2,206 / 2,300
隠す気もない敗北感 (〃)
しおりを挟む
美味しく夕飯を食べ終えたら、次はケーキだ。小さなホールケーキには可愛らしいウサギの形をした砂糖菓子が置かれ、チョコのプレートにはカンナの誕生日を祝う言葉がチョコペンで書かれていた。
「ロウソク何本も刺すのアレだから数字のヤツ買ってきたぞ」
1と6の形をしたロウソクがケーキに立てられる。ロウソクに火を灯し、電灯を消し、誕生日を祝う歌を歌う。カンナが火を吹き消したら拍手をして、電灯を点けた。まぁ、至って普通の誕生日パーティの流れだな。
「ぁ、り……がと。おとぉさん……みぃ、くん」
はにかむカンナにまた見とれる。俺の視線がなかなか外れないと気付くとカンナは頬を赤らめ、俯いた。その仕草も可愛くて、ますます目が離せなくなる。
「よし、じゃあ切るぞ。おめでとうチョコプレートとウサギさんはカンナのな」
カンナの皿にチョコのプレートとウサギ型の砂糖菓子が移される。父親は包丁を持ち、慎重にケーキを四等分にした。
「四つにするんですね」
「あぁ、いつもこうしてる。残りは明日の朝ご飯なんだ。な、カンナ」
「ぅん……二日、けぇき……食べれ、るの」
「へぇー……あ、じゃあ俺の分って明日のお義父さんの朝食分ですか? すいませんねなんか……」
「いやいや、そんなに甘いの好きじゃないから……お前こっそりお義父さんって呼ぶな!」
「カ、カンナさんの! カンナさんのお父さんって意味ですよぉ!」
何故バレたんだ、ちくしょう。
渡されたフォークでケーキを食べ進める。カンナは先にイチゴを食べるタイプかぁ、なんて思いながら。
(いやぁカンナたんを観察しながら食べるとよりおいぴーですな)
カンナは美味しいものを食べると僅かに口角を上げる。今もそうだ。控えめな彼は他の彼氏達のように大きな反応は見せてくれないけれど、とても素直に気持ちを表現する。
(ホント可愛い……)
人間の感情が一番よく分かるのは目だという。けれどカンナの目元は普段一切見えない。なのに彼の気持ちが分かる、微細な表情の変化から読み取れる。それは俺に自信を与えてくれる、恋人のことをよく見ているいい彼氏だと思わせてくれる。
「…………はぁ」
カンナは俺をイケメン扱いしてくれるし、いい彼氏だと思わせてくれる。気分がいい、楽しい、心地いい……そんなふうに彼の隣に居る幸せに浸っていると、不意に父親がため息をついた。
「ど、した……の? おとぉ、さん」
「ん……あぁ、悪いな、ケーキ食べてる最中にため息なんか……」
「……どぉ、したの?」
「いや…………水月くんがな、ずっとカンナ見つめて……なんか、嬉しそうにしてるから」
ある程度表情は誤魔化していたはずだし、凝視していた訳でもないはずなのに……親の観察眼って子供関連だとすごいんだな。
「本当にカンナのこと好きなんだろうなぁって……こんないい恋人出来て、父親としちゃ嬉しいんだが……なんか敗北感あるし、ちょっと寂しいし……あぁもう複雑だクソ」
「…………みぃ、くん……かれ、し」
「知ってるよ改めて言うなちくしょう!」
「おとぉ、さんは……おとぉさん、なのに……勝ち負け、とか……ないのに、なんで……おとぉ、さ……みぃくん、負けた、て……おも……の?」
「土俵が違うのは分かってるよ、でもカンナを愛してるのは一緒だろ? 愛情の種類が違ってもな」
「おとぉ、さん……ぼく、いっぱい……ぁ、あい……して、くれてる…………からっ、負けとか……ない、よ」
「……そうか、負けてないかぁ……それはよかった」
微笑む父親の目はどこか悲しげだった。息子の成長を寂しがる親のものというより、自分の不甲斐なさを悔いるような、そんな雰囲気があった。
ケーキを食べ終えた後、残りの一切れをタッパーに入れて冷蔵庫に収めたら、俺は皿洗いを手伝った。カンナにはカミアのライブを見るためテレビのセッティングをしてくれと電源ボタンを押すだけの仕事を託している。
「……なぁ、水月くん」
「はいっ、何でしょう?」
「カンナはああ言ってくれたけどな……あぁ、お父さん負けてないってヤツな。愛情深さで……ふふ、カンナがあんなこと言うとはなぁ」
親子関係が良好で微笑ましい。俺の彼氏には家族との関係が上手くいっていない子が多いからな、父親しか居ないとはいえ平穏な家庭は癒しだ。
「そう……カンナは負けていないと言ってくれたけどな、俺は君に負けてるんだよ。とっくの前に」
