。ちなみに今日のおすすめの依頼はこれです!」


そう言うと、マリンは私に依頼書をひとつ渡した。難易度は高めだが、最近は難しい依頼も一人でこなせるようになっている。今回も大丈夫だろう。

私はいつもの様に依頼を受けて、森へ行こうとギルドのドアに手をかけた。


「ああ、そう言えば先程ジャックさんとレディちゃんが来ていました。明日は迷々亭にいるから、顔を出して欲しいと。」


「わかりました、ありがとうございます。」


私はマリンにお礼を行って、ギルドを後にした。




街は少し暗い雰囲気だったが、森は変わらず優しい温もりに包まれていた。


私は手早く薬草をとりながら、魔物を狩り続けて巣を駆除した。


蔓延している流行病のせいで、冒険者ギルドの人出も減っている。短い期間で、流行病は一気に広まってしまった。城で働く者達にも流行病にかかった人がいるようだった。


私は、狩る人が減ったせいでウロウロしている魔物や、危ない動物達を次々に狩っていく。



魔物を狩り終えた森を出ようと、近くの小川で血に汚れた手を綺麗に洗った。


冷たく澄んだ水をぱしゃぱしゃと手持ち無沙汰に飛沫を上げていると、どこからかカア、カアと鳴き声がする。


カラスか、とふと顔を上げた私の目の前を金色の光が横切った。

くらりと眩しい金色の光に思わず目を瞑ると、いつの間にか私の目の前の小川を挟んだ向こう岸に大きなカラスがいた。

黒い艶やかな羽に、キラキラと光を纏っているそのカラスの目は、いつかの月兎を彷彿とさせるような金色だった。


カラスは私の方をじっと見て、一言カア、と鳴いた。カラスは自分のその美しい黒い羽を1本毟ると、私の方にぽいと投げて寄こした。

水に落ちないよう慌ててキャッチしたのを見届けると、カラスはすうっと消えていった。月兎のときのように、カラスがいた場所にはキラキラと光の粒子が残っていた。

カラスが寄こした黒い羽は、金色の光を纏ってキラキラと輝き、今にも羽ばたきそうな不思議な羽である。


私はしばらくぼうっとしていた。


月兎に引き続き、こんなに幻のようなことが起こるとは。


そして、薄々感じていた予感が確信に変わる。



蓬莱の玉の枝の、万病に効く薬になる葉。


金目の月兎の、水音のする不思議な実。


金目の金烏の、光を纏った羽。


国中に広がっている薬の見つからない流行病。



なぜ私のもとに集まったのかはわからない。
ただ、私の中の何かが、“材料は集まった” “早く薬を作れ” と騒いでいる。流行病を治す薬は、きっとこれで作れるはずだ。


急いで森を下りる私の頭に、不思議な声が響いている。



“今度こそ” “今度こそ”


“間違えるな” “間違えないで”


“助けなければ” “救わなければ”



私は森を駆け抜けた。



私がギルドに戻ると、マリンは朝よりも具合が悪そうに椅子に寄りかかっていた。冒険者はおらず、ギルドの職員も休んでいるのかそこにはマリンだけがいた。


「……ああ……おかえりなさい、今集計を……」


マリンは熱があるのか、赤い顔で私に微笑んだ。
私はマリンがギルドカードを精算しているあいだ、ポケットに入れていた薬草を取りだした。


「……これ、良かったらどうぞ。熱冷ましと咳止めです。流行病に効くかはわかりませんが……」


私が薬草を渡すと、マリンは弱々しく微笑んだ。


「ありがとうございます。冒険者の皆さんも、ギルドの職員もほとんどお休みなので、今日はもう閉めようと思います。ライラちゃんもお気をつけて、ね。」


マリンと私は冒険者ギルドを閉めて、ギルドの扉に鍵をかけた。
マリンが心配だったので送ろうと申し出たが、すぐそばだと言われたので、ギルドの前で別れた。


昼過ぎだと言うのに、街の店はほとんど閉まっている。通りにいる人々も不安そうな顔で、流行病のことを喋っている。


ふと露店のある品物が、私の目に止まった。


「これとこれ、買います。」


「……まいどあり。」


露店の店主はローブで顔を隠していて、声で老爺らしいと分かった。ぶっきらぼうな応対だったが、裏腹に丁寧な梱包で品物を渡してくれた。


私が買ったものは、ふたつで1組の瓶。
太陽と月が象られた、不思議な模様が描かれている。


ふと目が止まった瞬間に、“最後のひとつだ”
と感じたのだ。
私はその瓶を抱えて、城へ急いだ。


庭を通って部屋に戻り、瓶と羽をこっそりと隠す。祝福を使って薬草を成長させると、私はいつもの様にそれを乾かしたり、刻んだりして保管した。時刻は既に夕刻に差し掛かっており、窓からは夕日が差し込んでいる。


流行病はやはり深刻なようで、庭の奥の執務室からは人のざわめきが聞こえてくる。
私は、部屋に食事を運んだメイドにたくさん薬草を渡した。


「……庭でとれた薬草です。紅茶と一緒に煮出して飲んだりしてください。体を温めるので、病気を予防できます。……たくさんあるので、良ければ皆さんで飲んでください……」


メイドは驚いたように私を見ると、微笑んで薬草をぎゅっと手に抱えた。


「ありがとうございます、後で入れて飲みますね、執務室にも届けましょう。殿下の部屋にも、食後に持っていきます。お気遣い、感謝致します。」


そう言うと、メイドは心なしか嬉しそうに部屋を出ていった。

薬草茶も飲んでいないのに、なんだか胸がぽかぽかしている。


不思議な感覚で、ひとり夕食をとり、食後にメイドが入れてくれたお茶を飲んだ。温かなお茶で一息つくと、夜の静けさが肌に染み込んだ。


私は、部屋に鍵をかけると、隠していた蓬莱の玉の枝や木の実、羽を取りだした。


……薬を作るのだろう……どうやって?


迂闊に何か手を出して失敗はできない。
材料はこれだけなのだから。……これだけ?


国中には、足りないんじゃ……


うーん、うーんと何か方法はないかと考えていたが、いい案は思い浮かばずすっかり真夜中になってしまった。あたりは寝静まっており、新月なのか外は真っ暗だ。


「……明日、ジャックさんに相談しよう。」


私ははあ、とため息をついてベッドに入った。グルグルと薬のことを考えているうちに、いつの間にか深い眠りに落ちていた。



その夜、不思議な夢を見た。



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