魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン

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第四十章 希少鉱石の国で学ぶ人と神の習性

魔石採掘の最大手

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スメラギとメイラの会話を聞いて一番慌てたのは進行役の男だった。

「困ります皇様! あなたのところから今回の新兵器開発分の魔石も買ってるんですよ!? それでなくても国内シェアの七割を占めているというのに、この量を民間錬金術師に渡されては……」

「……国に売る分も~、みんなに売ってる分も~ちゃんと計算に入れてるよ~? うん、僕、ちゃんと計算できるよ~、うん」

指折り数えながらそう言って、こくこくと頭を縦に振る。どこか拙く幼いその仕草と話し方には不安が残る。

「……だ、だとしても! 個人にこの量の魔石を渡すのは看過できません。国家転覆を狙える量です」

「俺達信用ないなぁ、セツナが人の顔舐めるからだぞ」

「君のせいだろ。鳥事件忘れてないよ」

「う……あれを出されると弱いな。で、でも! 魔石なんかなくてもデカい錬成陣描けば領土の非生物全っ部金に変えられるんだからな! 国家転覆なんかいつでも出来るっての!」

出来るとしても言ってはいけないだろう。この発言に以前の所謂鳥事件──檻に入れられていないのが不思議なくらいだ、いや、入れたら国家転覆か……高待遇にせざるを得ないのだ。国も大変だな。

「結論! 移動式空中要塞は開発禁止! 出資も禁止! 完全に凍結! いいですね、六徳様、不可説転様、皇様! 六徳様、設計図の提出を願います」

スメラギは苗字なのだろうか、名前は何だろう。

「分かったよ」

「けーちけーちどけちー、亡命してやろうか!」

セツナは設計図を投影していた石を進行役に投げ渡す。スメラギは返事をすることなく、ぼうっと虚空に顔を向けていた。

「……全く。さて、皆様。他に新兵器のアイディアはございませんか」

『ぁ、僕いいですか?』

「魔獣調教師様……あなたが手を挙げてくださるとは、どうぞ」

天使だけが扱える白い槍を影から引っ張り出し、机の上に置いた。

『天使が扱う槍です。魔性が触れると熱を感じ、火傷を負うこともあります』

「……な、何故こんなものを」

『酒色の国は悪魔が多いので、狙われるんですよ。返り討ちにして採取しました』

この国で兵器開発をしてもらえるとは思っていない、本命はセツナだ。僕はセツナの鉱物の瞳をじっと見つめ、声の震えを無理矢理抑えて説明を始めた。

『この槍は天使にしか扱えず、魔性が触れればそれだけで火傷を負います。その仕組みを解明して、逆にしてもらいたいんです。魔性にのみ扱えて、天使を倒せる武器が欲しいんです』

「この国は国連非加盟国ですし、天使への対抗手段は必要なんじゃないですか?」

リアンによる予期せぬ援護射撃にこの国で開発してもらえる希望が膨らむ。

「……いえ、天使への対抗手段なんて作っているのがバレたら完成前に滅ぼされます」

「バレなきゃよくね?」

「天使が普段どうやってこちらの動向を探っているのかも分からないのに、どうやって隠すんですか?」

少し批判的な本を置いただけで襲撃にあった書物の国のことを思い出す。

『じゃあボク結界張ろうか? 酒色の国の自宅に張ってる隠匿魔法や防護魔法は並の天使には破れないよ』

「……流石にゃる君」

『え……? えっ!? な、なんて!? 今なんて!?』

『兄さん! 落ち着いて、同じ顔いっぱいいるんだから!』

『でっ、で、でもっ! でも……!』

『落ち着いてってば! すいません、続けてください』

立ち上がってライアーの背後に回り、首に腕を巻き付けて絞める。椅子に座っていてくれて助かった、立っていたら背の高い彼の首には届かなかった。

「……仕組みを解明してってところに不安が残りますね。果たして天使の物を人間に解析できるのか……」

「僕やってみたいな。サンプル欲しいんだけど……」

『あ、何本でもあるのでいくらでもどうぞ』

大人しくなったライアーから腕を離し、影から槍を何本か引き抜いて机に並べる。

「あ、あの、魔獣調教師様……一体どこに収納しているんですか?」

リアンの意見はもっともだ、僕にもよく分からない。

「影を入り口とする亜空間生成だろう? 天使や悪魔が使うと聞くよ、かなり高等な術のはずだ。流石は国潰しの怪物様」

『やめてくださいよその呼び方……潰してませんし』

天使や悪魔が使うのか……使っている悪魔は見たことがないな。かなり便利だし誰もが使っていそうなものなのだが。

「ところで狼乗り様」

『やめてくださいってば』

「この槍、どうやって持てばいいんだい? 全然動かないよ」

セツナは槍を掴んで自分の方に引き寄せようとしているが、槍はビクともしない。机が揺れるだけだ。

『ぁー……人間にも動かせないんだ』

「…………ま、魔獣調教師様は軽々と持っていましたよね?」

まずい。どう言い逃れる?

