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耽った結果
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三時間目の授業をサボったことでめちゃくちゃ叱られた。俺が考えた言い訳が、休み時間にシュカと二人で少しだけ休憩するつもりで日当たりのいい場所に居たら寝てしまい、気付けば一時間経っていたという俺達に非しかないものだったからだろう。
「すいませんでした……」
俺はクラス委員長として、シュカは生徒会副会長として、ありえない失態だ。教師からの叱責が終わっても昼休みになるとミフユからお叱りを受けた。
「先生方から聞いているぞ鳴雷一年生並び鳥待副会長! プールの授業の後教室に戻らなかったそうだな」
「はい……すいませんでした」
「お昼食べたいんですけど」
「貴様本当に反省しているのか、連絡もなく授業を抜かすような輩に副会長が務まると思っているのか!」
水泳の授業があったこともあり腹が減っているようでシュカは気が立っている。自分に向いたミフユの人差し指を掴み、切れ長の瞳でミフユを強く睨む。
「……あなたに何の権利があるって言うんですか? 後輩を恫喝して食事を取らせないことの方が問題に思えますが?」
「お、おいシュカ、悪いのは俺達なんだからさぁ……」
ぐるるる……と響いたのはシュカの腹の音だろうか? 本来なら間抜けな扱いになるだろうに、今だけは獣の唸り声のように恐ろしく感じた。リュウが笑いを堪えているのが見えたから、そう感じたのは俺だけなのかもしれない。
「確かに悪いことはしましたが、副会長には関係ありませんよね? 先生方から指導を頼まれたのであれば無礼を詫び、説教を甘んじて受け入れますが……違いますよね? 自分の正義感に基づいて怒鳴ってるだけですよね? あなた一人の判断で私達の食事の時間を大幅にズラしているんですよね。もう一度聞きます、あなたに、何の権利が、あるんですか?」
「シュカ! やめろって!」
ミフユの瞳が震えている。歳上としてなのか、それともネザメの近侍としてのプライドなのか、一歩も引くことはないが声は出なくなっているようだ。
「シュカ……落ち着けって、腹減ってるのは分かるけど、なぁ……」
パン! と手を叩く音で緊張の糸がプツリと切れる。
「ごめんね、離してもらえるかい?」
いつの間にか立ち上がっていたネザメがミフユの肩を抱き、もう片方の手でミフユの人差し指を掴むシュカの手の甲を撫でた。
「……ありがとう。食事に移ってくれたまえ。悪かったね」
「いえ、そんな、私の方こそ……」
冷静さを取り戻したシュカは謝罪しようとしたようだが、途中で先程よりも大きな腹の音が鳴った。リュウが自分の太腿を叩く音が部屋に響き渡る。シュカは無言で席へと戻った、その途中でリュウを殴っていた。
「…………あの、ミフユさん、シュカがすいませんでした……気にしないでくださいねっ? ミフユさんは正しいです、俺はミフユさんからのご説教ありがたく思いましたから」
自分よりも遥かに背の低い歳上の美少年に正論で責められることでしか得られない栄養がある。
「いや……鳥待副会長の言うことはもっともだ。自分に貴様達を叱る権利など……」
「副会長は生徒の手本です! いけないことをした生徒を注意する権利はきっとありますよ」
「そうだろうか……」
「たとえ権利がないとしても! ミフユさんもシュカも俺の彼氏でいわば身内なんですから、歳下の身内のやらかしは叱るべきです!」
「……うむ。ミフユも他の生徒に叱責などしない。貴様らだから、つい……」
「いわば愛ですよねっ、ありがとうございます。そこで提案があるのですが……」
「む?」
俺はミフユに「俺の叱り方」を教えた。ミフユは不思議そうな顔をしていたが、キッと凛々しい顔になって俺を睨んだ。
「鳴雷一年生!」
「はい!」
「貴様、授業を無断で抜かした……俗に言う『サボり』を行ったそうだな!」
「はい!」
「鳴雷一年生……」
ミフユがずいっと近付いてくる。右手の人差し指を立ててびしっと俺に突きつける。
「……めっ!」
「ぎゃわゆいっ……! ありがとうございますありがとうございますありがとうございますぅ! はぁーっ……ご飯三杯余裕……」
「…………お、おい鳴雷一年生、本当に今ので貴様は懲りるのか? 貴様に一番効く叱り方だと言うからミフユは……なんだか騙された気分だ」
「まさか! 俺があなたを騙すなんて! すごく効きましたよ……もう二度としないって思いました。なので今後俺を叱ることがあれば今後もこれでお願いします何でもするのでお願いします」
「わ、分かった……めっ、すればいいんだな」
欲を言うならしっぺをして欲しかったけれど、ミフユが体罰はダメだと言うので仕方ない。
「きゃわわ……めっしてくらひゃい……」
「呂律が回っていないぞ鳴雷一年生っ、そんなに腹が減っていたのか……すまない、すぐに、その……ミ、ミフユの弁当を食べてくれ」
ミフユに背を押されてソファに座らされ、目の前の机に大きな弁当箱が置かれる。ミフユが風呂敷と蓋を取ってくれて、今日も俺にはもったいないくらい立派な料理が俺を出迎える。
「ミフユさん、もう食べ終わっちゃって暇ならあーんしてくれませんか? その方が元気が出るので」
「む……わ、分かった。いいだろう。貴様は自分の……かっ、彼氏、だしな。恋人同士とはそういうものだ……」
