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硫酸男抱きつき事件 (〃)
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白昼堂々の凶行。犯行動機は意味不明。
当時人気を博していた双子ユニットの熱狂的なファンは、可愛い彼らと一つになりたいと考えた。それは強姦などという話ではなく、硫酸を使って溶け合うという常人の理解の及ばない話だ。
「硫酸をかけ、抱きついて…………カンナちゃん、犯人ともに重傷……カミアちゃんは、カンナちゃんに突き飛ばされ、軽傷……」
淡々と書かれた新聞を読んだだけでも吐き気を催す事件だ。
「ぼくは……」
全身の血の気が引くという言葉を感覚で理解した俺に、カンナは事件のその後を語った。
「顔が、だめに……なって、アイドル……出来なく、なった。お母さん……ぼく、気持ち悪いって、りこんして、カミアだけ連れてって、カミアは小六になって、しばらくしたら別の事務所から、出てきた」
カミアの方がいい、カンナはいらない、カンナを捨てる……泣きじゃくっていたカンナの言葉の意味が理解出来た。
「カミアは、小六になった後も、こっそりぼくとお父さんに会いに来てた。でも、お母さんに……バレて、怒られて……お父さんはぼくが何されるか分からないって、遠くに、ここに、引っ越した」
開けっ放しだった扉からウサギが入ってくる。ウサギは真っ直ぐにカンナの元へ跳び、カンナはウサギを膝に乗せて撫でた。
「ぷぅ太は、カミアがくれた。ぺっと、せらぴーとか……言ってた」
「……ぷぅ太って付けたのはカミアなんだな?」
カンナはこくりと頷き、ウサギを優しく抱き締めた。
「ぷぅ太は、うさぎ。うさぎは、人間の顔なんて、分かんない。お父さん……優しい、けど……ぼくの顔は、見たくないみたい。でも……ぷぅ太は、顔見せても、怖がらないし……気持ち、悪がらない。ぷぅ太……だけ」
ウサギを可愛がるその手つきを見ていると、俺は何故か拒絶された気分になった。
「みぃくん……みぃくん、ぼくに、話しかけて、くれた。ぼくに……優しく、してくれて、好きって、言ってくれて…………ぼく、みぃくん、大好き」
「カンナ……! 嬉しいよ」
「ぼく……めんどくさい。すぐ、泣くし……話も、しにくい」
「そこが可愛いんじゃないか、カンナ。それはカンナの魅力だよ」
会話が難しい小さな声が、嫉妬深くてすぐに泣き出す面倒臭さが、俺は本当に可愛く思うんだ。
「カミアは……いいこ。めんど、じゃない。泣かない……話、上手」
「……比べなくていいんだよ、カンナ」
「ぼく……髪、ない。背中も、気持ち悪い。顔も、気持ち悪い。気持ち悪い……ぼく、気持ち悪いの。みぃくん、気持ち悪くなるから……」
ウサギの背中が濡れていく。気付いていないのか気にしていないのか、無反応なウサギに変わってカンナの両頬を撫でる。
「火傷、あるのか? 硫酸かけられた跡が…………そうか。カンナ、俺はそんなことで可愛い彼氏を気持ち悪がったりしないよ。俺がそんな男だと思うか?」
「思い、たくな……ない、から…………期待、させないで」
「…………カンナ、俺は、俺は本当に」
「分かったからっ! みぃくんが、ぼくのこと好きって、想ってくれてるって、分かった! すて、る、きだ……なんてっ、二度と、言わない…………だから、も……この話、おわり。ぼくは、服脱ぐの嫌で、髪に触られるの嫌いな、顔知らない、彼氏。それ、だけに……して」
俺が火傷跡を見て気持ち悪がる未来を思い描いて不安になっているのか。同時にもしかしたら大丈夫かもしれないとも期待していて、その期待に賭けて火傷跡を見せてしまうかもしれないから、今の話をなかったことにしたいのか。
(カンナたそが見せたくないならそれでいいとは思うんですが、わだかまり残すのも嫌ですぞ……カンナたその全裸見たいですし、ゲスですが硫酸かけられたらどうなるのかってクソ好奇心もありますぞ……)
このまま元の関係に戻ったフリも出来る。でも、そうしたらいつか関係が破綻しそうな気もする。なら俺は俺を信じる。
「カンナ、見せてくれ」
「……っ!? なん、で……」
「好きな人の顔が見たいと思うのは、そんなにいけないことかな。それに……カンナも本当は俺に見せてみたいんだろ、俺を試したいんだろ? その試験越えないと、なんか本当の彼氏になれない気がするんだよな。カンナが心開ききってくれてない気がする」
まぁ、事件について話してくれただけでもかなり心を開いている証拠だとは思うけど。
「みぃくん……やく、そく、して? カミアと……あく、しゅ……す、時……歌、褒めて……あげ、て?」
気持ち悪いと言うな、別れるな、そう言いたいんじゃないのか?
