ストーカー気質な青年の恋は実るのか

ムーン

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達成

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ベッドに固定された手足、縛り付けられた腹部、そしてローターで攻められる陰茎。

「やめっ……ゃ、ぁああっ!  ふっ…………ぅんんんーっ!」

拘束によってほとんど動かないながらも揺れる細く白い腰、制止を懇願しながらも快楽を滲ませた声。
彼は自分が感じてしまっていることを隠そうと唇を噛む。僕は慌ててローターを止め、彼の顎に手を添えた。
この美しい薄桃色の唇に傷なんて許されない。
亀頭への強い刺激が消えると彼は口を開け、胸の上下を深いものにした。
腕を頭上で拘束され、黒い革製のベルトデザインの目隠しを巻かれ、顔を赤く染めて呼吸を荒らげ、快楽の空白時間に必死に酸素を求めている。
そんな彼が愛おしくて、可愛らしくて、そして何よりも美しく思えて、酸素を求める口に舌をねじ込んだ。

「んっ……ぅ、むぅっ……」

呼吸が整わないうちから執拗なキスをされて、彼は手足の拘束具をガチャガチャと鳴らす。僕はそっと彼の頭を撫で、もう片方の手で優しく陰茎を扱いた。出したばかりとはいえローターで刺激された彼の性器はしっかりと勃起している。
手と口を止め、携帯を持ってベッドを降りる。切れ目のない激しい音楽を大音量でループ再生し、彼の頭の上に置いた。

「な、なに……?」

困惑する彼に触れずに眺めていると次第に態度を変え始めた。

「…………そこに居ますよね」

足音や扉の開閉音が鳴ったとしても今の彼には聞こえないだろう。

「これ、うるさいんですけど……」

両手首を揺らし、携帯を取ろうと試みるも爪の先すら触れることは叶わない。

「………………無視、しないでください……返事してくださいよっ、居るんですよね!」

せっかく呼吸が整いかけていたのに、彼は声を荒らげて呼吸を乱した。

「はっ、外せ! 外してください!」

無駄な抵抗を再開し、激しい音楽が響いていた部屋に鎖と柵の擦れる音が増える。
叫んで、暴れて、疲れた彼はすすり泣きを始めた。

「居るんですよね……?」

手足はぐったりと抵抗をやめているが、彼の性器は未だに次の刺激を待って上を向いている。

「お願いだから返事してっ、外して……」

その弱々しい様子には頼みを聞きたくなったが、僕はぐっと堪えて返事も身動きもしなかった。
そのまま数分が過ぎ、彼は深呼吸して覚悟を決めた。

「…………もう外さなくていいですから、お願いだから……居るって、教えて。どこでもいいから触ってください……」

思わず頬に手を伸ばし、寸前で止める。生唾を飲み込み、次の言葉を待った。

「……………………出させて」

触られないまま十分以上放置されているにも関わらず、彼の陰茎は萎えるどころか反りを増している。その上鈴口からは僕の欲望を煽る蜜を垂らしている。

「……日記、読んだなら知ってますよね。襲われたいって思ってました、こんなの想像してたわけじゃないですけど…………正直、興奮してるんです」

彼に触れないように彼の口元に耳を近付け、騒がしい音楽を遮断して彼の声だけを拾う。

「だからっ……放っとかれると、辛くて…………お願い、もう焦らさないで……お願いだからっ、出させてください……あなたにされたいんです……お願い」

彼は僕にされた行為に興奮して、僕に続きを懇願している。彼が僕を求めている。彼は本当に僕を愛するようになってくれた。
そう確信した僕は彼の頬にそっと唇を触れさせた。

「……ぁ、居た……よかった…………聞いてましたよね、もう外せなんて言いませんから、もうやめろなんて言いませんからっ……もう一回、さっきの…………その、口で……して欲しいんです。あれ、すっごく気持ちよくて……」

今度は唇に短くキスをした。すると彼はそれを了解だと受け取ったらしく、微かに口角を上げた。
僕はその純粋でいて淫らな笑みに興奮しながら、ジーンズと下着を脱いで彼の上に跨った。足の間に手を入れ、彼の陰茎を握り、自分の中に導く。

「…………? な、何してるんですか?」

激しい音楽を再生している真の理由はこっちだ。彼と繋がって声を漏らさない自信がないから、自分の声を消すために音楽を鳴らしているのだ。

「んっ……!? ぁっ、あっ…………んんっ!」

太さも、長さも、熱さも、硬さも、何もかもが玩具の比にならない。半分ほど挿入出来たところで僕の陰茎からは精液が垂れていた。

「ちょっと……まさか」

「ふっ……ぐ、ぅうっ…………ん……」

なかなか全部入ってくれないことに苛立って、無理に入れようと腰を揺らすと、少しずつ入ってくる彼のものが前立腺を擦った。背骨を貫く雷に打たれたような快感があって、力が抜ける。

