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恋や愛じゃない好意を抱いた人なんです
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以前シャルと入った時はSMプレイに興じた部屋。カタラが魔術で部屋を明るくするとSM器具達もハッキリと浮かび上がった。
「……あのおっさんこういう趣味あったのか。サク、無事だったか?」
「あ、うん……俺には優しいよ、あの人」
ネメスィは興味津々と言った様子で縄を弄り、アルマとカタラは居心地悪そうにしていた。
「大丈夫かな……多分、兵士だよな? 俺達を探してるんだよな」
「大丈夫だろ、この部屋は見つからないらしいし」
「今回さえやり過ごせばこの家は除外されるだろうし、逃げるのが楽になるんじゃないか?」
カタラとアルマは楽観的だ。俺はどうしても最悪の想像をしてしまう。
「そんなに気になるならレコードアイの映像傍受やってみるか。強くなったしできるだろ」
カタラはポーチから手鏡を取り出して半透明の魔力で包む。
「あの広間の天井の隅には確か防犯用の監視レコードアイが……あったあった、繋げて……よし、いける」
やはりあの浮遊する目玉は前世で言うカメラの役割を果たしているらしい。手鏡に広間の様子が映し出されるとカタラ以外の者は感嘆した。
「うわ……めっちゃ兵士いるじゃん」
メカニズムは分からないが声も聞こえる。
兵士に囲まれた査定士は机の大量の朝食について問い詰められている。兵士を待たせれば怪しまれ、片付けなければ怪しまれる……時間が悪かった。
「おじさん……!」
シャルは手鏡を掴んで食い入るように見ている。
「シャル、ちょっと落ち着け。大丈夫だから、な? みんなにも見せてくれ」
涙目になりながら頷くシャルに手鏡ではなく俺の腕を掴ませる。そんな状況でないとは分かっているが抱きついてくるシャルの可愛らしさに癒される。
「うわっ、うわうわ……本当に大丈夫かよ」
嘘をでっち上げた査定士は剣の柄で頬を殴られ、それでもなお俺達のことを隠そうとしている。今すぐに飛び出して兵士達を蹴散らしたいというのは俺達の総意だ。
「ん……兵士共、小声だな。ちょっと音量上げるぞ」
鎧の擦れ合う音も聞こえるようになった。これで兵士同士の小声の相談も聞き取れる。
『いくらでも探すといいさ、私は魔物なんて飼っていない』
『……兵士長、どうします?』
『あー……面倒だな、怪しいけど確証がない……ふぅん』
兵士長という役職に身が跳ねる。兜で顔が見えにくいとはいえ、分かる。アルマも分かっているようで目を見開いている。
コイツは俺を部下達と共に輪姦し、アルマの首を跳ねた鬼畜だ。
『……そうだ。なぁ、コイツが売った魔物を買って死んだシャルリルって奴は』
『はい、魔神王の縁故の吸血鬼であるアリストクラットの血族、シャルリル・アリストクラット、128分の1のダンピールです』
『そうそう……しかも殺人犯のインキュバスを実験体としてたのを買い取ったんだよなぁ? 紫髪のインキュバスはオーガ出没騒動の時も目撃されてるし、いやぁ……これは黒だな』
吸血鬼……? 俺を買った小説家のあの男が? そうは見えなかった、陽の光も普通に浴びていた、血が薄いからか?
