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隣町は治安が悪い
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レイと共に電車に乗った。水曜日の昼間は人が少ない、席に座ってのんびり過ごそう。
「隣町か……治安悪いんだよな?」
「表通りだけならそうでもないっすよ」
「レイの元カレの縄張りなんだよな、フードちゃんと被っとけよ。怖かったら行かなくてもいいんだぞ?」
「俺もカラオケ行きたいっすよ。多分探されてないっすし、くーちゃんカラオケとか行かないんではち合わせとか絶対ないっす」
俺が気にしているほどレイは気にしていないようだ。あまり言って思い出させるのもダメだなと、元カレとは違う魅力を演出する方法を考えているとレイが焦った様子で俺の太腿を叩いた。
「せんぱいせんぱいせんぱい……!」
「な、なんだなんだ、どうした」
「やばいっすよマジやばいっす、グルチャ開いてくださいっす!」
スマホ片手に顔面蒼白なレイを見て焦り、言われた通りにメッセージアプリからグループチャットを開いた。
『助けて』『財布盗られた』『天くん行っちゃった』『どうしよう』『早く来て』『助けて』
ウサギのアイコン……カンナだ。カンナが焦っている。
『カンナ、落ち着いて話してくれ。何があったんだ?』
『駅でぶつかって怒られて財布盗られた』
『天くんが話つけてくるって行っちゃった』
『一緒に行こうとしたら待ってろって言われた』
送られた三つの文を読むとレイは深いため息をついて俺を見つめた。
「カツアゲされて、リュウせんぱいが取り返しに行っちゃった感じっすね……やばいっすよ。とりあえずトロそうなカンナせんぱいがウロウロしてないのはぎょーこーってヤツっす」
「そんな……早く行かなきゃ」
「もう着くっすよ。カンナせんぱいの居場所聞いとくっす」
電車が止まって扉が開くまでの数分がまるで永遠のようにも思えた。扉が開いたらすぐに駆け出し、駅の近くのベンチに座って泣いているカンナを見つけ、その前に屈んだ。
「カンナ! カンナ、大丈夫か?」
「み、くんっ……!? みぃくんっ、みぃくん……! こ、こわ、こわかった……」
「カンナ……怪我はないな?」
頷いたのを確認して安堵のため息をつき、改めてカンナを強く抱き締める。
「リュウせんぱいはどこ行ったんすか? せんぱい、これマジでやばいんすよ。ここはくーちゃんの縄張りっすけど、くーちゃんはあんまり縄張りとか好きじゃなくてくーちゃんの手下のフッ軽イカレ三人組が管理してるんす。その三人組の手下がカツアゲしただけならいいんすよ、リュウせんぱいがちょっと痛い思いするかもしれないっすけど」
「リュウが……そんなの全然よくない! 早く見つけないと!」
「待つっす、俺の話聞くっすよ! くーちゃんの方ならまだマシなんす。問題は、この縄張りを狙ってる隣町の……せんぱいの町の半グレと繋がってるグループのヤツがカツアゲしてた場合なんすよ。くーちゃんは手下がやられてもお礼参りとかしないっすけど、半グレの方はどんどん上が出てくるっす。本当に早くリュウせんぱい止めないと……リュウせんぱい、どうなるか分かんないっす。半グレってカタギ的にはヤクザより厄介なんすよ」
「どうなるかって、そんな……カンナ、リュウはどっちに行ったんだ?」
レイの今の話を聞いてカンナの涙の粒は大きくなっていた。彼が震えながら指した方には当然リュウの姿は見えない。
「電話かけながら探してみる。レイはここでカンナ見ててくれ」
「な、何言ってんすか! 俺の話聞いてたっすか!?」
「聞いてたからだ! 早く行かなきゃいけないけど、カンナもお前も……ちっちゃいし細いし、ダメだろ。十分したらリュウ見つけてなくてもとりあえずメッセージ送る、なかったらもう通報してくれ」
「嫌っす! ダメっすよせんぱい、行かせないっすよ!」
「……ごめん」
レイの手を振りほどき、リュウに電話をかけながらカンナが指した方へと走る。裏通りに行くべきかと唾を飲み、今の俺の身長と体格なら見た目だけで脅しになってすぐには殴りかかってこないはずだと自分を鼓舞し、リュウの顔を思い浮かべて足の震えを止めた。
「リュウ……リュウ、どこに…………あっ、も、もしもし!? リュウ!? 今どこに居るんだ!」
かけ続けていた電話が繋がった。安堵六割、不安二割、焦り二割で返事を待つ。
