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第二十九章 愛し仔の為の弔辞
無人の教会
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兄に墓泥棒の話をして探知魔法を使ってもらった。その間僕は王に具体的な被害を聞いてみた。
「今日までで五人ほど喰われて……三人が襲撃に驚いて転んで怪我をしたそうだ」
後半はどうでもいい。五人か、何日に一人なのだろうか。それも聞いてみたが、人を喰らう周期はまちまちで人里にやってきても何もせず帰ることもよくあるのだと。
『ヘル、ちょっとこれ見て』
「墓荒らしどこに居るのか分かった?」
『ここ、生体反応が無いんだよ。あるのは墓ができる前、埋めた人の反応で、その後は生きた者はこの土に触れてない。墓参りっぽいのは除外してね』
墓全体を包む魔法陣が消える。生体反応が無いなんて……墓荒らしは魔術でも使ってどこか遠くからアルの遺骸を引っ張り出したのか?
『……にしても、ここ寒いね』
『そらテッペンすぐそこやもん』
『ねぇ王様、教会入っていいよね?』
「あ、あぁ、好きにして構わない」
教会の扉に鍵などはかかっていない。中には誰もおらず、高い天井が物寂しさを演出している。
「王様、お城に戻らなくていいんですか?」
「…………大神様を見ておきたい。倒すのなら最後の機会になるだろうからね」
「……好きなんですね。アルには近付かないでくださいよ」
王にはアルは大神に似ているだけだと伝えてある。もし今の大神が偽物でアルが本物だと言ったら王がアルに触れようとするのはまず間違いないだろう。我を失って美しさを語るような変態をアルに近付けたくない。見せるのも嫌だ。
「分かったよ。それにしても……本当に似てるね、いや、この子の方が綺麗かな」
「……当たり前でしょ」
『待って。君、見たことあるの?』
アルより美しい生き物が居る訳がないと説明しようとするも兄に邪魔をされる。
「…………科学の国に旅行に行っていた者がカメラを持っていてね、そこに写ったものを……」
『特徴とかある? アルちゃんに似てるってこと以外で』
王は懐から一枚の厚紙を取り出した。そこには大神様と呼ばれる魔獣の姿が描かれている。
「それがその写真だ」
アルに似ている──大神はボロボロの姿をしているが、その顔や身体はアルと全く同じだ。
翼は破れ、折れ、飛べるかどうかすら分からない。骨が見えている。尾の鱗は剥がれ、ところどころ肉が抉れた部分もある。銀色の美しい体毛も一部抜けていてみすぼらしい、毛皮が剥がれて色の悪い筋肉が露出している部分もあった。前足は反対方向に捻られて地面に着いている……痛くはないのか? 折れているのか?
『…………随分ボロボロだね』
『これなら人間でも討伐出来そうなものだが』
「やっぱりそう思うか。けれどね、大神様はこの傷を負っていてもなお恐ろしく強いんだ」
角度の問題で見えにくいが、首から胸にかけて縫い目があるように見える。横から写されていて腹の方まで続いているかどうかは分からない。
…………この傷には見覚えがある。
『頭領、来はったみたいやで』
『……羽音だな』
アルと酒呑が大神であろう羽音を拾う。僕は立ち上がる彼らを制し、兄の腕を引いた。
「……まず、様子を見ない? ほら、にいさま、あの……姿が見えなくなる魔法かけてよ」
『別にいいけど、なんで?』
「………………ちょっと、確かめたいことがあってさ。アルと酒呑も手を出さないでね」
二人の了解の声を聞き、兄の魔法が発動したのを確認して教会を出た。
『……おらんな』
寂しい草むらとゴツゴツした岩が広がっているだけだ。
『ヘル、見てみろ。足跡があるぞ』