「アリストクラット……!? 叔父上の恩人の……その血族にそんなクズが……!」
ネメスィには心当たりがあるようだ。魔神王の縁故というのは本当らしい。
『あっあ~……まずいなぁ? 魔神王が文句をつけてくるかもしれん。魔神王に知られる前にこちらから謝罪しなければな』
『しかし兵士長、魔神王への謝罪ともなれば相当の手土産が必要では?』
『魔神王なんて言っちゃいるが要するに魔物だろ? にっくき責任者の死体でも贈れば喜んで貪りながら許してくれるさ。ま、そういうのを決めるのはお上の仕事だが……』
シャルがまた手鏡を奪い取った。手鏡の持ち手がミシミシと音を立てている。
『王は今、贄を求めてらっしゃいますし、処刑すべきですね』
『あー……The Skinless One? だっけ? 変なもんにハマってるよなー』
とうとう鏡にヒビが入る。割れた鏡を投げ捨てたシャルは俺達を飛び越え、狭い階段を駆け上がった。
「お、おいネメスィ! 止めろ!」
ネメスィとカタラが止めに走る。アルマも行こうとしていたがカタラに「お前は道に詰まる」と叫ばれて大人しく座り直した。
「スキン……レス、ワン? スキンレス……」
「サク? どうした」
兵士長が呟いた王がハマっているらしい何か。個人名なのか行為の名称なのかジャンル名なのか、何も分からない。分からないはずなのに俺には聞き覚えがあった、けれどなかなか思い出せない。
「どっかで聞いたんだ、絶対知ってる……絶対知ってるんだよ! 俺は知ってるんだ……」
ネメスィに羽交い締めにされたシャルが引きずられてくる。どうやらカタラに魔力拘束を受けているようだ。
「ここは外側からしか開けられないんだよ、俺達は静かに待ってるしかねぇの! ったく、傍受なんかしなきゃよかったな……」
再び全員が揃った。カタラは床に飛び散った鏡の破片を拾ってパズルのようにはめている。
「なぁみんな、スキンレスワンって何か分からないか? 聞き覚えあるんだよ……」
「俺はねぇな」
「俺も分からない」
「俺も」
カタラとアルマとネメスィは知らないのか。シャルは黙って割れた鏡を見つめている、思い出せそうなのか俺の話を聞く余裕もないのか……
「皮膚がない……ですか? おじさんの息子さん、皮膚が剥がされてましたよね。何か関係があるのかも」
よかった、俺の話は聞こえていたし、かなり考えてくれていた。
誰にも言っていないが使用人を襲う前、俺は腹に住んでいた皮膚のない化け物を吐き出した。まさかアレのことか? きっとそうだ、アレが王の元へ行ったのだ。
「……いや、正体とかじゃなく、名前に聞き覚えがあるんだよ。スキンレス……皮膚のない、皮膚なし、皮膚なき…………皮膚なきもの? そうだ! 思い出した! あー……スッキリした」
聞き覚えがあったのはインキュバスになってからじゃない、前世だ。前世でハマっていたゲームに登場したクリーチャーだ。そのゲームはクトゥルフ神話をモチーフにしたものだった。
「ま、待て待てサク、一人でスッキリするな」
ネメシスとの会話で考えていたことを思い出す。ショゴスという創作のクリーチャーが居る世界なら、俺が転生したこの世界はクトゥルフ神話の中の世界……創作なのではないかと。
「……待ってだとしたら一番ヤバい奴じゃん! ニャルラトホテプの化身……! 嘘だろ、いやスキンレスならマシ……いやいやアレ確か生贄めっちゃいるやつで」
「サク! さっきから一人で何言ってんだよ!」
カタラに肩を掴まれて揺さぶられ、正気に戻る。この世界が創作だとしても違うとしても、俺は事実ここに生きている。今やるべきことを見失ってはいけない。
「…………ごめん」
「サク、どんな考えに至ったのか俺達に説明してくれないか?」
アルマは俺を膝に座らせて心配そうな目を向ける。
「……えっと、その……スキンレスワン、王様がハマってるらしいヤツ……邪神、的なもんじゃないかなって。いや俺もよく分かんないけど」
ここがクトゥルフ神話の世界だとしたら問題がある。俺がTRPGを始めとしたゲームでしか神話を知らないクソにわかということだ。だって小説嫌いなんだもん。