『…………形州か?』
知らない声が知らない名前を言った。安堵が消え去り、怒りと恐怖が混じり合って六割を埋める。
「は? 誰だお前、それはリュウのスマホだろ。拾ってくれて……とかじゃないよな」
『形州、お前の可愛いハニーは去年の冬にホームレスが凍死してたビルで待ってるぞ。一人で、手ブラで来い。分かったな』
電話が切れた。何もかも分からない、情けないが一旦レイに指示を仰ごう。
「せんぱい! おかえりなさいっす、リュウせんぱい居たっすか?」
「いや……電話に別のヤツが出てさ、変なこと言ってて」
俺は先程の電話を一言一句違わずにレイに伝えた。光のない目が見開かれ、すぐに手に覆われる。
「最悪っす……そういやリュウせんぱいって金髪で、イヤーカフとかつけてたっすよね。あぁ……もう、警察に行った方が……ゃ、警察来てんの分かったらリュウせんぱいに何されるか分かんないっすね」
「レイ? どういうことか分かったのか?」
「……形州って、くーちゃん……俺の元カレの名前っすよ。俺がそうだった通りくーちゃんの好みは金髪ピアスっすから、そんな感じのカッコしてるリュウせんぱいは多分半グレの下っ端野郎共にくーちゃんの今カレって勘違いされたっす」
「それで、まさか人質か? 嘘だろ! なんでそんなことに……俺達はカラオケしに来ただけだぞ、なんでそんな不良漫画みたいなのに巻き込まれなきゃいけないんだよ……!」
「去年の冬にホームレスが凍死……あったっすね、そんなビル。ちょっとした騒ぎになってたっす」
「場所分かるのか!? 教えてくれ、すぐに行く」
レイは躊躇うような仕草を見せた。
「大丈夫だ! その元カレとリュウが関係ないって俺が説明する、俺の彼氏だって言う、ついでに俺の財布でも渡せば見逃してくれるはず……」
「そんなので大丈夫なワケないじゃないっすか! ダメっす、今度こそ行かせないっす、教えないっすよ。俺はリュウせんぱいよりずっとせんぱいの方が大事なんす!」
「大丈夫だから教えてくれ!」
「せんぱいみたいな温室育ちの甘ちゃんの何をどう大丈夫だって思えばいいんんすか!?」
喧嘩にならないようにするという主張は真っ向から否定され、勝ってみせるというでまかせは信じられない。どう説得しようかと悩み、焦っているとレイの肩を叩く者が居た。
「私なら大丈夫です、天正さんの居場所を教えてください」
落ち着いた低い声が混乱した頭に水をかけた。
「隣町か……治安悪いんだよな?」
「表通りだけならそうでもないっすよ」
「レイの元カレの縄張りなんだよな、フードちゃんと被っとけよ。怖かったら行かなくてもいいんだぞ?」
「俺もカラオケ行きたいっすよ。多分探されてないっすし、くーちゃんカラオケとか行かないんではち合わせとか絶対ないっす」
俺が気にしているほどレイは気にしていないようだ。あまり言って思い出させるのもダメだなと、元カレとは違う魅力を演出する方法を考えているとレイが焦った様子で俺の太腿を叩いた。
「せんぱいせんぱいせんぱい……!」
「な、なんだなんだ、どうした」
「やばいっすよマジやばいっす、グルチャ開いてくださいっす!」
スマホ片手に顔面蒼白なレイを見て焦り、言われた通りにメッセージアプリからグループチャットを開いた。
『助けて』『財布盗られた』『天くん行っちゃった』『どうしよう』『早く来て』『助けて』
ウサギのアイコン……カンナだ。カンナが焦っている。
『カンナ、落ち着いて話してくれ。何があったんだ?』
『駅でぶつかって怒られて財布盗られた』
『天くんが話つけてくるって行っちゃった』
『一緒に行こうとしたら待ってろって言われた』
送られた三つの文を読むとレイは深いため息をついて俺を見つめた。
「カツアゲされて、リュウせんぱいが取り返しに行っちゃった感じっすね……やばいっすよ。とりあえずトロそうなカンナせんぱいがウロウロしてないのはぎょーこーってヤツっす」
「そんな……早く行かなきゃ」
「もう着くっすよ。カンナせんぱいの居場所聞いとくっす」
電車が止まって扉が開くまでの数分がまるで永遠のようにも思えた。扉が開いたらすぐに駆け出し、駅の近くのベンチに座って泣いているカンナを見つけ、その前に屈んだ。
「カンナ! カンナ、大丈夫か?」
「み、くんっ……!? みぃくんっ、みぃくん……! こ、こわ、こわかった……」
「カンナ……怪我はないな?」
頷いたのを確認して安堵のため息をつき、改めてカンナを強く抱き締める。
