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彼氏の撮影を依頼 (水月+ハル・カンナ・シュカ)
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中距離走に参加するためリュウが入場門へ向かった。のんびり眺めて……という訳にはいかない、一年生の創作ダンスの番が迫っている。
「だん、す……てん、くん……はしっ、て……ぐ、だね……だ、じょぶ……かな」
「俺もそれちょっと気になってる」
「中距離って一番微妙なんだよね~、ペース配分よく分かんなくって~、走りにく~い」
「バテますよね」
俺も同意見だ。長距離は最後まで温存しておけばいいし、短距離は最初から全力を出せばいい。だが、中距離はどちらの作戦も通じない、当然だ、短距離でも長距離でもないのだから。中距離専用の作戦を立てればいい? 全くその通りだ、それが出来れば苦労はしない。
「りゅー応援したげたいけど、そろそろ行かなきゃかな~……入場門の奥並んでちゃ、トラックよく見えないよね~」
「だな。誰か撮ってないかな? カンナのお父さんとか……」
「分か、な……けど、撮ら、な……と、思……よ」
「やっぱり?」
息子の友達の個人競技を撮影する父親なんて、まず居ないだろう。
「みっつん撮ってたフユさんの親戚は~?」
正直、体育祭の全てを撮影していたとしても違和感はない。
「あの人達なら撮ってるかもな、ネザメさんに頼めば上映会開いてもらえるかも」
「で、も……ぼく、と……てん、く…………にに、さんきゃ……した、時……は、なに、も……言って、こな……った、よ」
「みっつん時は水月様とか言ってたよね~? そっかみっつんだけ撮ってるのか」
「え、なんで?」
「そりゃーザメさんが後から見返すためっしょ」
使用人に恋人を撮らせる御曹司って、どうよ。ちょっと嫌だが、体育祭の全てを記録しているよりそちらの方が確率が高そうだ。
「リュウを見る手段はないのか……いや、待て。母さんそこに居たよな。ちょっと頼んでくる!」
「えっちょ、みっつん!」
「すぐ戻るからー!」
中距離走はまだ始まってもいない。今ならまだ間に合う。俺は父兄観覧席に急ぎ、母を探した。目立つ髪や服装をしている訳でもないのに彼女はその美しさのあまりあっさり見つかった。
「あら水月、どうしたの? 水筒おかわり持ってきてるわよ、もちろん中身はスポドリ」
「ありがとう。ちょっと頼みがあってさ……次の中距離、リュウが走るんだけど俺次の準備しなきゃで見れなくてさ、でも見たいから撮っておいて欲しいんだけど」
「いいわよ別に。リュウって金髪の子よね? 目立つ子で助かるわ。スマホしか持ってきてないから本格的なのは撮れないわよ」
「母さんの最新機種じゃん……それよりいいカメラなんかもうプロ用だよ。それじゃ、俺もう戻らなきゃ……ありがとう母さん!」
ちょうど退場行進中だった三年生に紛れてクラス席に戻った。
「おかえりみっつーん」
「……何で水筒持ってるんです?」
「母さんにもらった。おかわりだってさ、朝持たされたのまだあるけど」
「流石みっつんママ優し~」
朝から持っていた水筒から水分補給。新しく渡された水筒は隣に置いた。
「そろそろ並ばないとな。行こうか」
「とる……の、たの……め、た?」
「ん? あぁ、頼めたよ。後で一緒に見ようか」
「ぅんっ」
カンナもリュウの中距離走を見たかったようだ、嬉しそうに見える。
「あ~緊張するぅ~……リレーでバトン受け取る直前より緊張する! 上手く出来るかな~」
「……コンちゃん、コンちゃん、居るよね?」
ミタマは姿を現さないが、耳のすぐ後ろで鈴の音が鳴った。返事と考えていいだろう。
「ダンス……上手く踊れますように!」
手を合わせて祈る。再び鈴の音が鳴った、祈りが通じたんだ。俺の実力以上のダンスは当然出来ないが、俺の実力の範囲内で最高のダンスが出来るはずだ。
「あっ、俺も俺も、コンちゃん俺も!」
ハルがパンパンと手を叩き、祈る。その隣でシュカもこっそり手を合わせ、釣られてカンナも手を合わせた。
「……これリュウだけ失敗しそうじゃないか?」
「ホントだ、めっちゃ目立っちゃうじゃん。代わりにお願いってしといていいのかな」
「やっとくか。コンちゃん、リュウも上手くダンス出来ますように」
鈴の音が鳴った。
「アキが怪我した時とか、治りが早くなるよう俺が頼んだりもしたし……みんないつも俺の無事を祈ってくれてるんだろ?」
「はい」
「えっ、あ、うん! 毎晩してるよ~」
してないな。
「だから他人のことをお願いしても普通に叶うと思うよ」
「なるほど~」
「……分野さん出てこないんですね。勝手に出てきてベラベラ説明始めそうに思いますけど」
「人混みだからな、せめて物陰とかあれば出てくるかもだけど」
周囲にあるのは人ばかり。無から出現するところを誰にも見られない位置はなさそうだ。
「わざわざ遠くで出て、こっち来るってのもなぁ」
「……なるほど。バケモンばっかり見過ぎて普通の感覚を忘れていましたよ」
「バケモン言うな」
「そういえば荒凪くんとか来てた~?」
「バケモンで思い出すな。母さんにしか会ってないよ」
「アキくんも来てないの? ふーん……まぁそっかぁ、文化祭ならともかく体育祭はそんな来ないよねぇ、小学生でもあるまいし」
「来てない親の方が多いですしね」
「しゅーの親も来てないの~?」
「……えぇ、こういうのに来る方ではないので」
シュカは笑顔で返事をしているが、だからこそヒヤヒヤする。親の話題は可能な限り避けてやりたい。
「文化祭! 何があるんだろうな」
「クラスごとに出店と……文化部もそれぞれ展示だとかをするはずですよ。水月は実行委員になるはずですから、一足先に内容を知れるでしょうね」
「へぇー、楽しみ」
無理矢理に話題を変えたことは不自然に思われていなさそうだ。安堵に胸を撫で下ろし、談笑を続けた。
「だん、す……てん、くん……はしっ、て……ぐ、だね……だ、じょぶ……かな」
「俺もそれちょっと気になってる」
「中距離って一番微妙なんだよね~、ペース配分よく分かんなくって~、走りにく~い」
「バテますよね」
俺も同意見だ。長距離は最後まで温存しておけばいいし、短距離は最初から全力を出せばいい。だが、中距離はどちらの作戦も通じない、当然だ、短距離でも長距離でもないのだから。中距離専用の作戦を立てればいい? 全くその通りだ、それが出来れば苦労はしない。
「りゅー応援したげたいけど、そろそろ行かなきゃかな~……入場門の奥並んでちゃ、トラックよく見えないよね~」
「だな。誰か撮ってないかな? カンナのお父さんとか……」
「分か、な……けど、撮ら、な……と、思……よ」
「やっぱり?」
息子の友達の個人競技を撮影する父親なんて、まず居ないだろう。
「みっつん撮ってたフユさんの親戚は~?」
正直、体育祭の全てを撮影していたとしても違和感はない。
「あの人達なら撮ってるかもな、ネザメさんに頼めば上映会開いてもらえるかも」
「で、も……ぼく、と……てん、く…………にに、さんきゃ……した、時……は、なに、も……言って、こな……った、よ」
「みっつん時は水月様とか言ってたよね~? そっかみっつんだけ撮ってるのか」
「え、なんで?」
「そりゃーザメさんが後から見返すためっしょ」
使用人に恋人を撮らせる御曹司って、どうよ。ちょっと嫌だが、体育祭の全てを記録しているよりそちらの方が確率が高そうだ。
「リュウを見る手段はないのか……いや、待て。母さんそこに居たよな。ちょっと頼んでくる!」
