冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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無口な時雨くん (水月+カンナ・リュウ)

一悶着あったが、不良は結局席に着いた。疲れた顔の教師は諸注意やプリント配布などを滞りなく進めていく。

(不良を飼い慣らすのは定番ですからな、彼も攻略対象ですぞ。一発目にしますかな~)

プリントを眺めるフリをしながら不機嫌そうな不良を見つめていると、メカクレ無口の時雨しぐれが視線に割り込んできた。

「…………?」

「時雨? なんだ?」

「…………」

自分から話題になっておいて何も言わないのはどうかと思う。

「よーし、これでだいたい説明は終わりだ。校則はよく読んでおけよ、特に天正てんしょう! ピアス、後で取りに来いよ」

「今返せやドロボー!」

逃げ回っていたのはピアス没収の攻防戦だったのか。それにしてもこの名門校にあんな分かりやすい不良が居るとはな、アレで意外と頭がよかったり?

「…………」

なんか時雨が見つめてくる。いや、前髪で目が隠れているから実際の視線は分からないけれど。

「……時雨? なんだ?」

さっきも同じこと言ったな。メカクレなせいで瞳の表情が読めないし、意思疎通は困難そうだ。

「…………っ」

首を横に振ってそっぽを向いてしまった。一体何なんだ。
困惑しているとチャイムが鳴る。今日は授業はない、入学式が終わったらもう解散、自宅へ帰還。

「ふーっ……ん?」

帰りの挨拶を終えて伸びをし、鞄を持ってさぁ出発というところで裾を掴まれた。萌え仕草にときめきつつ振り返ればメカクレ時雨。引っ張ったくせに俯いている。

「時雨……? 一緒に帰るか?」

「…………!」

時雨はコクコクと頷いている。丸くカットされたメカクレヘアーが揺れている。

(なんか見てきたり一緒に下校したがったり……これまさか、普通に好かれた感じですかな? まぁ今のわたくしは超絶美形ですから仕方な……いやマジで!? えっ……え? どうしよ、どうしよ……ゲーム、BLゲーの攻め様はこういう時、えっと……)

心は騒ぎまくっていたが顔には出さず、目がありそうな位置を見つめる。

「俺、電車乗るけど……時雨は?」

「…………」

頷いた。なるほど、選択肢をYESかNOにしてやれば意思疎通は楽──なんで同級生と話すのにそんな気遣いが必要なんだ。いや落ち着け、彼は同級生であり攻略対象、攻略対象にはゲロ甘対応が基本だ。

「高校入学不安だったけど、時雨と仲良くなれてよかったよ」

無数のゲームと妄想で培った好感度上げテクニックはリアルでも通用するだろうか、メカクレ無口な時雨相手じゃ分からない。せめて俯いていなければ頬の紅潮を判断材料に出来るのだが、彼はずっと俯いている。

「…………」

駅に着く。学校最寄りの駅はかなり大きく、いつも人でごった返している。これから毎日この駅を使うのかと憂鬱になっていると時雨がまた服の裾を掴んできた。

「時雨、なんだ?」

時雨は俺に隠れるような仕草を──まさか人混みが嫌なのか?

「……はぐれないように手繋いどくか?」

「…………!」

時雨は服の裾を離し、俺の手を両手でぎゅっと握る。キュンときた、平静を装わなければ。

「えーっと、時雨はどこの駅で降りるんだ?」

「…………」

それは言ってもらわないと困るのだが──ま、着いたら勝手に下りるだろう。とりあえず乗るか。

「混んでるな……」

まだ肌寒い季節だというのに混雑した車内は暑苦しい。時雨は扉を背にし、俺はその前に立った。まだ手は繋いでいる。

「暑いな……わっ! ぁ……わ、悪い時雨。ごめんな」

発車してから三駅目を過ぎたあたり、カーブでよろけて時雨の顔の横に手を着いてしまった。いわゆる壁ドンだ、手を繋いだままもう片方の手で壁ドン……結構いいシチュじゃないか?

「ぁ……」

ん? 声? 声出た? こっち向いてる?

「悪い、ちょっと近いけど……もうちょい我慢してくれ」

至近距離で微笑みを喰らえ。

「…………!」

時雨は半分も見えていない顔を真っ赤にして俯いた。ルート入ったな、楽に落とせそうだ。

「ぁ、つ……り、る……」

「ん? 時雨、何か言ったか?」

口をパクパクさせているが、ほとんど声が出ていない。時雨の攻略には読唇術が必須スキルとか言わないよな?

「つ、ぎっ……ぉ……」

「……次の駅で降りるのか?」

時雨はものすごい勢いで首を縦に振る。次に開くのは時雨がもたれているドアのはずだ、体重をかけているのは危ないかもしれない。

「ちょっと手離してくれるか? 服掴んでいいから」

両手で包まれていた手に自由が戻る。俺は時雨を抱き寄せ、壁ドンをしてしまっていた手でドア横の手すりを掴んだ。

「……っ!? ぁ、ぅっ……!」

「時雨、ほら歩いて」

人混みに押されて俺まで外に出てしまう。時雨はゆでダコのように顔を赤くしていたので近くのベンチに座らせた。

「大丈夫か? 体調悪いか?」

鈍感を装って気遣いながらも俺は「俺に照れているのだ」と確信していた。

「…………!」

「平気なのか? じゃ、俺はそろそろ……」

「…………っ!?」

電車に戻ろうとすると裾を掴まれ、乗ろうとしていた電車は走り去った。

「……なんだ? 時雨」

「…………」

時雨は何も言わない。このままでは次の電車も乗り過ごしてしまいそうだ。可愛らしいし攻略を続けたいが、今日は宅配便が来るのだ。

「俺、そろそろ帰らなきゃ……時雨も気を付けて帰れよ」

頭をぽんと撫でてみる。丸っこくて可愛らしいからずっと触ってみたかっ──手を払われた。

(痛……ぇ、何、嫌だった? え……そんな思い切り叩かなくてもよくない?)

じんと痛む手首を見つめて困惑していると、今度はその手を握られた。

「ご、めっ……ち、ぁ…………め、さ……」

時雨はかなり慌てている様子だ。絞り出している声はよく聞こえないが「ごめんなさい」と言ってるように見えた。

「……頭触られるの嫌いなのか? ごめんな」

「手……たぃ、ご……な、さっ……」

「手を叩いてごめんなさい? いや、俺が悪かった。ごめんな、許してくれ」

時雨の手は微かに震えている。俺の手を払ったのは咄嗟の行動だったのだろう、単純な好き嫌いではなさそうだ。

「時雨が気にすることは何もないよ。手には触ってていいんだよな?」

ベンチに座っている時雨の前に屈む。

「……っ!?」

時雨の右手の甲に唇をちゅっと触れさせた。

「お詫びとさよならの挨拶を兼ねて。それじゃ、また明日な」

小っ恥ずかしい行動に後から羞恥心が込み上げて、俺は逃げるように電車に乗った。
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