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入学早々目を付けられたオタクくん
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不安と期待を抱きながら校門を越えたのはつい一時間前のこと、入学式を終えて教室に着いた僕は絶望した。
僕の席の隣に見るからに不良の男子生徒が座っているのだ、高校生にもなって椅子を傾かせて暇を潰すような奴、絶対関わり合いたくないのによりによって隣の席だなんて運が悪すぎる。
「…………」
まぁ、向こうも俺みたいなメカクレメガネに用はないだろう。本でも読んでおけばいい、友達作りは絶望的だが不良に目を付けられるよりはマシだ、壁にならなければ。
「何読んでんの?」
早速目を付けられた、僕死んだ。
「えっ、ぁ、いやっ、なんでもないですっ!」
読んでいた小説を鞄に突っ込む。染めてからかなり経ったのだろう、地毛の黒が見えているプリン頭の金髪不良は訝しげな目を俺に向けている。
「なんで隠すんだよ、見せろよ」
「すいませんびっくりして……ど、どうぞ」
鞄の中で今読んでいたエロラノベと父に図書館への返却を頼まれている小説をすり替え、渡す。頼む父さん、なんか不良に絡まれなさそうなやつを借りていてくれ、息子の高校生活がかかってるんだ。
「……童話?」
父さん!? 童話って……まずい、バカにされる。イジメられる。
「あー、知ってるこれ。なんかで見たわ。これアレだよな、友達死んでるんだよな」
とりあえず頷いておこう。
「…………なぁ、気付いてるか? この表紙もそうだけど、この話は蒸気機関車ってイメージあるよな。でもほら、石炭じゃないって作中で言ってんだよ。蒸気機関の方が絵面いいけど、俺この話のはもうちょい新しめの電車なんじゃないかって思うんだよな。ほい、返す」
なんか難しい話をされて返された。見た目だけでバカっぽい不良だと思っていたが──案外、本は読むのかな。僕もこの本を読んでおこうかな、彼と何か話せるかも。いや、不良とは関わらないって決めたんだ。もうイジメなんてごめんだ。
担任教師の話を聞いたりして入学初日は終わり。一時はどうなるかと思ったが、あれ以降不良は話しかけてこなかったから平和な生活が送れ──
「オタクくーん♡ 一緒に帰ろ」
──なさそう。
「え……ぁ、な、なんで、オタクって」
中学の頃はアニメグッズを鞄にぶら下げるというミスを犯したが、今回はそんなヘマはしていない。オタクだとバレる要素はどこにもない……まさか見た目か!? このボサボサのメカクレヘアとメガネのせいなのか?
「ん? オタクくんじゃないの?」
不良は僕の鞄から勝手にノートを出し、俺の苗字を指す。小宅……オタクと読めなくもないか。
「こやけです……」
「え、マジ? あはっ、ごめんごめん。オタクっぽいしさぁ、名は体を表す的なのかと思った」
やっぱり僕の見た目はオタクっぽいのか。下手にオシャレしてもイジられそうだから中間を目指したのだが、失敗だったらしい。明日からの高校生活は暗いな。
「なぁ、この後なんか予定ある? カラオケでも行かない?」
初対面の不良と行けるわけがない、彼が知っているような歌を僕は知らない。
「すいません、今日はちょっと……」
「……あっそ」
目で見て分かるほど不機嫌になった。何故か学校を出ても着いてくるし……僕と居ても楽しくないんだからさっさと同類を見つけて固まればいいのに。
「コヤケくん電車乗る感じ? どこで降りんの?」
下手な嘘はつかない方がいいだろう、僕は正直に自宅最寄り駅を答えた。
「あ、マジ~? 俺もそこ~♡ 一緒に行こ♡」
「そ、そうなんですか……すごい偶然ですね」
「な♡ 朝も一緒になるかもなぁ」
そうなったら最悪だ。お気に入りのアニソンを聞いて気分を上げるのが日課なのに、彼に何を聞いているのかバレた日がイジメ開始の日になってしまう。イヤホン自体を持ってくるべきじゃないな。
「……つーかさ、なんで敬語なわけ? タメじゃん。なぁ、下の名前ヒロだよな? 俺のことも下の名前で呼んでいいからさぁ……♡ 敬語やめな? な?」
「わ、分かりまし……分かった。えっと……ごめん、名前知らない……」
「吉良 深夜、よろしくヒロくん♡」
「よろしく……シンヤ、くん」
不良改めシンヤは頬を緩めてだらしない笑顔を見せた。元々顔がいいのもあって、可愛い笑顔に思わずほだされそうになる。
「なぁなぁ、肩組んでいい?」
