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第十二章 兵器の国と歪みきった愛
黒き無
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王が死に、兵士達は狂乱した。
王城から離れた司令部で軍の最高司令官は頭を抱えていた。
王に何があったかと聞けば、兵士達は恐怖に狂いながら、目にした何者かを崇拝しながら、次々に狂い死んだ。
うずたかく積もった部下の成れの果てを見ながら、司令官は狂気の咆哮を聞いていた。
『……どれも厄介だけど、彼は人間体の方がいいんだろうね、人間からすればさ』
背後から響いた少女の声に司令官は情けない声を上げる。『黒』はその様を嘲るように机上の書類を取り上げた。
「なっ……か、返せ! どこから入ったんだ!」
両手を開いて『黒』に掴みかかるも、すり抜けて壁にぶち当たる。
『無理だよ? 僕、君に触られたくないからね。で……? どーすんの? せっかくの兵器使わないの?』
「ば、バカを言うな! 使えるわけないだろう!」
『ふーん……つまんないの。まぁいいや』
腰の抜けた司令官に詰め寄り、頭に手をかざす。
『黒』の細い指の先に呪術陣が浮かび上がった。
この国にかけられた呪い、休眠状態にあった魔王の呪いを呼び覚ます呪いだ。
『呪煽……っと、これでいいの? 』
虚空に向かって行動の是非を問う、当然誰からも返事はないが『黒』は笑った。『憤怒の呪』を煽り立て、『黒』は姿を消した。
一人残された司令官はまだ残っている部下の元へふらふらと歩き出す。
司令官は呪いの影響で怒り狂っていた、全てのモノが気に入らなかった。
だから、全て消す。
この国にはそれが出来る兵器があり、司令官にはその兵器を使う権限があった。もっとも、規律の消えた今なら権限がなくとも方法さえ分かれば発射できるのだが。
司令官は正常な部下を殴り倒し、ある施設に来ていた。試験段階のソレを無理矢理起動させる。
手始めに狙うはこの国、この国が一番気に入らない。
司令官は我を失って自らのいる場所を着弾地点に設定した。
吐き気が治まらず僕はアルの上に乗って移動していた。
目的地は特にない、強いて言うなら国外だろうか。
「……ん? ねぇ犬、アレ何?」
『だから犬ではないと……何だ?』
先細りの大きな物体が空へ打ち上がる。
見たことのない物に目を奪われ、三人でぼうっと眺めていた。
『何ボケてんだよお前ら!』
「……あぁ、邪神。何しに来たの? 早く帰れば?」
『口悪ぃなお前……じゃなくて、誰が邪神だ! でもねぇ。お前らアレが何か分かってんのか?』
「分かんないから見てるんじゃん、馬鹿なの?」
『本当に口悪ぃな! ってか馬鹿はおまえだよばーか! じゃなくて、アレが核なんだよ!』
核……どこかで聞いたような、どこだったかな。
詳しくは知らないが兵器だということは分かる。
『で、アレが落ちてくんのはここ』
「は? 自分狙ったってこと? いくら僕以外の人間は馬鹿だからってそんなことする?」
『現にしてんだろ、本当人間って頭悪いよなぁ』
『アレが落ちてきたらどうなるんだ』
『知らねぇよ俺が作った訳じゃねーんだし』
「神のくせに約立たずだよね」
『お前……本っ当にムカつくわぁ』
ロキと兄はまさに一触即発、そうなればアルも混ざってしまうだろう。巻き込まれたくないので離れようか。
アルから降りて、かたかたと震える足を動かして近くの建物に寄りかかる。そういえば、あの竜は? そう尋ねようとしたが、耳を劈く咆哮に掻き消される。
