450 / 2,315
まるで別の生き物
しおりを挟む
面会時間が終わるまで五人でゆるゆると話し、笑顔で別れた。ネザメ達は俺達をマンションまで送って家に帰り、マンションに帰ると既にハル達は居なかった。
「おかえりなさいっすせんぱい、アキくん」
「ただいま、レイ。ハルとシュカはもう帰ったのか?」
「はいっす。ちゃんと一緒に帰ってったのでご心配なくっす」
治安の悪いこの町を一人で歩かせるのは不安だったので、それを聞けて安心した。
「あー……っと悪い、今日はスーパー寄ってないんだ。出前でいいか?」
「ならピザにしましょーっす、今キャンペーンやってるってチラシが入ってたんすよ。ちょっと待っててくださいっす。確かこの辺に置いて……」
夕飯の相談をし、投函されたチラシの話をする、まるで家族だ。いつか本当にそうなれたらいいなと願いつつ、レイを背後から抱き締めた。
「せ、せんぱい……?」
「重婚が認められる時代はまだかなぁ」
「それって……その、法律が許せば俺と結婚してくれるってことっすか?」
「うん……プロポーズしたい。あと二年待ってくれるか? 十八歳に……結婚できる歳になったら、ちゃんとプロポーズするから」
レイの腕をゆっくりと撫でていき、手の甲側からきゅっと手を握る。特に左薬指を意識させる握り方をする。
「ま……待ってるっす」
耳まで真っ赤にしたレイはそう呟き、震える右手でピザ屋のチラシを握り締めた。
月曜日の朝、俺はレイとアキと玄関で唇を重ねた。
「行ってらっしゃいっすせんぱい……可燃ごみよろしくっすー……ふわぁあ」
「行ってらっしゃい、です! にーに」
昨晩激しく抱いてやったレイは眠そうに欠伸をしている、俺が出たら二度寝するつもりだろう。アキは今日も元気そうだ。
「行ってきます!」
乗り慣れたエレベーターで一階に降り、ゴミ捨て場に向かう途中、聞き慣れないエンジン音を聞いた。ドッドッドッ……と威圧的なその音は、大きな黒いバイクから鳴っていた。
「あっ……」
バイクの横に立っていた大男と目が合う。タバコを吸っている彼はエサを奪われたモルモットのように硬直している俺の前までやってきた。
「…………しばらくだな、男前」
「お、おはようございますぅ~」
180センチ以上ある俺を子供のように見下ろす大男、目つきの悪い彼がレイの元カレだ。
「……お前ここに住んでるのか?」
「は、はい、まぁ、ご覧の通り。ここに最近越してきましたが」
ゴミ袋を揺らすと元カレは脇に避け、ゴミ捨て場までの動線を作ってくれた。ぺこぺこ頭を下げてゴミ捨て場へカサカサと移動する俺に、元カレは大股で着いてくる。
「…………お前、彼女居るのか?」
「へっ?」
「……お盛んなようで」
小馬鹿にしたように煙を吐く彼の視線はゴミ袋に──透明のゴミ袋から見えているコンビニで買ったコンドームの空箱に注がれていた。コンドームそのものの捨て方には気を遣っているが、箱は適当に捨てていた、まさか外から見える位置にあったなんて……恥ずかしい。
「あ、あの、あんまりジロジロ見ないでくださいよ」
「…………悪いな、目がいいもので」
「そ、それじゃ、俺はこれで……」
そそくさと去ろうとしたが、低い声の「待て」には肩を掴まれるより強制力があった。
「…………俺が探してる男もここに住んでるはずなんだが……お前、本当に見ていないんだな?」
「ま、前に……見せてくださった方ですよね、見てない……です」
「……もう一度見ろ、本当に見ていないんだな? 多少痩せたりしているかもしれない、本当に見ていないのか?」
突き出されたスマホに映る金髪時代のレイを見て、記憶を探る素振りを見せてから首を横に振った。
「………………そう、か」
心底残念そうに視線を下げた彼を見て少し胸が痛んだ。
「引っ越したとかはないですか? 俺が越してくる前に何人か抜けたっぽいですし、入れ替わり割とあるタイプのマンションらしいんで」
