過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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人間の集落の管理

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オーガ達の本格移住から数日後、壊滅した王都の瓦礫の下から発掘された芸術品の数々を査定士に見てもらっていると、ネメスィが背後に忍び寄った。

「後ろからこっそり近付いて来るのやめろよ」

金細工の装飾品の泥汚れを落としていた俺が突然振り向いたのがそんなに意外だったのか、ネメスィは目を軽く見開いている。

「気付いていたのか」

「最近インキュバスのエロくない特技を掴みつつある俺に死角はないんだよ」

ネメスィが忍び寄ったことによる空気の流れの変化を腰羽が感じ取り、息を止めていても止まらない鼓動を優れた聴力が拾った。
最も弱い種族だなんて言われているが、だからこそ気配には敏感なのだと胸を張る。俺を称える言葉を待っているとネメスィは俺の耳をピンッと弾いた。

「ひゃんっ!? な、何すんだよっ、負け惜しみにしちゃ酷いぞ」

「どれほど敏感なのか試したくなっただけだ」

「抱く気ない時に耳はやめろよなぁ……で? 何か用?」

「人間の話だ」

かつて勇者と称えられたネメスィには人間の村や町を回って「王都へ繋がる道が土砂崩れで塞がれている」だとか「ゴブリンが落とし穴を掘っている」だとか嘘をついて人間が王都へ来るのを防ぐ役目を頼んでいる。

「そろそろ人間達を洗脳してくれ。好青年を演じたまま抑え続けるのはもう限界だ」

大声で空気が読めない好青年、それがネメスィの勇者としての外ヅラだ。

「洗脳じゃない魅了だ! 人聞き悪い言い方すんなよな。でも、うん……最近自信ついてきたし、いい頃合いかも。とりあえず練習代わりに小さいとこ行ってみようか」

「なら西に行ったところにある村にしよう。税を納めなければと焦っている、俺に同行を依頼するから王都へ行かせてくれとうるさくてな」

「勇者様は人気者だなー……じゃ、俺の同行をお願いしちゃおっかな」

「元よりそのつもりだ」

「……大丈夫か? 魔物連れてきて「コイツに下れ」なんて言ったら勇者でいられなくなっちゃうぞ」

人間からの信用を失くしていいのかと尋ねると、ネメスィは金色の瞳を少しだけ見開いた。

「何言ってる、人間が呼ぶ勇者サマなんて魔物の虐殺者という意味しか持たない。俺にとっては蔑称だ、そんな称号どうだっていい」

気持ちの悪い演技までして守り続けた地位に対して随分な言い草だ。

「……俺が叔父上に託されたのはこの島の平和だ、人間のみを守ることでも魔物を殺すことでもない。それに気付くのが遅過ぎた……ここまで種族間の溝が深まったのには俺も一役買っている」

「そんな……ネメスィは困ってた人助けたんだよ。そこまで罪悪感持たなくていいよ」

「…………俺はこの島を発展させていくお前を守ることで英雄になる、本物の勇者になってみせる」

「……ふふ、頼りにしてるぞっ、勇者様」

ぎゅっと二の腕に抱きついて見上げると、ネメスィはどこか切ない笑顔を浮かべていた。



王都から西に向かったところに人間の集落がある。王都の食料庫とも揶揄されてきたらしいその集落には広大な畑があり、住民のほとんどが農業を生業としているらしい。

「……そこから税を取れればご飯ネメシスに買ってもらう量減るね」

集落へ向かうのは俺とネメスィとカタラとシャル。見た目が怖いアルマはお留守番だ。ちなみにネメスィ製作の自律稼働踏み台は持っていく、いや、連れて行くと言った方が正しいかな。

「俺らの生活費はもちろん城や城下町の解体費建築費、その他諸々の費用全部ネメシスが出してるんだよな?」

「ん? うん、そうらしいよ」

「なんでアイツそんな金持ってんだよ」

「あー……魔神王のとこで暮らしてるから衣食住にお金がかからなくて、でも魔神王からもらうお小遣いと仕事の報酬は多額だから、いっぱい貯金があるし使い道ないから今大盤振る舞いみたい……俺はすごく申し訳ないんだけど、ネメシスは全然気にしてないんだよなぁー」