王城跡から生える無数の触腕、形の定まらない肉の塊が蠢いていた。視界が完全に侵されて頭の中がそれで埋め尽くされる。
僕は叫んでいたと思う、叫んでいるのかいないのか判別出来るほどの意識はなかった。
『空間転移……術式展開!』
「ちょっと、どこ飛ぶ気?」
『核だの邪神だのに殺されたくなきゃ黙ってな!』
「邪神は君だろ?」
『うるっせぇ殺すぞ人間!』
巨大な魔術陣が地面に描かれ、光り輝く。
発動直前にロキは指輪を掲げて叫ぶ。
『置き土産だぜ邪神様よ! ニーベルングの指輪……全てを焼き尽くせ!』
指輪に嵌められた赤い石から炎が吹き出す。ロキの宣言通りに全てを包み込み、焼き尽くす。
眩い光とともに術は発動し僕達は姿を消した。後に残るのは炎のみ、そしてもうすぐ核が落ちる。
その光景を冷笑する少女が一人と子供が一人、宙に浮かんでいた。
『よく燃えてるねぇ、君、火とか嫌いなんだっけ?』
『別にそうでもないけど……なんでボクを連れてきたの?』
『気に入らなかった? 君の顕現の一人がああなっちゃって、別のに行けって言われたから楽しそうなのを見繕ったんだよ』
炎に焼かれながらも暴れ回る触腕を指差し、微笑む。あの肉塊の前の姿──男の幼少期のような子供は不機嫌そうだ。
『殺されるなんて情けないね、ボクのくせに。まぁ最期にボク呼び出したのは流石だよ。ボクはボクが責任もってちゃーんと戻しておくよ。でもその前にさ、せっかくだから見ていこうよ、ボクがやった偉業をさ』
『もちろん、兵器の威力には僕も興味がある。しばらくは見れないだろうしね』
『黒』の言う「しばらく」は、人間の思う時間とは全く違う。数百年数千年単位の言葉だ。
『何回も同じの作っても面白くないもん。『黒』だって同じのばっか見たくないでしょ?』
『まぁね。でもアレ完成品じゃないんだろ? 国一つしか滅ぼせないし』
『他の国々にも技術を教えてやれば威力が低くても一発打たせれば終わるよ?』
幼い、甘ったるい声でケラケラと笑う。その姿だけ見ていれば誰も彼もが魅了されるだろう。
いや、全てを知ってしまえば……それはまた、魅了される人間も現れる。全てを知ってもなお人間として生きていればの話だが。
『……ああ! 打ち合って、ってことだね。それも面白そう……いや、何千年か前に似たようなのを見たね』
『あれ、そうだっけ? ボクあんまり他のボクと繋がってないからなぁ』
『まぁ、君のやりたいようにやりなよ。それが一番面白い』
『そう? えへへ……嬉しいなぁ』
無邪気に照れて見せるその背後では爆発が起こっていた。きのこに似た形の雲が作られ、爆風は広がっていく。だが二人は何の影響も受けず、壊れていく建造物と人を眺めていた。
『あんまり建物は吹っ飛ばないね。窓割れたり壁剥がれたりってくらい』
『人への汚染に重きを置いたらしいよ? 僕は知らない。君が作ったんだからさ』
『まぁ、作ったのはボクだけどさ、ボクじゃないっていうか。別人扱いしてもらいたいなぁ』
わざとらしく頬を膨らませ要求を通そうとする。
子供らしく可愛らしい、大げさな仕草だと分かっていても騙されてしまう───ああ、あくまでも人間の子供だったらの話だ。
『……もういい?』
『あれ、飽きっぽいねぇ』
『ボクが作った薬を飲んだ人間がいるんだろう? そっちを見たいな。連れてってよ』
『はいはい、仰せのままに、愛しき友よ』
『えへへー、ボクも『黒』だーい好きだよ!』
『…………扱いにくいね、君』
冗談めかした言葉に無邪気に答えられると反応に困るものだ。
まぁコレは全て計算し尽くしているが……
『黒』は今までの友と新しい友を比べたが、どれが良いかなど結論は出てこなかった。
全ての彼は最悪の存在なのだから。
王城から離れた司令部で軍の最高司令官は頭を抱えていた。
王に何があったかと聞けば、兵士達は恐怖に狂いながら、目にした何者かを崇拝しながら、次々に狂い死んだ。
うずたかく積もった部下の成れの果てを見ながら、司令官は狂気の咆哮を聞いていた。
『……どれも厄介だけど、彼は人間体の方がいいんだろうね、人間からすればさ』
背後から響いた少女の声に司令官は情けない声を上げる。『黒』はその様を嘲るように机上の書類を取り上げた。
「なっ……か、返せ! どこから入ったんだ!」
両手を開いて『黒』に掴みかかるも、すり抜けて壁にぶち当たる。
『無理だよ? 僕、君に触られたくないからね。で……? どーすんの? せっかくの兵器使わないの?』
「ば、バカを言うな! 使えるわけないだろう!」
『ふーん……つまんないの。まぁいいや』
腰の抜けた司令官に詰め寄り、頭に手をかざす。
『黒』の細い指の先に呪術陣が浮かび上がった。
この国にかけられた呪い、休眠状態にあった魔王の呪いを呼び覚ます呪いだ。
『呪煽……っと、これでいいの? 』
虚空に向かって行動の是非を問う、当然誰からも返事はないが『黒』は笑った。『憤怒の呪』を煽り立て、『黒』は姿を消した。
一人残された司令官はまだ残っている部下の元へふらふらと歩き出す。
司令官は呪いの影響で怒り狂っていた、全てのモノが気に入らなかった。
だから、全て消す。
この国にはそれが出来る兵器があり、司令官にはその兵器を使う権限があった。もっとも、規律の消えた今なら権限がなくとも方法さえ分かれば発射できるのだが。
司令官は正常な部下を殴り倒し、ある施設に来ていた。試験段階のソレを無理矢理起動させる。
手始めに狙うはこの国、この国が一番気に入らない。
司令官は我を失って自らのいる場所を着弾地点に設定した。
吐き気が治まらず僕はアルの上に乗って移動していた。
目的地は特にない、強いて言うなら国外だろうか。
「……ん? ねぇ犬、アレ何?」
『だから犬ではないと……何だ?』
先細りの大きな物体が空へ打ち上がる。
見たことのない物に目を奪われ、三人でぼうっと眺めていた。
『何ボケてんだよお前ら!』
「……あぁ、邪神。何しに来たの? 早く帰れば?」
『口悪ぃなお前……じゃなくて、誰が邪神だ! でもねぇ。お前らアレが何か分かってんのか?』
「分かんないから見てるんじゃん、馬鹿なの?」
『本当に口悪ぃな! ってか馬鹿はおまえだよばーか! じゃなくて、アレが核なんだよ!』
核……どこかで聞いたような、どこだったかな。
詳しくは知らないが兵器だということは分かる。
『で、アレが落ちてくんのはここ』
「は? 自分狙ったってこと? いくら僕以外の人間は馬鹿だからってそんなことする?」
『現にしてんだろ、本当人間って頭悪いよなぁ』
『アレが落ちてきたらどうなるんだ』
『知らねぇよ俺が作った訳じゃねーんだし』
「神のくせに約立たずだよね」
『お前……本っ当にムカつくわぁ』
ロキと兄はまさに一触即発、そうなればアルも混ざってしまうだろう。巻き込まれたくないので離れようか。
アルから降りて、かたかたと震える足を動かして近くの建物に寄りかかる。そういえば、あの竜は? そう尋ねようとしたが、耳を劈く咆哮に掻き消される。
王城跡から生える無数の触腕、形の定まらない肉の塊が蠢いていた。視界が完全に侵されて頭の中がそれで埋め尽くされる。
僕は叫んでいたと思う、叫んでいるのかいないのか判別出来るほどの意識はなかった。
