魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン

文字の大きさ
124 / 909
第十一章 混沌と遊ぶ希少鉱石の国

戦いの記憶

しおりを挟む
天使からすればつい最近の出来事だが、人間にしてみれば過去の出来事。記録の中の一文でしかない。


武術の国は神に逆らい滅ぼされた。


当時の俺は人間を甘く見ていた、油断していた。人間ごときに負ける訳がないと奢り高ぶっていた。辺境の地を攻め落とせなど俺には役不足だった。

そのはずだった。

なんの手ごたえもなく、花を摘むよりも楽に殺せる人間達に嫌気がさした。こんな脆い生き物が何故神に歯向かったのか分からない。
本当はただ生きていただけなのだが、その時の俺は戦争の理由を知らなかった。だがあの男は知っていたのだろう、そして信じたくなかったのだろう。

神が自分達を蔑み、嫌っていると。

あの男は愚かにも俺の前に立ちはだかった。部下を逃がしてたった一人で俺の前に立っていた。目隠しをして、十本の剣を地に突き立てて。だから俺は言ってやった。

『……盲が俺に勝てると思っているのか?』

憐れみもあった。
圧倒的な力で押し潰していくのは性にあわない。
ここで震えて背を向けて逃げ変えれば追わないつもりだった。だがあの男はこう返した。

「これはこれは天使様。ごきげんよう。私の目はしっかりとあなたを映しておりますよ」

にこやかに挨拶をしてきた。そんな人間を切る訳にもいかず、生返事をした。
男は続けて俺にある人種について教えた。神には教わらなかった不幸な人間のことを。異形の、亜種人類と呼ばれる者達のことを。

『それを何故俺に教える?  今、何の関係がある?』

苛立っていた。天使を前にして余裕のある目の前の男に、俺は情けなくも腹を立てていた。

『この戦争にその亜種人類とやらが何の関係がある』

「……中心だ」

頭に血が登っていたから、冷静ではなかったから、後から言い訳はいくらでもできた。あの男は十本の剣を振るい、俺を切り刻んだ。

ああ、そうだ。あの男は、あの男こそが亜種人類だった。
再生も間に合わない、十本の剣は速すぎた。天使である俺の目にも止まらぬ早業。忌避され続けた異形だからこその剣技。

「……シュピネ族が巣を張って待ち構えるだけと思うな、私のように獰猛な化け物もいる」

手、足、翼。剣が刺し込まれて、地面に縫い付けられた。雨を降らせたところで意味はなく、天使の力をふるったところで当たらなければ意味がない。
速い、速すぎる、当たらない、見えない。

「こんなふうに標本にされた同族達が大勢いる。この国はそんな人間から守ってくれていたんだ。神もそれを喜んでいると思っていた、だけど違ったみたいだ。私達は神に穢らわしいモノだと思われていたんだ」

男の信仰が深いことは誰の目にも明らかだった。だからこそ彼の話は痛々しく、怨恨に満ちていた。

「それでは天使様さようなら。また会うことのないよう祈っております」

男の姿が見えなくなり、戦争が終結する頃。切り刻まれちぎれ飛んだ体の再生も無事に終わった。人間に負けた屈辱と神への不信感、俺があの戦争で手に入れたものはそれだけだった。



ザフィは人形の質問に答えてから、しばらく懐かしむように人形を眺めていた。

『ザフィ、鍵を』

『……ん、ああ、そうだったな』

シャルンに肩を叩かれ、ようやく目的を思い出す。

『さて、鍵を渡してもらおうか。質問には答えたのだから文句はないだろう?  納得いかないなんて言い訳は聞かないぞ』

『渡すかどうかはこちらの判断だ、頼み一つで鍵を渡すなんてルールはない』

『……なんだと?  渡さない気か?』

『ああ、もう一つ条件を追加する。ここで戦って私に勝ったら鍵を渡す。それでどうだ?』

『勝つ?』

『手合わせ願おう、天使様』

腰に下げた十本の剣、そのうちの二本を抜き、両手に構えた。

『……勝てばいいんだな?  分かった』

ザフィが虚空に手をかざすと黒い雨傘が現れた。漆を塗ったように黒い、骨の多い上等な傘だ。

「……ね、アイツなんであんなに剣持ってるわけ?  十本もいらないでしょ、使い捨て?」

戦いに巻き込まれないように部屋の端まで下がる。着いてきたアルテミスが僕に尋ねた。別に秘密話にする内容でもないのに、僕以外に聞こえないような声で話していた。

「多分……全部使うよ、僕の考えが正しければ」

そう、僕の予想が当たっていれば。人形がコピーしたのが植物の国の王だとすれば。

『シャルン、合図を頼む』

『了解』

『ああ、それとそこの人間達に流れ弾が当たらないように注意してやってくれ』

『了解』

シャルンは僕達の前に立ち、右手を挙げた。その手を振り下ろすと始まりの合図を送る。
シャルンの声と同時に響く金属音。二本の剣と雨傘が擦れ合い、火花が散る。

「何あれ、あの傘金属製?」

「天使の武器なんだから何で作られてるとかないと思うけど」

「……そういうもの?」

「ほら、その弓だって素材分かんないし」

「まぁ、そうね」

傘の先端は鋭く尖っている、武器の使い方としては剣よりも槍に近いのかもしれない。激しい応酬の中、傘の先端が人形の顔を掠めた。
目隠しの紐が切れてその顔があらわになる。翡翠のような八つの目にアルテミスが短い悲鳴を上げた。
しがみつかれた肩の痛みを感じながら、僕は植物の国での失態を思い出していた。

「……人、なの?  アレ」

「亜種人類って呼ばれてる普通の人間だよ」

「普通……ってアンタ、獣人くらいなら見たことあるけど、あんなの……」

人形の背から飛び出す蜘蛛の足、節の目立つそれは一本一本が剣を掴み、器用に振るった。アルテミスに掴まれた肩にさらなる痛みを感じる、振りほどきたい思いを抑えてアルテミスを宥める。
十本全ての剣が振るわれるようになってから、ザフィは明らかな劣勢に追い込まれていた。傘を広げて防御に徹するも、手足を掠める剣先は減らない。

『ほら、天使様。もっと攻撃してきてくださいよ』

煽るような口調に応え、ザフィは人形の足を一本掴み、力に任せて引きちぎった。だが人形がそれにこたえた様子はない

『お見事、では……本気を出そう』

人形は目にも止まらぬ速さでザフィの背後に回り込み、足を地に縫い付けるように剣を突き立てた。
ザフィが振るった傘は当たらず、人形は背に生えた蜘蛛の足で天井に張り付いた。

『ザフィ、手を貸そうか』

『いらん!  馬鹿にするな、一人で勝てる!』

そう口では言っているが、ザフィに勝ち目はないように思える。目で追うことすらままならない相手にどうやって勝つというのか、僕には予想もできない。

『……シャルン、人間達を囲う部屋を作れ、今すぐだ、いいな』

少しずつ切り刻まれながらもザフィの表情からは勝利の確信が伺えた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!

こはるんるん
ファンタジー
「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」  主人公アッシュは、世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】のギルドマスターの息子として活躍していた。しかし、筋力のステータスが80%も低下する外れスキル【植物王(ドルイドキング)】に覚醒したことから、理不尽にも父親から追放を宣言される。  しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。 「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」  さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。  そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)  かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

処理中です...