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女の声がする
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彼氏達はそれぞれの家の最寄り駅で降りていく。俺は次第に人が減っていく寂しさを誤魔化すように微笑み、最後まで会話を楽しんだ。
「ほなまた明日……ぁ、せや、明日は太いのん持ってきてくれるんやんな?」
「あぁ、それの一段階大きいヤツだ。それも入れてこいよ? 回収するから」
「しぐあたりに再利用するん?」
「まぁ……そうだな。あんまり気にするなよそんなこと」
「へへへ、せやな。ま、楽しみにしとるわ。ほななー」
レイと二人でリュウに手を振り、電車が去ったら改札へと向かう。
「レイは今日バイトあるのか?」
「はいっす。事故った歌見せんぱいの代わりの配達あるんすよ、結構多くて…せんぱいと一緒に帰れないかもっす」
「もし遅くなるようなら仕事終わった後で家に来てくれ、それも無理そうならプレゼントはまた今度でもいいけど」
「今日いくっす! すぐ終わらせるっすよ!」
あまり急いで歌見の二の舞にならないようにと注意し、共にバイト先の本屋へ。俺の業務はいつも通り品出しと在庫チェックだ。
「そちらのシリーズは出版社を移りまして……はい、ご案内させていただきます」
あと、たまに客からの質問に答えたり。
俺がバイトを終えてもレイはまだ戻っていなかった。自宅での待ち合わせを提案したし、この本屋で待っていなくてもいいだろう。
「……あ、もしもし歌見先輩? 鳴雷です」
今日も通い妻をしようかと電話をかけてみる。しかし、電話に出たのは先輩ではなかった。
『もしもしー? あに……歌見は今レポート中です。何か用ですかー?』
女の声だ。
『おい、お前に出ろと言った覚えはないぞ。耳に当てろと言ったんだ』
『耳に……? 当ててるけど』
『俺の耳に当てろと言ったんだ! 俺への電話なんだから! ったく。で? 誰からの電話だ』
『えっ、なんだっけ、なるはや?』
『はぁ……もう寄越せ』
頭の悪そうな女の声に困惑して往来で立ち止まってしまった。ハーレムを作っている俺が言えたことではないが、浮気だとしたらすごく嫌だ。
『……もしもし、鳴雷……ぁ、いや、水月か。どうしたんだ?』
声色が違う。さっきの方が少し乱暴だった。あの女の前では素を出せるということだろうか。
『兄貴ー、なんで廊下で電話すんの?』
『追いかけてくるな! お前に聞かれたくないから離れたんだ!』
『大声出さないでよ! やっと寝たのに!』
『お前の方が大声だろ! ぁ、水月、すまない……見苦しい、いや、聞き苦しいものを聞かせたな。妹が子連れで来てるんだ』
妹……そういえば高校中退した妹が居て、しかも相手には逃げられたから実家は修羅場だとか言ってたな。
『騒がしくて悪い。それで水月、何か用か?』
「ぁ……その、今日も……夕飯作りに行こうかと思ってたんですけど……ダメですか?」
『えっ……ほ、本当か? 是非っ……いや、無理だな。クソっ、愚妹が…………悪い、しばらく遠慮させてくれ』
「……はい」
『はぁ……残念だ、怪我が治る前にあのバカが帰ればいいんだが』
「料理くらいいつでも振る舞いますし、あーんもいつでもやりますよ」
歌見の家に行けないのは残念だが、浮気でなかったのは一安心だ。
『本当か? でも妹は出来るだけ早く追い出すよ』
「あはは……ま、仲良くしてください。それじゃ……」
『待て! 水月、その』
「……先輩? なんですか?」
「ぁ、いや、その……ぁ、愛し、てる…………っ、じゃあまたな!」
言い慣れていないと分かりやすい言い方、照れ隠しの切断、大学生らしからぬウブさにニヤニヤ笑いが止まらない。浮気だろうかなんて落ち込んでいたのがバカらしくなってきた。
(いやぁ完全陥落ですな。さてさてタチたと信じてるだろうパイセンにどうやってネコだと分からせるか……考えるだけで勃ちますなぁ!)