「……それは、カンナさんの顔を見れないって件ですか?」
「あぁ、俺にはカンナの素顔を愛でるなんてとても出来ない。吐き気がする……見てられないんだ。触るなんてとても……だから、真にあの子の全てを愛しているのは君だ」
「…………俺は当時を知りません。カンナさんがどれだけ痛がったのか、治療の過程で何があったのか、残った傷跡によってどんな目に遭ったのか……ふんわり聞いたり想像したり、その程度で……実際に経験したあなたとは違う。だから傷跡を見られるんです、あなたみたいに辛い思い出はないから」
「水月くん……」
「あなたが素顔を見られないのは、今までカンナさんをイジメてきたようなヤツらの「気持ち悪い」なんて浅い感覚じゃないでしょう? カンナさんのこと愛してるからこそ見られないんだ、だからやっぱりあなたは俺なんかに負けてません」
「…………本当にいい男だな、君は」
「俺火傷跡に興奮する変態ってだけですし」
「涙引っ込んだわふざけんなお前」
「ならよかった、笑顔でカミアさんのライブ見ましょ」
「……はぁ。いい男だよやっぱり……カンナは幸せ者だな」
「そうしてみせます、俺がそうしてもらってるのでお返ししないと」
皿も包丁も洗い終えた。濡れた手を拭ったらカンナの隣へ。テレビの前にはローテーブル、その回りにはへたったクッション。テレビの正面に座ったカンナはクッションを一つ、自分の真隣に移動させていた。
「俺ここでいいのかな?」
「ぅんっ……」
クッションの上へ腰を下ろすとカンナは俺の腕に抱きつく。少し離れた位置に座った父親の視線なんて、彼には全く気にならないようだった。
「ロウソク何本も刺すのアレだから数字のヤツ買ってきたぞ」
1と6の形をしたロウソクがケーキに立てられる。ロウソクに火を灯し、電灯を消し、誕生日を祝う歌を歌う。カンナが火を吹き消したら拍手をして、電灯を点けた。まぁ、至って普通の誕生日パーティの流れだな。
「ぁ、り……がと。おとぉさん……みぃ、くん」
はにかむカンナにまた見とれる。俺の視線がなかなか外れないと気付くとカンナは頬を赤らめ、俯いた。その仕草も可愛くて、ますます目が離せなくなる。
「よし、じゃあ切るぞ。おめでとうチョコプレートとウサギさんはカンナのな」
カンナの皿にチョコのプレートとウサギ型の砂糖菓子が移される。父親は包丁を持ち、慎重にケーキを四等分にした。
「四つにするんですね」
「あぁ、いつもこうしてる。残りは明日の朝ご飯なんだ。な、カンナ」
「ぅん……二日、けぇき……食べれ、るの」
「へぇー……あ、じゃあ俺の分って明日のお義父さんの朝食分ですか? すいませんねなんか……」
「いやいや、そんなに甘いの好きじゃないから……お前こっそりお義父さんって呼ぶな!」
「カ、カンナさんの! カンナさんのお父さんって意味ですよぉ!」
何故バレたんだ、ちくしょう。
渡されたフォークでケーキを食べ進める。カンナは先にイチゴを食べるタイプかぁ、なんて思いながら。
(いやぁカンナたんを観察しながら食べるとよりおいぴーですな)
カンナは美味しいものを食べると僅かに口角を上げる。今もそうだ。控えめな彼は他の彼氏達のように大きな反応は見せてくれないけれど、とても素直に気持ちを表現する。
(ホント可愛い……)
人間の感情が一番よく分かるのは目だという。けれどカンナの目元は普段一切見えない。なのに彼の気持ちが分かる、微細な表情の変化から読み取れる。それは俺に自信を与えてくれる、恋人のことをよく見ているいい彼氏だと思わせてくれる。
「…………はぁ」
カンナは俺をイケメン扱いしてくれるし、いい彼氏だと思わせてくれる。気分がいい、楽しい、心地いい……そんなふうに彼の隣に居る幸せに浸っていると、不意に父親がため息をついた。
「ど、した……の? おとぉ、さん」
「ん……あぁ、悪いな、ケーキ食べてる最中にため息なんか……」
「……どぉ、したの?」
「いや…………水月くんがな、ずっとカンナ見つめて……なんか、嬉しそうにしてるから」
ある程度表情は誤魔化していたはずだし、凝視していた訳でもないはずなのに……親の観察眼って子供関連だとすごいんだな。
「本当にカンナのこと好きなんだろうなぁって……こんないい恋人出来て、父親としちゃ嬉しいんだが……なんか敗北感あるし、ちょっと寂しいし……あぁもう複雑だクソ」