「入れてる……?」

ようやく全て咥え込むことが出来て、その幸福感と圧迫感に思考がふわふわと浮き始める。

「すっごい、なか熱い…………気持ちいい」

「……っ! ふっ……んんっ! ぁ、あっ……んっ、んぅうっ……」

彼が僕で感じてくれている。口内で射精してくれた時よりも嬉しくて、もっと言って欲しくて、腰を揺らす。
腰を持ち上げると彼の陰茎は僕の内臓を全て持って行ってしまうんじゃないかと思うほどに腸壁を強く擦って出ていく。また腰を下げると僕は何度でも新鮮な心地で貫かれる。

「んっ、んぅっ、ふっ……ぁあっ! ぁ…………んんーっ!」

口を抑える手の力も緩んで、声が漏れる。上体を起こしたまま保てずに彼に覆い被さる。咄嗟に口を抑えていない方の手を彼の顔の横についたが、その腕もすぐに震え始める。

「はぁっ……やばい…………ねぇ、もっと激しく出来ませんか? 俺くらいの大きさは慣れてないみたいですけど、お願いしますよ、俺もっと激しいのが好きなんです。ね? お願いしますよ、俺が好きなんですよね? だったら頑張ってくれますよね?」

彼にねだられ、僕は両手をベッドに付き、更に激しく腰を振る。叩き付けるようにして肉がぶつかる音を鳴らし、腰をくねらせて中に入ったまま刺激を与える。

「すっごい……めちゃくちゃ気持ちいい」

もっと褒めて欲しくて、僕は彼の唇の端を舐めて感想をねだった。

「締め付けも、吸い付きも……強めで、俺の好みで……本当いい感じ…………もう……出る、かも」

舌を唇の隙間に挿し込んで、腹の奥に精液をねだった。
腰を持ち上げずに左右に揺らすと熱い液体が中に放たれる。とうとう彼に抱かれることが出来たのだと達成感と多幸感に満たされる。キスをしたまま中に出されるなんて、本当に恋人同士のようだ。けれど彼は僕が誰なのか分かっていない。

「んっ……?」

口を離して上体を起こす。彼と繋がったまま、彼の腹に零した僕の精液に視線を移す。白い肌を白濁液が汚して、凹みに溜まっている。恐る恐る手を這わせるとぴちゃと水音が鳴った。
慎重に彼の陰茎を抜き、携帯を取って音楽を止める。

「……ねぇ、目隠し外して顔見せてくださいよ」

返事のための文章を打ち込もうとするも、指先に力が入らない。

「…………声、聞かせて」

自分で返事をしようかと思い、自分で自分の口を塞ぐ。

「……ダメ?」

震える手足を鈍重に動かし下着とジーンズを履き、ベッドに転がっていたローターをダンボールに投げ入れる。

「…………また今度、君としたいな」

甘く優しい声を聞いて身体が硬直する。
彼は今の行為で誰かも分からないまま僕を好きになってくれた。拘束して無理矢理されていたのに気に入ってくれた。

「……俺達、身体の相性かなり良いと思うんですよ。今までで一番良かった。実行力あるし、頭のネジ飛んでるし…………顔が見たいです」

僕は先程までとは違った意味で震える指先で文章を打ち込む。

『顔を見せたらどうなりますか』

「身体が好みで、性格が好みで…………顔も好みなら口説きたいな。声も良かったら毎日抱きたい」

顔が好みなら……声も良かったら……か。

『嫌だ』

彼と違って平凡な顔立ちを彼が気に入るはずがない。他人の様子を伺うばかりの気持ちの悪い瞳を気に入るはずがない。声変わりは終わったはずなのに微妙に高いままの声を気に入るはずがない。
僕が彼に全てを知られて好かれることなんて、絶対にありえない。

「……どうしてですか?」

返事もしたくなくなって、苛立ち紛れに携帯を投げる。彼に当たらなくて良かったと投げた一瞬後に思った、彼に怪我をさせるかもしれなかった行動に更に苛立ちが募る。僕を愛してくれなくても彼は尊い存在なのに、その彼に向かって物を投げるなんて何事だ。

「…………怒らせました? すいません……」

手錠さえ外せば目隠しは手探りで外せるし、それさえ出来れば腹のベルトや足の拘束も自分で解けるだろう。
僕は手錠の鍵を開け、ダンボールを抱えて彼の部屋を後にした。すぐに自室に帰っては僕が僕だとバレるかもしれない、アパートの廊下をわざと大きな足音を立てて去り、裏に回って自室のベランダにダンボールを投げ入れ、そのまま薄暗い街をより暗い方へと走った。
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