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第四十三章 国際連合に対抗する魔王連合
地下の色街
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カヤに跨り役所に到着。カヤの頭を撫でて労ってから透明化し、侵入。役所の中は他の国とそう変わらないし、案内図にも獣人がどうこうなんて文字はない。もう少し詳しく聞くべきだったかと思いつつさまよっていると、神父らしき二人組の会話が耳に入った。
「この間良かったって言ってた娘、どの娘?」
「教えねぇよお前と穴兄弟とか最悪だろ」
開業の届け出だとか住所の変更だとか、そんな話ばかりの役所の中で彼らの会話は声は小さくとも際立っていた。
「いいじゃんどうせ兄弟大量に居るだろ」
「知ってるのと知ってないのじゃ大違いなんだよ」
関係者以外立ち入り禁止と書かれた用具室に向かう二人組の後を追う。
「ま、俺は今日はウサギにするって決めてるし~」
「お前いっつもウサギじゃねぇか」
用具室には用具室らしい様々な物が綺麗に整理されて置かれていたが、二人組はそれらを無視してロッカーの前に立った。
「えっと、ここのは五番だっけ」
「四番だろ? 五番は隣町」
五番目のロッカーの中には箒などが入っている。四番目のロッカーには小さなパネルがあり、そこにロザリオを翳すとカチャンと音がしてひとりでに開いた。神父達はロッカーの中に入っていく。一人入るのでも難しそうに思えたが、ロッカーは二人を飲み込んで扉を閉じた。閉まってしまった扉をすり抜けてロッカーの中に入れば、これはロッカーに偽装された地下への入り口だったと分かった。
「つーかさ、知ってる? 俺らの先輩……ほら、あの低能の首席」
「あぁ……あの気持ち悪い奴。指名手配だっけ? 本当意味分かんねぇよな……」
小さな電球が吊り下がった薄暗い階段の先から二人組の話し声が聞こえる。降りる足を少し早めて彼らに追いつき、盗み聞き再開。
「そうそう、その弟子の修道女がまた可愛くてさ、しかもな、これ誰にも言うなよ?」
「え、なになに…………うっそマジで処女!? 両方!? ありえねぇ……!」
彼らには僕は認識できないのだから二人きりだと思っているだろう、耳打ちなんてする必要はないと思うのだが。
「弟子に手ぇ出してないとか珍しいな」
「やっぱちょっと遅れてんだよな……で? その初物誰が食うの?」
階段の終わりが見えてきた、地下街はかなり明るいようだ。
「さぁー……まぁ、どうせ俺らには関係ねぇって」
「あー、公開趣味の奴にならねぇかな。破瓜の反応ってたまんねぇんだよなー……」
地下街の受け付けの前で二人組は噂話をやめ、カタログのようなものを見て何かを決めた。それぞれ個別に部屋に案内されたようだ……この先は着いて行ってもいいものは見れないだろう。
『……どうしよ』
受け付けの青年は獣人には見えないが、獣人にも人間と見た目が変わらない者が四分の一程度居ると聞いているから、判断はできない。国から派遣されている職員なら勧誘なんてしたら天使を呼ばれてしまう、安全策を取って従業員の方へ行っておくか。
『こっち……かな』
二人組が進んだ廊下の先には扉がいくつも並んでおり、耳をそばだてれば甘い声が聞こえてきた。昔、こんな声を聞いた時に誰かが虐げられていると思い、そう発言した記憶がある──忘れたいな。
『…………あ、この部屋静か』
扉をすり抜けて部屋に入ればシャワールームとベッドだけの想像以上に狭い部屋だと分かる。ベッドにもシャワールームにも誰も居ない、静かだと入ったのだから当然だ。再び扉をすり抜けて廊下に出て、更に奥へ進む。すると立ち入り禁止の札がかけられた扉を見つけた。すり抜けて中に入れば灰色の髪の少女と幼い女の子が居た。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん、どこぉ……」
女の子は小さなクッションに頭を乗せて少女に背を撫でられながら、半ば眠りながら泣いている。
「…………ちゃんとお仕事出来たらまた会えるから、泣かないで」
優しく背を撫でている少女は女の子が寝付いたのを確認すると首にかけていたロケットペンダントを開き、中の写真を眺めて一筋の涙を零した。
