魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン

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第二十一章 神が降りし国にて神具を探せ

腕の見せどころ

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人に貸していたのならまず疑うべきはその人、次に疑うべきはその周囲の人。さらに次があるとすれば神具使いではない王族の者。
そんな事を話しながら僕はヘルメスの隣を歩く。

「どんな神具なんですか?  見た目とか、効果とか」

「兜だね。見た目は髑髏っぽいかな?  装飾は紫水晶で、効果は不可視化だよ」

「あぁあの……サクサクした、あまーい……お菓子?  になるんですか?  とんでもないですね」

「それは……何?  君の発想の方がとんでもないよ」

『麩菓子だな。温泉の国の土産屋に売っていた』

流石はアル、僕の思考を分かっている。僕は希少な一体感の喜びを味わう。

「ふしじゃなくてふし、不可視、見えなくなるんだよ。正当所持者が使えば気配も匂いも音も消せるんだってさ」

「また見つけにくいものを失くしましたね。それも十二神具なんですよね?  持ち主さんは?」

「いや、兜は十二神具じゃない。十二神具より便利だけどね」

「神具って……十二個以上あるんですか?」

「あるよ?  俺が正当所持者なのもあと三つ四つあったと思うし……そもそも羽飾りは補助神具、アクセサリーだからね。もっとちゃんとしたのがあるんだよ」

「なら、なんで十二神具なんて決まってるんですか?」

「格好いいだろ?  あぁウソウソ、そんな顔しないの。十二神具ってのは王族の威厳を保つための宝物で、特に扱いにくい物を選んであるんだよ。だから使い勝手のいい物は普通に神具ってだけ呼ばれるの、その神具も真価を発揮できるのは王族の才能がある奴だけなんだけどね」

なんだろう、夢を壊された気分だ。別に十二神具に幻想を抱いていた訳でもないのに。

「……ところで今どこに向かってるんですか?」

「王城だよ。にぃの居ない今のうちに置きっぱなしの俺の神具を回収しようと思ってね。今回の仕事には要らなさそうだけど、次に国に来れてにぃが城にいないタイミングって中々来ないと思うんだ」

今のうちに、回収、この二つの言葉に不安を覚える。
きっと真正面から引き取りに行くのではないのだろうな、なんて僕の嫌な予感は当たって、ヘルメスは王城の塀の上で僕に手を差し伸べている。

『私を踏み台に……届いたか?』

「う、うん、ごめんね?」

アルの背に乗り、頭に足を乗せ、軽く蹴ってヘルメスの手を掴む。

「オオカミちゃんは目立つから待っててね、見張りお願い」

『ヘルを危険な目に合わせるなよ。もし髪の先程の擦り傷でも付けたら貴様の首は胴と離れる事になる、肝に銘じろ』

「あははっ、怖いなぁ」

アルを目立つからという理由で置いていくなら、僕も足でまといだからという理由で置いていくべきではないか。そう伝えようとしたが、腕を引かれて中に入ってしまった。
広い庭を手入れされた木々の影に隠れながら進む。見慣れない花も多い、色とりどりのそれらには見蕩れてしまう。

「おっ?  あったあったアレだ。濃い神力が漏れ出ちゃってる。思った通り、倉庫はこっちに移してたみたいだ。郊外じゃ不便だろうし、昨日見たら無くなってた。城にあるって読みは当たったよ」

「倉庫って……あれ家じゃないんですか」

「神具の倉庫だからねー、そりゃ大っきいよ」

ヘルメスは花畑を突っ切って倉庫に向かう。僕は美しい花々を踏むのを躊躇って花畑の縁を歩いた。そのせいで少し遅れてしまったが、ヘルメスは何も言わなかったし、誰にも見つからなかった。