カタラは納得しただったが、数十秒後にはまた首を傾げた。

「あんだけ尽くさせるのもサクの魅力なのかねぇ。ま、俺も何か持ってりゃ全財産差し出すくらいはしただろうからな」

「俺をそんな悪女みたいに……」

「兄さんは良い男です!」

「それはそれでなんか違うんだよシャル」

緊張して訳が分からなくなるからと道中演説の話はせず、あえて他愛ない話で盛り上がった。
集落が見えてきたら俺とシャルは予め用意しておいたボロのローブを着て腰羽と尻尾を隠し、フードを被って頭羽も隠した。

「勇者様! 勇者様がいらっしゃったぞ!」
「おぉ! あれが精霊使い様か、お美しい」
「今日は随分大所帯で……あの小汚い二人は何だ?」

集落へ入ると歓迎と怪訝の声と視線が向けられた。全身を隠した俺とシャルへの疑念に満ちた視線からは彼らの警戒心の強さが伺える。

「勇者様……なんだか今日は随分お顔が険しいな」

普段朗らかに笑って演技をしているからか、素を態度に出しているだけで不機嫌なのではと深読みされている。
確かに、人目につきそうになってから動きを止めさせて台を運んでいるだけなのに、そうとは思えないしかめっ面をしている。

「……親愛なる者達よ! この場にここに住む者を全員集めてはくれないか!」

集落の中心近くまで来るとネメスィは突然声を張り上げた。

「理由は聞くな、全ての作業を中断してここに集まってくれ! 寝たきりの老人も、乳飲み子も! とにかく全員だ!」

訝しげな顔をしていたし、躊躇もしていたようだったが、勇者の人徳は素晴らしい、一時間とかからず集落の民が集った。

「…………意外と少ないな」

「小さい集落だからな。精霊に探らせてきたが来てねぇ奴は居ねぇぜ、ぱっぱと演説しちまいな」

現在はただの台のように停止している自律稼働踏み台に乗り、事前に打ち合わせしていた通りにネメスィが話してくれるかとドキドキする胸に手を添えた。

「全員集まったな! ではこれより用件を説明する! よく聞け!」

視線のほとんどは台に乗った俺に集中している。

「まず、王都にて王が逝去なされた! 長年の不摂生が祟ったものと考えられる。そして次に新しい王についてだ、大まかな法律の変更と税率の低下を説明する!」

拡声器を握り締めて魔力を込め、ローブを脱ぎ捨てた。住人達は俺を見て、いや、俺の羽や尻尾を見て驚いているようだった。

「こんにちは! サクです! まずは話を聞いてください!」

声に魔力を乗せて叫ぶと、住人達は騒ぐのも逃げようとするのもやめてボーッと俺を見つめた。

「えぇと、まず……一部、人間と同等の知能と良識を持ち、なおかつ危険思想を持たない魔物との共存が進んでおり、王都にはそんな魔物が住むようになりました。で、えーっと税率を少し下げます」

集めた税を使い込む王が消え、王都の人口も大食いのオーガばかりとはいえ前王の時とは比べ物にならないほど減った。税率を下げても王都の運営は可能なはずだ。

「皆様には王都に来ることを今後百年間禁止致します! お願いしたいのはただ一つ、子供に魔物の脅威を教えないこと。害獣的な魔物とはまだまだ共存が進みそうにはありませんが、我々のように人間と同等の知能を持つ魔物とは仲良くしていただきたいのです」

俺の技術が上がったのか、オーガと人間では効きが違うのか、住人達はぼーっとした顔で俺を見つめている。俺はところどころはしょりつつ、オーガ達に向けて行った演説とほぼ同じことを話した。

「ご清聴ありがとうございました! 税率については後日また報告致します、険しい道と重たい米運びで命を落とした人間も居ると聞きましたので、今後税の回収はこちら側で行います!」

集落が狭く人間が少ないのも相まって俺の魅了の力は人間達によく効いて、覚悟していた罵倒が一つも飛んでくることなく安全に演説を進められた。魅了状態でちゃんと聞けているのだろうかと一抹の不安を残しつつ、俺は友好的な態度を取り続けた。
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