シンデレラになりたい私の話

毬谷 朝一

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かぐや姫伝説は疫病とともに

第28話

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栗色の髪の少女は私が近づいて来たのを見て少し目を見開いた。
こんな子供が?と驚いているようだった。私より少し歳上に見える。ソレイユと同じくらいだろうか。


「あなたがライラさんですか?」


貴族の娘のように豪華な美しさはないが、野に咲く花のような素朴な可憐さを持った可愛らしい少女は、そう言って真面目そうな目で私を見た。


「あ……はい、そうです。何か御用ですか?」


彼女は、突然地面につきそうなほど深々と頭を下げた。慌てて顔を上げさせようとするも、頑として動かない。


「私の親代わりのおばあちゃんは、流行病にかかっていました。年取っていたので、症状も重くて……本当に危なかったんです。私の家はおばあちゃんと私の二人暮しなので、あまりお金もなくて……薬の届いた日、神様に祈りが通じたんだって、そう思いました。たまたまここを通りがかったら、薬を作っていた人の話をしていて……どうしてもお礼が言いたかったんです。私の家族を助けてくれて、本当に、本当にありがとうございました。」


涙の入り混じる震え声で、彼女は何度もお礼を言った。


こんな時、なんて言えばいいのかわからない。頭を下げ続ける彼女を見て、私は困惑していた。


「あ、あの、頭を上げてください。本当に、私はそう大したことをしていないんです。薬を配ってくれたのはヨエル商会の人だし、材料だって私が集めたわけじゃ……そんなにお礼を言われるほどでは、ないんです……お礼を言われる価値は私にはないんです、だから、だから……」


栗色の髪の少女は頭を上げると、困惑している私を見て眉を下げた。


「いいえ、私の神様はあなただわ。薬を高く売ることだって出来たはずだし、わざと流通を少なくすることだってできたのよ。あなたは、無料で国中に配ることを決めた。それに、薬の製作者が自分だって公表もしなかった。富も名声も賞賛もいくらでも貰えたはずなのに、欲のないあなたはそれをしなかった。価値がないなんて言わないでください。あなたのこと、私はずっと感謝し続けます。」