「最初はこの卵焼きがいいです」
「うむ、了解した」
ミフユは美しい箸使いで卵焼きを持ち上げたが、俺と目が合うと途端に箸が震え出した。
「ぁ、あっ……あーんっ」
顔を逸らして真っ赤な耳を俺に見せるミフユに卵焼きを食べさせてもらっても腹は減ったままなのに、胸はもういっぱいになってしまった。
「すいませんでした……」
俺はクラス委員長として、シュカは生徒会副会長として、ありえない失態だ。教師からの叱責が終わっても昼休みになるとミフユからお叱りを受けた。
「先生方から聞いているぞ鳴雷一年生並び鳥待副会長! プールの授業の後教室に戻らなかったそうだな」
「はい……すいませんでした」
「お昼食べたいんですけど」
「貴様本当に反省しているのか、連絡もなく授業を抜かすような輩に副会長が務まると思っているのか!」
水泳の授業があったこともあり腹が減っているようでシュカは気が立っている。自分に向いたミフユの人差し指を掴み、切れ長の瞳でミフユを強く睨む。
「……あなたに何の権利があるって言うんですか? 後輩を恫喝して食事を取らせないことの方が問題に思えますが?」
「お、おいシュカ、悪いのは俺達なんだからさぁ……」
ぐるるる……と響いたのはシュカの腹の音だろうか? 本来なら間抜けな扱いになるだろうに、今だけは獣の唸り声のように恐ろしく感じた。リュウが笑いを堪えているのが見えたから、そう感じたのは俺だけなのかもしれない。
「確かに悪いことはしましたが、副会長には関係ありませんよね? 先生方から指導を頼まれたのであれば無礼を詫び、説教を甘んじて受け入れますが……違いますよね? 自分の正義感に基づいて怒鳴ってるだけですよね? あなた一人の判断で私達の食事の時間を大幅にズラしているんですよね。もう一度聞きます、あなたに、何の権利が、あるんですか?」
「シュカ! やめろって!」
ミフユの瞳が震えている。歳上としてなのか、それともネザメの近侍としてのプライドなのか、一歩も引くことはないが声は出なくなっているようだ。
「シュカ……落ち着けって、腹減ってるのは分かるけど、なぁ……」
パン! と手を叩く音で緊張の糸がプツリと切れる。
「ごめんね、離してもらえるかい?」
いつの間にか立ち上がっていたネザメがミフユの肩を抱き、もう片方の手でミフユの人差し指を掴むシュカの手の甲を撫でた。
「……ありがとう。食事に移ってくれたまえ。悪かったね」
「いえ、そんな、私の方こそ……」
冷静さを取り戻したシュカは謝罪しようとしたようだが、途中で先程よりも大きな腹の音が鳴った。リュウが自分の太腿を叩く音が部屋に響き渡る。シュカは無言で席へと戻った、その途中でリュウを殴っていた。
「…………あの、ミフユさん、シュカがすいませんでした……気にしないでくださいねっ? ミフユさんは正しいです、俺はミフユさんからのご説教ありがたく思いましたから」
自分よりも遥かに背の低い歳上の美少年に正論で責められることでしか得られない栄養がある。
「いや……鳥待副会長の言うことはもっともだ。自分に貴様達を叱る権利など……」
「副会長は生徒の手本です! いけないことをした生徒を注意する権利はきっとありますよ」
「そうだろうか……」
「たとえ権利がないとしても! ミフユさんもシュカも俺の彼氏でいわば身内なんですから、歳下の身内のやらかしは叱るべきです!」
「……うむ。ミフユも他の生徒に叱責などしない。貴様らだから、つい……」
「いわば愛ですよねっ、ありがとうございます。そこで提案があるのですが……」
「む?」
俺はミフユに「俺の叱り方」を教えた。ミフユは不思議そうな顔をしていたが、キッと凛々しい顔になって俺を睨んだ。
「鳴雷一年生!」
「はい!」
「貴様、授業を無断で抜かした……俗に言う『サボり』を行ったそうだな!」
「はい!」
「鳴雷一年生……」
ミフユがずいっと近付いてくる。右手の人差し指を立ててびしっと俺に突きつける。
「……めっ!」
「ぎゃわゆいっ……! ありがとうございますありがとうございますありがとうございますぅ! はぁーっ……ご飯三杯余裕……」
「…………お、おい鳴雷一年生、本当に今ので貴様は懲りるのか? 貴様に一番効く叱り方だと言うからミフユは……なんだか騙された気分だ」
「まさか! 俺があなたを騙すなんて! すごく効きましたよ……もう二度としないって思いました。なので今後俺を叱ることがあれば今後もこれでお願いします何でもするのでお願いします」
「わ、分かった……めっ、すればいいんだな」
欲を言うならしっぺをして欲しかったけれど、ミフユが体罰はダメだと言うので仕方ない。
「きゃわわ……めっしてくらひゃい……」
「呂律が回っていないぞ鳴雷一年生っ、そんなに腹が減っていたのか……すまない、すぐに、その……ミ、ミフユの弁当を食べてくれ」
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「む……わ、分かった。いいだろう。貴様は自分の……かっ、彼氏、だしな。恋人同士とはそういうものだ……」
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「うむ、了解した」
ミフユは美しい箸使いで卵焼きを持ち上げたが、俺と目が合うと途端に箸が震え出した。
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