アルが見つけたのは大神のものらしい足跡。可愛らしい肉球と、折れた足を引き摺っているらしい跡、それに抜け落ちた羽根や毛だ。
『向こうだね』
痕跡を追って辿り着いたのは泉。零が居た頃なら凍っていたであろう美しい水面には波紋が広がっていた。
バシャバシャと音が聞こえる。隠れる必要は無いというのに僕は木陰から音の主を探した。
『…………アレか。本当、アルちゃんに似てる』
銀色の狼が水浴びをしていた。いや、水浴びというには優雅さが足りない。翼と尾を水に濡らしては擦り合わせ、ポロポロと羽根や鱗を落としている。岩に身体を擦り付け、毛や皮を剥いでいる。
「……大神様は何してるんだ? どんどん身体が崩れてるじゃないか」
『魔獣なら再生すると思うのだが……』
『…………いや、あれは再生せぇへん』
岩に身体を擦り付けた後、泉に身体を浸し、また岩に身体を擦り付ける。何度かやって自らの姿を水面に写し、悲しげな鳴き声を上げた。聞き慣れた声だった。
『あれは死体やな。焼き付けで死体が動いとるんや。たまぁにあるわ』
『……死体、だと? じゃあアレは……まさか』
「にいさま! 僕の魔法だけ解いて、みんなはそのままそこで待ってて!」
僕はそう叫んで木陰を飛び出す。大神に走り寄り、その姿を間近で眺めた。首から胸にかけての縫い目は腹にまで──いや、裂けた身体を繋ぐためにぐるりと一周続いている。
「…………アル」
ふわ、と風を感じる。僕の手の甲に現れていた魔法陣が消え、大神が驚いて飛び退いた。
「……アル、なの?」
岩に擦り付けたせいか右目は潰れていて、左耳は折れていた。だが、その顔は見間違いようもないアルのものだ。
『…………ヘル?』
そして、大神は聞き慣れた声で僕の名を呟いた。
『……迎えに来てくれたのか? 済まない、まだ身体が再生していないんだ。もう少し待ってくれないか?』
微かに表情が緩む。大神はまた岩に身体を擦り付け始めた。
「や、やめてよ!」
『……ヘル?』
「なんでっ、なんで、どうしてっ!?」
『…………臭いんだ。毛に腐った肉のような匂いが染み付いている。水浴びをしても落ちなくて……一度剥がして再生させた方が早いと思ってな』
「どうしてっ……! どう、して? なんで、ぇっ……」
崩れ落ちた僕に爛れた毛皮が擦り寄ってくる。腐臭が僕の鼻腔を突いた。尾が所在なく揺らされる、翼が僕を包もうと広がる──愛おしいアルの仕草だ。
アルはずっとここに居た。僕を待っていた。コアもないのに意識を保っていた。それなのに僕はコアだけを回収して新しく作り直して、戻って来てくれたなんて馬鹿みたいに喜んでいた。
アルはずっとここに居たのに。僕をずっと待っていたのに。僕はそれを知らなかった、想像すら出来なかった。
「ごめ、なさっ……ごめんなさいっ、アルっ……」
『ヘル? どうしたんだ急に……何かあったのか?』
肩に鼻先が触れ、僕の形を探るように動き、頬に辿り着くと舌が僕の涙を舐め取った。
僕はその仕草と僕の目や髪に言及しない事に疑問を抱いた。
「……ねぇ、アル」
僕が飛び出した時だって、僕に気が付いてから僕が名前を呼ぶまで僕が誰だか分かっていない様子だった。
「目、見えてないの?」
左目は僕の方を向いているが、僕を見てはいない。
『……ああ』
「そんなっ……」
そっとアルの頬に触れる。心地良さそうに閉じた左の瞼に触れる──と、グチャっとした感触が指に与えられた。
「え……? ぁ、そんな、違う、そんなつもりじゃ……ごめ、ごめんなさっ、ぁ……やだ、嘘だっ」
『…………大丈夫、直ぐに治る』
僕が大好きな優しい視線は、真っ直ぐな黒い瞳は、両方とも永遠に失われた。再生する気配は無い。
「治らないじゃないかっ! その羽も、尻尾も、身体もっ……何も治ってないじゃないかぁ!」
『少し調子が悪いだけだ。だから今栄養の良い物を食べている、直ぐに元に戻る』
栄養の良い物? それは、人?
