冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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もう一人の彼氏

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十人の彼氏達と一人の暫定彼氏と共に美味しく楽しく朝食をいただいた。家庭的な彼氏を持って俺は幸せ者だ。

「水月、朝からしちゃいますか?」

皿などの片付けを終え、食後のコーヒーを嗜んだりニュースを眺めたりと皆が思い思いにまったりと過ごす中、シュカが左手で輪っかを作り右手人差し指をそこに突っ込むという下品な仕草を見せた。

「あー……魅力的なお誘いなんだけど、俺これから出かけるから……」

「えー!? 彼氏全員集まってんのにどこ行くの!?」

「ここに居たいのはやまやまなんだけど、お見舞い行かなきゃいけないからさ」

「飛び降りた人ですか? 熱心ですね」

当然と言えば当然だが、彼氏達の反応は芳しくない。この空気の中出かけるのは心苦しい。

「セイカに会えるのは土日だけだからな」

「えー、じゃあ何、今後一切休日デートは出来ませーんってこと~?」

「い、いや、セイカが退院すれば……」

「何さ~、連続でみっつんと居れる~って思って今日も予定空けてきたのにぃ~」

「……ごめんな?」

謝りながら頭を撫でてみるとハルはむくれ顔のまま頬を赤らめた。

「俺達行っちゃダメなんすか? 会ってみたいんすけど」

「あっ、そうだよ~、一緒に行きた~い! 紹介してよ紹介! 新しい彼氏出来たらまず俺達に紹介!」

「ごもっともなんだけど……ごめん! また今度な」

セイカはまだ不安定だし、彼氏が他にも居ることすら話していないから、ハルを連れて行くなんて出来やしない。

「僕も会ってみたいなぁ、君が通い詰めてぬいぐるみまで贈ったその子に……今日とは言わない、今日僕が会いたがっていることを話して、明日連れて行ってくれないかい?」

「あ、それいい~。さっすがザメさん」

「鳴雷一年生、ネザメ様の素晴らしいアイディアを活用するがいい」

「はぁ……まぁ、聞いてみますけど……嫌がったらダメですよ」

「嫌がるって何さ~、先輩に挨拶なしとかダメっしょ」

恋人歴ではなく知り合ってからならセイカの方が先輩と言えるのだが、まそれは言わないでおこう。中学時代のことは二人の秘密だ。

「……話してないとかじゃないよな? 俺の時みたいに」

「ま、まっさかぁ、言ってますよ」

歌見に顔を覗き込まれ、慌てて誤魔化す。明日彼氏達とセイカを会わせるかはともかく、今日こそ話すべきだろう。歌見の時のようにはしたくない。

「水月、こないな無茶聞かんでええで」

「はぁ~? なんで!」

「やいやい言うてまた飛び降りたらどないすんねん、自分責任取れんのか?」

「え……い、いや……嘘、そんなことしないっしょ。ねぇ、水月……」

「………………多分」

「歯切れ悪っ! 撤回撤回前言撤回! 俺しばらく会わなくていいや」

会わせるにしてもいきなり全員はダメだ。一番はリュウにすべきだろうか、心理学に明るそうなネザメ? 歳上で少し落ち着いている歌見? 飛び降り時に救助したということでアキ?

「優しゅうしたりや、水月」

「もちろん。あ、なぁ……リュウって説法とか出来ないか? 命大事にー、みたいな」

「説法すんのは坊さんやで、うちは神道や。そういうんは俺全然知らんしな。下手につつくと悪化すんで、医者に任せ」

「……そっか、分かった。じゃあ……行ってくる」

九人の彼氏達に見送られ、俺はセイカが入院している病院へ向かった。

「セーイカっ、来たぞ」

「あ……鳴雷、いらっしゃい……? 来てくれて嬉しい」

病室のベッドの上でセイカは本を読んでいた。小難しい物理の本だ、病院の共同スペースに置いてあったらしい。

「うわ、見ても全然分かんないや」

誕生日にくれた電話での様子がおかしかったから心配していたが、今のところ元気そうだ。一晩で落ち着いてくれたらしい。

「お前痩せても頭は相変わらず出来悪いままなんだな」

「そんな言い方しなくても……」

物理学なんてまだ習う気配すらない、俺の歳なら分からない方が普通だろう。セイカがすごいのだ。

「あっ……ご、ごめん、ごめんなさい、あの、ちが、ごめんなさい、ごめ……やなこと、言った。ごめんなさい……」

「あ……大丈夫大丈夫、気にしてないから、な? 泣かないでくれ、大丈夫、顔見せてくれ、俺はセイカの顔を見ていたいんだよ」

泣き出したセイカの頭を撫で、頬を撫で、唇を重ねた。やがてセイカは落ち着きを取り戻し、涙を止めた。

「入院中も勉強してるなんてセイカはえらいな」

「鳴雷もそう思うか? ありがと、でもまだ足りないんだよ。もっと頑張らなきゃ」

「……なんか目の下にクマ出来てるぞ? 前はなかっただろ、本読み過ぎなんじゃないか? 疲れたらちゃんと休まないと」

「は……? 何言ってんだよお前っ! 学校行けてないんだから余計に勉強しないと! 休んでる暇なんかある訳ないだろっ! そんな甘ったるい考え方してるからお前は成績悪いんだよ!」

中学に入ってすぐの頃、セイカが俺と仲良くしてくれていた頃、セイカはいつも俺に優しく接していたけれど、体調を崩した際に心配すると彼はいつもこんなふうに怒った。懐かしい。

「出来損ないに生きてる価値なんかないんだよ! 勉強出来ねぇバカに食わせる飯なんかねぇの! ペットみてぇに可愛がられるだけでぶくぶく太ったお前にゃ分かんねぇんだろうけどなぁ!」

俺はあの日のように謝りはせず、彼の頭を撫でた。

「……俺はセイカが勉強してなくても、出来なくても、好きだよ。元気に過ごして欲しい。そんな追い詰められたみたいな顔してるの見たら辛いよ」

喚いていたセイカは目を見開いてハッと息を飲み、目に涙を浮かべて俯いた。

「………………もう、嫌だ」

「セイカ、顔上げて……」

「……帰ってくれよ、もう来るな……俺なんか構うなよ、分かっただろ、お前が嫌がることしか言えねぇんだよ俺、俺みたいなクズの出来損ないさっさと捨てろよぉっ! なんで優しくするんだよっ……! どうしてっ……もぉっ、放っておいてくれよっ!」

先週は俺が来ただけで喜んでいたのに、俺に大事にされて嬉しいと笑ってくれたのに、今日は拒絶された。セイカの本音が分からない。放っておいてという絶叫は本音のように感じてしまう。

「…………ちょっと、買い物行ってくるよ」

セイカが何を考えているのかよく分からない、分からないことを考えるのに俺は疲れた。セイカは放っておいて欲しいみたいだし、俺もしばらく一人になりたい。コンビニにでも行って一人の時間をお互いに作ろう──そう思ってベッドから降り、扉へ向かう。

「ぁ……」

扉を開け、廊下に踏み出す。後ろ手に掴んだ扉を閉める。

「行かないで……」

引き戸が閉まる音に紛れてセイカの泣きそうな声が聞こえた。俺は病室から数歩離れて壁を殴ったが、その手は震えていてほとんど力が入っていなかった。
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