「……分かった。褒めるよ」
カンナは薄く微笑み、髪を外した。医療用ウィッグという代物らしく、かなり精巧に作られていたため頭皮がずる剥けたのかと一瞬怯えた。
「………………ど、う? こわい……? ぼく、おばけ? ぞんび……?」
髪も眉毛も睫毛もない、頬骨から上は焼け爛れて皮膚が歪な凹凸を作っており、綺麗な眼球とのギャップがあった。頭皮が全て焼けたわけではないようで、ところどころに短く刈られた髪が見えた。
(え……これ……普通にイケる。ガチで見たら流石にドン引きするかもなーと思ってましたが、わたくしのスカーフェイス萌えの業の深さは並ではありませんでしたな)
ホラーゲームのクリーチャーに居そうな見た目だ。だが、だからといって別にどうということもない。正直怖いし気持ち悪い、でも萌える。萌えてしまう。不謹慎ながら萌えが大勝利を収めている。
「触っていいか? 痛くないよな?」
「へっ? ぁ……う、ん……痛くは、ない……けど。みぃくん、なんで……触れるの……」
もち肌と焼け爛れた肌の曖昧な境目を辿り、カンナの顔を少し持ち上げる。カンナは目を潤ませて頬を緩め、それからきゅっと目を閉じて口を突き出した。
「……愛してるよ、カンナ」
ぷるんとした唇の誘惑に耐え、醜く爛れた額に舌を這わせた。
当時人気を博していた双子ユニットの熱狂的なファンは、可愛い彼らと一つになりたいと考えた。それは強姦などという話ではなく、硫酸を使って溶け合うという常人の理解の及ばない話だ。
「硫酸をかけ、抱きついて…………カンナちゃん、犯人ともに重傷……カミアちゃんは、カンナちゃんに突き飛ばされ、軽傷……」
淡々と書かれた新聞を読んだだけでも吐き気を催す事件だ。
「ぼくは……」
全身の血の気が引くという言葉を感覚で理解した俺に、カンナは事件のその後を語った。
「顔が、だめに……なって、アイドル……出来なく、なった。お母さん……ぼく、気持ち悪いって、りこんして、カミアだけ連れてって、カミアは小六になって、しばらくしたら別の事務所から、出てきた」
カミアの方がいい、カンナはいらない、カンナを捨てる……泣きじゃくっていたカンナの言葉の意味が理解出来た。
「カミアは、小六になった後も、こっそりぼくとお父さんに会いに来てた。でも、お母さんに……バレて、怒られて……お父さんはぼくが何されるか分からないって、遠くに、ここに、引っ越した」
開けっ放しだった扉からウサギが入ってくる。ウサギは真っ直ぐにカンナの元へ跳び、カンナはウサギを膝に乗せて撫でた。
「ぷぅ太は、カミアがくれた。ぺっと、せらぴーとか……言ってた」
「……ぷぅ太って付けたのはカミアなんだな?」
カンナはこくりと頷き、ウサギを優しく抱き締めた。
「ぷぅ太は、うさぎ。うさぎは、人間の顔なんて、分かんない。お父さん……優しい、けど……ぼくの顔は、見たくないみたい。でも……ぷぅ太は、顔見せても、怖がらないし……気持ち、悪がらない。ぷぅ太……だけ」
ウサギを可愛がるその手つきを見ていると、俺は何故か拒絶された気分になった。
「みぃくん……みぃくん、ぼくに、話しかけて、くれた。ぼくに……優しく、してくれて、好きって、言ってくれて…………ぼく、みぃくん、大好き」
「カンナ……! 嬉しいよ」
「ぼく……めんどくさい。すぐ、泣くし……話も、しにくい」
「そこが可愛いんじゃないか、カンナ。それはカンナの魅力だよ」
会話が難しい小さな声が、嫉妬深くてすぐに泣き出す面倒臭さが、俺は本当に可愛く思うんだ。