『……僕は、ほら、加護受者なので』

「そ、そうなんですか? えっ、じゃ、じゃあ何で酒色の国の国王なんて……」

会った時から思っていたけれど、リアンは本当に面倒くさい。真面目過ぎるのか何なのか、鬱陶しい。

『……酒色の国はよく狙われるので結界を張ってるんですが、その周りに来た天使を捕まえて無理矢理加護を与えさせてるんですよ。天使について色々と調べるためにね』

『………………えぐくないその言い訳』

『黙っててよ兄さん』

言い訳だと誰かに聞こえたらどうする。
そんな僕の心配は杞憂のまま終わり、会議は再開された。僕の意見は槍が人間には干渉できないからと保留になった。

「セツナ、セツナ、俺も天使捕まえたいんだけどさ、いいアイディアない?」

「縁切るよ」

「や、やめて……もう二度と考えないから……」

二人は相変わらず仲が良いな。羨ましい。
大した進捗がないまま会議が進んでしばらく、どこからか大きな鐘の音が聞こえてきた。

「おっと……お昼ですね。皆様、どうぞ昼食を」

案内役はそう残して慌てて部屋を出ていった。ポカンとしているとセツナもメイラもリアンもジンジュも席を立ち、昼食は何にしようかと話し始めた。

『……お昼ご飯は絶対って国みたいだね。結構あるよ、こういう風習』

『そ、そうなんだ……まぁいいことだと思うけど』

それなら僕も昼食を食べようか。ここに来るまでどんな店を見たか思い描いて立ち上がると、隣で椅子が倒れる音が響いた。見ればスメラギが車椅子に椅子を引っかけて倒したようだ、しかも車輪の隙間に椅子の足が挟まってしまっている。

『スメラギさん、大丈夫ですか?』

「……あんまり大丈夫じゃないかな~」

『ちょっと待ってくださいね、今抜きますから』

椅子を引っ張って足を抜き、少し離れた場所に置く。

『段差ありますし、外まで押しますよ』

「ありがと~、いい子いい子~」

背もたれに付いている取っ手を掴み、段差と曲がり角に気を付けつつ押していく。歪な手に頭を撫でられるとなんだかくすぐったくなる。

『……ね、ねぇ、スメラギさん……だっけ? キミ何でボクのことニャルとか言ったの?』

「え……? にゃる君でしょ~? 珍しく間抜けそうだけど~」

マヌケか……まぁ確かに、ナイと比べたら口調は表情はマヌケに見える。だがこれで案外優秀なのだ、と一人胸を張る。

『…………なんで、アレのこと知ってるの?』

「父さんの父さんの兄弟だも~ん」

『……は? えっ、何君何なの本当に何なの君も邪神なの』

「え……酷~い。僕は善良だよ~」

『邪神はみんなそう言うんだよ!』

ライアーの偏見にまみれた叫びに思わず頷いてしまう、善良を自称する邪神に心当たりがある人生なんて送りたくなかった。
外に出ても車椅子を押して飲食店を探すが、目に入る店は全て閉まっている。まさか店員も昼食中なのだろうか、だとしたら何も食べられない。

『スメラギさん、ご飯どこで食べるんですか? ご一緒させてください』

『なんで普通に接してるのヘルぅっ! こいつ多分やばい邪神だよ、だってまだほとんど封印されてるはずだもん!』

「最近ちょっと解けてきて信者の一人が身体くれたからこっちに来れたんだぁ~。あ、ご飯はうちで食べるよ~、うち来る~?」

『お邪魔して大丈夫ですか?』

「いいよ~」

『ヘルっ! ヘル、ヘル、ヘルぅうっ! ちょっと!』

ライアーは僕を車椅子から無理矢理引き剥がし、スメラギから少し離れて閉まっている店の壁に僕を押し付けた。

『家なんか絶対ダメじゃん!? 何が居るか分かんないよ!?』

「何もいないよ~?」

『うわこっち来たぁっ! 居るよ、絶対居る! 見るだけで精神ゴリッゴリ削れるバケモンいっぱい居る! やめようヘル、行ったら心が死ぬよ!』

「……精神すり減らすのはにゃる君じゃないか~」

ライアーはそんなことはしないけれど、スメラギの意見には全面的に同意する。

『大丈夫だって兄さん、何かあったら逃げればいいんだし』

『ヘルぅぅ……なんでたまにバカになるの、なんで時々楽観過ぎるの……』

『痛覚は消しておくから』

痛覚さえ消えていれば痛みで集中が途切れることはないので、一撃目で脳を破壊されなければ透過も魔物使いの力も使い放題だ。

『邪神に下手に関わるとボク統合されちゃう……』

『じゃあ兄さんは石入っておきなよ、僕大丈夫だから』

『でも……ヘル、心配だし……』

『クトゥルフの時兄さん居なかったけど大丈夫だったでしょ?』

僕を心配してくれているのはとても嬉しい。自然と笑顔になる。

『……分かったよ。何かあったらすぐ呼び出すんだよ? 出られたら出るから。逃げることを第一にね?』

出られたら──という言葉に何かあっても出てこないなと察する。ライアーを呼び出すような事態になったならライアーを呼び出してはいけないだろう。
首から下げた石に吸い込まれる霧と足元にこんもりと積もった土を見送り、車椅子を押して街を抜けた。
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