スキップ混じりに靴屋に寄り、用事を済ませて帰路に着いた。
「ただいまですぞママ上~」
夕飯を作っている母に帰宅を告げるとお玉で頭を叩かれた。
「話し方」
「痛た……あのママ上、今日バイト先で作った彼氏が家に来るかもなんですが、よろしい?」
「はぁ? 買い物前に言いなさいよそういうのは。二人分しか買ってないわよ。何、泊まるの?」
「それは分かりませんぞ」
家に上がってくれるかどうかも怪しい。条例違反の年齢差なのだから、レイは保護者を警戒するべきだ。
「連絡先は知ってるわよね? なら聞いときなさい、泊まるかどうか……あと、夕飯は自分で買ってきなさいって言っといて。キッチン貸すくらいはしたげるから」
「了解ですぞ~ぁ痛っ! フライ返し縦はいけませんぞ!」
ハリセンに持ち替えるのが面倒臭いからって調理器具で雑に殴らないで欲しい。頭をさすりつつ部屋に戻り、レイにメッセージを送り、私服に着替えた。
「……うむ。レイどののファッションに寄せたオーバーサイズパーカーとタイトパンツは……ガタイがいいヤツがやると微妙ですな。半袖シャツに普通のスラックスで隙を見せつつ雄オーラを増やしますぞ」
結局、普段着になってしまった。レイならどんな格好でも喜んでくれそうだからこそ、オシャレな服を見せたかったのにな。
「はぁ……ファッションセンスが十五分くらいで身に付く動画とかないものですかな」
ボヤきつつ夕飯の完成を待っているとレイからの返信があった。
『お言葉に甘えさせていただきます』
『承知しました』
泊まるかどうか、夕飯は自分で調達して欲しい、そんな内容の二つのメッセージへの返信は堅苦しいものだった。
「……普段あんなめちゃくちゃな敬語使ってるくせに」
妙なところで歳上らしさを感じてしまった。
「ほなまた明日……ぁ、せや、明日は太いのん持ってきてくれるんやんな?」
「あぁ、それの一段階大きいヤツだ。それも入れてこいよ? 回収するから」
「しぐあたりに再利用するん?」
「まぁ……そうだな。あんまり気にするなよそんなこと」
「へへへ、せやな。ま、楽しみにしとるわ。ほななー」
レイと二人でリュウに手を振り、電車が去ったら改札へと向かう。
「レイは今日バイトあるのか?」
「はいっす。事故った歌見せんぱいの代わりの配達あるんすよ、結構多くて…せんぱいと一緒に帰れないかもっす」
「もし遅くなるようなら仕事終わった後で家に来てくれ、それも無理そうならプレゼントはまた今度でもいいけど」
「今日いくっす! すぐ終わらせるっすよ!」
あまり急いで歌見の二の舞にならないようにと注意し、共にバイト先の本屋へ。俺の業務はいつも通り品出しと在庫チェックだ。
「そちらのシリーズは出版社を移りまして……はい、ご案内させていただきます」
あと、たまに客からの質問に答えたり。
俺がバイトを終えてもレイはまだ戻っていなかった。自宅での待ち合わせを提案したし、この本屋で待っていなくてもいいだろう。
「……あ、もしもし歌見先輩? 鳴雷です」
今日も通い妻をしようかと電話をかけてみる。しかし、電話に出たのは先輩ではなかった。
『もしもしー? あに……歌見は今レポート中です。何か用ですかー?』
女の声だ。
『おい、お前に出ろと言った覚えはないぞ。耳に当てろと言ったんだ』
『耳に……? 当ててるけど』
『俺の耳に当てろと言ったんだ! 俺への電話なんだから! ったく。で? 誰からの電話だ』
『えっ、なんだっけ、なるはや?』
『はぁ……もう寄越せ』
頭の悪そうな女の声に困惑して往来で立ち止まってしまった。ハーレムを作っている俺が言えたことではないが、浮気だとしたらすごく嫌だ。