「………………兄さん」
『あの、ちょっといいですか?』
姿を現し、少女の前に屈んで微笑んでみる。
「……っ!? 誰……ぁ、お、お客様……? こ、ここは立ち入り禁止ですよ」
『あ、いや、客じゃなくて……えっと』
どう説明すればいいのか分からない。またザフィエルのフリを──いや、勧誘なら天使ではダメだ。
「………………つ、の?」
赤く真っ直ぐな鬼の角を額に生やし、再び笑顔を作る。
『……僕は魔王。正義の国を、創造神の天下を終わらせる魔性の王です。少し、お話を』
「は……? ま、魔王って……何、言ってんの……」
『正義の国がまた戦争をすると、話くらいは聞いてませんか? その相手が僕です。で、戦争の前にこうして潜入して、戦力と言いますか……正義の国に敵対心や恨みを抱いていたり、戦争が始まるとただ巻き込まれて死ぬだけの人を、引き抜きに来てます』
少女はポカンと口を開けているが、カヤを不可視の状態で傍に座らせて寒気を起こし僕の雰囲気を演出したことにより、僕がただの異常者ではないとは悟っているはずだ。
「引き抜きにって……私、別に戦えないし」
『戦争が始まったらここが崩れて潰されるだけでしょう? そんな人生あんまりじゃないですか、だから……まぁ、助けに来ました』
少女はバッと顔を上げ、その真っ黒の瞳に僕を映した。ようやくまともに顔を見てくれた。
「……う、嘘、そんなの……そんな都合のいい話、ある、わけ……」
『…………信じないなら瓦礫に潰されるだけです。実際にあなた達を連れ出すのはまた別の日ですから……その時までに他の人にも教えて、考えておいてください』
「え……? 別の日?」
『一人一人連れて行くのじゃ手間がかかり過ぎますから、一気に転移させたいんです』
僕は予め兄に頼んでいた紙を取り出す。メモ帳を乱雑にちぎったその紙には魔法陣が描かれている。
『……ここから逃げたい人にこの紙を触れさせてください。この魔法陣を肌の平らなところ……二の腕とか、太腿とか、そういうところに押し当てると同じ模様が出ます。焼印とかじゃないので痛みはありません、転移したら消えますし、安心してください』
「ちょ……ちょっと、ちょっと待ってよ、何がなんだか……」
『魔王が築く国の国民になりたければ、この紙を肌に押し当てて印を付けろ。そう皆に話してください。死ぬか、魔王の傘下か、その二つです。他の獣人達のところへも行かないといけないので、あまり長く説明は出来ないんですよ……すいません』
空間転移の簡略魔法陣が描かれた紙を少女に渡す。
「……………………本当に、助けてくれるの?」
『戦時中は多少暮らしが悪いでしょうし、その後はちょっと忙しくなるかもしれませんけど……でも、最低限の衣食住と安全は保証します』
「…………わ、分かった。こんな暮らし続けていたくないし……あなたに騙されてたとしても、どっちでも……変わらない。ぁ、待って……転移の日っていつなの? こんな模様肌にあったら何言われるか……」
『だいたい四日後ですね』
少女は小さく頷くと眠っている女の子の服をめくり、背中に紙を押し当てた。肌に浮かび上がった魔法陣と紙を交互に見ている……驚いているのか? 表情が分かりにくい子だな。
『質問ありませんか? それじゃ、これで』
「…………待って! あの、他の獣人のところへも行くって……そ、それなら、兄さん……中央庁で働いてるの。兄さんに、その……私は元気だって、伝えて……もらえない?」
『会えたら伝えます。お兄さんとあなたの名前は?』
少女は言いにくそうに俯き、そっと髪を持ち上げて右耳にぶら下がった小さなプレートを見せた。
「…………0083-11896」
『え……?』
「私の、名前。0083は種族番号……11896が個体番号。兄さんは0083-11895……その、これ……」
首にかけていたロケットペンダントの写真を僕に見せる。写真には三歳程度の灰色の髪の女の子と、その子とほとんど同じ大きさの狼が映っていた。
「兄さんは獣寄りで、毛色は私と同じ。えっと、狼で、えっと、右耳が折れてるの……あとは、えっと……」
『わ、分かりました。灰色の……獣寄りの狼の獣人ですね。0083-11895……覚えました。あなたは896で……はい、伝えます。元気……だけでいいですか?』
