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分離不安症
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空っぽになったゼリーの容器を病室に置いてあるゴミ箱に捨て、セイカの口周りの包帯に黄色いシミが出来ているのを心の中で笑う。
「ごちそうさまだな、セイカ」
手を合わせて見せるとセイカは自身の手を見下ろした。
「手ぇ合わせるのに、一個足りない」
「声だけでいいんだよ。ご飯屋さん行ってレジでごちそうさまって言う時は俺も手ぇ合わせないよ」
「……そっか。ごちそうさま」
こんなにすんなり納得してくれたのは初めてだ。
いい調子だなとウキウキしながらベッド脇の椅子に再び腰を下ろすも、何を話していいか思い付かず黙り込んでしまった。
(家族の話は地雷……学校での出来事とか、いや、イジメられっ子にとってはそれも地雷。うむむむ)
悩み抜いた末、俺はセイカがキモオタデブスだった頃の俺と話していた時は楽しかったと昨日話していたことを思い出した。
「セイカ、あのさ、セイカは興味無いかもしれないんだけど聞いてくれ」
「……何?」
「星座について! オリオン座ってあるだろ? オリオンは狩人なんだけどな、ある日サソリに刺されて死んじゃったんだ。それで星座になったんだけど、なんとサソリも星座になってるんだよ! オリオンはサソリが苦手だから、同じ空には見えないんだ。ほら、オリオン座は冬のだけどサソリ座は夏の星座だろ? 他にもなー」
星座を元にした作品にハマった時に調べ倒した知識を披露する。あの楽しかった頃はこんな話をしていたはずだ、完璧超人だったセイカがあの時間を好んでいたなんて信じられないけれど、試す価値はある。
「星座はギリシャ神話ばっかりだけどな、日本神話も面白いぞ。結構下ネタが多くてなぁ、うんこネタもかなりあって」
日本神話を元にした作品にハマった時に調べ倒した知識を披露する。
「……ふふ」
「エジプト神話にBLみを感じてしまうエピソードがあってな!? まず兄弟神の説明から入るぞ」
「お前BL好きだよなぁ……」
「北欧神話はとにかくオタク心をくすぐるんだ! しかしフェンリルっていうクソデカ狼を縛ってる鎖の材料がなかなか摩訶不思議でございましてですね!」
「口調戻ってきてるぞー……ふふふ」
「窓に! 窓に! というのは日本では窓に怪物が! という意味ですが原語では怪物が来てるので窓から飛び降りるぜ! って意味でしてな!」
「元ネタ説明先に入れろよ~……ふふふふっ」
面会時間いっぱいまで様々な神話の個人的面白エピソードを話してやった。ずっと聞いているだけだったのにセイカはずっと嬉しそうに笑っていた。
(メンタルが弱ってる人は話を聞いてあげるといいとよく聞くのですが……これでよかったんでしょうか)
正解か不正解かはともかく、俺もセイカも楽しんだのは間違いない。
「……そろそろ帰らなきゃな。じゃあ、セイカ、また明日」
「え……? い、嫌だ! 待って、行かないで鳴雷っ!」
「可愛っ……!? ゃ、でも、そろそろ面会時間終わるし」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁっ! 行かないで、ここに居てくれよぉ!」
拘束されているセイカに俺を無理矢理引き止めることは出来ないけれど、涙は俺にとってどんな鎖よりも強い。
「分かった、分かったよ……もう少し居るから」
「ぅ……うっ……」
「…………俺、明日も来るぞ? ちゃんと来る、絶対来るよ」
「お、俺のこと……嫌いになって……やっぱ、嫌って」
「ならないよ、絶対ならない」
「な、んでっ……そんなこと、言えんの。俺、おれ……ひどいこといっぱいしてっ、今だって面倒くさくて……」
泣きじゃくるセイカは幼児のように見えて、俺を虐めていた暴力的で悪辣な男とは別人に思えた。
「大丈夫」
「なる、かみがぁっ……事故ったり、通り魔にあったり……する、かも……」
「それは……まぁ、否定しきれないけどさ」
「ここに、居たら……事故んない。通り魔も、来ない。隕石とか、飛行機とかっ、突っ込んできても……俺も、死ねる」
心中してもいいくらいに思われているのは嬉しい。
「どこにも行かないで……ここに、居てくれよ。一緒に居て……」
本当に別人のようだ。俺を虐めていた当時どころか、友人だった頃、なんなら昨日とも別人のように思えてきた。