「リュウせんぱいはどこ行ったんすか? せんぱい、これマジでやばいんすよ。ここはくーちゃんの縄張りっすけど、くーちゃんはあんまり縄張りとか好きじゃなくてくーちゃんの手下のフッ軽イカレ三人組が管理してるんす。その三人組の手下がカツアゲしただけならいいんすよ、リュウせんぱいがちょっと痛い思いするかもしれないっすけど」
「リュウが……そんなの全然よくない! 早く見つけないと!」
「待つっす、俺の話聞くっすよ! くーちゃんの方ならまだマシなんす。問題は、この縄張りを狙ってる隣町の……せんぱいの町の半グレと繋がってるグループのヤツがカツアゲしてた場合なんすよ。くーちゃんは手下がやられてもお礼参りとかしないっすけど、半グレの方はどんどん上が出てくるっす。本当に早くリュウせんぱい止めないと……リュウせんぱい、どうなるか分かんないっす。半グレってカタギ的にはヤクザより厄介なんすよ」
「どうなるかって、そんな……カンナ、リュウはどっちに行ったんだ?」
レイの今の話を聞いてカンナの涙の粒は大きくなっていた。彼が震えながら指した方には当然リュウの姿は見えない。
「電話かけながら探してみる。レイはここでカンナ見ててくれ」
「な、何言ってんすか! 俺の話聞いてたっすか!?」
「聞いてたからだ! 早く行かなきゃいけないけど、カンナもお前も……ちっちゃいし細いし、ダメだろ。十分したらリュウ見つけてなくてもとりあえずメッセージ送る、なかったらもう通報してくれ」
「嫌っす! ダメっすよせんぱい、行かせないっすよ!」
「……ごめん」
レイの手を振りほどき、リュウに電話をかけながらカンナが指した方へと走る。裏通りに行くべきかと唾を飲み、今の俺の身長と体格なら見た目だけで脅しになってすぐには殴りかかってこないはずだと自分を鼓舞し、リュウの顔を思い浮かべて足の震えを止めた。
「リュウ……リュウ、どこに…………あっ、も、もしもし!? リュウ!? 今どこに居るんだ!」
かけ続けていた電話が繋がった。安堵六割、不安二割、焦り二割で返事を待つ。
『…………形州か?』
知らない声が知らない名前を言った。安堵が消え去り、怒りと恐怖が混じり合って六割を埋める。
「は? 誰だお前、それはリュウのスマホだろ。拾ってくれて……とかじゃないよな」
『形州、お前の可愛いハニーは去年の冬にホームレスが凍死してたビルで待ってるぞ。一人で、手ブラで来い。分かったな』
電話が切れた。何もかも分からない、情けないが一旦レイに指示を仰ごう。
「せんぱい! おかえりなさいっす、リュウせんぱい居たっすか?」
「いや……電話に別のヤツが出てさ、変なこと言ってて」
俺は先程の電話を一言一句違わずにレイに伝えた。光のない目が見開かれ、すぐに手に覆われる。
「最悪っす……そういやリュウせんぱいって金髪で、イヤーカフとかつけてたっすよね。あぁ……もう、警察に行った方が……ゃ、警察来てんの分かったらリュウせんぱいに何されるか分かんないっすね」
「レイ? どういうことか分かったのか?」
「……形州って、くーちゃん……俺の元カレの名前っすよ。俺がそうだった通りくーちゃんの好みは金髪ピアスっすから、そんな感じのカッコしてるリュウせんぱいは多分半グレの下っ端野郎共にくーちゃんの今カレって勘違いされたっす」
「それで、まさか人質か? 嘘だろ! なんでそんなことに……俺達はカラオケしに来ただけだぞ、なんでそんな不良漫画みたいなのに巻き込まれなきゃいけないんだよ……!」
「去年の冬にホームレスが凍死……あったっすね、そんなビル。ちょっとした騒ぎになってたっす」
「場所分かるのか!? 教えてくれ、すぐに行く」
レイは躊躇うような仕草を見せた。
「大丈夫だ! その元カレとリュウが関係ないって俺が説明する、俺の彼氏だって言う、ついでに俺の財布でも渡せば見逃してくれるはず……」
「そんなので大丈夫なワケないじゃないっすか! ダメっす、今度こそ行かせないっす、教えないっすよ。俺はリュウせんぱいよりずっとせんぱいの方が大事なんす!」
「大丈夫だから教えてくれ!」
「せんぱいみたいな温室育ちの甘ちゃんの何をどう大丈夫だって思えばいいんんすか!?」
喧嘩にならないようにするという主張は真っ向から否定され、勝ってみせるというでまかせは信じられない。どう説得しようかと悩み、焦っているとレイの肩を叩く者が居た。
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