「邪神……サクの考えが正しければ叔父上に知らせなければならない。神性は魔力豊潤で明確な支配者がいない土地に自然発生する、この島は前から危うかったんだ」
「知らせたらお前の叔父さんは何すんの?」
「発生した神性が反発するようなら…………叔父上は何を犠牲にしてでも神性を叩き潰すぞ。妻以外どうでもいい人だからな……最悪、島が沈む」
「やっべぇじゃん!」
クトゥルフ神話の世界だとしたら魔神王に心当たりがなさすぎるし、デミゴッドのネメスィが力を継いでいる雷神の心当たりもない、多分違うだろう。
俺は現実逃避もどきの楽観思考に逃げた。
「あ、あのっ……邪神なんかどうでもいいです、おじさんが、おじさんが連れて行かれちゃいます……どうしましょう兄さん」
「あぁそうだこっちの方がまずい。あの人居ないと外出れないしな……」
「外に出られないとかそういう問題じゃないでしょう!? この薄情者っ……殺してやる!」
「落ち着けシャル! アルマ! 手伝って!」
アルマに手伝ってもらってシャルを止め、落ち着かせ、隠し部屋を内側から開ける方法と査定士の救出方法について話し合った。
「……あのおっさんこういう趣味あったのか。サク、無事だったか?」
「あ、うん……俺には優しいよ、あの人」
ネメスィは興味津々と言った様子で縄を弄り、アルマとカタラは居心地悪そうにしていた。
「大丈夫かな……多分、兵士だよな? 俺達を探してるんだよな」
「大丈夫だろ、この部屋は見つからないらしいし」
「今回さえやり過ごせばこの家は除外されるだろうし、逃げるのが楽になるんじゃないか?」
カタラとアルマは楽観的だ。俺はどうしても最悪の想像をしてしまう。
「そんなに気になるならレコードアイの映像傍受やってみるか。強くなったしできるだろ」
カタラはポーチから手鏡を取り出して半透明の魔力で包む。
「あの広間の天井の隅には確か防犯用の監視レコードアイが……あったあった、繋げて……よし、いける」
やはりあの浮遊する目玉は前世で言うカメラの役割を果たしているらしい。手鏡に広間の様子が映し出されるとカタラ以外の者は感嘆した。
「うわ……めっちゃ兵士いるじゃん」
メカニズムは分からないが声も聞こえる。
兵士に囲まれた査定士は机の大量の朝食について問い詰められている。兵士を待たせれば怪しまれ、片付けなければ怪しまれる……時間が悪かった。
「おじさん……!」
シャルは手鏡を掴んで食い入るように見ている。
「シャル、ちょっと落ち着け。大丈夫だから、な? みんなにも見せてくれ」
涙目になりながら頷くシャルに手鏡ではなく俺の腕を掴ませる。そんな状況でないとは分かっているが抱きついてくるシャルの可愛らしさに癒される。
「うわっ、うわうわ……本当に大丈夫かよ」
嘘をでっち上げた査定士は剣の柄で頬を殴られ、それでもなお俺達のことを隠そうとしている。今すぐに飛び出して兵士達を蹴散らしたいというのは俺達の総意だ。
「ん……兵士共、小声だな。ちょっと音量上げるぞ」
鎧の擦れ合う音も聞こえるようになった。これで兵士同士の小声の相談も聞き取れる。
『いくらでも探すといいさ、私は魔物なんて飼っていない』
『……兵士長、どうします?』
『あー……面倒だな、怪しいけど確証がない……ふぅん』
兵士長という役職に身が跳ねる。兜で顔が見えにくいとはいえ、分かる。アルマも分かっているようで目を見開いている。
コイツは俺を部下達と共に輪姦し、アルマの首を跳ねた鬼畜だ。
『……そうだ。なぁ、コイツが売った魔物を買って死んだシャルリルって奴は』
『はい、魔神王の縁故の吸血鬼であるアリストクラットの血族、シャルリル・アリストクラット、128分の1のダンピールです』
『そうそう……しかも殺人犯のインキュバスを実験体としてたのを買い取ったんだよなぁ? 紫髪のインキュバスはオーガ出没騒動の時も目撃されてるし、いやぁ……これは黒だな』
吸血鬼……? 俺を買った小説家のあの男が? そうは見えなかった、陽の光も普通に浴びていた、血が薄いからか?