「……抱き締めてもいいかな」
「え……? お、おれ、を? 鳴雷の好きに……ぁ、待って、触ったら嫌いになるかも……やっぱり」
ダメだ、とセイカが口に出す前に彼を抱き締めた。ベッドに拘束されている彼の背に腕を回すことは出来ないので、頭と首の後ろに手をやった。
「……ならなかったよ。好きなままだ、ううん、増した、大好きだよ」
「…………なんで? 俺の……何がいいの」
「可愛いところ。どこが可愛いとかは言葉にするの難しいけど、とにかく可愛いんだ」
「……俺が、思ってたのに……鳴雷、可愛げあるなって、何にも出来ないヤツだって、ずっと一緒に居てやらなきゃって…………全部、反対だった」
「じゃあ俺がセイカのメシア様になるのかな。救ってやるぞ~?」
俺のお気楽な発言が馬鹿らしくなったのか、セイカはくすっと笑ってくれた。その後すぐに泣き始めたけれど、あまりネガティブな雰囲気は感じなかった。
「包帯ぐしょぐしょ……ふふ、泣き虫になっちゃったな」
「…………」
「抱き締められるの……嫌、かな? 気持ち悪い……かな」
「……よく分かんない」
「痛くないか?」
「…………うん」
抱き締める力を少し強める。セイカは拘束されていることもあって抱き締め返したりはせず、じっとしている。
「一人で居ると、全部不安になって……色々痛くて、何もかも怖くて……」
「…………死にたくなる?」
「うん……だから、一人は嫌だ。こんな情けないこと言うのも嫌だけど……一人は、もっと嫌だ、嫌……一緒に居てくれ、鳴雷ぃ……」
キスをしてしまいたいけれど、まだ早いかな。俺に依存しているみたいだから大丈夫かな……なんて汚い思考も混じえつつ、恐る恐るセイカの顎に手を添えたその時、病室の扉が開かれた。
「あ、もう面会時間終わりですよ」
「……っ、すいません。すぐ帰ります」
「ぁ……い、嫌だっ、嫌だ鳴雷! 行かないで!」
「明日も来るから、な?」
セイカはぶんぶんと首を横に振り、拘束具をガチャガチャ鳴らす。俺としては泊まってやってもいいのだが、病院側は困るだろうし、朝になって学校に行こうとしたら同じように嫌がってキリがないだろうし……
「……後は私共で対応しますので」
「あ、大丈夫なんですか? じゃあ……」
「嫌だっ! 嫌……鳴雷っ、鳴雷ぃいっ!」
「ごめんな、また明日な」
セイカは拘束具のせいで俺を掴むことも出来ない。後ろ髪を引かれながらも俺はセイカの泣き叫ぶ声を聞きながら病室を後にした。
「ごちそうさまだな、セイカ」
手を合わせて見せるとセイカは自身の手を見下ろした。
「手ぇ合わせるのに、一個足りない」
「声だけでいいんだよ。ご飯屋さん行ってレジでごちそうさまって言う時は俺も手ぇ合わせないよ」
「……そっか。ごちそうさま」
こんなにすんなり納得してくれたのは初めてだ。
いい調子だなとウキウキしながらベッド脇の椅子に再び腰を下ろすも、何を話していいか思い付かず黙り込んでしまった。
(家族の話は地雷……学校での出来事とか、いや、イジメられっ子にとってはそれも地雷。うむむむ)
悩み抜いた末、俺はセイカがキモオタデブスだった頃の俺と話していた時は楽しかったと昨日話していたことを思い出した。
「セイカ、あのさ、セイカは興味無いかもしれないんだけど聞いてくれ」
「……何?」
「星座について! オリオン座ってあるだろ? オリオンは狩人なんだけどな、ある日サソリに刺されて死んじゃったんだ。それで星座になったんだけど、なんとサソリも星座になってるんだよ! オリオンはサソリが苦手だから、同じ空には見えないんだ。ほら、オリオン座は冬のだけどサソリ座は夏の星座だろ? 他にもなー」
星座を元にした作品にハマった時に調べ倒した知識を披露する。あの楽しかった頃はこんな話をしていたはずだ、完璧超人だったセイカがあの時間を好んでいたなんて信じられないけれど、試す価値はある。
「星座はギリシャ神話ばっかりだけどな、日本神話も面白いぞ。結構下ネタが多くてなぁ、うんこネタもかなりあって」
日本神話を元にした作品にハマった時に調べ倒した知識を披露する。
「……ふふ」
「エジプト神話にBLみを感じてしまうエピソードがあってな!? まず兄弟神の説明から入るぞ」
「お前BL好きだよなぁ……」
「北欧神話はとにかくオタク心をくすぐるんだ! しかしフェンリルっていうクソデカ狼を縛ってる鎖の材料がなかなか摩訶不思議でございましてですね!」
「口調戻ってきてるぞー……ふふふ」