「…………俺に何も言わずに引っ越す訳がない。やはり……誰かに攫われて、監禁でもされているんだろう。早く見つけてやらないと……早く……」
自分が嫌われたとは一切考えないんだな。
「……俺のものを奪った奴は殺さないとな。あぁ……悪いな、長い間呼び止めて。駅まで送ろうか」
「い、いえ」
「…………遠慮するな、乗れ」
俺はこの日、生まれて初めてバイクに乗った──
──という朝の一件を昼休み中、彼氏達に話した。
「ほんで朝なんや疲れた顔しとったんか」
「時雨さんのうなじ吸ってて気持ち悪かったのはそういう訳があったんですね……どういう訳ですか?」
「そら癒しやろ、しぐは癒し系やからなぁ」
「吸うものなんですか……?」
ネザメとミフユはレイの元カレの話を全く知らなかったので最初から説明し、俺が持っている情報はほぼ全て共有した形となった。
「うーん……やっぱり一旦話し合うべきじゃないかなぁ」
レイが軟禁状態から逃げ出して俺の元に来たという話はしていない、ちゃんと別れられていない……といった具合にぼかしてある。
「会長は元カレさんを生で見てないからそんな無責任なことが言えるんです。別の生き物ですよ、アレ」
「しゅーがそんなこと言うようなヤツに暴れられたらどうしようもないもんね~。下手に会ったらこのめん何されるか分かんないよ、みっつんも、下手すりゃ俺らもね」
「そうかなぁ……だってずっと探し続けるくらい愛情が深いんだろう? 話し合えると思うのだけれど」
「でもネザメさん、話し合いは対等な立場だからこそ成立することなんですよ。素っ裸の人間が鮭持って熊に「この鮭は食べちゃダメです」とか言ったら鮭と一緒にご飯になるだけでしょ……」
「そんなに力の差があるのかい? 同じ人間だろうに……うぅん、でも……うーん」
「ごちそうさまでした。ミフユさん、めちゃくちゃ美味しかったです」
「そ、そうかっ、それはよかった……明日も作ってきてやるからなっ」
慣れていなさそうな笑顔、普段とは違う弾んだ声色、それらは頭を抱えていたネザメにニヤリとした笑みを浮かばさせるに値した。
「おかえりなさいっすせんぱい、アキくん」
「ただいま、レイ。ハルとシュカはもう帰ったのか?」
「はいっす。ちゃんと一緒に帰ってったのでご心配なくっす」
治安の悪いこの町を一人で歩かせるのは不安だったので、それを聞けて安心した。
「あー……っと悪い、今日はスーパー寄ってないんだ。出前でいいか?」
「ならピザにしましょーっす、今キャンペーンやってるってチラシが入ってたんすよ。ちょっと待っててくださいっす。確かこの辺に置いて……」
夕飯の相談をし、投函されたチラシの話をする、まるで家族だ。いつか本当にそうなれたらいいなと願いつつ、レイを背後から抱き締めた。
「せ、せんぱい……?」
「重婚が認められる時代はまだかなぁ」
「それって……その、法律が許せば俺と結婚してくれるってことっすか?」
「うん……プロポーズしたい。あと二年待ってくれるか? 十八歳に……結婚できる歳になったら、ちゃんとプロポーズするから」
レイの腕をゆっくりと撫でていき、手の甲側からきゅっと手を握る。特に左薬指を意識させる握り方をする。
「ま……待ってるっす」
耳まで真っ赤にしたレイはそう呟き、震える右手でピザ屋のチラシを握り締めた。
月曜日の朝、俺はレイとアキと玄関で唇を重ねた。
「行ってらっしゃいっすせんぱい……可燃ごみよろしくっすー……ふわぁあ」
「行ってらっしゃい、です! にーに」
昨晩激しく抱いてやったレイは眠そうに欠伸をしている、俺が出たら二度寝するつもりだろう。アキは今日も元気そうだ。
「行ってきます!」
乗り慣れたエレベーターで一階に降り、ゴミ捨て場に向かう途中、聞き慣れないエンジン音を聞いた。ドッドッドッ……と威圧的なその音は、大きな黒いバイクから鳴っていた。
「あっ……」
バイクの横に立っていた大男と目が合う。タバコを吸っている彼はエサを奪われたモルモットのように硬直している俺の前までやってきた。