「えっちょ、みっつん!」
「すぐ戻るからー!」
中距離走はまだ始まってもいない。今ならまだ間に合う。俺は父兄観覧席に急ぎ、母を探した。目立つ髪や服装をしている訳でもないのに彼女はその美しさのあまりあっさり見つかった。
「あら水月、どうしたの? 水筒おかわり持ってきてるわよ、もちろん中身はスポドリ」
「ありがとう。ちょっと頼みがあってさ……次の中距離、リュウが走るんだけど俺次の準備しなきゃで見れなくてさ、でも見たいから撮っておいて欲しいんだけど」
「いいわよ別に。リュウって金髪の子よね? 目立つ子で助かるわ。スマホしか持ってきてないから本格的なのは撮れないわよ」
「母さんの最新機種じゃん……それよりいいカメラなんかもうプロ用だよ。それじゃ、俺もう戻らなきゃ……ありがとう母さん!」
ちょうど退場行進中だった三年生に紛れてクラス席に戻った。
「おかえりみっつーん」
「……何で水筒持ってるんです?」
「母さんにもらった。おかわりだってさ、朝持たされたのまだあるけど」
「流石みっつんママ優し~」
朝から持っていた水筒から水分補給。新しく渡された水筒は隣に置いた。
「そろそろ並ばないとな。行こうか」
「とる……の、たの……め、た?」
「ん? あぁ、頼めたよ。後で一緒に見ようか」
「ぅんっ」
カンナもリュウの中距離走を見たかったようだ、嬉しそうに見える。
「あ~緊張するぅ~……リレーでバトン受け取る直前より緊張する! 上手く出来るかな~」
「……コンちゃん、コンちゃん、居るよね?」
ミタマは姿を現さないが、耳のすぐ後ろで鈴の音が鳴った。返事と考えていいだろう。
「ダンス……上手く踊れますように!」
手を合わせて祈る。再び鈴の音が鳴った、祈りが通じたんだ。俺の実力以上のダンスは当然出来ないが、俺の実力の範囲内で最高のダンスが出来るはずだ。
「あっ、俺も俺も、コンちゃん俺も!」
ハルがパンパンと手を叩き、祈る。その隣でシュカもこっそり手を合わせ、釣られてカンナも手を合わせた。
「……これリュウだけ失敗しそうじゃないか?」
「ホントだ、めっちゃ目立っちゃうじゃん。代わりにお願いってしといていいのかな」
「やっとくか。コンちゃん、リュウも上手くダンス出来ますように」
鈴の音が鳴った。
「アキが怪我した時とか、治りが早くなるよう俺が頼んだりもしたし……みんないつも俺の無事を祈ってくれてるんだろ?」
「はい」
「えっ、あ、うん! 毎晩してるよ~」
してないな。
「だから他人のことをお願いしても普通に叶うと思うよ」
「なるほど~」
「……分野さん出てこないんですね。勝手に出てきてベラベラ説明始めそうに思いますけど」
「人混みだからな、せめて物陰とかあれば出てくるかもだけど」
周囲にあるのは人ばかり。無から出現するところを誰にも見られない位置はなさそうだ。
「わざわざ遠くで出て、こっち来るってのもなぁ」
「……なるほど。バケモンばっかり見過ぎて普通の感覚を忘れていましたよ」
「バケモン言うな」
「そういえば荒凪くんとか来てた~?」
「バケモンで思い出すな。母さんにしか会ってないよ」
「アキくんも来てないの? ふーん……まぁそっかぁ、文化祭ならともかく体育祭はそんな来ないよねぇ、小学生でもあるまいし」
「来てない親の方が多いですしね」
「しゅーの親も来てないの~?」
「……えぇ、こういうのに来る方ではないので」
シュカは笑顔で返事をしているが、だからこそヒヤヒヤする。親の話題は可能な限り避けてやりたい。
「文化祭! 何があるんだろうな」
「クラスごとに出店と……文化部もそれぞれ展示だとかをするはずですよ。水月は実行委員になるはずですから、一足先に内容を知れるでしょうね」
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