「カミアは……いいこ。めんど、じゃない。泣かない……話、上手」
「……比べなくていいんだよ、カンナ」
「ぼく……髪、ない。背中も、気持ち悪い。顔も、気持ち悪い。気持ち悪い……ぼく、気持ち悪いの。みぃくん、気持ち悪くなるから……」
ウサギの背中が濡れていく。気付いていないのか気にしていないのか、無反応なウサギに変わってカンナの両頬を撫でる。
「火傷、あるのか? 硫酸かけられた跡が…………そうか。カンナ、俺はそんなことで可愛い彼氏を気持ち悪がったりしないよ。俺がそんな男だと思うか?」
「思い、たくな……ない、から…………期待、させないで」
「…………カンナ、俺は、俺は本当に」
「分かったからっ! みぃくんが、ぼくのこと好きって、想ってくれてるって、分かった! すて、る、きだ……なんてっ、二度と、言わない…………だから、も……この話、おわり。ぼくは、服脱ぐの嫌で、髪に触られるの嫌いな、顔知らない、彼氏。それ、だけに……して」
俺が火傷跡を見て気持ち悪がる未来を思い描いて不安になっているのか。同時にもしかしたら大丈夫かもしれないとも期待していて、その期待に賭けて火傷跡を見せてしまうかもしれないから、今の話をなかったことにしたいのか。
(カンナたそが見せたくないならそれでいいとは思うんですが、わだかまり残すのも嫌ですぞ……カンナたその全裸見たいですし、ゲスですが硫酸かけられたらどうなるのかってクソ好奇心もありますぞ……)
このまま元の関係に戻ったフリも出来る。でも、そうしたらいつか関係が破綻しそうな気もする。なら俺は俺を信じる。
「カンナ、見せてくれ」
「……っ!? なん、で……」
「好きな人の顔が見たいと思うのは、そんなにいけないことかな。それに……カンナも本当は俺に見せてみたいんだろ、俺を試したいんだろ? その試験越えないと、なんか本当の彼氏になれない気がするんだよな。カンナが心開ききってくれてない気がする」
まぁ、事件について話してくれただけでもかなり心を開いている証拠だとは思うけど。
「みぃくん……やく、そく、して? カミアと……あく、しゅ……す、時……歌、褒めて……あげ、て?」
気持ち悪いと言うな、別れるな、そう言いたいんじゃないのか?
「……分かった。褒めるよ」
カンナは薄く微笑み、髪を外した。医療用ウィッグという代物らしく、かなり精巧に作られていたため頭皮がずる剥けたのかと一瞬怯えた。
「………………ど、う? こわい……? ぼく、おばけ? ぞんび……?」
髪も眉毛も睫毛もない、頬骨から上は焼け爛れて皮膚が歪な凹凸を作っており、綺麗な眼球とのギャップがあった。頭皮が全て焼けたわけではないようで、ところどころに短く刈られた髪が見えた。
(え……これ……普通にイケる。ガチで見たら流石にドン引きするかもなーと思ってましたが、わたくしのスカーフェイス萌えの業の深さは並ではありませんでしたな)
ホラーゲームのクリーチャーに居そうな見た目だ。だが、だからといって別にどうということもない。正直怖いし気持ち悪い、でも萌える。萌えてしまう。不謹慎ながら萌えが大勝利を収めている。
「触っていいか? 痛くないよな?」
「へっ? ぁ……う、ん……痛くは、ない……けど。みぃくん、なんで……触れるの……」
もち肌と焼け爛れた肌の曖昧な境目を辿り、カンナの顔を少し持ち上げる。カンナは目を潤ませて頬を緩め、それからきゅっと目を閉じて口を突き出した。
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