「…………みぃ、くん……かれ、し」
「知ってるよ改めて言うなちくしょう!」
「おとぉ、さんは……おとぉさん、なのに……勝ち負け、とか……ないのに、なんで……おとぉ、さ……みぃくん、負けた、て……おも……の?」
「土俵が違うのは分かってるよ、でもカンナを愛してるのは一緒だろ? 愛情の種類が違ってもな」
「おとぉ、さん……ぼく、いっぱい……ぁ、あい……して、くれてる…………からっ、負けとか……ない、よ」
「……そうか、負けてないかぁ……それはよかった」
微笑む父親の目はどこか悲しげだった。息子の成長を寂しがる親のものというより、自分の不甲斐なさを悔いるような、そんな雰囲気があった。
ケーキを食べ終えた後、残りの一切れをタッパーに入れて冷蔵庫に収めたら、俺は皿洗いを手伝った。カンナにはカミアのライブを見るためテレビのセッティングをしてくれと電源ボタンを押すだけの仕事を託している。
「……なぁ、水月くん」
「はいっ、何でしょう?」
「カンナはああ言ってくれたけどな……あぁ、お父さん負けてないってヤツな。愛情深さで……ふふ、カンナがあんなこと言うとはなぁ」
親子関係が良好で微笑ましい。俺の彼氏には家族との関係が上手くいっていない子が多いからな、父親しか居ないとはいえ平穏な家庭は癒しだ。
「そう……カンナは負けていないと言ってくれたけどな、俺は君に負けてるんだよ。とっくの前に」
「……それは、カンナさんの顔を見れないって件ですか?」
「あぁ、俺にはカンナの素顔を愛でるなんてとても出来ない。吐き気がする……見てられないんだ。触るなんてとても……だから、真にあの子の全てを愛しているのは君だ」
「…………俺は当時を知りません。カンナさんがどれだけ痛がったのか、治療の過程で何があったのか、残った傷跡によってどんな目に遭ったのか……ふんわり聞いたり想像したり、その程度で……実際に経験したあなたとは違う。だから傷跡を見られるんです、あなたみたいに辛い思い出はないから」
「水月くん……」
「あなたが素顔を見られないのは、今までカンナさんをイジメてきたようなヤツらの「気持ち悪い」なんて浅い感覚じゃないでしょう? カンナさんのこと愛してるからこそ見られないんだ、だからやっぱりあなたは俺なんかに負けてません」
「…………本当にいい男だな、君は」
「俺火傷跡に興奮する変態ってだけですし」
「涙引っ込んだわふざけんなお前」
「ならよかった、笑顔でカミアさんのライブ見ましょ」
「……はぁ。いい男だよやっぱり……カンナは幸せ者だな」
「そうしてみせます、俺がそうしてもらってるのでお返ししないと」
皿も包丁も洗い終えた。濡れた手を拭ったらカンナの隣へ。テレビの前にはローテーブル、その回りにはへたったクッション。テレビの正面に座ったカンナはクッションを一つ、自分の真隣に移動させていた。
「俺ここでいいのかな?」
「ぅんっ……」
クッションの上へ腰を下ろすとカンナは俺の腕に抱きつく。少し離れた位置に座った父親の視線なんて、彼には全く気にならないようだった。
27
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ビッチです!誤解しないでください!
モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃
「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」
「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」
「大丈夫か?あんな噂気にするな」
「晃ほど清純な男はいないというのに」
「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」
噂じゃなくて事実ですけど!!!??
俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生……
魔性の男で申し訳ない笑
めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!
目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる