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きゃんぷ、じゅうきゅう
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楽しく遊んでいる最中に雨に降られ、車椅子を押そうとして祖父を投げ出すという失態にくすんくすんと鼻を鳴らしている雪兎を抱き締める。
「泣かないでくださいユキ様、ユキ様はおじい様を雨に濡れないようにと頑張ったんでしょう? 良いことをしようとしたんです」
「でもっ……おじいちゃん、落としちゃった」
泥だらけの祖父は使用人に車椅子を押されて風呂に向かった。雪兎も早く風呂に入れなければ風邪を引いてしまう。
「今回は失敗だったかもしれませんけど、その思いが大切なんだと俺は思います。俺は優しいユキ様が大好きですよ」
「でも、おじいちゃん……顔から落ちて、死んじゃうかもって……もし、おじいちゃん……どうにかなってたら、僕っ……」
泥に顔を埋めてしまうのは確かに危ない。半身不随の祖父は素早く起き上がれないだろうし、泥に手を着いて顔を上げるのも難しいだろう。
「すぐに移動させようとした優しさも、失敗を悔やむ素直さも、最悪の未来を想定する賢さも……俺は愛しています」
「もし……僕がおじいちゃん殺しちゃってても、ポチは僕を嫌いにならない?」
「愚問ですね」
雪兎の腕の力が強まったが、俺は少しも息苦しさを感じない。雪風に抱き締められると少し息苦しい時もあるのだが、雪兎の力では俺はどうにもならない。このか弱さが愛おしく、怖い。
「ユキ様が優しさを振るえるよう、ユキ様が素直さを保てるよう、ユキ様に最悪の未来が訪れないよう、俺がずっと傍で守ります。今回は離れていてごめんなさい」
せめて雪風くらいに成長するまでは傍に居なければならない。このか弱い主人をそのままにしておくのはあまりにも恐ろしい。
「うん……ありがとう、ポチ。じゃあ早速……お風呂一緒に入ろ」
「え……でも俺さっき入った」
「ずっと傍で守るんでしょ? ポチが断ったから僕がお風呂場で滑って転んで誰にも受け止められずに頭打って死んでもいいの?」
さっきまで泣いていた子供とは思えない脅し方だ。
「もちろん俺も入りますよ。ユキ様をぎゅーってしたら俺にも泥ついちゃいましたしね」
雪風とはあまりイチャつけなかったが、今度こそ風呂場でイチャイチャしなければ。せっかくの別荘が台無しだ。
「あ、そうだ雪風、部屋行って鍵かけとけよ。クソ野郎が来るかもしんねぇ」
「……本気で来ると思ってんのか?」
子供の頃あれだけ犯されておいてどうして油断できるんだと怒ろうとしたが、突然鳴った物音の方を向くと叔父とその恋人の姿があり、雪風のは油断ではなく判断だと悟った。
「わ、わ……叔父さん、今からなんだ……なんでだろ、ドキドキするね」
雪兎にはただ二人が激しいキスを交わしながら壁にぶつかり、手探りで扉を探して寝室に向かっただけのように見えたらしい。俺には涼斗が叔父の背に回した手に握られていた裁ち鋏ばかり見えた、もちろん刃を突きつけていた訳ではないのだが、何かあれば簡単に刺せるようにしている涼斗もそうされても平気でキスを楽しむ叔父も怖い。
「……僕、ポチとはあんな二人になりたいな。えへへ……ね、いいと思わない?」
あんなバイオレンスな関係は嫌だ。俺達はもっとパステルカラーの関係が似合う。
「愛情の深さなら俺達の方が上じゃないですか?」
「深さって言うなら底かもよ」
「揚げ足取りはよくないですね」
言い合いながら浴場へ向かう。叔父達の寝室から嬌声と激しい物音が聞こえてきたが、構わずに脱衣所に入る。
「どろどろだぁ……」
「まさかこんな短時間で脱ぐことになろうとは」
「それは知らないよ。二人で勝手に盛り上がっちゃってさ? 僕なんて放って二人でイチャイチャイチャイチャ……」
「ユキ様はおじい様と遊んでたじゃないですか」
服を脱いだ雪兎にキッと睨まれてもいつも以上に怖くない。
「それがやなの!」
拙い言葉も相まって胸がきゅんきゅんする。
「僕だけ蚊帳の外って言うか……僕だけ子供だから入れてもらえないんだって感じの、疎外感あるんだもん」
「俺も子供ですよ」
「そういうのじゃなくてぇ!」
「分かってますよ。ごめんなさい。お詫びとして……今からたぁっぷり大人のお風呂遊びをしましょうね」