「……魔王の国で、また一緒に暮らそうって」
『……分かりました、ありがとうございます。それじゃ、また今度』
少女は僕に下ることを決意したようだ。この店の従業員達も同調してくれるといいが……一番怖いのは僕のことを報告する者が出ることだ。そうなったら僕の元に来ると決めた者達に危害が及ぶ。四日なら密告もその対応も間に合わないと思いたい。
「この間良かったって言ってた娘、どの娘?」
「教えねぇよお前と穴兄弟とか最悪だろ」
開業の届け出だとか住所の変更だとか、そんな話ばかりの役所の中で彼らの会話は声は小さくとも際立っていた。
「いいじゃんどうせ兄弟大量に居るだろ」
「知ってるのと知ってないのじゃ大違いなんだよ」
関係者以外立ち入り禁止と書かれた用具室に向かう二人組の後を追う。
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「えっと、ここのは五番だっけ」
「四番だろ? 五番は隣町」
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「つーかさ、知ってる? 俺らの先輩……ほら、あの低能の首席」
「あぁ……あの気持ち悪い奴。指名手配だっけ? 本当意味分かんねぇよな……」
小さな電球が吊り下がった薄暗い階段の先から二人組の話し声が聞こえる。降りる足を少し早めて彼らに追いつき、盗み聞き再開。
「そうそう、その弟子の修道女がまた可愛くてさ、しかもな、これ誰にも言うなよ?」
「え、なになに…………うっそマジで処女!? 両方!? ありえねぇ……!」
彼らには僕は認識できないのだから二人きりだと思っているだろう、耳打ちなんてする必要はないと思うのだが。
「弟子に手ぇ出してないとか珍しいな」
「やっぱちょっと遅れてんだよな……で? その初物誰が食うの?」
階段の終わりが見えてきた、地下街はかなり明るいようだ。
「さぁー……まぁ、どうせ俺らには関係ねぇって」
「あー、公開趣味の奴にならねぇかな。破瓜の反応ってたまんねぇんだよなー……」
地下街の受け付けの前で二人組は噂話をやめ、カタログのようなものを見て何かを決めた。それぞれ個別に部屋に案内されたようだ……この先は着いて行ってもいいものは見れないだろう。
『……どうしよ』
受け付けの青年は獣人には見えないが、獣人にも人間と見た目が変わらない者が四分の一程度居ると聞いているから、判断はできない。国から派遣されている職員なら勧誘なんてしたら天使を呼ばれてしまう、安全策を取って従業員の方へ行っておくか。
『こっち……かな』
二人組が進んだ廊下の先には扉がいくつも並んでおり、耳をそばだてれば甘い声が聞こえてきた。昔、こんな声を聞いた時に誰かが虐げられていると思い、そう発言した記憶がある──忘れたいな。
『…………あ、この部屋静か』
扉をすり抜けて部屋に入ればシャワールームとベッドだけの想像以上に狭い部屋だと分かる。ベッドにもシャワールームにも誰も居ない、静かだと入ったのだから当然だ。再び扉をすり抜けて廊下に出て、更に奥へ進む。すると立ち入り禁止の札がかけられた扉を見つけた。すり抜けて中に入れば灰色の髪の少女と幼い女の子が居た。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん、どこぉ……」
女の子は小さなクッションに頭を乗せて少女に背を撫でられながら、半ば眠りながら泣いている。
「…………ちゃんとお仕事出来たらまた会えるから、泣かないで」
優しく背を撫でている少女は女の子が寝付いたのを確認すると首にかけていたロケットペンダントを開き、中の写真を眺めて一筋の涙を零した。
「………………兄さん」
『あの、ちょっといいですか?』
姿を現し、少女の前に屈んで微笑んでみる。
「……っ!? 誰……ぁ、お、お客様……? こ、ここは立ち入り禁止ですよ」
『あ、いや、客じゃなくて……えっと』
どう説明すればいいのか分からない。またザフィエルのフリを──いや、勧誘なら天使ではダメだ。
「………………つ、の?」
赤く真っ直ぐな鬼の角を額に生やし、再び笑顔を作る。
『……僕は魔王。正義の国を、創造神の天下を終わらせる魔性の王です。少し、お話を』