『それより、ヘル。今一人なのか? 今まで何処に居たんだ?』
「ぅ、ふっ……ぅえ……なんで、こんなっ……」
『あぁ泣くな、泣かないでくれヘル。大丈夫、私は戻って来た、約束通り……貴方の元へ』
約束……あぁそうか、死体に焼き付いたのは死ぬ間際の約束なのか。
──ヘル、私はきっと貴方の傍に戻る。すぐに、すぐに戻ってみせる──
頭の中にアルの声が木霊する。約束を破ったのは僕だった、戻るという言葉を信じず、無理に戻した……新しく作り直した。
『済まないな、遅くなって……大丈夫だよ、もう独りにしないから』
「ア、ルぅ……ごめ、ん、なさいっ、ごめん……」
『どうして謝るんだ、ヘル』
「僕……ずっと、君を、ここに置いて……」
『何を言う、こうして迎えに来てくれただろう? それで十分だよ、私は貴方さえ居れば幸福なんだ。それに私はつい最近起きたばかり、謝るのは私の方だ』
どうしてそんなに優しいの?
『ヘル、ほら……泣かないで。寂しかったな、よしよし……もう大丈夫だ、大丈夫……私はここに居るよ』
どうして僕を責めないの?
『私は変わらず貴方だけを愛しているよ』
やめて。
『例え貴方が魔物使いでなくとも……私は、貴方だけを』
やめてよ。
『愛して──』
「やめろよっ!」
『……ヘル?』
「それ以上僕に優しくしないでよっ! 僕を、僕を恨んでよ、罵って……僕を責めてよ! 全部、全部僕のせいなんだからぁっ!」
息が出来ない。鼓動が煩い。身体が熱い。
もう全部要らない。肺も、心臓も、眼も、何も要らない。
死にたい。
「今日までで五人ほど喰われて……三人が襲撃に驚いて転んで怪我をしたそうだ」
後半はどうでもいい。五人か、何日に一人なのだろうか。それも聞いてみたが、人を喰らう周期はまちまちで人里にやってきても何もせず帰ることもよくあるのだと。
『ヘル、ちょっとこれ見て』
「墓荒らしどこに居るのか分かった?」
『ここ、生体反応が無いんだよ。あるのは墓ができる前、埋めた人の反応で、その後は生きた者はこの土に触れてない。墓参りっぽいのは除外してね』
墓全体を包む魔法陣が消える。生体反応が無いなんて……墓荒らしは魔術でも使ってどこか遠くからアルの遺骸を引っ張り出したのか?
『……にしても、ここ寒いね』
『そらテッペンすぐそこやもん』
『ねぇ王様、教会入っていいよね?』
「あ、あぁ、好きにして構わない」
教会の扉に鍵などはかかっていない。中には誰もおらず、高い天井が物寂しさを演出している。
「王様、お城に戻らなくていいんですか?」
「…………大神様を見ておきたい。倒すのなら最後の機会になるだろうからね」
「……好きなんですね。アルには近付かないでくださいよ」
王にはアルは大神に似ているだけだと伝えてある。もし今の大神が偽物でアルが本物だと言ったら王がアルに触れようとするのはまず間違いないだろう。我を失って美しさを語るような変態をアルに近付けたくない。見せるのも嫌だ。
「分かったよ。それにしても……本当に似てるね、いや、この子の方が綺麗かな」
「……当たり前でしょ」
『待って。君、見たことあるの?』
アルより美しい生き物が居る訳がないと説明しようとするも兄に邪魔をされる。
「…………科学の国に旅行に行っていた者がカメラを持っていてね、そこに写ったものを……」
『特徴とかある? アルちゃんに似てるってこと以外で』
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「それがその写真だ」
アルに似ている──大神はボロボロの姿をしているが、その顔や身体はアルと全く同じだ。
翼は破れ、折れ、飛べるかどうかすら分からない。骨が見えている。尾の鱗は剥がれ、ところどころ肉が抉れた部分もある。銀色の美しい体毛も一部抜けていてみすぼらしい、毛皮が剥がれて色の悪い筋肉が露出している部分もあった。前足は反対方向に捻られて地面に着いている……痛くはないのか? 折れているのか?
