過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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卵達のためにならない

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黒いハート模様が微かに見える卵。
うっすらと紫色のハート模様か浮かんで見える卵。
表面がザラついたくすんだ赤色の卵。
漆を塗ったように黒い卵。
銀粉を浴びたような煌めく卵。

俺達一人一人の特徴を引き継ぐのだとしたら──
俺、シャル、アルマ、ネメスィ、カタラなのか?

「ネメスィの黒って……溶けてる時の?」

「俺達のが混じっているという仮説が正しいとは思えないが、もしそうだとしたら……な」

言われてみれば、卵の漆黒はネメスィのスライム形態の色に似ている気がする。

「……卵って兄さんの魔力から作られるんですよね?」

「あぁ、竜はサクの魔力の使い方を書き換え、サクの魔力のみで自身の子を作るんだ」

ドラゴンの精子は卵の種ではなく、卵を作るプログラムを打ち込むものだと? 意味の分からない種族だな。

「だから卵にサクの魔力以外が混じることはない、この卵は全て強姦魔のドラゴンとサクの子だ」

「……兄さんが消化したばかりの魔力を使って作ったとかは考えちゃダメなんですか? 僕達インキュバスは消化器官で体液に含まれる魔力を消化し、それを自身の魔力の属性に変換します。消化したばかりの魔力は取り込んだだけで属性は元のままのはずです」

「…………何?」

「だって、飲んでからしばらくしないと使いやすい魔力増えませんもん。属性が違う魔力も扱えなくはないですけど、難しいです……だから、その自分のものだけど変換前の魔力を使って卵を作ったとは考えられませんか?」

「……インキュバスの生態にはそこまで詳しくない。自然発生かつ弱いからな、詳しくなる必要なんてなかった……今はあの時の選択を後悔している」

ドラゴンの繁殖に詳しかったのはドラゴンが難易度の高い討伐対象で、増えると困るからか? 勇者業には真面目なんだな。

「…………まぁ、孵化してみれば分かるだろう。サク似でない特徴があれば、シャル、お前の仮説が正しい」

「……別に正しさなんて欲しくありませんけど」

欲しいのは──と紫色の瞳が見つめるのは俺。俺と目が合うとふにゃりと笑う。

「いつ頃生まれますかね、兄さん」

「さぁ……」

「僕に懐いてくれるといいなぁ……ね、兄さん」

アルマは夫として俺が別の男との子を産んだことに不満があるようだが、シャルはただ俺を祝福してくれる。誰よりも歪んだ愛を持つシャルがどうして怒らないのか不思議だ。

「……なぁ、シャル。シャルはさ、怒ったり嫉妬したりしないのか? 俺は……ドラゴンに無理矢理、されて……この子達はお前の血なんか引いてないかもしれないんだぞ?」

シャルは「血?」と首を傾げる。あぁ、そうだ、ついさっき魔力属性がどうとか言っていたばかりだな、この世界では血を継ぐなんて言い方はしないのだろう。

「…………僕は兄さんが幸せならそれでいいんです。兄さんが強姦されたことを思い出すから卵なんていらないと言えば、今すぐ潰します」

「……シャル」

「兄さんは優しいからそんなこと頼んだりしませんもんね、子供に罪はないなんて言って……ふふ、本当に兄さんは優しいですね。でも、そのドラゴンはここから出られたら殺します。兄さんは出たくないらしいので、出ようとも思っていませんけどね」