「…………セリフがダサいよ」
お姫様抱っこをされた雪兎はダサいだなんて言いつつも頬を赤らめ、俺に身を預けていた。
「泣かないでくださいユキ様、ユキ様はおじい様を雨に濡れないようにと頑張ったんでしょう? 良いことをしようとしたんです」
「でもっ……おじいちゃん、落としちゃった」
泥だらけの祖父は使用人に車椅子を押されて風呂に向かった。雪兎も早く風呂に入れなければ風邪を引いてしまう。
「今回は失敗だったかもしれませんけど、その思いが大切なんだと俺は思います。俺は優しいユキ様が大好きですよ」
「でも、おじいちゃん……顔から落ちて、死んじゃうかもって……もし、おじいちゃん……どうにかなってたら、僕っ……」
泥に顔を埋めてしまうのは確かに危ない。半身不随の祖父は素早く起き上がれないだろうし、泥に手を着いて顔を上げるのも難しいだろう。
「すぐに移動させようとした優しさも、失敗を悔やむ素直さも、最悪の未来を想定する賢さも……俺は愛しています」
「もし……僕がおじいちゃん殺しちゃってても、ポチは僕を嫌いにならない?」
「愚問ですね」
雪兎の腕の力が強まったが、俺は少しも息苦しさを感じない。雪風に抱き締められると少し息苦しい時もあるのだが、雪兎の力では俺はどうにもならない。このか弱さが愛おしく、怖い。
「ユキ様が優しさを振るえるよう、ユキ様が素直さを保てるよう、ユキ様に最悪の未来が訪れないよう、俺がずっと傍で守ります。今回は離れていてごめんなさい」
せめて雪風くらいに成長するまでは傍に居なければならない。このか弱い主人をそのままにしておくのはあまりにも恐ろしい。
「うん……ありがとう、ポチ。じゃあ早速……お風呂一緒に入ろ」
「え……でも俺さっき入った」
「ずっと傍で守るんでしょ? ポチが断ったから僕がお風呂場で滑って転んで誰にも受け止められずに頭打って死んでもいいの?」
さっきまで泣いていた子供とは思えない脅し方だ。
「もちろん俺も入りますよ。ユキ様をぎゅーってしたら俺にも泥ついちゃいましたしね」
雪風とはあまりイチャつけなかったが、今度こそ風呂場でイチャイチャしなければ。せっかくの別荘が台無しだ。
「あ、そうだ雪風、部屋行って鍵かけとけよ。クソ野郎が来るかもしんねぇ」
「……本気で来ると思ってんのか?」
子供の頃あれだけ犯されておいてどうして油断できるんだと怒ろうとしたが、突然鳴った物音の方を向くと叔父とその恋人の姿があり、雪風のは油断ではなく判断だと悟った。
「わ、わ……叔父さん、今からなんだ……なんでだろ、ドキドキするね」
雪兎にはただ二人が激しいキスを交わしながら壁にぶつかり、手探りで扉を探して寝室に向かっただけのように見えたらしい。俺には涼斗が叔父の背に回した手に握られていた裁ち鋏ばかり見えた、もちろん刃を突きつけていた訳ではないのだが、何かあれば簡単に刺せるようにしている涼斗もそうされても平気でキスを楽しむ叔父も怖い。
「……僕、ポチとはあんな二人になりたいな。えへへ……ね、いいと思わない?」
あんなバイオレンスな関係は嫌だ。俺達はもっとパステルカラーの関係が似合う。
「愛情の深さなら俺達の方が上じゃないですか?」
「深さって言うなら底かもよ」
「揚げ足取りはよくないですね」
言い合いながら浴場へ向かう。叔父達の寝室から嬌声と激しい物音が聞こえてきたが、構わずに脱衣所に入る。
「どろどろだぁ……」
「まさかこんな短時間で脱ぐことになろうとは」
「それは知らないよ。二人で勝手に盛り上がっちゃってさ? 僕なんて放って二人でイチャイチャイチャイチャ……」
「ユキ様はおじい様と遊んでたじゃないですか」
服を脱いだ雪兎にキッと睨まれてもいつも以上に怖くない。
「それがやなの!」
拙い言葉も相まって胸がきゅんきゅんする。
「僕だけ蚊帳の外って言うか……僕だけ子供だから入れてもらえないんだって感じの、疎外感あるんだもん」
「俺も子供ですよ」
「そういうのじゃなくてぇ!」
「分かってますよ。ごめんなさい。お詫びとして……今からたぁっぷり大人のお風呂遊びをしましょうね」
「…………セリフがダサいよ」
お姫様抱っこをされた雪兎はダサいだなんて言いつつも頬を赤らめ、俺に身を預けていた。
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