「…………しばらくだな、男前」
「お、おはようございますぅ~」
180センチ以上ある俺を子供のように見下ろす大男、目つきの悪い彼がレイの元カレだ。
「……お前ここに住んでるのか?」
「は、はい、まぁ、ご覧の通り。ここに最近越してきましたが」
ゴミ袋を揺らすと元カレは脇に避け、ゴミ捨て場までの動線を作ってくれた。ぺこぺこ頭を下げてゴミ捨て場へカサカサと移動する俺に、元カレは大股で着いてくる。
「…………お前、彼女居るのか?」
「へっ?」
「……お盛んなようで」
小馬鹿にしたように煙を吐く彼の視線はゴミ袋に──透明のゴミ袋から見えているコンビニで買ったコンドームの空箱に注がれていた。コンドームそのものの捨て方には気を遣っているが、箱は適当に捨てていた、まさか外から見える位置にあったなんて……恥ずかしい。
「あ、あの、あんまりジロジロ見ないでくださいよ」
「…………悪いな、目がいいもので」
「そ、それじゃ、俺はこれで……」
そそくさと去ろうとしたが、低い声の「待て」には肩を掴まれるより強制力があった。
「…………俺が探してる男もここに住んでるはずなんだが……お前、本当に見ていないんだな?」
「ま、前に……見せてくださった方ですよね、見てない……です」
「……もう一度見ろ、本当に見ていないんだな? 多少痩せたりしているかもしれない、本当に見ていないのか?」
突き出されたスマホに映る金髪時代のレイを見て、記憶を探る素振りを見せてから首を横に振った。
「………………そう、か」
心底残念そうに視線を下げた彼を見て少し胸が痛んだ。
「引っ越したとかはないですか? 俺が越してくる前に何人か抜けたっぽいですし、入れ替わり割とあるタイプのマンションらしいんで」
「…………俺に何も言わずに引っ越す訳がない。やはり……誰かに攫われて、監禁でもされているんだろう。早く見つけてやらないと……早く……」
自分が嫌われたとは一切考えないんだな。
「……俺のものを奪った奴は殺さないとな。あぁ……悪いな、長い間呼び止めて。駅まで送ろうか」
「い、いえ」
「…………遠慮するな、乗れ」
俺はこの日、生まれて初めてバイクに乗った──
──という朝の一件を昼休み中、彼氏達に話した。
「ほんで朝なんや疲れた顔しとったんか」
「時雨さんのうなじ吸ってて気持ち悪かったのはそういう訳があったんですね……どういう訳ですか?」
「そら癒しやろ、しぐは癒し系やからなぁ」
「吸うものなんですか……?」
ネザメとミフユはレイの元カレの話を全く知らなかったので最初から説明し、俺が持っている情報はほぼ全て共有した形となった。
「うーん……やっぱり一旦話し合うべきじゃないかなぁ」
レイが軟禁状態から逃げ出して俺の元に来たという話はしていない、ちゃんと別れられていない……といった具合にぼかしてある。
「会長は元カレさんを生で見てないからそんな無責任なことが言えるんです。別の生き物ですよ、アレ」
「しゅーがそんなこと言うようなヤツに暴れられたらどうしようもないもんね~。下手に会ったらこのめん何されるか分かんないよ、みっつんも、下手すりゃ俺らもね」
「そうかなぁ……だってずっと探し続けるくらい愛情が深いんだろう? 話し合えると思うのだけれど」
「でもネザメさん、話し合いは対等な立場だからこそ成立することなんですよ。素っ裸の人間が鮭持って熊に「この鮭は食べちゃダメです」とか言ったら鮭と一緒にご飯になるだけでしょ……」
「そんなに力の差があるのかい? 同じ人間だろうに……うぅん、でも……うーん」
「ごちそうさまでした。ミフユさん、めちゃくちゃ美味しかったです」
「そ、そうかっ、それはよかった……明日も作ってきてやるからなっ」
慣れていなさそうな笑顔、普段とは違う弾んだ声色、それらは頭を抱えていたネザメにニヤリとした笑みを浮かばさせるに値した。
1
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる