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意思疎通はぼんやりと
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すっかり目が慣れていたが、思えば勉強中に目が疲れるのが早かった。デスクライトでも置こうかな、そのくらいならアキも眩しがらないだろう。
「アキ、天ぷら来たぞ」
「にーに、ぁー……んー……? いって、らっしゃい……?」
「…………おかえり、かな?」
「……! おかえり!」
「ふふ、ありがと」
部屋を少し出た程度ではあまり「おかえり」だとかは使わないと思うのだが、可愛いから訂正はしないように──っと、付いているのは割り箸だな。フォークがあった方がいいだろうか。
「これお手拭き……手拭くやつな。アキ、お箸って……」
箸を使えるか聞こうとしたが、天ぷらが盛られた器を前にして十字を切る姿に見惚れて言葉が喉に留まった。
(何か歌みたいなの唱えて……あ、食前のお祈りですかな? カワヨ。なんだか神秘的……いいですなぁ、やりたいですな)
洋画だとかでは稀に見たが、生で見たのは初めてだ。オタク心と好奇心が沸き立ってじっとアキを見つめていると、見つめ返された。
《兄貴お祈りしねぇの? 日本って何教だっけ、お祈りねぇの?》
「ん? あ、いただきます」
《……それ? 短いな、いいなー楽そうで》
興味深そうに見つめていたから、俺にも食前の儀式を求めているのだろうという推測はおそらく当たっている。
「アキ、箸使えるか?」
《お、箸だ。たまに箸で食う飯出たんだよな、親父はスプーンで食ってたけど俺は使えるぜ。ってコレ棒じゃん》
割り箸を見つめている、やはり箸は使えないのだろうかと思いつつ自分の分を割ると、アキは目を輝かせて俺を見つめ、持っていた割り箸を渡してきた。
「……こうやって割って使うんだよ」
《すげぇ! これは家になかった。なるほどなー、太いと思ったんだよ》
「箸使えるのか?」
割った割り箸を渡すとアキは左手で箸を持った、正しいとされる持ち方をしている、母親に習っていたようだ。
(フォークはいらなさそうですな)
輪ゴムで止められた蓋を開け、まずレンコンの天ぷらを挟む。
《……え、机と椅子ナシ? このまま床で食うの? マジかよ……クソ、しょうがねぇな》
遅れてアキも天ぷらを食べ始める。ほのかに赤みが差した白い手は箸を普通に使っている、特に不自由はなさそうだ。
「アキ、つゆだけじゃなくて塩もあるぞ」
天つゆが入っているカップの蓋に塩を少量盛り、エビの天ぷらに塩をつけて食べてみる。
《つけるの二種類あんの?》
アキの使っているカップの蓋にも塩を盛って渡してやると、興味深そうな顔をしつつも食べた。
《こっちも美味い。塩か。汁の方は甘いけどこっちはしょっぱい。ヤバいなコレ、無限に食えるじゃん。ダメだぜ兄貴こんなもん、俺太りやすいんだからさ》
(めっちゃなんか言ってる……)
《塩だとサクサク感がずっとあるな。汁吸ってブヨっとすんの嫌だし塩のが好きかも。あーでも甘いのも欲しい。やっばめっちゃ美味い。フライのくせに後味さっぱりしてる》
(パクパク食べてますし、文句じゃありませんよな?)
何を言っているのかは全く分からないが、美味しそうな顔でもりもり食べる美少年は可愛すぎるのでよしとしよう。
食事を終えて器類を捨て、ウェットティッシュで手を拭き、それも捨てる。
《はー食った食った。美味かった。日本食っつったら米を棒にしたのしか食ったことなかったからさ、イマイチ期待してなかったけどイイのもあるじゃん》
「アキ、えっと……おいしい、だったか?」
「да! おしい、でした」
微妙だったって言ってる訳じゃなく、ちょっと「い」が足りないだけだよな?
