過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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異次元誘拐

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薄い緑色の鱗を持つ、黄色い目をしたドラゴン。ドラゴンのくせに狸寝入りをしていた彼は鉤爪が生えた手で俺を捕まえた。

「可愛いコ……さく、久しぶリ」

「サクっ!」

鰐のような大きな口の端を醜く歪めた彼は俺の首に鉤爪を押し当てた。身動ぎ一つで喉が破られてしまいそうだ。

「動くナ」

杭を打たれて動かせなかっただろう蝙蝠のような羽を広げ、ネメシスに対して俺を人質として扱う。

「サク……! クソっ、サクを離せドラゴン! 僕達は君に危害を加えるつもりはないんだ、信じてくれ!」

「わ、私が冬眠状態を維持したりしたから……敵だと思われてしまってるんでしょうか」

「……その可能性は高いね、凍らされて解剖されるとでも思ったんだろう。ドラゴンの外皮や各種内臓は裏ルートでは高値で取引されてるから……ドラゴンは自身を捕獲しようとするモノを何よりも警戒しているはずだ」

ネメシスと大工らしきオーガは何やら難しい話をしているようだが、このドラゴンはそこまで考えていないと思う。単に俺が欲しいだけだろう。

「な、なぁ……俺、お前の子産んだぞ。五人も。もういいだろ?」

「本当? 産むとこ見たかっタ」

このドラゴンが俺を孕ませたがる理由、繁殖とかそういう本能的なものじゃなくて俺を孕ませて産卵させたいっていう変態的な性癖なんだよな。だからクソ野郎だと言っている。

「もうひとつ産んデ」

「無理だよ……俺、その……身体、ちょっと色々あってさ、お前の精液もうなくなっちゃったから」

「そウ……」

「子供今度連れてくるから、その……お前が親父だって言わないんだったら、話してもいいから、それで勘弁してくれないか? なんか、ドラゴンだけで住んでるとこあるんだろ? 同種と番えよ」

先程ネメシスは「ドラゴンは特殊な結界術を用いて異次元に住んでいる」と話していた。彼もそこから出たところを捕らえられたのだろう、故郷のはずだ、帰りたいはずだ。

「竜の里?」

「それ! かな……? 多分そんな名前だったと思う」

「……そうか。そこに帰ればいいのカ」

ドラゴンは俺を掴んでいない方の手で床を引っ掻く、尻尾でも床を引っ掻いている、術を発動させるための魔法陣のようなものだろうか?

「……っ、ドラゴン、君が里に戻るのを邪魔したりしない、だからサクを返してくれ! 頼む!」

「だめ。さくはお嫁さんにすル」

「…………は!? ま、待てっ、俺既婚者だって……ネメシス! 俺多少怪我してもいいから俺捕まえて!」

「開ケ、竜門」

鋭い鉤爪が肩に切り傷を作るのも構わずにネメシスに手を伸ばす。ネメシスが伸ばした触手が手首に絡みつき、助かると確信した次の瞬間俺は知らない場所にいた。どこまでも青空と草原が広がる二色で構成された景色だ。

「え……? ネ、ネメシス……?」

手首には黒く粘着質な液体で構成された触手が絡みついているが、ネメシスには繋がっていない。ちぎれている。

「空気が綺麗……やっぱり竜の里はいい。さくもそう思ウ」

俺を掴んでいた大きな手が離れる。

「お、思わねぇよ! ここが竜の……何、里? ふざけんな、俺を戻せよ! 俺は既婚者だって言ってんだろ! お前もここでドラゴンの嫁さん見つけろよ!」

「さくが卵産むとこ見たイ」

「……っ、お前……知らないぞ。俺の旦那様も、彼氏達も、すっごく強いんだからな! お前なんか、すぐやられちまうんだからな!」

「大丈夫。竜の里に入れるのはドラゴンだけ。強くても大丈夫、入れなイ」

「え……で、でも、俺は入ってこれてるし……」

「正確には、ドラゴンにしか門を開けられなイ」

門、あの術のことか。ここに入るための術が使えるのはドラゴンだけで、ドラゴンと一緒なら入ってこれると──脱出方法を考える俺の腕に激痛が走る。

「痛っ……!?」

見ればネメシスからちぎれた触手がスライム状に広がり、俺の腕を溶かし食っていた。

「食べちゃだめ。さくは卵産ム」

ドラゴンが俺の腕に噛み付き、肩ごと引きちぎる。少しずつ溶かされていた時以上の激痛に泣き叫び、その場に座り込む。ドラゴンは触手を口に含んだまま火を吐き、俺の腕ごと炭化したそれを地面に転がした。