「え……いいけど」
「やったぁ♡」
無遠慮な腕が肩に回った瞬間、警戒からか身が強ばり心の扉が固く閉じた。
僕の席の隣に見るからに不良の男子生徒が座っているのだ、高校生にもなって椅子を傾かせて暇を潰すような奴、絶対関わり合いたくないのによりによって隣の席だなんて運が悪すぎる。
「…………」
まぁ、向こうも俺みたいなメカクレメガネに用はないだろう。本でも読んでおけばいい、友達作りは絶望的だが不良に目を付けられるよりはマシだ、壁にならなければ。
「何読んでんの?」
早速目を付けられた、僕死んだ。
「えっ、ぁ、いやっ、なんでもないですっ!」
読んでいた小説を鞄に突っ込む。染めてからかなり経ったのだろう、地毛の黒が見えているプリン頭の金髪不良は訝しげな目を俺に向けている。
「なんで隠すんだよ、見せろよ」
「すいませんびっくりして……ど、どうぞ」
鞄の中で今読んでいたエロラノベと父に図書館への返却を頼まれている小説をすり替え、渡す。頼む父さん、なんか不良に絡まれなさそうなやつを借りていてくれ、息子の高校生活がかかってるんだ。
「……童話?」
父さん!? 童話って……まずい、バカにされる。イジメられる。
「あー、知ってるこれ。なんかで見たわ。これアレだよな、友達死んでるんだよな」
とりあえず頷いておこう。
「…………なぁ、気付いてるか? この表紙もそうだけど、この話は蒸気機関車ってイメージあるよな。でもほら、石炭じゃないって作中で言ってんだよ。蒸気機関の方が絵面いいけど、俺この話のはもうちょい新しめの電車なんじゃないかって思うんだよな。ほい、返す」
なんか難しい話をされて返された。見た目だけでバカっぽい不良だと思っていたが──案外、本は読むのかな。僕もこの本を読んでおこうかな、彼と何か話せるかも。いや、不良とは関わらないって決めたんだ。もうイジメなんてごめんだ。
担任教師の話を聞いたりして入学初日は終わり。一時はどうなるかと思ったが、あれ以降不良は話しかけてこなかったから平和な生活が送れ──
「オタクくーん♡ 一緒に帰ろ」
──なさそう。
「え……ぁ、な、なんで、オタクって」
中学の頃はアニメグッズを鞄にぶら下げるというミスを犯したが、今回はそんなヘマはしていない。オタクだとバレる要素はどこにもない……まさか見た目か!? このボサボサのメカクレヘアとメガネのせいなのか?
「ん? オタクくんじゃないの?」
不良は僕の鞄から勝手にノートを出し、俺の苗字を指す。小宅……オタクと読めなくもないか。
「こやけです……」
「え、マジ? あはっ、ごめんごめん。オタクっぽいしさぁ、名は体を表す的なのかと思った」
やっぱり僕の見た目はオタクっぽいのか。下手にオシャレしてもイジられそうだから中間を目指したのだが、失敗だったらしい。明日からの高校生活は暗いな。
「なぁ、この後なんか予定ある? カラオケでも行かない?」
初対面の不良と行けるわけがない、彼が知っているような歌を僕は知らない。
「すいません、今日はちょっと……」
「……あっそ」
目で見て分かるほど不機嫌になった。何故か学校を出ても着いてくるし……僕と居ても楽しくないんだからさっさと同類を見つけて固まればいいのに。
「コヤケくん電車乗る感じ? どこで降りんの?」
下手な嘘はつかない方がいいだろう、僕は正直に自宅最寄り駅を答えた。
「あ、マジ~? 俺もそこ~♡ 一緒に行こ♡」
「そ、そうなんですか……すごい偶然ですね」
「な♡ 朝も一緒になるかもなぁ」
そうなったら最悪だ。お気に入りのアニソンを聞いて気分を上げるのが日課なのに、彼に何を聞いているのかバレた日がイジメ開始の日になってしまう。イヤホン自体を持ってくるべきじゃないな。
「……つーかさ、なんで敬語なわけ? タメじゃん。なぁ、下の名前ヒロだよな? 俺のことも下の名前で呼んでいいからさぁ……♡ 敬語やめな? な?」
「わ、分かりまし……分かった。えっと……ごめん、名前知らない……」
「吉良 深夜、よろしくヒロくん♡」
「よろしく……シンヤ、くん」
不良改めシンヤは頬を緩めてだらしない笑顔を見せた。元々顔がいいのもあって、可愛い笑顔に思わずほだされそうになる。
「なぁなぁ、肩組んでいい?」
「え……いいけど」
「やったぁ♡」
無遠慮な腕が肩に回った瞬間、警戒からか身が強ばり心の扉が固く閉じた。
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