私の手を握ってそう言うと、彼女は持っていた紙袋を私に差し出した。


「おばあちゃんのクッキーは、貴族のお店に負けないくらい美味しいんです。薬のお礼には足りませんが、ほんの気持ちです。お口に合えばいいのですが。」


辺りにふんわりとクッキーのいい匂いが漂う。
ほかほかと暖かい気持ちはクッキーの匂いのせいだろうか、それともお礼を言われたからだろうか。


ニコリと笑う彼女に、私は恐る恐る聞いた。


「……私は、あなたの役に立ちましたか。」


キョトンとした顔で目を見開くと、彼女は満開の花のような笑みで言った。


「ええ、もちろん!薬を貰った人、いいえ、国中があなたに感謝と敬意を持っているわ!」


そう言うと、彼女はもう一度お礼を言って帰っていった。


私の後ろで会話を見守っていたらしいジャックとカッツェはうんうん、と意味ありげに頷いていた。レディはそれを呆れたように見ている。


「ああ、何だかじーんときちゃったよ。感動的だった。」


「病気の祖母と二人暮しの可憐な乙女にお礼を言われるなんて…なかなかドラマチックだね、羨ましいなぁ。」


「……2人とも、ライラは見世物じゃない。……それに、あの人多分ライラが男だって気づいてなかったんじゃない……?」


レディがそう言うと、男ふたりはああ、と声を漏らした。


「まあいいんじゃない?困ることないでしょ。でもまあ、勘違いされるよなぁ。本当に綺麗な顔してるから、ライラ。」


彼らのおしゃべりをぼんやりと聞きながら、私は栗色の髪の少女が去った方向を眺めていた。


「……あ、名前……聞きそびれた」






美しい街はいつも通りに戻っている。広場では流行病の収束を祝って花が飛び交い、歌や踊りで賑わっていた。


「おお、帰ってきたなライラ。」


迷々亭に戻ってきた私を、手になにか持っているアルが迎えてくれた。アルはぽん、と手に持っていたものを私の頭に乗せる。


頭に乗っているものをそっと見てみると、それは美しい花で作られた花冠だった。


「街で流行病の収束祝いに売ってたんだ。“かぐや姫の月花冠”ってな。」


そう言って笑うアルにお礼を言って、私は花冠を手に持って眺めた。


月桃、月桂樹、月下香、月見草、兎菊……


月や兎など、かぐや姫を連想させる花々が散りばめられている。


綺麗な花冠を頭に乗せると、まるで自分がお姫様になったような気持ちになる。
ああ、枯れてしまうのがもったいない。


「ヘルが花を保存する方法を知ってたはずだ。後で聞いてみるといい。」


残念そうな顔をしていたのか、アルは苦笑して花冠を撫でた。


こそばゆい気持ちでそわっと体を動かすと、ちょうど迷々亭にヘヴンとヘルが入ってくる。


「やっほー!ヘル、完全ふっかーつ!ライラちゃんも久しぶり!あ、花冠かわいいね、アルに貰ったの?」


すっかり元気そうなヘルは、ステップを踏むように私達の方へ駆け寄ってきた。


「そうだ、ちょうどいいところに来たな。ヘル、お前以前に花を加工して保存できるようにしてただろ。あれ、この花冠にもできるか?」


ヘルはニコッと笑うと力こぶを作るように腕を曲げた。


「そんなの、ヘルにおまかせあれだよ!ちょうどよかった、今道具あるんだ。時間かかるけど、できたら渡すね!少し借りておくけど、いいかな?」


私はヘルに花冠を渡した。出来上がるのが楽しみだ。


その様子を、カウンターの中にいたギャリーとその前に座るヘヴンがニヤニヤと眺めていた。からかうように、こそこそと話し合いながら忍び笑いをしている。


「……アルってさあ、ライラにあっまいよねぇ!でろでろじゃん、何回も手合わせしてるみたいだし、どこか行くにもついて行こうか?とか言っちゃうの!ほんと誰?って感じ!ライラかわいーから、つい構いたくなるのはわかるんだけど。」


「……過保護だよなあ、他の奴らが見たら泡吹くぞ。猫かぶりすぎてちょっとキモイ。まあ俺らも大概だがな。ヴェレナなんか酔ったらずーっとライラの話してる。レディも遊び相手できてイキイキしてるし。……まあ、アルの変わりようには敵わんが。」


ギャリーとヘヴンのヒソヒソ話に聞こえてるぞ!と締めに行ったアルの耳は少し赤い。


じゃれあう3人を見ながら、私は幸せな気持ちに包まれていた。


ギャリーに入れてもらったクリームソーダはカランと音を立てて笑った。


────────────────────


夜、王城に帰った私は自室の窓辺に佇み、月を見ていた。傍には薬の入っていた布がある。中には薬の欠片しか残っていない。


カッツェに布ごと渡していた薬を返してもらったのだ。薬はちょうど足りたようで、余ったり足りなかったりすることはなかったようだ。


良かった、残ってしまったら扱いに困っただろうから。


夜風を楽しんでいると、こんこん、と控えめにドアを叩く音がする。


はい、と答えると、中に入ってきたのは暗い顔をしたヨシュアだった。


「どうしました?何かありましたか?」


首を傾げて尋ねると、光の入らない目で黙ったまま私の顔を見つめていたヨシュアは、一つため息をつくと重い口を開いた。


「……明日の朝、来るようにと。」


ぽつり、と呟くヨシュアの声は、いつもの軽やかな雰囲気が感じられない。居心地の悪い空間に少し気後れしてしまう。


「……え、あの、誰が、」


ヨシュアは感情のこもらない声で、私を見ないように言った。












「……陛下が、お呼びです……」



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