魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン

文字の大きさ
322 / 909
第二十一章 神が降りし国にて神具を探せ

兄弟会遇

しおりを挟む
アルテミスの男漁りの報告は僕の予想通り、いやそれ以上の効果を発揮した。アポロンは言葉を失い立ち尽くしている。

『…………ヘル』

「あ、どうだったアル。僕すごくない?」

『はぁ……情けない』

おかしい、アルは僕を凄いと褒め称えてくれるはずなのに。どうして情けないなんて言わているのだろう。

「ちょ、ちょちょ、ちょーっと話しましょっかこのクソ坊主」

アルテミスは僕の耳を引っ張った。

「え?  な、なんで僕が怒られるんですか?  痛いです」

「アンタ……馬鹿なの!?  ふざけてんの!?  真剣だったらアンタ本っ当に頭おかしいのよ!」

「な、なんで頭おかしいなんて言われなきゃならないんですか!」

情けないだとか頭がおかしいだとか、全く意味が分からない。

「アタシは!  この馬鹿にぃのせいで男と縁がないのよ!  せっかくアンタに紹介させようとしたのに、アンタが言ってどうすんのよ!」

「お兄さんのせいだなんて僕は知りませんし、どうして僕がアルテミスさんの男漁りの安全の為の犠牲にならなきゃならないんですか!」

アルテミスの怒りは八つ当たりだ、僕はそう判断して言い返す。

「男漁りって言うのやめなさい!  あぁもう最っ低!  マジありえない!  アンタ男として、いいえ、人として最低よ!」

「さ……最低。べ、別にアルテミスさんに最低って思われたからって、僕はなんともありませんから!」

嘘だ、かなり傷ついた。
いくらなんでも最低は酷すぎる。人を犠牲にしようとしておいて、よくもまあそんな暴言が吐けるものだ。

「…………アルテミス」

「な、何よ馬鹿にぃ。名前で呼ぶなんて、気持ち悪いからやめてよ」

「結婚、したいのか?」

「アタシにもそういう願望はあるのよ、ウチの男共がダッメダメな分取り返すような良い家庭作りたいの。それが何?  気に入らないの?」

「……お兄ちゃんじゃダメか?」

アポロンが自分を指差す……と同時に彼の体が宙に浮く。パァンという音が街中に響き渡った。強烈なビンタをくらったアポロンは街道の端まで吹っ飛んだ。

「気持ち悪いのよ馬鹿にぃは!」

このままでは兄妹喧嘩に巻き込まれる、退散しよう。バイトも見つかっていないしと尤もらしい言い訳を心の中で唱えながら体を反転させた。

「あ、ヘルくーん!  聞いてよ、一人目からもう大当たりでさぁ。いい噂が手に入ったんだ」

踵を返した直後、ヘルメスらしき人影が走ってくるのが見えた。

「もう見つけたんですか?  いい噂って……信用出来るんですか?」

「火のない所に煙は立たない、ってね!  怪しい噂が出回るってことは怪しいことしてるってことだよ」

「そうですか……?  噂なんて大抵は面白半分だと思いますけど」

「叩いたらホコリが出る奴じゃなきゃ噂話も面白くないだろ。いいから聞いてよ」

一人目から良い情報が手に入った、か。信憑性はともかくとして、彼は本当に運がいい。そういえば、確かヘルメスがこの国を追い出された理由は兄と仲違いしたからだったはずだ。
……待てよ、アルテミスはヘルメスの姉。そしてアポロンはアルテミスの兄。つまりアポロンはヘルメスの兄だ。

「…………メ、メルクさん!  そういう話は外でしない方がいいですよ、ほら行きましょう」

「え?  メルクって……えっ?  マジか」

ヘルメスは喧嘩している兄妹に気が付き、帽子を目深に被り直す。白っぽい毛先ははみ出ているものの特徴的な青いグラデーションの髪や翠の瞳は上手く隠れている。

「……あ、待て待て君。えっと、ヘル君?  君とは少し話がした……おや?  友人かい?」

アポロンが去ろうとした僕を呼び止める。そのまま喧嘩をしていればいいのに、そう言ってしまわないように唇を噛み締める。考えがまとまらない、ヘルメスが口を開けば声などでバレてしまうだろう。ヘルメスに話させないようにして上手くこの場を離れなければ。

「しかし、ヘルか……嫌な響きだ。あぁいや、君がどうという訳ではなくてな。気を悪くしたならすまない、謝るよ」

「あ、はい。ヘルシャフトっていいます。だからあだ名がヘルになってて」

「ヘルシャフト、いい名前だ。すまなかったね。そちらの彼は?」

「メルクさんです。すいませんがメルクさんはちょっと話せなくて」

よし、ヘルメス改めメルクは口がきけないという事にしよう。それなら声でバレる心配はない。

「声が出せないのか?  いや、さっきは話していただろう。しっかりとは聞こえなかったが、口が動いているのは見たぞ」

どうして誤魔化されてくれないのか、何故そう細かい所を見ているのか、面倒臭い事この上ない。

「え……ぁ、あぁ、それは、えぇと……」

『場面緘黙症だ』

「それ!  って……何?  アル」

同意したはいいものの、その言葉の意味は分からない。だがアポロンは納得した様子でヘルメスの肩を叩いて、先程僕にしたように軽い謝罪を行った。

「そうだったか、すまないな。君も旅行者かい?  ゆっくりしていってくれ」

ヘルメスは帽子を引っ張って顔を隠しながらコクコクと頷く。

「……おや、綺麗な爪をしているね。自分でやったのかい?  へぇ、上手いじゃないか。私の妹なんてもう何年もやっているのにずっと下手で、いつも店に行っているんだ。機会があったらコツを教えてやってくれ」

