過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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全員に愛されているのに嫉妬するなんて

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ネメスィの腕枕で眠った俺は、最初は彼の胸に顔を押し付けていた。けれど、目を覚ますと反対を向いており、力の抜けたネメスィの手が一番に目に入った。

「……おっきい」

何となくネメスィと手の大きさを比べる。俺とネメスィの身長差はおそらく二十センチ少し、俺達の間に三十はないと思う。

「……男の手だなぁ」

柔らかくすべすべの俺の皮膚とは違う、剣を握ってきた硬い皮膚。滑らかに動く俺の細い指とは違う、太い無骨な指。

「…………かっこいい」

指を絡めてきゅっと握り、一度目を閉じて二度寝するかどうか考える。シャルと約束があるけれど、眠たいままするのは不誠実だ。

「……いや、別に眠くはないかな」

でも、どうしようかな。今、あんまりしたくない。どうせ始めたら夢中になるだろうけど。

「サクはまだ起きないのかい?」

足音と声が近付いてきて思わず目を閉じる。

「そうみたいです……」

「あれ、そういえば銀髪の彼は」

「浴室じゃないですか? 水の音しますよ」

「おや、そうかい。君は耳がいいねぇ」

カタラは起きて風呂に入っているのか。アルマはまだ眠っているのかな? カタラが浴室に行ったかどうか知らないなんて、二人はどこへ行っていたのだろう。

「しかし、シャル……この服は私には少し若いんじゃないかな?」

「よく似合ってますよ」

ウォークインクローゼットで服を物色していたのか、確かにあの場所ならカタラの動きは見えない。

「そうかな……でも、ニットと言うのは」

「この部屋、案外冷えますし……それにこの服は触り心地がいいので」

薄目を開けるとグレーのニットに身を包んだ査定士と彼に擦り寄るシャルが居た。楽そうなスウェットを履いた足に尻尾を絡ませ、ニットの柔らかさを堪能するように寄り添い、上機嫌に羽を揺らしている。

「ふふ、そっちが目的かい?」

「はい、いけませんか?」

「もちろん構わないよ」

査定士は左腕をシャルに見せながらシャルの腰を抱き、同じように右手もゆっくりと動かしてシャルの頭を撫でた。急に動けば驚いたシャルに攻撃されかねないと言っていたが──嬉しそうに目を閉じるシャルはきっと、そんなことはしない。

「……温かいです」

「寒いのかい?」

寒くて当然だ。腰羽を出すために腰も腹も出ているし、ダメージジーンズからは太腿が露出している。それでなくともタイトな服の布は薄い。

「はい、少し。魔力で作ったとはいえ今はただの布なので見た目通り寒いです。人間はいいですよね、物を食べるからでしょうか……体温が高くて心地いいんです」

じゃあ、同種の俺と抱き合っても心地よくないの?

「君から人間の長所が聞けるとはね。人間嫌いは治ったのかな?」

「……人間は嫌いです。頭が良くて、残酷で……僕のこと自然発生する魔物だからって馬鹿にして、僕に痛いこといっぱいしました」

「よしよし……ごめんね、辛いことを思い出させたね。本当に……可哀想に。ごめんね、人間が……」

嫌なことを思い出して垂れた羽達も査定士がしばらく撫でればまたパタパタと揺れ始める。

「…………でも、シャルは人間を何人も殺してきたんだよね?」

「ええ……それが何か?」

「……シャルは、痛いって言った人間をどうしたんだい?」

羽が止まる。けれど、またすぐ揺れ始める。

「兄さんを傷付けた屑共が何を言ったかなんて一々聞きませんよ。兄さんについての情報でもない限り……人間の身体構造を勉強したこともありますけど、別に痛覚が正常に働いているかどうかなんて僕は興味がありませんし」

「………………シャルの方こそ、人間を生き物とは思っていないよね?」

「へ? いえ……人間は生き物ですよ?」

「……でも殺したよね? それも、とびきり残酷に」

「何が言いたいんですか? おじさん……今のおじさん、何だか怒ってるみたいで嫌です。兄さんを傷付けたんだから当然の末路じゃないですか……」

シャルの頭を撫でている査定士の手の動きがぎこちなくなった。

「ぁ……おじさん、同種でしたね。だから色々聞いてくるんですね? 安心してください、僕おじさんのこと好きですから」

にっこり微笑んだシャルは自身の頭を撫でる査定士の手に手を重ね、可愛い笑顔のまま擦り寄った。

「僕、僕と兄さんに優しいおじさんが大好きです。だから……同種のうちの屑が死んだからって僕のこと怒らないでくださいよ、僕は同種だって兄さんを傷付けるなら殺しましたから……僕が人間嫌いなのと僕が人間を殺したのは関係ありませんよ? ね、おじさん……もっと撫でてください」

「……あぁ、撫でられるの好きかい? 可愛いね」

俺はシャルの発言に査定士がもっと怯えると思っていた。けれど、彼はそんな素振りは見せずにシャルの頭を撫で続ける……怯えているように見えたのは俺の気のせいだったのだろうか。

「可愛いシャル、それに可愛いサク……君達双子を私は心から愛しているよ。そうだね、たとえ人間だって何だって……君は君達が生きて幸せになるために動いただけだ。ごめんね、咎めるようなことを言ってしまって……生き死にに関係がないのに君を捕らえて弄んだ人間の方が邪悪に決まってる、君は純粋だよ、どこまでもね……」

査定士の発言は本気だ。俺は何故かそう悟り、当初から抱いていたシャルへの恐怖に似たものを査定士にも僅かに覚えた。
俺が人間の死に敏感過ぎるのだろう、前世の平和ボケがまだ治らないんだ、そう分かっていても価値観のズレが怖い。

「……ふふふっ、君の巻き毛はサクとはまた違った触り心地だね」

「おじさんはどっちが好きですか?」

「うーん……そうだね、私はシャ」

「兄さんに決まってますよね? 僕が兄さんに勝るところは強さだけのはずです。魅力で僕が勝るなんてありえません」

「しゃくかな……おっと、噛んでしまったね、失礼。私はサクの方が好きかな。もちろん君が嫌いというわけではないよ」

器用な人だ。

「はぁー……さっぱりした。ぁ? またイチャついてんのか……シャル、おっさんとヤっとけよ。そしたらサクが回ってくるのが一個早くなぅわあっ!?」

「椅子は投げるものじゃないよ、シャル」

シャワーを終えたカタラが帰ってきたようだ。椅子を尻尾で投げるなんて……俺には絶対に真似出来ないな。

「クソっ……おいおっさん、おっさんはそんだけベタベタされてどうともねぇのかよ」

「シャルも可愛いんだけど……別に勃ちはしないんだよね。サクが特別なんだよ」

やはり全てはスキルのせいなのか。あの邪神は憎いのに、あの邪神が居なければ俺は誰にも愛されないのか。

「僕おじさんがそういうことしてきたらびっくりして手首ちぎっちゃいますもん」

「は、ははは……怖いなぁ」

「……おじさんがそんなことするわけないんですから怖くないですよ?」

「それもそうだねぇ」

「ま、シャルじゃ勃たねぇのには同意だな。色気ねぇのかな……?」

「気持ち悪い話しないでくれません?」

「少なくとも可愛げはねぇな!」

楽しそうで羨ましいな。そろそろ起きよう、シャルを抱き締めて撫でている査定士への嫉妬で狂ってしまう前に。
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