「さく、大丈夫?」

「ぅ……」

再生中の腕から目を逸らし、俺を心配する黄色い瞳を睨む。巨大なその眼球の瞳孔は細長く、蛇のようだ。

「あ、ありがとう……な。助かったよ」

あのままだったらネメシスの支配下から脱した触手に全身を溶かされていただろう、それに比べれば肩ごと食いちぎられた方がマシだった、痛いからってドラゴンに文句を言うのは間違っている。

「痛イ?」

れろん、と長い舌が俺の顔を舐める。大型犬のような仕草だ。

「うん、でももう生えたから。ホントありがとな」

いつも子供達にしているからか、笑顔を見せながらドラゴンの鼻先を撫でてしまう。

「……可愛イ」

「ありがとよ。俺を帰してくれないか?」

「だめ。卵産むとこ見たイ」

子供が欲しいと望まなければ無精卵になるはずだ、いや卵自体できないんだっけ? 栄養さえあれば無精卵でも産めるんだっけ?

「……無精卵でいいなら、一個くらい産むとこ見せてやってもいいぞ。それで帰してくれるって約束してくれるか?」

ドラゴンは瞳孔を収縮させて俺をじっと見つめている。

「あの……ちなみに、無精卵と有精卵の産み分けってどういう感じ……?」

「母体の栄養状態がよければ無精卵は身体のめんてなんすとして定期的に出るはズ。有精卵は母体が育てられる状況だと認識してると出るはズ」

「へぇ……」

子供が欲しいと望んでいても育てられないと認識していたら産めないのか。前に聞いた話と微妙に違うな、ドラゴン本人が言う方が正しいのだろう、流石にそんな嘘をつく必要はないだろうし。

「お前は俺が卵産むとこ見るんなら無精卵でもいいんだよな?」

「うン」

「よし、じゃあ契約成立だ。無精卵一個だけ産んでやる、産むとこ見せてやる。それが終わったら俺を元の場所に帰してくれ」

「……何言ってるノ?」

ドラゴンは首を傾げる。長い首と大きな頭での仕草でも可愛く見えるのだから、首傾げはすごい。俺にドラゴンの子供がいるせいでもあるのだろうが。

「さくの言うこと聞く理由なイ」

「う……! やっぱり、そう思うよな」

俺が提案した約束を守らなくても、約束しなくても、ドラゴンの方にデメリットを一切与えられない。栄養状態さえよければ俺は卵を産んでしまうみたいだし、ドラゴンは無精卵でも構わないようだし、俺は自力では逃げられないし……あれ、これ、ガチめにヤバくない?

「た、頼むよ! 俺、既婚者なんだよ。俺の帰りを待ってる旦那様と子供達と弟と彼氏がいるんだ! そもそも俺は魔王だから、いなくなると色々まずいんだよ。魔神王に任命されたんだ、知らないぞ魔神王に怒られても!」

ドラゴンの話し方が緩いせいで気が抜けていたが、かつてない危機の気配がする。俺は頭をフル回転させてドラゴンにデメリットを与えられそうな知り合いを探した。

「流石に魔神王ならここに入ってくるだろ? 俺は魔神王の甥っ子の二人とデキてるんだ。俺が攫われたって分かったらそいつらが魔神王にチクる! 魔神王がここに来る! お前はボコられる! 分かったか!」

「さく、その話……証拠ハ?」

「んなもんあるわけねぇだろ……! でも、本当なんだよ。クズだし会わせたくもないけど、お前は一応アイツらの親父だから……ボコられるのとか嫌だから言ってやってるんだぞ」

ドラゴンはしばらくの間考えるような仕草を見せたが、俺の話を口からでまかせだと結論付けたらしく、俺を掴んで巣にできそうな場所を探すため飛び立った。

「ちくしょうっ……ふざけんなよ、このクソ野郎! このトカゲ! バカトカゲ! クソトカゲ! デカトカゲ!」

俺がすぐに魔神王の話を思い付いていたなら信用しただろうか、後から考えたような言い方をしてしまったから嘘っぽく聞こえたんだろうか。
あぁ……本当にまた魔神王に手間をかけさせるしかないのだろうか、俺一人で脱出する方法はないのだろうか。
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