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第三章 羊を愛し蜂蜜を飲み文明を忌避すること
番外編 五月初日の通り魔事件
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2015年 5月1日 金曜日 1時3分
夜道を歩く三つの影があった。先頭を塩飽、斜め右後ろが毒島、斜め左後ろが歌祖谷だ。一般的な中学生なら眠っている時間に三人組は家をこっそりと抜け出して隣町で遊び回っていた。
遊ぶ……と言っても大したことではない。ただ歩き回るだけだ、彼らはそれだけで万能感を覚え、満足する。
「宿泊ん時ゾンビ五千円持ってくるかな。金入ったらどこ行く?」
「つーか今日お前クソビビってやがったよな、ダッセェの」
三人組のリーダー的役割である塩飽が独り言のように呟く。しかし毒島にあっさりと話題を変えられた。
「式見蛇の何がそんなに怖いわけ?」
やや肥満気味の歌祖谷は無口で、話しているのは塩飽と毒島ばかりだ。
「……式見蛇はマジでやべぇんだよ、怖いんだよ、だからできれば関わりたくなくて」
「はぁ? そりゃ顔怖いしガタイいいから一瞬ビビるけどすぐデカいだけのクソダサビビり野郎って分かってるじゃん、ちょっと前にゴミ箱頭から被せてやった時もやり返してこなかったしさ、いい加減に気付けよ塩飽」
「そりゃアイツはビビりだけど……体育の時とか、あの運動神経見てりゃ分かるだろ。キレさせねぇようにしてぇんだ。それよりさ、五千円だけど──」
塩飽は話題を五千円の使い道へと移した。
「──マジで持ってくると思うか?」
「そん時はそん時。ぶん殴るでも晒すでもすりゃいいじゃん」
「つーかさ、お前あの写真どうしてんの?」
「どうもしてねぇけど。何、お前はオカズにしてたり?」
「しねぇよこんなキモいの」
塩飽はポケットに入れていた携帯端末を取り出し、男子トイレで撮った勇二の写真を毒島に見せた。
「うわー……って焼けるとこうなるんだな、つーかなんでコイツ半分だか焼けてんの? キモい……ぁ、でもほら、脱がしたからしっかり胸撮れてんじゃん」
「ほとんどねぇし手で隠しやがってるから見えねぇよ、見えても嬉しくねぇし」
「色気のない下着だなぁ……俺の姉ちゃんでももっとマシなの持ってるぞ」
「そりゃハゲゾンビだし」
三人の笑い声が夜の闇に吸い込まれていく。人気のない道を歩き、高架下に差し掛かる。時折にトラックが走る音が聞こえる。
深夜の独特の空気感に満ちたその場に打撃音が響いた。
「へ……? お、おいっ、歌祖谷……?」
三人組の背後から忍び寄った背の高い男に歌祖谷が後頭部を殴打され、倒れる。男は黒いジャージに身を包み、軍手をつけている。フルフェイスのヘルメットのせいで顔は見えない。
「だ、誰だお前、急に何──!」
振り返って男に怒鳴ろうとした毒島は顔面を殴打され、歌祖谷と同じように倒れた。
「ひっ……ご、ごめんなさいっ、ごめんなさい……」
塩飽は腰を抜かしながらもポケットから財布を取り出し、男に差し出した。しかし男は財布に興味を示さず、塩飽の頭にサッカーボールキックを決め、気絶させた。
「…………」
男は三人の顔をそれぞれ軽く蹴り、気絶していることを確かめた。それから各々のポケットからスマホを抜き取り、各々の親指や人差し指をホームボタンに押し当てて指紋認証を突破し、そのまま本人の指を使ってスマホを操作した。
「………………ぁ」
男子トイレで下着姿にされ、ウィッグも包帯も外され、うずくまる化野の写真。それをカメラロールから見つけた男は写真を削除した。復帰可能の削除項目からも削除、クラウドサービスまで確認したが、三人は誰もクラウド上に画像を保存していなかった。
「これで大丈夫かな……?」
三人の怠惰をラッキーと捉えた男は不安そうな独り言を漏らす。
監視カメラの位置を事前に確認していた男はそのカメラの範囲外である塀の上や屋根の上を人間離れした動きで素早く移動し、自宅に戻った。
「明日から、宿泊かぁ……」
フルフェイスのヘルメットは現在家に泊まっている彼の母の彼氏の物だ。無断で借りていた男は持っていった時と同様にこっそりと元の場所へ戻し、自室に入った。