「は……? ま、魔王って……何、言ってんの……」
『正義の国がまた戦争をすると、話くらいは聞いてませんか? その相手が僕です。で、戦争の前にこうして潜入して、戦力と言いますか……正義の国に敵対心や恨みを抱いていたり、戦争が始まるとただ巻き込まれて死ぬだけの人を、引き抜きに来てます』
少女はポカンと口を開けているが、カヤを不可視の状態で傍に座らせて寒気を起こし僕の雰囲気を演出したことにより、僕がただの異常者ではないとは悟っているはずだ。
「引き抜きにって……私、別に戦えないし」
『戦争が始まったらここが崩れて潰されるだけでしょう? そんな人生あんまりじゃないですか、だから……まぁ、助けに来ました』
少女はバッと顔を上げ、その真っ黒の瞳に僕を映した。ようやくまともに顔を見てくれた。
「……う、嘘、そんなの……そんな都合のいい話、ある、わけ……」
『…………信じないなら瓦礫に潰されるだけです。実際にあなた達を連れ出すのはまた別の日ですから……その時までに他の人にも教えて、考えておいてください』
「え……? 別の日?」
『一人一人連れて行くのじゃ手間がかかり過ぎますから、一気に転移させたいんです』
僕は予め兄に頼んでいた紙を取り出す。メモ帳を乱雑にちぎったその紙には魔法陣が描かれている。
『……ここから逃げたい人にこの紙を触れさせてください。この魔法陣を肌の平らなところ……二の腕とか、太腿とか、そういうところに押し当てると同じ模様が出ます。焼印とかじゃないので痛みはありません、転移したら消えますし、安心してください』
「ちょ……ちょっと、ちょっと待ってよ、何がなんだか……」
『魔王が築く国の国民になりたければ、この紙を肌に押し当てて印を付けろ。そう皆に話してください。死ぬか、魔王の傘下か、その二つです。他の獣人達のところへも行かないといけないので、あまり長く説明は出来ないんですよ……すいません』
空間転移の簡略魔法陣が描かれた紙を少女に渡す。
「……………………本当に、助けてくれるの?」
『戦時中は多少暮らしが悪いでしょうし、その後はちょっと忙しくなるかもしれませんけど……でも、最低限の衣食住と安全は保証します』
「…………わ、分かった。こんな暮らし続けていたくないし……あなたに騙されてたとしても、どっちでも……変わらない。ぁ、待って……転移の日っていつなの? こんな模様肌にあったら何言われるか……」
『だいたい四日後ですね』
少女は小さく頷くと眠っている女の子の服をめくり、背中に紙を押し当てた。肌に浮かび上がった魔法陣と紙を交互に見ている……驚いているのか? 表情が分かりにくい子だな。
『質問ありませんか? それじゃ、これで』
「…………待って! あの、他の獣人のところへも行くって……そ、それなら、兄さん……中央庁で働いてるの。兄さんに、その……私は元気だって、伝えて……もらえない?」
『会えたら伝えます。お兄さんとあなたの名前は?』
少女は言いにくそうに俯き、そっと髪を持ち上げて右耳にぶら下がった小さなプレートを見せた。
「…………0083-11896」
『え……?』
「私の、名前。0083は種族番号……11896が個体番号。兄さんは0083-11895……その、これ……」
首にかけていたロケットペンダントの写真を僕に見せる。写真には三歳程度の灰色の髪の女の子と、その子とほとんど同じ大きさの狼が映っていた。
「兄さんは獣寄りで、毛色は私と同じ。えっと、狼で、えっと、右耳が折れてるの……あとは、えっと……」
『わ、分かりました。灰色の……獣寄りの狼の獣人ですね。0083-11895……覚えました。あなたは896で……はい、伝えます。元気……だけでいいですか?』
「……魔王の国で、また一緒に暮らそうって」
『……分かりました、ありがとうございます。それじゃ、また今度』
少女は僕に下ることを決意したようだ。この店の従業員達も同調してくれるといいが……一番怖いのは僕のことを報告する者が出ることだ。そうなったら僕の元に来ると決めた者達に危害が及ぶ。四日なら密告もその対応も間に合わないと思いたい。
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