『空間転移……術式展開!』
「ちょっと、どこ飛ぶ気?」
『核だの邪神だのに殺されたくなきゃ黙ってな!』
「邪神は君だろ?」
『うるっせぇ殺すぞ人間!』
巨大な魔術陣が地面に描かれ、光り輝く。
発動直前にロキは指輪を掲げて叫ぶ。
『置き土産だぜ邪神様よ! ニーベルングの指輪……全てを焼き尽くせ!』
指輪に嵌められた赤い石から炎が吹き出す。ロキの宣言通りに全てを包み込み、焼き尽くす。
眩い光とともに術は発動し僕達は姿を消した。後に残るのは炎のみ、そしてもうすぐ核が落ちる。
その光景を冷笑する少女が一人と子供が一人、宙に浮かんでいた。
『よく燃えてるねぇ、君、火とか嫌いなんだっけ?』
『別にそうでもないけど……なんでボクを連れてきたの?』
『気に入らなかった? 君の顕現の一人がああなっちゃって、別のに行けって言われたから楽しそうなのを見繕ったんだよ』
炎に焼かれながらも暴れ回る触腕を指差し、微笑む。あの肉塊の前の姿──男の幼少期のような子供は不機嫌そうだ。
『殺されるなんて情けないね、ボクのくせに。まぁ最期にボク呼び出したのは流石だよ。ボクはボクが責任もってちゃーんと戻しておくよ。でもその前にさ、せっかくだから見ていこうよ、ボクがやった偉業をさ』
『もちろん、兵器の威力には僕も興味がある。しばらくは見れないだろうしね』
『黒』の言う「しばらく」は、人間の思う時間とは全く違う。数百年数千年単位の言葉だ。
『何回も同じの作っても面白くないもん。『黒』だって同じのばっか見たくないでしょ?』
『まぁね。でもアレ完成品じゃないんだろ? 国一つしか滅ぼせないし』
『他の国々にも技術を教えてやれば威力が低くても一発打たせれば終わるよ?』
幼い、甘ったるい声でケラケラと笑う。その姿だけ見ていれば誰も彼もが魅了されるだろう。
いや、全てを知ってしまえば……それはまた、魅了される人間も現れる。全てを知ってもなお人間として生きていればの話だが。
『……ああ! 打ち合って、ってことだね。それも面白そう……いや、何千年か前に似たようなのを見たね』
『あれ、そうだっけ? ボクあんまり他のボクと繋がってないからなぁ』
『まぁ、君のやりたいようにやりなよ。それが一番面白い』
『そう? えへへ……嬉しいなぁ』
無邪気に照れて見せるその背後では爆発が起こっていた。きのこに似た形の雲が作られ、爆風は広がっていく。だが二人は何の影響も受けず、壊れていく建造物と人を眺めていた。
『あんまり建物は吹っ飛ばないね。窓割れたり壁剥がれたりってくらい』
『人への汚染に重きを置いたらしいよ? 僕は知らない。君が作ったんだからさ』
『まぁ、作ったのはボクだけどさ、ボクじゃないっていうか。別人扱いしてもらいたいなぁ』
わざとらしく頬を膨らませ要求を通そうとする。
子供らしく可愛らしい、大げさな仕草だと分かっていても騙されてしまう───ああ、あくまでも人間の子供だったらの話だ。
『……もういい?』
『あれ、飽きっぽいねぇ』
『ボクが作った薬を飲んだ人間がいるんだろう? そっちを見たいな。連れてってよ』
『はいはい、仰せのままに、愛しき友よ』
『えへへー、ボクも『黒』だーい好きだよ!』
『…………扱いにくいね、君』
冗談めかした言葉に無邪気に答えられると反応に困るものだ。
まぁコレは全て計算し尽くしているが……
『黒』は今までの友と新しい友を比べたが、どれが良いかなど結論は出てこなかった。
全ての彼は最悪の存在なのだから。
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