「大きな錠前がありますけど……どうするんです?」

「俺の腕の見せどころってね。ここにありまするは二本の針金、これをこう曲げてこう刺してこう動かして……はい開いた」

ヘルメスが針金を穴に刺して数秒後、ガチャンと音を立てて錠前が落ちる。腕の見せどころというのは盗みの腕の事か、本当に彼を尊敬していていいのか分からなくなってきた。

「おお、あるある俺の神具達。ペタトス、タラリア、ケリュケイオン……お、ハルペもあるね。ラッキィー」

「それ全部持っていく気ですか?」

「帽子と靴はここで使っておくよ。このブーツは代わりに置いていこう」

ヘルメスはつばの広い帽子にブーツに付けていた羽飾りを付け、そのブーツを脱いで倉庫の端に置いた。羽飾りが付いた黄金の靴を履くと、曲刀を手に取り二、三度振るう。

「ケリュケイオン……この杖持って」

「僕は荷物持ちですか……別にいいですけど」

自分の神具は回収し終えたというのに、ヘルメスはまだ倉庫を漁っている。

「おっ……にぃの弓だ。即死と疫病だっけ…………ちょっと欲しいかも。流石にアイギスは無いかなぁ……無いなぁ」

暇になった僕は渡された杖を観察する。ヘルメスの羽飾りに似た飾りが先端にあり、蛇が二匹巻きついているようなデザインだ。持ちにくい。振ったら火の玉が飛ぶ……なんて事はない、神具も存外つまらない。魔法道具なら飛ぶだろうに。

「…………あれ?  何この可愛いの」

「ん?  なになに何見つけたの?」

黒と白のハートを見つけ、引っ張り出す。棒──いや、矢だ。ハート型の矢。

「これも神具なんですか?  なんか可愛い見た目してますけど」

「あ……今すぐ元に戻して」

「へ?  あ、はい…………戻しましたよ」

「手切ったりしてないよね?」

ヘルメスは僕の手のひらをじっと見つめ、撫で、ほぅと息を吐いて手を離す。

「そんなに危ないんですか?」

「……あぁうん、まぁ。単純なんだけどね。好きになる矢と嫌いになる矢。でも誰にでも効くし効果は正当所持者にも解けない。殺傷力は無いって言ってもいいけど、とんでもなく厄介なんだよ」

分かっていた事だが、神具は強力な力を持っている。触らない方がいいのは当たり前だ。自分の軽率さを反省しつつ、ヘルメスも漁り終えたようなので倉庫を後にする。

「買っておいた錠前をかけておいてっと」

「……何か意味あるんですか?」

「この錠前の鍵は俺が持ってる、ここの連中には開けらんない。それにそもそも錠前があったら盗みに入られたとも思わない、錠前の色や形なんてそうそう覚えてないだろうしね。そう、俺の盗みが発覚するのを遅らせるんだよ!」

「うわぁ……周到ですね」

ヘルメスはつばの広い帽子で顔を隠し、僕に先程まで被っていた帽子を被せる。僕もヘルメスに倣って顔を隠す……と、背後からザクザクと足音が近づいてくる。

「おっと、誰か来たね。早速この靴の力を……いや、空飛んだら見つかるかな。仕方ない、一回隠れよう」

倉庫の影に隠れて様子を伺う。現れたのは赤髪の男、アポロンだ。花の様子を見に来たらしい。

「もう帰ってきたのかよ!  にしても……ったく、人の趣味には口出しするくせに自分はぬいぐるみ集めたり花育てたり……あぁいうのを自分を棚に上げてっていうのかな」

「あの、ヘルさんさっき花踏みましたよね?  怒ってないですか?  あれ……」

「ん?  んー……怒ってるね。まずい、足跡は…………っ!  最悪……急ぎ過ぎたね」

花畑を踏んだヘルメスの靴には泥が付着していた。その靴は倉庫に置いてきたから足跡だけでは見つからないのだが、僕達はその倉庫の裏手に隠れている。

「誰かいるのか!」

アポロンは真っ直ぐ倉庫に向かう。錠前は内側からはかけられない、アポロンは賊が倉庫内にはいないと判断し、その周囲を調べ始める。

「……走って走って、後ろ行けば多分見つからないから」

音を立てないよう細心の注意を払って走る。
アポロンの背中を角から顔だけを出して確認し、そのまま彼の後ろを歩く。
頃合いを見て脱出、するはずだった。アポロンが突然振り返るまでは、僕達は無事に逃げられると思っていた。
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