擦り寄せられる頬が気持ちいい、ふわふわと当たる髪も心地いい、バチバチと弱く叩く頭羽だけが鬱陶しい。

「……ぁ、なぁネメスィ、卵って温めた方がいいのか?」

「放置で問題ないはずだ」

流石ドラゴン、強いな。

「……じゃ、俺はもう寝ようかな。なんか疲れた……枕元に置いとくから、落とさないでくれよ」

「落ちたって割れない」

「僕がしっかり守りますよ」

アルマは無言のまま俺をベッドに寝かせ、毛布をかけてくれた。

「ありがとう、アルマ……アルマ?」

何も言わないアルマを不思議に思って微かに濁った瞳を見つめると、金色の瞳はすぐに輝いた。

「なんだ? サク」

「…………なんでもない。おやすみ」

大きな手に胸をトントンと叩かれ、幼子にするような寝かしつけ方だなと恥ずかしくなりつつもすぐに眠ることが出来た。


夢を見た。シャルに見させられたのではない、きっと自分で作り出した夢……酷い悪夢だった。

「あ、卵……!」

インキュバスのくせに夢を見ていた時は夢だと気付けなかった。知らぬ間に真っ暗闇の中に居て、傍に転がっていた五つの卵を拾い集め、ぎゅっと抱き締めた。

「ふふ…………ぅわっ!?」

暗闇の中で座り込んでいた俺を誰かが蹴り飛ばした、腕に乗せるように抱いていた卵を落としてしまい、ゴロゴロと転がっていった卵は誰かの足に当たって止まった。

「た、卵……やめて、待って! やめてお願いっ!」

卵は残らず踏み潰されて、鶏の卵から黄身が零れるように赤いドロっとしたものが暗闇に溢れた。

「ぁ、ぁ……俺、の……嘘っ、なんで、なんでこんなことするんだよっ!」

おぎゃあおぎゃあと人間の赤子の泣き声が暗闇に響き渡る。俺が泣きながら睨みつけた卵殺しの犯人は、俺の大好きな五人の男達だった。


勢いよく上体を起こす。汗びっしょりだ、酷い悪夢を見た。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁーっ……」

枕元に置いてある卵五つを確認し、一つもヒビすら入っていないことに安堵する。

「よかった……」

周囲を見回すとベッドの下側の方で机を囲んで食事中の男達を見つける。ワインに合うだろうサラミっぽい何かを食べている。

「…………なんて夢、見てるんだよ。俺……」

これがノイローゼなのか? 最低の気分だ。

「うわ、これ美味い……!」

カタラは俺より先に起きていたようだ。オムレツだろうか? 黄色の何かを食べている。

「ハーピーの卵だよ、鶏とはまた違うよね」

「ハーピー……半分人型のやつだよな、なんか食いたくなくなってきた」

「ちゃんと無精卵のはずだよ?」

「そういうんじゃなくてさぁ……」

卵を食べているのか、俺も前世では卵料理は好きだった。卵……卵、食べるの? 俺の可愛い赤ちゃんなのに……違う、あの卵は無精卵らしいし、俺の卵でもない。落ち着け、大丈夫だ。

「……僕には食べ物を味わったことがないので、興味深いです。どんな味なんですか?」

「どんなって言われてもな……卵は卵の味としか言えないんだよなぁ」

「じゃあ、鶏のとどう違うんですか?」

「んん……? んー、鶏のより大雑把な味かな」

それ、鶏の卵の方が美味しいってことじゃないのか。

「味に雑とかあるんですか……?」

「……あるにはあるな」

肉ばかり食べているアルマが思い出すような仕草で答える。

「コカトリスの卵は珍味だそうだね、美味しくはないと聞くけれど」

「珍しい系で言えばサラマンダーの卵食ったことあるんだ、熱くて味分かんなかったけど」

「……ドラゴンの卵ってどんな味なんだろうな」

「ネメスィ、お前なぁ……あっ」

カタラの視線が俺に向く。

「サク起きてるじゃん、バカなこと言ってんなよなネメスィ」

「無精卵も産むはずだ、そのうち……」

「一旦黙れ。サークっ、おはよ」

カタラが席を立って近付いてくる。俺の卵を食べるため、こっちに向かってきている。

「……く、来るな」

「え? あぁ……もうほらネメスィ! お前がバカなこと言うからだぞ!」

「…………悪い、サク。その卵を食う気はない、ただそのうち無精卵を産んでくれないかと」

「長い! 謝るだけでいいんだよ。サク、ごめんな、大丈夫だからそんな怯えた顔すんなよ」

ネメスィまでこちらを向いた、カタラに早く卵を取ってこさせたいに違いない。

「嫌、嫌だ……ダメ、絶対ダメっ…………絶対、渡さないっ!」

俺は卵を抱えてベッドを飛び降り、カタラの横を抜けてウォークインクローゼットに飛び込んだ。すぐに扉を閉めてその前に座り込み、毛布に包まれた卵が五つあることを確認する。

「……大丈夫、大丈夫、食べさせたりしないから」

早く生まれてきて欲しい。生まれてしまえば食べるなんて言わないはずだ、俺の大好きな優しいみんなに戻ってくれるはずだ。そのためにも、俺がしっかり抱き締めて温めなければ。
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