『……もしもし、鳴雷……ぁ、いや、水月か。どうしたんだ?』
声色が違う。さっきの方が少し乱暴だった。あの女の前では素を出せるということだろうか。
『兄貴ー、なんで廊下で電話すんの?』
『追いかけてくるな! お前に聞かれたくないから離れたんだ!』
『大声出さないでよ! やっと寝たのに!』
『お前の方が大声だろ! ぁ、水月、すまない……見苦しい、いや、聞き苦しいものを聞かせたな。妹が子連れで来てるんだ』
妹……そういえば高校中退した妹が居て、しかも相手には逃げられたから実家は修羅場だとか言ってたな。
『騒がしくて悪い。それで水月、何か用か?』
「ぁ……その、今日も……夕飯作りに行こうかと思ってたんですけど……ダメですか?」
『えっ……ほ、本当か? 是非っ……いや、無理だな。クソっ、愚妹が…………悪い、しばらく遠慮させてくれ』
「……はい」
『はぁ……残念だ、怪我が治る前にあのバカが帰ればいいんだが』
「料理くらいいつでも振る舞いますし、あーんもいつでもやりますよ」
歌見の家に行けないのは残念だが、浮気でなかったのは一安心だ。
『本当か? でも妹は出来るだけ早く追い出すよ』
「あはは……ま、仲良くしてください。それじゃ……」
『待て! 水月、その』
「……先輩? なんですか?」
「ぁ、いや、その……ぁ、愛し、てる…………っ、じゃあまたな!」
言い慣れていないと分かりやすい言い方、照れ隠しの切断、大学生らしからぬウブさにニヤニヤ笑いが止まらない。浮気だろうかなんて落ち込んでいたのがバカらしくなってきた。
(いやぁ完全陥落ですな。さてさてタチたと信じてるだろうパイセンにどうやってネコだと分からせるか……考えるだけで勃ちますなぁ!)
スキップ混じりに靴屋に寄り、用事を済ませて帰路に着いた。
「ただいまですぞママ上~」
夕飯を作っている母に帰宅を告げるとお玉で頭を叩かれた。
「話し方」
「痛た……あのママ上、今日バイト先で作った彼氏が家に来るかもなんですが、よろしい?」
「はぁ? 買い物前に言いなさいよそういうのは。二人分しか買ってないわよ。何、泊まるの?」
「それは分かりませんぞ」
家に上がってくれるかどうかも怪しい。条例違反の年齢差なのだから、レイは保護者を警戒するべきだ。
「連絡先は知ってるわよね? なら聞いときなさい、泊まるかどうか……あと、夕飯は自分で買ってきなさいって言っといて。キッチン貸すくらいはしたげるから」
「了解ですぞ~ぁ痛っ! フライ返し縦はいけませんぞ!」
ハリセンに持ち替えるのが面倒臭いからって調理器具で雑に殴らないで欲しい。頭をさすりつつ部屋に戻り、レイにメッセージを送り、私服に着替えた。
「……うむ。レイどののファッションに寄せたオーバーサイズパーカーとタイトパンツは……ガタイがいいヤツがやると微妙ですな。半袖シャツに普通のスラックスで隙を見せつつ雄オーラを増やしますぞ」
結局、普段着になってしまった。レイならどんな格好でも喜んでくれそうだからこそ、オシャレな服を見せたかったのにな。
「はぁ……ファッションセンスが十五分くらいで身に付く動画とかないものですかな」
ボヤきつつ夕飯の完成を待っているとレイからの返信があった。
『お言葉に甘えさせていただきます』
『承知しました』
泊まるかどうか、夕飯は自分で調達して欲しい、そんな内容の二つのメッセージへの返信は堅苦しいものだった。
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