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既に結ばれている縁

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鳥居をくぐり、参道を歩く。参拝客に女性が多いのは縁結びの神社と呼ばれているからだろうか?

「シンヤくん、まず手洗わなきゃ」

真っ直ぐ本殿へ向かおうとしたシンヤを呼び止め、手水鉢で手と口を清める。

「冷たぁ……」

「道は端っこ歩くんだよ、真ん中は神様が通るところだから。あと……参拝のルール分かる? 何回手叩くとか、お辞儀するとか」

「お辞儀するの?」

神社の参拝に関しては無知らしいシンヤに僕は予め調べておいた参拝のルールやマナーを説明した。日頃勉強を教わる立場だからか、僕の話を真面目に聞いて記憶しようとするシンヤを見て言いようのない興奮を覚えた。

「じゃ、行こっか」

「うん♡」

参拝の列に並びながら僕はもう既に「どうか神様が異性愛贔屓ではありませんように」と願った。別に神様の存在なんて信じている訳ではないけれど、こんな時ばかりは怖くなる。もし神様が同性愛を許さなければ、僕達は破局してしまうのだろうか。

「……あ、あのさ、シンヤくん、シンヤくんは何お願いするの?」

僕は既に「ヒロくんとずっと一緒に居ること♡」という返事を知っている。

「俺お願いしないよ?」

「えっ?」

僕は何も知らなかったようだ。

「俺はお礼言うつもり。ヒロくんと出会わせてくれてありがとうございます♡ って。あの時助けてくれたヒロくんにもう一度出会えて、それも席が隣なんて……♡ 神様がしてくれたとしか考えられないよ♡ だからちゃんとお礼言わなきゃ」

「…………そう、だね。そうだよね。昔は男色流行ってたんだし、神様は……もう何十億も居る人間に、まだ産めよ増やせよなんて言わないよね? 僕達二人くらい子孫残せなくたって、いいよね」

「……? うん♡」

今、適当に返事したな? まぁ僕の独り善がりな独り言紛いの話なんて、真面目に聞く必要はないか。

「行こ♡」

僕達の番がやってきた。シンヤは礼を言うと言っていたが、僕は願った。シンヤの幸せを。

「…………終わりっ。ヒロくんは?」

「……うん、終わった」

「ヒロくんは神様に何言ったの?」

「……シンヤくんが幸せでありますように」

無邪気に尋ねていたシンヤは顔を真っ赤にし、悔しそうに「俺もヒロくんの幸せ願えばよかった」と呟いた。

「シンヤくんが幸せになったら僕も幸せだよ。君の幸せには僕が居る……よね? 自惚れじゃないよね」

「うん♡ ヒロくんさえ居れば俺は幸せ♡」

「……幸せそうな君を傍で見るのが僕の幸せだから、僕達の幸せは一緒なんだよ。だから一回のお願いで大丈夫」

「なるほど……ふふっ♡ なんかいいね、それ」

「うん、お守り買って帰ろっか」

新しい縁は要らない。今結ばれているシンヤとの縁が切れないように、幸せなものであるように──そんな僕達の願いを守ってくれそうなお守りを一つずつ買った。
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