「窓に! 窓に! というのは日本では窓に怪物が! という意味ですが原語では怪物が来てるので窓から飛び降りるぜ! って意味でしてな!」
「元ネタ説明先に入れろよ~……ふふふふっ」
面会時間いっぱいまで様々な神話の個人的面白エピソードを話してやった。ずっと聞いているだけだったのにセイカはずっと嬉しそうに笑っていた。
(メンタルが弱ってる人は話を聞いてあげるといいとよく聞くのですが……これでよかったんでしょうか)
正解か不正解かはともかく、俺もセイカも楽しんだのは間違いない。
「……そろそろ帰らなきゃな。じゃあ、セイカ、また明日」
「え……? い、嫌だ! 待って、行かないで鳴雷っ!」
「可愛っ……!? ゃ、でも、そろそろ面会時間終わるし」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁっ! 行かないで、ここに居てくれよぉ!」
拘束されているセイカに俺を無理矢理引き止めることは出来ないけれど、涙は俺にとってどんな鎖よりも強い。
「分かった、分かったよ……もう少し居るから」
「ぅ……うっ……」
「…………俺、明日も来るぞ? ちゃんと来る、絶対来るよ」
「お、俺のこと……嫌いになって……やっぱ、嫌って」
「ならないよ、絶対ならない」
「な、んでっ……そんなこと、言えんの。俺、おれ……ひどいこといっぱいしてっ、今だって面倒くさくて……」
泣きじゃくるセイカは幼児のように見えて、俺を虐めていた暴力的で悪辣な男とは別人に思えた。
「大丈夫」
「なる、かみがぁっ……事故ったり、通り魔にあったり……する、かも……」
「それは……まぁ、否定しきれないけどさ」
「ここに、居たら……事故んない。通り魔も、来ない。隕石とか、飛行機とかっ、突っ込んできても……俺も、死ねる」
心中してもいいくらいに思われているのは嬉しい。
「どこにも行かないで……ここに、居てくれよ。一緒に居て……」
本当に別人のようだ。俺を虐めていた当時どころか、友人だった頃、なんなら昨日とも別人のように思えてきた。
「……抱き締めてもいいかな」
「え……? お、おれ、を? 鳴雷の好きに……ぁ、待って、触ったら嫌いになるかも……やっぱり」
ダメだ、とセイカが口に出す前に彼を抱き締めた。ベッドに拘束されている彼の背に腕を回すことは出来ないので、頭と首の後ろに手をやった。
「……ならなかったよ。好きなままだ、ううん、増した、大好きだよ」
「…………なんで? 俺の……何がいいの」
「可愛いところ。どこが可愛いとかは言葉にするの難しいけど、とにかく可愛いんだ」
「……俺が、思ってたのに……鳴雷、可愛げあるなって、何にも出来ないヤツだって、ずっと一緒に居てやらなきゃって…………全部、反対だった」
「じゃあ俺がセイカのメシア様になるのかな。救ってやるぞ~?」
俺のお気楽な発言が馬鹿らしくなったのか、セイカはくすっと笑ってくれた。その後すぐに泣き始めたけれど、あまりネガティブな雰囲気は感じなかった。
「包帯ぐしょぐしょ……ふふ、泣き虫になっちゃったな」
「…………」
「抱き締められるの……嫌、かな? 気持ち悪い……かな」
「……よく分かんない」
「痛くないか?」
「…………うん」
抱き締める力を少し強める。セイカは拘束されていることもあって抱き締め返したりはせず、じっとしている。
「一人で居ると、全部不安になって……色々痛くて、何もかも怖くて……」
「…………死にたくなる?」
「うん……だから、一人は嫌だ。こんな情けないこと言うのも嫌だけど……一人は、もっと嫌だ、嫌……一緒に居てくれ、鳴雷ぃ……」
キスをしてしまいたいけれど、まだ早いかな。俺に依存しているみたいだから大丈夫かな……なんて汚い思考も混じえつつ、恐る恐るセイカの顎に手を添えたその時、病室の扉が開かれた。
「あ、もう面会時間終わりですよ」
「……っ、すいません。すぐ帰ります」
「ぁ……い、嫌だっ、嫌だ鳴雷! 行かないで!」
「明日も来るから、な?」
セイカはぶんぶんと首を横に振り、拘束具をガチャガチャ鳴らす。俺としては泊まってやってもいいのだが、病院側は困るだろうし、朝になって学校に行こうとしたら同じように嫌がってキリがないだろうし……
「……後は私共で対応しますので」
「あ、大丈夫なんですか? じゃあ……」
「嫌だっ! 嫌……鳴雷っ、鳴雷ぃいっ!」
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