『…………随分ボロボロだね』
『これなら人間でも討伐出来そうなものだが』
「やっぱりそう思うか。けれどね、大神様はこの傷を負っていてもなお恐ろしく強いんだ」
角度の問題で見えにくいが、首から胸にかけて縫い目があるように見える。横から写されていて腹の方まで続いているかどうかは分からない。
…………この傷には見覚えがある。
『頭領、来はったみたいやで』
『……羽音だな』
アルと酒呑が大神であろう羽音を拾う。僕は立ち上がる彼らを制し、兄の腕を引いた。
「……まず、様子を見ない? ほら、にいさま、あの……姿が見えなくなる魔法かけてよ」
『別にいいけど、なんで?』
「………………ちょっと、確かめたいことがあってさ。アルと酒呑も手を出さないでね」
二人の了解の声を聞き、兄の魔法が発動したのを確認して教会を出た。
『……おらんな』
寂しい草むらとゴツゴツした岩が広がっているだけだ。
『ヘル、見てみろ。足跡があるぞ』
アルが見つけたのは大神のものらしい足跡。可愛らしい肉球と、折れた足を引き摺っているらしい跡、それに抜け落ちた羽根や毛だ。
『向こうだね』
痕跡を追って辿り着いたのは泉。零が居た頃なら凍っていたであろう美しい水面には波紋が広がっていた。
バシャバシャと音が聞こえる。隠れる必要は無いというのに僕は木陰から音の主を探した。
『…………アレか。本当、アルちゃんに似てる』
銀色の狼が水浴びをしていた。いや、水浴びというには優雅さが足りない。翼と尾を水に濡らしては擦り合わせ、ポロポロと羽根や鱗を落としている。岩に身体を擦り付け、毛や皮を剥いでいる。
「……大神様は何してるんだ? どんどん身体が崩れてるじゃないか」
『魔獣なら再生すると思うのだが……』
『…………いや、あれは再生せぇへん』
岩に身体を擦り付けた後、泉に身体を浸し、また岩に身体を擦り付ける。何度かやって自らの姿を水面に写し、悲しげな鳴き声を上げた。聞き慣れた声だった。
『あれは死体やな。焼き付けで死体が動いとるんや。たまぁにあるわ』
『……死体、だと? じゃあアレは……まさか』
「にいさま! 僕の魔法だけ解いて、みんなはそのままそこで待ってて!」
僕はそう叫んで木陰を飛び出す。大神に走り寄り、その姿を間近で眺めた。首から胸にかけての縫い目は腹にまで──いや、裂けた身体を繋ぐためにぐるりと一周続いている。
「…………アル」
ふわ、と風を感じる。僕の手の甲に現れていた魔法陣が消え、大神が驚いて飛び退いた。
「……アル、なの?」
岩に擦り付けたせいか右目は潰れていて、左耳は折れていた。だが、その顔は見間違いようもないアルのものだ。
『…………ヘル?』
そして、大神は聞き慣れた声で僕の名を呟いた。
『……迎えに来てくれたのか? 済まない、まだ身体が再生していないんだ。もう少し待ってくれないか?』
微かに表情が緩む。大神はまた岩に身体を擦り付け始めた。
「や、やめてよ!」
『……ヘル?』
「なんでっ、なんで、どうしてっ!?」
『…………臭いんだ。毛に腐った肉のような匂いが染み付いている。水浴びをしても落ちなくて……一度剥がして再生させた方が早いと思ってな』
「どうしてっ……! どう、して? なんで、ぇっ……」