「アリストクラット……!? 叔父上の恩人の……その血族にそんなクズが……!」
ネメスィには心当たりがあるようだ。魔神王の縁故というのは本当らしい。
『あっあ~……まずいなぁ? 魔神王が文句をつけてくるかもしれん。魔神王に知られる前にこちらから謝罪しなければな』
『しかし兵士長、魔神王への謝罪ともなれば相当の手土産が必要では?』
『魔神王なんて言っちゃいるが要するに魔物だろ? にっくき責任者の死体でも贈れば喜んで貪りながら許してくれるさ。ま、そういうのを決めるのはお上の仕事だが……』
シャルがまた手鏡を奪い取った。手鏡の持ち手がミシミシと音を立てている。
『王は今、贄を求めてらっしゃいますし、処刑すべきですね』
『あー……The Skinless One? だっけ? 変なもんにハマってるよなー』
とうとう鏡にヒビが入る。割れた鏡を投げ捨てたシャルは俺達を飛び越え、狭い階段を駆け上がった。
「お、おいネメスィ! 止めろ!」
ネメスィとカタラが止めに走る。アルマも行こうとしていたがカタラに「お前は道に詰まる」と叫ばれて大人しく座り直した。
「スキン……レス、ワン? スキンレス……」
「サク? どうした」
兵士長が呟いた王がハマっているらしい何か。個人名なのか行為の名称なのかジャンル名なのか、何も分からない。分からないはずなのに俺には聞き覚えがあった、けれどなかなか思い出せない。
「どっかで聞いたんだ、絶対知ってる……絶対知ってるんだよ! 俺は知ってるんだ……」
ネメスィに羽交い締めにされたシャルが引きずられてくる。どうやらカタラに魔力拘束を受けているようだ。
「ここは外側からしか開けられないんだよ、俺達は静かに待ってるしかねぇの! ったく、傍受なんかしなきゃよかったな……」
再び全員が揃った。カタラは床に飛び散った鏡の破片を拾ってパズルのようにはめている。
「なぁみんな、スキンレスワンって何か分からないか? 聞き覚えあるんだよ……」
「俺はねぇな」
「俺も分からない」
「俺も」
カタラとアルマとネメスィは知らないのか。シャルは黙って割れた鏡を見つめている、思い出せそうなのか俺の話を聞く余裕もないのか……
「皮膚がない……ですか? おじさんの息子さん、皮膚が剥がされてましたよね。何か関係があるのかも」
よかった、俺の話は聞こえていたし、かなり考えてくれていた。
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「……いや、正体とかじゃなく、名前に聞き覚えがあるんだよ。スキンレス……皮膚のない、皮膚なし、皮膚なき…………皮膚なきもの? そうだ! 思い出した! あー……スッキリした」
聞き覚えがあったのはインキュバスになってからじゃない、前世だ。前世でハマっていたゲームに登場したクリーチャーだ。そのゲームはクトゥルフ神話をモチーフにしたものだった。
「ま、待て待てサク、一人でスッキリするな」
ネメシスとの会話で考えていたことを思い出す。ショゴスという創作のクリーチャーが居る世界なら、俺が転生したこの世界はクトゥルフ神話の中の世界……創作なのではないかと。
「……待ってだとしたら一番ヤバい奴じゃん! ニャルラトホテプの化身……! 嘘だろ、いやスキンレスならマシ……いやいやアレ確か生贄めっちゃいるやつで」
「サク! さっきから一人で何言ってんだよ!」
カタラに肩を掴まれて揺さぶられ、正気に戻る。この世界が創作だとしても違うとしても、俺は事実ここに生きている。今やるべきことを見失ってはいけない。
「…………ごめん」
「サク、どんな考えに至ったのか俺達に説明してくれないか?」
アルマは俺を膝に座らせて心配そうな目を向ける。
「……えっと、その……スキンレスワン、王様がハマってるらしいヤツ……邪神、的なもんじゃないかなって。いや俺もよく分かんないけど」
ここがクトゥルフ神話の世界だとしたら問題がある。俺がTRPGを始めとしたゲームでしか神話を知らないクソにわかということだ。だって小説嫌いなんだもん。
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「やっべぇじゃん!」
クトゥルフ神話の世界だとしたら魔神王に心当たりがなさすぎるし、デミゴッドのネメスィが力を継いでいる雷神の心当たりもない、多分違うだろう。
俺は現実逃避もどきの楽観思考に逃げた。
「あ、あのっ……邪神なんかどうでもいいです、おじさんが、おじさんが連れて行かれちゃいます……どうしましょう兄さん」
「あぁそうだこっちの方がまずい。あの人居ないと外出れないしな……」
「外に出られないとかそういう問題じゃないでしょう!? この薄情者っ……殺してやる!」
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