「あ、あの、アポロン……さん?」

「あぁすまない。あまり話しかけない方がいいのかな?  悪かったね引き止めて、用事があるなら話はまた今度。暇が出来たらここに手紙を送ってくれ」

アポロンは住所を書いた紙を手渡すとテラス席に戻った。
……この紙はいつも持ち歩いているのか?  落としたら大惨事だ、大丈夫なのだろうか。なんて要らぬ心配をしてみたり。

「助かった……かな。さ、行きましょうメルクさん」

念の為にまだメルクと呼んでヘルメスの手を引く。アルも僕の腕に尾を絡めて、カフェに背を向けて歩き出す。ヘルメスは何も言わず自分の手を──爪を見つめていた。

「メルクさん?  どうしたんですか」

「……にぃ、俺の爪褒めてた」

「爪?  あぁ、綺麗ですね。髪と同じ色で……えっと、セットみたいでいいと思います」

ヘルメスの爪は彼の髪と同じように綺麗な青が塗られていた。翠も混ざった美しいグラデーションは海にも空にも似ている。

「……昔、家にいた時は「女みたいな事するな」って怒られたんだよな」

「そうなんですか……」

それなのに今日褒めたのは考えが変わったのか、他人だからなのか。ひねくれた僕は後者だろうなと考えた。

「ぬいぐるみ収集やガーデニングが趣味のくせしてよく人に文句言えるよなって感じ。そもそも俺はモテるからこういうのやってるだけだしさー?」

「まぁでも、良かったじゃないですか。バレなかったし」

「まぁ、な。でもなーんか複雑だよなぁ。弟にはキツいくせして外じゃあんなにヘラヘラしてんだな」

「……王族ですし」

無愛想では指示は得られないだろう。腹の中で何を考えていようと人当たりのいい方を方を民は好む。

「ところでメルクさん、捜し物って?  それと、どれくらい貰えそうかも教えてくださいよ」

「失せ物……あれも一応神具だから国家レベルの仕事だよ、なんてね。結構割はいいと思うよ、王様が俺にどんだけ出してくれるかは知らないけど」

「……神具を失くしたんですか?」

「そうなんだよ、バッカだよなぁー。人にポンポン貸すから失くすんだよ」

人の神具を盗んだヘルメスが言えた事ではないような……盗まれる方が悪いという考え方なのか?

「神具って呼んだら出てくる物なんじゃないんですか?」

アルテミスは弓を呼び戻していた覚えがある。

「仮所持者がいなけりゃ正当所持者のとこに帰ってくるよ。でも何度試しても帰ってこないらしい。誰かが持ってるってことだね」

仮所持者……前の僕の事か。だからアルテミスはわざわざ僕に会いに来たのか。
何の力もない僕が持ってもそれなりに使えたし、悪意を持って盗まれたとしたらこれは重労働だ。
僕はたっぷりと報酬を貰おうと決め、その神具について詳しく聞くことにした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

ゴミスキル【生態鑑定】で追放された俺、実は動物や神獣の心が分かる最強能力だったので、もふもふ達と辺境で幸せなスローライフを送る

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティの一員だったカイは、魔物の名前しか分からない【生態鑑定】スキルが原因で「役立たず」の烙印を押され、仲間から追放されてしまう。全てを失い、絶望の中でたどり着いた辺境の森。そこで彼は、自身のスキルが動物や魔物の「心」と意思疎通できる、唯一無二の能力であることに気づく。 森ウサギに衣食住を学び、神獣フェンリルやエンシェントドラゴンと友となり、もふもふな仲間たちに囲まれて、カイの穏やかなスローライフが始まった。彼が作る料理は魔物さえも惹きつけ、何気なく作った道具は「聖者の遺物」として王都を揺るがす。 一方、カイを失った勇者パーティは凋落の一途をたどっていた。自分たちの過ちに気づき、カイを連れ戻そうとする彼ら。しかし、カイの居場所は、もはやそこにはなかった。 これは、一人の心優しき青年が、大切な仲間たちと穏やかな日常を守るため、やがて伝説の「森の聖者」となる、心温まるスローライフファンタジー。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!

こはるんるん
ファンタジー
「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」  主人公アッシュは、世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】のギルドマスターの息子として活躍していた。しかし、筋力のステータスが80%も低下する外れスキル【植物王(ドルイドキング)】に覚醒したことから、理不尽にも父親から追放を宣言される。  しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。 「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」  さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。  そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)  かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

処理中です...