俺の名前は今日からポチです

ムーン

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れんせんれんぱい

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適量のオイルを雪兎の頭に乗せ、適量に入り切らなかった俺の無知という名のあぶれオイルを雪兎の手の甲に乗せる。
茶色っぽい瓶の蓋をしっかりと閉め、ベッド横の棚にしまう。瓶には赤い花の絵が描かれていたが、度忘れしたのか花の名前は分からなかった。

「これ花のやつなんですか?」

こういったオイルというのは大抵植物性のものだ。

「……椿知らないの?」

髪を撫でられながら、軽く振り向いた雪兎はにぃと笑う。
俺は先程の「世間知らず」の仕返しをしたいのだろうと思い、椿について色々と思い出してはいたが、名前を聞いたことがある程度だと嘘をついた。

「そっかそっかー、ポチは学が無いなぁー。仕方ない、教えてあげるよ」

狙い通り雪兎の機嫌は良くなった。ふんぞり返って教鞭を執る。

「椿っていうのはね、草じゃなくて木の花で、赤とか白とか結構綺麗な花が咲くんだよ。で、その幹からその油取ってるの。でも椿はなんか縁起悪い?  とかで、あんまり好かれないねー」

「椿油って種からじゃありませんでした?  あと、縁起悪いっていうのは花弁が散らずに花の根元から落ちて、首が落ちるみたいーってやつですね。でももっと昔は魔除け的なアレで色んな物の模様に……あっ」

「…………風邪引いちゃうから長話してないで早くして」

失敗だ。黙って聞いておけばよかったのに、何故口を挟んでしまったのだろう。

「…………ねぇ、ポチって本当にあの高校なんだよね?  県内最下位の……」

「ラ、ランク付けは良くないですよ。確かに偏差値はギリ二桁って感じでしたけど」

「……受験の日に熱出したとか?  それで滑り止めに?」

「いえ、体調は万全でしたしあの高校しか受けてません」

髪に椿油を塗り終わった。その過程で髪はほとんど乾いていたが、風邪予防の為にも一応ドライヤーをかけておく事にした。

「ならなんでそんな無駄知識あるの!」

「俺勉強は出来ないけどクイズ好きなんですよ!」

ドライヤーの音に負けないように、大声を出す。

「ぅ……カバの汗の色は!?」

「赤!  でも正確にはあれは汗じゃなくて分泌……」

「殺し屋クジラといえば!?」

「シャチ!  殺し屋の他に背びれを剣に見立てた名前も多……」

「でーすーがー!」

突然始まったクイズ大会。きっと雪兎は俺が答えられなくなるまで続けるつもりだろう、変なところで負けず嫌いが発動する面倒臭いお坊ちゃまだ。

「サメが一番初めに戦うのは!?」

「兄弟!  なんでシャチからサメに飛ぶんです?  あれイルカとクジラみたいな関係性じゃな……」

「でぇーすぅーがぁー!」

「まだあるんですか」

「えっと……イルカは……えっと、芸達者」

どうやらそろそろネタ切れのようだ。髪もすっかり乾いたことだし、あとは弱冷風で整えていこう。

「……じゃあ、僕が好きな動物は?」

「方向性変えすぎじゃないですか」

「いいから答えなよ」

ドライヤーを止め、先程渡された櫛でさらに髪を整える。少しも引っかかることなく櫛が通るのは気持ちがいい。

「……猫、とか?」

「アレルギーあるし、主人に忠実じゃないのはやだ」

「…………犬?」

「吠えるから嫌い。それに毛多いし咳出ちゃう」

毛がなくて静かで忠実な生き物、となると──

「ヤモリ?  家を守ってくれるそうですよアレ」

「見たことないなぁ」

「マジですか?  俺学校でも家でも修学旅行先でも見ましたよ」

「え……こわ……」

爬虫類や両生類でも無さそうだ。虫、という選択肢はあるだろうか。

「分かんない?  ギブアップ?」

「…………俺、とか」

自分で言っておいてなんだが恥ずかしい。顔が熱くなる。だが、毛がなくて吠えない生き物なんて他に思いつかない。基本的には主人に忠実だし、条件に当てはまってはいる。

「…………正解」

「えっ……ありがとうございます」

櫛を棚に置き、雪兎をベッドに押し倒す。

「忠実じゃないね!  嫌い!  やっぱり不正解!」

「あぁすいませんクセで、ごめんなさい、下心はないんです」

「下心以外ないの間違いだろ!  もうポチ嫌い!」

雪兎は俺の言い訳を信じず、毛布を蹴り飛ばしてベッドの隅で蹲る。
確かに下心はあったが、それは九割くらいで残りは純粋な感謝と好意だ。そう伝えると今度は枕が飛んできた。
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