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かぐや姫伝説は疫病とともに
第26話
しおりを挟むはっと目を覚ますと、私は汗をかいている額を拭った。どうしてか息が切れていて、どきどきと早い心臓を抑えながら、私はそっとベッドから抜け出した。
窓の外は真っ暗で、壁にかかっている時計は深夜3時をさしている。
新月の空は星がまたたいていて、冷たく静かな空気が体を包み込んだ。
私はテーブルに置きっぱなしにしていた蓬莱の玉の枝と海の実、金烏の羽をちらりと見る。
夢の中で見た死の勇者は、私にその使い方を教えてくれた。間違えるな、間違えるな。
すうっと息を吸うと、私は月の模様の瓶に、美しい海のような液体が注いだ。海のような液体に、月の模様が映る。私はカラスの羽で13回、液体をかき混ぜた。
『海に月明かりあれ 風は灯りをともせ』
ここまではいい。次だ。
蓬莱の玉の枝から大量の葉を1枚1枚、丁寧にむしり取る。枝や実を傷つけないように、慎重に葉をむしると、蓬莱の玉の枝ですり潰した。
『太陽は地に影を 風は闇を祓え』
すり潰した葉を太陽の模様の瓶に入れて、月の模様の瓶の液体を12回に分けて注ぎ入れる。
私はカラスの羽で液体をかき混ぜ、祈りを込めて歌うように言葉を紡いだ。
『月に道を 太陽に梯子を 地に沈み 海に灯り 風に囁け 月兎と金烏に選ばれし者』
ぱあっと瓶が光り輝いた。
あたりを照らすその白い光が収まると、そこには光の粒のような個体が沢山あった。
夢と、まったくおなじように。
金平糖のようなそれは、きらきらと輝いていてまるで本物の星屑のようだった。
私は、露店で買った瓶が包まれていた布に、その薬をざらざらとこぼした。たくさんあるが、国中に行き渡るほどの量はない。
どうしたものか、と考えながら薬をこぼした布をくるんで結ぶ。
その時、ぼん!という音がして、持っていた布が爆発したように膨れ上がった。
「!?!?!?」
薬が壊れていないだろうか、と慌ててくるんだ布を解くと、最初に作った薬よりとても多い薬がそこにあった。
( ふえ、た……)
目を白黒させて布を調べてみるも、布は澄ました顔で薬を包んでいた。
薬の量は十分にあるし、多分、この布で包んでいれば無くなることはないのだろう。
私はこわばっていた体をぐん、と伸ばすと、朝までもう一眠りすることにした。使ったものはきちんと片付けて、隠し棚にしまう。
ベッドに横になると、最近の目まぐるしい出来事が頭の中をぐるぐると回り始めた。
( 王城に来てから、新しいものばっかりで凄かったけど、冒険者ギルドに行き始めてからはもっと凄い。感じたことの無い気持ちも、楽しいことも、美味しいものも、友達も……仲間も。)
うとうと、と瞼が落ちそうな感触を感じながら、ぼんやりと考える。
( いつの間にか、明日が楽しみになったんだ。明日が楽しいってわかったから。)
流行病の薬は、明日迷々亭に行ってジャックさんに相談しよう。そうだ、カッツェさんの商会で取り扱って貰えないだろうか。
ああ、でも私が作ったって皆にばれたら…………
いつの間にか寝落ちてしまい、起きたのはいつもより少し遅い時間だった。
いつもより忙しそうに働く城の人々を見て少し罪悪感を覚えるも、私に出来ることはここにない。
……ソレイユとマリアはどうしているんだろう
全く姿を見ることのない彼らのことがふと頭によぎり、ヒヤリと氷を飲み込んだように胸が冷たくなる。
私はその感情に蓋をし、薬を抱えて城をとびだした。
街は昨日よりも人が少ない。眉を寄せると、私は閉まっている冒険者ギルドを後にした。
冒険者ギルドは閉まっているし、皆は迷々亭にいるはずだ。行ってみよう。
しかし、考えは外れていたようで、迷々亭はまだ空いていないようだった。“CLOSE”と掛けられたドアの前で、私は皆が来るのを待っていた。
人の少ない通りを眺めていると、あちらこちらで人が怒鳴る声が聞こえてくる。
薬は足りないし、食料の備蓄も心配なのだろう。病で荒んでいる彼らは、もう相手を気遣う余裕もなく自分のことで手一杯だ。
私が彼らと同じような境遇であれば、同じようにする。
私は野菜を盗んだらしきスラムの兄弟が、八百屋の店主から逃げているのを見てそう思った。
「……ライラちゃん、いたの?……早く中に入って。」
そっと迷々亭のドアが開くと、リーナさんが中から顔を覗かせた。
囁くように言うと、私の手をすっと引いて、街の騒ぎから身を隠すように店の中に入れた。
店の中では、疲れきった顔の面々が椅子に座って話をしていた。
「……薬がないないって、派遣された街の人には絡まれるし、冒険者なら持ってるだろって、せっかく帰ってきた家にまで押しかけられるし散々だよお。……ヘル、大丈夫かなぁ。1人で残すの心配だなぁ、早く帰って看病しないと。」
ヘヴンは空いている隣の椅子を見るとぽつりと呟いた。
「商会の方も人が少ないっていうのに、薬を出せだの食料をもっとよこせだの疲れたよ…家にも帰ってないし、ああ、早く終わらないかなぁ。」
ぶつくさと愚痴を言うカッツェにヴェレナは苦笑して言った。
「……あんたやヘヴンより、あっちの3人の方が酷いみたいね。」
ヴェレナに抱き抱えられているレディが指し示す方向には、ソファにぐったりと沈んでいるギャリーとジャック、アルの姿があった。
「……俺はもう動かねえぞ、もう若くないんだからいよいよ体がもたん。」
「……俺とそう変わんねえだろジジイ。ほら、ライラが来てんだからしゃんとしろ。」
「……お前も似たもんだわ。ああ、ライラ、来たか。どうだ、何か変わったことはあった?」
ジャックはそう言うと、体を重そうに起こして私に向いた。いつもニコニコとしていたジャックは目が死んでいて、顔のメイクもおざなりだ。
「……ありました。」
私はそう言うと、カバンから布にくるんだ薬を取りだした。
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