「俺は勉強してるけど、何かあれば遠慮なく話しかけてくれていいからな」
翻訳アプリを使って伝え、勉強を再開する。一問解いた後にアキの様子を確認してみると、彼はイヤホンをしたまま体操のようなものをしていた、食後の運動だろうか。
(……アキきゅん結構足しっかりしてますよな)
足を大きく開き、片足ずつ曲げて左右順番に腰を下ろす屈伸のような動き……ラジオ体操でやったような覚えがある。
(生で見てないので何とも言えませんが、ズボン越しに見た感じ、あの肉付きは……筋肉そこそこありますな)
下衆な考えだが、足の肉付きがいい者は締まりもいい。身長差もいい感じだ、きっとアキは抱き心地がいい。
(どう口説きますかな……)
全く好意を伝えても伝えられてもいないのに、抱き心地だの何だのと考えている自分の気持ち悪さに笑えてくる。
(とりあえずテストが終わるまでは勉強に集中しますかな)
柔軟体操を始めたアキをじっくり見ていたいところだが、テストで平均点以上を取れば歌見の身体を自由に出来るという約束を思い出してやる気を出した。
夕飯は母が作ってくれて、アキは明るいダイニングにはサングラスをかけて現れた。四人で囲む食卓は新鮮なものだったが、案外と違和感なく楽しめた。
(……アキきゅん抱く抱くと心には決めてますが、実際無理ゲーですよな。種も胎も違うとはいえ卵は同じ、一応マジの弟ですし……近親相姦にあたりますよな。ま、子供がデキない男同士での近親相姦ってさほどタブーじゃない気もしますが。十何年も存在すら知らなかった訳ですし。ワンチャンはありますがワンチャンしかないんですよなー)
風呂上がり、歯を磨きながらボーッと考え込む。アキには来客用の歯ブラシを使ってもらっている。
(迫るのはもちろんモーションかけるのもリスク高いですな、この先一緒に暮らしていく訳ですからフラれたら気まずくてしゃーない)
歯磨きを終えて部屋に客用の布団を運び込む。海外ではあまり地べたに寝転がらないと聞くし、今日のところはアキにベッドを譲ろう。
「おやすみ、アキ」
ベッドで眠るよう翻訳アプリで伝えてから布団に座り、枕をぽふぽふ叩いているとアキが隣に膝立ちになった。
「アキ? 何だ?」
何か言いたいことでもあるのかとアキの目を見つめる。黒くない瞳孔はまだ見慣れない。
アキは自身の前で手を十字に動かした。
(就寝前にもするんですな)
信心深いのか、浅くてもこのくらいはやるのか、キリスト教に疎い俺には分からない。じっと見ているとアキは俺の肩に手を置き、前髪をめくって額にキスをした。
《……アンタは十字切ってりゃ適当に勘違いしちまうんだろ? キスし放題だ、ウケるな。日本人は宗教方面に疎くて助かるよ》
何か言ってる。お祈りの言葉かな? 家族も巻き込むものなんだな。
《あーぁ、兄貴にちょっかいかけたいからって祝福利用しちまった。冒涜的だね、懺悔しとこうかな。まぁ俺そもそも神様とか信じないタイプだし? 無神論者ってヤツだよ、クールだろ》
長いんだな……ま、その分アキの顔が間近で見られるからいいか。真剣に祈ってくれているだろうに性欲ばかり湧かせて申し訳ない。俺は罰当たりな人間だな。
「にーに……Спокойной ночи」
「ん、お祈り終わりか? おやすみ、アキ」
ベッドに向かうアキに緩く手を振り、寝転がり、微笑み合い、薄暗い部屋を真っ暗闇に落とした。普段なら街灯や月明かりが射し込むのだが、今日からは遮光カーテンによって本物の暗さが作られる。
少し、怖いな。
「アキ、天ぷら来たぞ」
「にーに、ぁー……んー……? いって、らっしゃい……?」
「…………おかえり、かな?」
「……! おかえり!」
「ふふ、ありがと」
部屋を少し出た程度ではあまり「おかえり」だとかは使わないと思うのだが、可愛いから訂正はしないように──っと、付いているのは割り箸だな。フォークがあった方がいいだろうか。
「これお手拭き……手拭くやつな。アキ、お箸って……」
箸を使えるか聞こうとしたが、天ぷらが盛られた器を前にして十字を切る姿に見惚れて言葉が喉に留まった。
(何か歌みたいなの唱えて……あ、食前のお祈りですかな? カワヨ。なんだか神秘的……いいですなぁ、やりたいですな)
洋画だとかでは稀に見たが、生で見たのは初めてだ。オタク心と好奇心が沸き立ってじっとアキを見つめていると、見つめ返された。
《兄貴お祈りしねぇの? 日本って何教だっけ、お祈りねぇの?》
「ん? あ、いただきます」
《……それ? 短いな、いいなー楽そうで》
興味深そうに見つめていたから、俺にも食前の儀式を求めているのだろうという推測はおそらく当たっている。
「アキ、箸使えるか?」
《お、箸だ。たまに箸で食う飯出たんだよな、親父はスプーンで食ってたけど俺は使えるぜ。ってコレ棒じゃん》
割り箸を見つめている、やはり箸は使えないのだろうかと思いつつ自分の分を割ると、アキは目を輝かせて俺を見つめ、持っていた割り箸を渡してきた。
「……こうやって割って使うんだよ」
《すげぇ! これは家になかった。なるほどなー、太いと思ったんだよ》
「箸使えるのか?」
割った割り箸を渡すとアキは左手で箸を持った、正しいとされる持ち方をしている、母親に習っていたようだ。
(フォークはいらなさそうですな)
輪ゴムで止められた蓋を開け、まずレンコンの天ぷらを挟む。
《……え、机と椅子ナシ? このまま床で食うの? マジかよ……クソ、しょうがねぇな》
遅れてアキも天ぷらを食べ始める。ほのかに赤みが差した白い手は箸を普通に使っている、特に不自由はなさそうだ。
「アキ、つゆだけじゃなくて塩もあるぞ」
天つゆが入っているカップの蓋に塩を少量盛り、エビの天ぷらに塩をつけて食べてみる。
《つけるの二種類あんの?》
アキの使っているカップの蓋にも塩を盛って渡してやると、興味深そうな顔をしつつも食べた。
《こっちも美味い。塩か。汁の方は甘いけどこっちはしょっぱい。ヤバいなコレ、無限に食えるじゃん。ダメだぜ兄貴こんなもん、俺太りやすいんだからさ》
(めっちゃなんか言ってる……)
《塩だとサクサク感がずっとあるな。汁吸ってブヨっとすんの嫌だし塩のが好きかも。あーでも甘いのも欲しい。やっばめっちゃ美味い。フライのくせに後味さっぱりしてる》
(パクパク食べてますし、文句じゃありませんよな?)
何を言っているのかは全く分からないが、美味しそうな顔でもりもり食べる美少年は可愛すぎるのでよしとしよう。
食事を終えて器類を捨て、ウェットティッシュで手を拭き、それも捨てる。
《はー食った食った。美味かった。日本食っつったら米を棒にしたのしか食ったことなかったからさ、イマイチ期待してなかったけどイイのもあるじゃん》
「アキ、えっと……おいしい、だったか?」
「да! おしい、でした」
微妙だったって言ってる訳じゃなく、ちょっと「い」が足りないだけだよな?
「俺は勉強してるけど、何かあれば遠慮なく話しかけてくれていいからな」
翻訳アプリを使って伝え、勉強を再開する。一問解いた後にアキの様子を確認してみると、彼はイヤホンをしたまま体操のようなものをしていた、食後の運動だろうか。
(……アキきゅん結構足しっかりしてますよな)
足を大きく開き、片足ずつ曲げて左右順番に腰を下ろす屈伸のような動き……ラジオ体操でやったような覚えがある。
(生で見てないので何とも言えませんが、ズボン越しに見た感じ、あの肉付きは……筋肉そこそこありますな)
下衆な考えだが、足の肉付きがいい者は締まりもいい。身長差もいい感じだ、きっとアキは抱き心地がいい。
(どう口説きますかな……)
全く好意を伝えても伝えられてもいないのに、抱き心地だの何だのと考えている自分の気持ち悪さに笑えてくる。
(とりあえずテストが終わるまでは勉強に集中しますかな)
柔軟体操を始めたアキをじっくり見ていたいところだが、テストで平均点以上を取れば歌見の身体を自由に出来るという約束を思い出してやる気を出した。
夕飯は母が作ってくれて、アキは明るいダイニングにはサングラスをかけて現れた。四人で囲む食卓は新鮮なものだったが、案外と違和感なく楽しめた。
(……アキきゅん抱く抱くと心には決めてますが、実際無理ゲーですよな。種も胎も違うとはいえ卵は同じ、一応マジの弟ですし……近親相姦にあたりますよな。ま、子供がデキない男同士での近親相姦ってさほどタブーじゃない気もしますが。十何年も存在すら知らなかった訳ですし。ワンチャンはありますがワンチャンしかないんですよなー)
風呂上がり、歯を磨きながらボーッと考え込む。アキには来客用の歯ブラシを使ってもらっている。
(迫るのはもちろんモーションかけるのもリスク高いですな、この先一緒に暮らしていく訳ですからフラれたら気まずくてしゃーない)
歯磨きを終えて部屋に客用の布団を運び込む。海外ではあまり地べたに寝転がらないと聞くし、今日のところはアキにベッドを譲ろう。
「おやすみ、アキ」
ベッドで眠るよう翻訳アプリで伝えてから布団に座り、枕をぽふぽふ叩いているとアキが隣に膝立ちになった。
「アキ? 何だ?」
何か言いたいことでもあるのかとアキの目を見つめる。黒くない瞳孔はまだ見慣れない。
アキは自身の前で手を十字に動かした。
(就寝前にもするんですな)
信心深いのか、浅くてもこのくらいはやるのか、キリスト教に疎い俺には分からない。じっと見ているとアキは俺の肩に手を置き、前髪をめくって額にキスをした。
《……アンタは十字切ってりゃ適当に勘違いしちまうんだろ? キスし放題だ、ウケるな。日本人は宗教方面に疎くて助かるよ》
何か言ってる。お祈りの言葉かな? 家族も巻き込むものなんだな。
《あーぁ、兄貴にちょっかいかけたいからって祝福利用しちまった。冒涜的だね、懺悔しとこうかな。まぁ俺そもそも神様とか信じないタイプだし? 無神論者ってヤツだよ、クールだろ》
長いんだな……ま、その分アキの顔が間近で見られるからいいか。真剣に祈ってくれているだろうに性欲ばかり湧かせて申し訳ない。俺は罰当たりな人間だな。
「にーに……Спокойной ночи」
「ん、お祈り終わりか? おやすみ、アキ」
ベッドに向かうアキに緩く手を振り、寝転がり、微笑み合い、薄暗い部屋を真っ暗闇に落とした。普段なら街灯や月明かりが射し込むのだが、今日からは遮光カーテンによって本物の暗さが作られる。
少し、怖いな。
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