崩れ落ちた僕に爛れた毛皮が擦り寄ってくる。腐臭が僕の鼻腔を突いた。尾が所在なく揺らされる、翼が僕を包もうと広がる──愛おしいアルの仕草だ。
アルはずっとここに居た。僕を待っていた。コアもないのに意識を保っていた。それなのに僕はコアだけを回収して新しく作り直して、戻って来てくれたなんて馬鹿みたいに喜んでいた。
アルはずっとここに居たのに。僕をずっと待っていたのに。僕はそれを知らなかった、想像すら出来なかった。
「ごめ、なさっ……ごめんなさいっ、アルっ……」
『ヘル? どうしたんだ急に……何かあったのか?』
肩に鼻先が触れ、僕の形を探るように動き、頬に辿り着くと舌が僕の涙を舐め取った。
僕はその仕草と僕の目や髪に言及しない事に疑問を抱いた。
「……ねぇ、アル」
僕が飛び出した時だって、僕に気が付いてから僕が名前を呼ぶまで僕が誰だか分かっていない様子だった。
「目、見えてないの?」
左目は僕の方を向いているが、僕を見てはいない。
『……ああ』
「そんなっ……」
そっとアルの頬に触れる。心地良さそうに閉じた左の瞼に触れる──と、グチャっとした感触が指に与えられた。
「え……? ぁ、そんな、違う、そんなつもりじゃ……ごめ、ごめんなさっ、ぁ……やだ、嘘だっ」
『…………大丈夫、直ぐに治る』
僕が大好きな優しい視線は、真っ直ぐな黒い瞳は、両方とも永遠に失われた。再生する気配は無い。
「治らないじゃないかっ! その羽も、尻尾も、身体もっ……何も治ってないじゃないかぁ!」
『少し調子が悪いだけだ。だから今栄養の良い物を食べている、直ぐに元に戻る』
栄養の良い物? それは、人?
『それより、ヘル。今一人なのか? 今まで何処に居たんだ?』
「ぅ、ふっ……ぅえ……なんで、こんなっ……」
『あぁ泣くな、泣かないでくれヘル。大丈夫、私は戻って来た、約束通り……貴方の元へ』
約束……あぁそうか、死体に焼き付いたのは死ぬ間際の約束なのか。
──ヘル、私はきっと貴方の傍に戻る。すぐに、すぐに戻ってみせる──
頭の中にアルの声が木霊する。約束を破ったのは僕だった、戻るという言葉を信じず、無理に戻した……新しく作り直した。
『済まないな、遅くなって……大丈夫だよ、もう独りにしないから』
「ア、ルぅ……ごめ、ん、なさいっ、ごめん……」
『どうして謝るんだ、ヘル』
「僕……ずっと、君を、ここに置いて……」
『何を言う、こうして迎えに来てくれただろう? それで十分だよ、私は貴方さえ居れば幸福なんだ。それに私はつい最近起きたばかり、謝るのは私の方だ』
どうしてそんなに優しいの?
『ヘル、ほら……泣かないで。寂しかったな、よしよし……もう大丈夫だ、大丈夫……私はここに居るよ』
どうして僕を責めないの?
『私は変わらず貴方だけを愛しているよ』
やめて。
『例え貴方が魔物使いでなくとも……私は、貴方だけを』
やめてよ。
『愛して──』
「やめろよっ!」
『……ヘル?』
「それ以上僕に優しくしないでよっ! 僕を、僕を恨んでよ、罵って……僕を責めてよ! 全部、全部僕のせいなんだからぁっ!」
息が出来ない。鼓動が煩い。身体が熱い。
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