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独りの危険性
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授業に全く集中出来なかった。放課後、また担任に呼び出される。不意に窓の外を見れば、朝は曇り止まりだった空はどんよりと暗く染まり、静かに雨が降っていた。
「何ですか? 先生。シンヤくんから連絡ありましたか? 昼休みはまだだって言ってましたけど」
「いや、なかった……本格的にまずいぞ。男子高校生じゃ一日連絡がつかなくてもせいぜい家出扱いで探してくれない」
「そんな! シンヤくんは家出なんてしない、絶対何かあったのに!」
「人柄なんて話しても無駄だ……先生はこれから吉良の家を訪ねようと思ってるんだが、一緒に来るか?」
二つ返事だ。僕はシンヤと相合傘をした昨日を思い出しながら一人で傘を差し、担任と共にシンヤの家へ向かった。
「共働きだそうだが、ご両親はまだ帰っていないだろうか」
「……知らないんですか? シンヤくんの両親はずっと帰ってきてませんよ。着替え取りに来たりとか、そういうのだけで……そのくせ黒髪に戻させたりして……」
「…………そうか」
インターホンを押す。しかし何も起こらなかった。
「居ないみたいだな」
「じゃあやっぱり誘拐されて……?」
「その可能性は低いと思うが」
とりあえず家には居ないみたいだから、とシンヤの家から離れる。少し離れたところから見て、僕はあることに気付いた。
「……シンヤくんの部屋、灯り点いてる」
「え? あぁ、あそこか? 本当だな」
「シンヤくん居るんだ!」
「お、おい小宅!」
慌ててシンヤの家に戻り、ポストの中に入っていた鍵を使った。しかし、チェーンがかかっていて玄関扉は開かない。
「はぁ、はぁ……急に走るな。鍵持ってたのか」
「ぁ……は、はい、持ってました。でもチェーンが」
「うーん…………小宅、今から見ることはすぐに忘れなさい」
「え? ぁ、はい」
担任は鞄から輪ゴムを取り出し、扉の隙間から中へ手を入れて何やらゴソゴソと怪しい動きをしている。一分と経たずドアチェーンが外れて玄関扉が開いた。
「……先生前職空き巣とかですか?」
「違う!」
冗談もほどほどにシンヤの私室の扉を開ける──ドアチェーンなんてあるはずもないのに、その程度しか開かない。
「開かないのか?」
「中で何かつっかえてるみたいで……」
狭い隙間から中の様子を覗くのは難しい。僕は隙間からスマホを突っ込み、室内を撮影した。
「……シンヤくん!」
撮れたのは驚くべき光景だった。室内で倒れたシンヤ自身が邪魔になって扉が開かないんだ。
「そんなっ……! シンヤくん、シンヤくん! シンヤくん聞こえる!? シンヤくん起きて! シンヤくん!」
扉の隙間からシンヤに向かって叫び続けると、彼は微かに呻いた。ゆっくりと扉を押してみるとシンヤは寝返りを打ってくれて、ようやく扉が開いた。
「シンヤくんっ!」
「一体何があったんだ……?」
シンヤは寝間着のまま倒れているが、その手には制服のシャツが握られている。
「シンヤくん……わっ、せ、先生っ、シンヤくんすごく熱い!」
「熱い? 本当だ……朝に熱が出て倒れたのか?」
頬に触れてみると熱く、首に手の甲を押し当ててみると更に熱く、体温計なんて使わなくても熱が出ていると分かった。
「シンヤくん、シンヤくん大丈夫? 意識ある?」
軽く肩を叩いて声をかけてみると、重たそうに瞼が開いた。虚ろな瞳が僕を見つけると熱い息を吐いていた口が微かに緩む。
「ひろ、くん……?」
僕を認識したシンヤはゆっくりと上体を起こす。
「お、起きて大丈夫……? 寝てていいよ?」
「……ひろくーん」
「わっ……」
