魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン

文字の大きさ
171 / 909
第十四章 倒錯した悪魔達との狂宴

仕組まれた約束

しおりを挟む
アルはアシュに挨拶をすると言っていたが、長すぎるのではないか。僕はもう何時間も待っている気分だ、そもそも何故挨拶に僕がついて行ってはいけないのかも疑問だ。
僕はアルが入っていった部屋の隣、上等なソファの上で不貞腐れていた。

「はぁ……おっそいなぁ、退屈だよ」

『ホントだよね、退屈』

背後から少女の声。この部屋には僕以外に人はいないはずだ。唯一の入口は僕の目の前だし、窓ははめ殺しで開かない。

「誰………あ」

『やぁ、久しぶり。元気だった?』

「………『黒』、なんでここに」

『君の様子を見に来た、って言ったら信じる?』

相変わらずの嘲りが混ざった微笑みを貼り付けて、『黒』は僕の隣に座った。

『痛そうだね、視界は良好?』

「……まぁ、前から髪で見にくかったし。変わらないかな」

『そっか、なら良かった』

「全然良くないよ」

正直なところ、『黒』には会いたくなかった。
何も言わずに置いて行かれたのだ、嫌いになっても仕方ないだろう?  まぁ僕は『黒』のことを完全には嫌いになりきれてはいないのだが。

「……ねぇ、『黒』、コレ」

『ん?  ああ、羽根?  持ってたんだ』

「……コレ、どうすればいいの?」

『まぁ天使の羽根だからね、お守りにはなるよ?』

「効果あるならこんな怪我しないよ、ポケットに入れてたから血で汚れちゃったし」

黒と白の柔らかく美しい羽根だったはずなのに、僕の手の中にあるのは赤黒く細長い塊だ。

『あはは、まぁお守りってそんなものだよ。良いことがあったらお守りのおかげで、悪いことがあったらお守りは関係ない』

「勝手だね」

君と同じ、なんて言ったらどんな顔をするだろう。

「ねぇ『黒』、どうして僕を置いて行ったの?」

『あの狼が戻ったなら、僕の役目は終わりだろ』

「僕のこと、嫌いなの?」

『……嫌いだって言ったら、どうする?』

『どうもしないよ、泣くだけ』

そう、今まで何度も泣いた。
『黒』は少しくらい僕を愛してくれていると思っていた、それが僕の勝手な思い込みだと知った時のことを思い出して、今までも何度も何度も泣いていた。

『……ねぇ、そのままでいなよ。目、治さないでおきなよ』

「何で?」

『その方が幸せだ』

「君に言われて頷くと思う?」

『天使は君を狙ってる。隊長様が号令を出したからね、魔物使いを殺せって』

「だから目はこのままにしておけって?」

『それだけが理由じゃないけどね』

僕の頬を撫でて、『黒』は寂しそうに微笑んだ。その仕草には何故か覚えがある。

『……ねぇ、ヘル。僕の名前……分かる?』

「何急に、分からないよ。教えてもらってないし。『黒』じゃない名前なんて知らない」

『そうだよね。ううん、気にしないで。ヘル』

『黒』は僕の名前を優しく呼んで、優しく頭を撫でる。そんなことをされては、嫌いになれない。やめてくれと言うほどにも嫌いになれない、もっとしてと言えるほど素直にもなれない。

『ねぇ、ヘル。僕はね、君のことが嫌いな訳じゃないんだよ、ホントだよ?』

小さな子に諭すように、ゆっくりと言葉は紡がれる。

『ねぇ、ヘル。好きだよ。ずっと前からね、ずっと愛してる』

「…………嘘」

『嘘だって思うならそう思ってくれていいよ』

「傍に居てくれないならそんなこと言わないでよ!」

『……ごめんね』

「謝らないでよ……ねぇ、また僕と一緒に居てよ、隣に居て、傍に居て、離れないで!」

『………ねぇ、ヘル』

「やだ、やだ!  聞きたくない……傍に居るって、それ以外聞きたくない!」

『黒』を突き飛ばして、耳を塞ぐ。
目も固く閉じて口も噤んで、目を開けた頃にはいなくなっているだろうと思いながら。

『ねぇヘル、君はさ、人間のままで幸せになれるの?』

腕を開かされて、『黒』の声が明瞭に聞こえた。
思わず開けた目にはまだ『黒』が映っている。
『黒』の手が頬を撫でて、そのまま下に向かう。
『黒』の両手が首に添えられた。

『……このままずっと不幸なら、ここで終わらせてあげようか。そうしたら僕は君と──』

何も答えられない、嫌だと言いたいのに口は動かない。狭い視界が涙で歪む、『黒』の顔がぼやけて見えない。

『…………冗談だよ、怖かった? ごめんね』

『黒』はそう言って微笑んだ、ように感じた。
首から手は上に動いて、耳の後ろ辺りを支えた。
柔らかいものが唇に押し当てられる。

『……またね、ヘル。僕……待ってるから』

涙を拭って目を開けると、『黒』の姿は消えていた。唇に残った感触を確かめようと、指でなぞる。
だがその行為は無駄に終わった。

『待たせたな、ヘル……ん?  何かあったか?』

『黒』が消えた直後、目前の扉を開けてアルが入ってくる。

「……何も、ない」

『そうか、なら早く行こう』

やっとアシュへの挨拶を終えたアルはソファの隣に伏せる。僕を乗せるための体勢だ。

「ねぇアル、アルは僕の傍に居てくれるよね」

『ああ、勿論だ』

アルの言葉も信用できない。事実二回ほど僕を置いて死んでいるから。

「ねぇアル、人の嘘を見破る方法知らない?  嫌いなくせに愛してるって言う人とかの」

『……いや、悪いが分からない』

「そっか、分かれば便利なんだけどな」

『やはり何かあったな?  何があった』

「んーん、なんにもない」

嘘が分かれば楽になるとも思えない、だけど悩みは一つ減ると思う。その代わりにいくつか増えそうだとも思う。

『黒』の言葉が嘘だと分かったとしたら、『黒』を嫌いだと僕は言えるだろうか。いや、きっと言えないだろう。口だけで好きだと言ってくれるだけで僕は人を嫌いになれなのかもしれない。

『黒』の言葉が本当だと分かったとしたら、『黒』を嫌いなフリすら出来なくなる、それは嫌だった。
傍に居てくれないくせに好きだなんて、蔑ろにさせてくれない分嫌いよりも酷い。

「好きだって言ってくれて傍に居てくれるなら、それが一番良いよね」

『何があったか知らないが、私は貴方から離れないからな』

「うん、約束ね」

僕は過去に破られた約束をもう一度結んだ。
誰かとの果たせていない約束を忘れたまま。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

処理中です...