「…………手とか、繋げないかな」
軍手を外し、自身の浅黒い手に想い人の白く小さな手が重なるのを妄想し、男は静かに高揚した。
夜道を歩く三つの影があった。先頭を塩飽、斜め右後ろが毒島、斜め左後ろが歌祖谷だ。一般的な中学生なら眠っている時間に三人組は家をこっそりと抜け出して隣町で遊び回っていた。
遊ぶ……と言っても大したことではない。ただ歩き回るだけだ、彼らはそれだけで万能感を覚え、満足する。
「宿泊ん時ゾンビ五千円持ってくるかな。金入ったらどこ行く?」
「つーか今日お前クソビビってやがったよな、ダッセェの」
三人組のリーダー的役割である塩飽が独り言のように呟く。しかし毒島にあっさりと話題を変えられた。
「式見蛇の何がそんなに怖いわけ?」
やや肥満気味の歌祖谷は無口で、話しているのは塩飽と毒島ばかりだ。
「……式見蛇はマジでやべぇんだよ、怖いんだよ、だからできれば関わりたくなくて」
「はぁ? そりゃ顔怖いしガタイいいから一瞬ビビるけどすぐデカいだけのクソダサビビり野郎って分かってるじゃん、ちょっと前にゴミ箱頭から被せてやった時もやり返してこなかったしさ、いい加減に気付けよ塩飽」
「そりゃアイツはビビりだけど……体育の時とか、あの運動神経見てりゃ分かるだろ。キレさせねぇようにしてぇんだ。それよりさ、五千円だけど──」
塩飽は話題を五千円の使い道へと移した。
「──マジで持ってくると思うか?」
「そん時はそん時。ぶん殴るでも晒すでもすりゃいいじゃん」
「つーかさ、お前あの写真どうしてんの?」
「どうもしてねぇけど。何、お前はオカズにしてたり?」
「しねぇよこんなキモいの」
塩飽はポケットに入れていた携帯端末を取り出し、男子トイレで撮った勇二の写真を毒島に見せた。
「うわー……って焼けるとこうなるんだな、つーかなんでコイツ半分だか焼けてんの? キモい……ぁ、でもほら、脱がしたからしっかり胸撮れてんじゃん」
「ほとんどねぇし手で隠しやがってるから見えねぇよ、見えても嬉しくねぇし」
「色気のない下着だなぁ……俺の姉ちゃんでももっとマシなの持ってるぞ」
「そりゃハゲゾンビだし」
三人の笑い声が夜の闇に吸い込まれていく。人気のない道を歩き、高架下に差し掛かる。時折にトラックが走る音が聞こえる。
深夜の独特の空気感に満ちたその場に打撃音が響いた。
「へ……? お、おいっ、歌祖谷……?」
三人組の背後から忍び寄った背の高い男に歌祖谷が後頭部を殴打され、倒れる。男は黒いジャージに身を包み、軍手をつけている。フルフェイスのヘルメットのせいで顔は見えない。
「だ、誰だお前、急に何──!」
振り返って男に怒鳴ろうとした毒島は顔面を殴打され、歌祖谷と同じように倒れた。
「ひっ……ご、ごめんなさいっ、ごめんなさい……」
塩飽は腰を抜かしながらもポケットから財布を取り出し、男に差し出した。しかし男は財布に興味を示さず、塩飽の頭にサッカーボールキックを決め、気絶させた。
「…………」
男は三人の顔をそれぞれ軽く蹴り、気絶していることを確かめた。それから各々のポケットからスマホを抜き取り、各々の親指や人差し指をホームボタンに押し当てて指紋認証を突破し、そのまま本人の指を使ってスマホを操作した。
「………………ぁ」
男子トイレで下着姿にされ、ウィッグも包帯も外され、うずくまる化野の写真。それをカメラロールから見つけた男は写真を削除した。復帰可能の削除項目からも削除、クラウドサービスまで確認したが、三人は誰もクラウド上に画像を保存していなかった。
「これで大丈夫かな……?」
三人の怠惰をラッキーと捉えた男は不安そうな独り言を漏らす。
監視カメラの位置を事前に確認していた男はそのカメラの範囲外である塀の上や屋根の上を人間離れした動きで素早く移動し、自宅に戻った。
「明日から、宿泊かぁ……」
フルフェイスのヘルメットは現在家に泊まっている彼の母の彼氏の物だ。無断で借りていた男は持っていった時と同様にこっそりと元の場所へ戻し、自室に入った。
「…………手とか、繋げないかな」
軍手を外し、自身の浅黒い手に想い人の白く小さな手が重なるのを妄想し、男は静かに高揚した。
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