何だか幼く見えるシンヤを抱きとめ、触れ合った熱に唖然とする。恋人が高熱で苦しんでいたのに、のほほんと過ごしていた自分が許せなかった。
「何ですか? 先生。シンヤくんから連絡ありましたか? 昼休みはまだだって言ってましたけど」
「いや、なかった……本格的にまずいぞ。男子高校生じゃ一日連絡がつかなくてもせいぜい家出扱いで探してくれない」
「そんな! シンヤくんは家出なんてしない、絶対何かあったのに!」
「人柄なんて話しても無駄だ……先生はこれから吉良の家を訪ねようと思ってるんだが、一緒に来るか?」
二つ返事だ。僕はシンヤと相合傘をした昨日を思い出しながら一人で傘を差し、担任と共にシンヤの家へ向かった。
「共働きだそうだが、ご両親はまだ帰っていないだろうか」
「……知らないんですか? シンヤくんの両親はずっと帰ってきてませんよ。着替え取りに来たりとか、そういうのだけで……そのくせ黒髪に戻させたりして……」
「…………そうか」
インターホンを押す。しかし何も起こらなかった。
「居ないみたいだな」
「じゃあやっぱり誘拐されて……?」
「その可能性は低いと思うが」
とりあえず家には居ないみたいだから、とシンヤの家から離れる。少し離れたところから見て、僕はあることに気付いた。
「……シンヤくんの部屋、灯り点いてる」
「え? あぁ、あそこか? 本当だな」
「シンヤくん居るんだ!」
「お、おい小宅!」
慌ててシンヤの家に戻り、ポストの中に入っていた鍵を使った。しかし、チェーンがかかっていて玄関扉は開かない。
「はぁ、はぁ……急に走るな。鍵持ってたのか」
「ぁ……は、はい、持ってました。でもチェーンが」
「うーん…………小宅、今から見ることはすぐに忘れなさい」
「え? ぁ、はい」
担任は鞄から輪ゴムを取り出し、扉の隙間から中へ手を入れて何やらゴソゴソと怪しい動きをしている。一分と経たずドアチェーンが外れて玄関扉が開いた。
「……先生前職空き巣とかですか?」
「違う!」
冗談もほどほどにシンヤの私室の扉を開ける──ドアチェーンなんてあるはずもないのに、その程度しか開かない。
「開かないのか?」
「中で何かつっかえてるみたいで……」
狭い隙間から中の様子を覗くのは難しい。僕は隙間からスマホを突っ込み、室内を撮影した。
「……シンヤくん!」
撮れたのは驚くべき光景だった。室内で倒れたシンヤ自身が邪魔になって扉が開かないんだ。
「そんなっ……! シンヤくん、シンヤくん! シンヤくん聞こえる!? シンヤくん起きて! シンヤくん!」
扉の隙間からシンヤに向かって叫び続けると、彼は微かに呻いた。ゆっくりと扉を押してみるとシンヤは寝返りを打ってくれて、ようやく扉が開いた。
「シンヤくんっ!」
「一体何があったんだ……?」
シンヤは寝間着のまま倒れているが、その手には制服のシャツが握られている。
「シンヤくん……わっ、せ、先生っ、シンヤくんすごく熱い!」
「熱い? 本当だ……朝に熱が出て倒れたのか?」
頬に触れてみると熱く、首に手の甲を押し当ててみると更に熱く、体温計なんて使わなくても熱が出ていると分かった。
「シンヤくん、シンヤくん大丈夫? 意識ある?」
軽く肩を叩いて声をかけてみると、重たそうに瞼が開いた。虚ろな瞳が僕を見つけると熱い息を吐いていた口が微かに緩む。
「ひろ、くん……?」
僕を認識したシンヤはゆっくりと上体を起こす。
「お、起きて大丈夫……? 寝てていいよ?」
「……ひろくーん」
「わっ……」
何だか幼く見えるシンヤを抱きとめ、触れ合った熱に唖然とする。恋人が高熱で苦しんでいたのに、のほほんと過ごしていた自分が許せなかった。
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