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触覚からでも魅了する美顔
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ダイニングに二人を通し、グラスに麦茶を注いで机に置く。スーツの男はジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めた。汗で肌に張り付いた白いシャツに刺青が透けている。
(この方も和彫りィイイ! 兄弟仲良くお揃いの刺青ファッション……いやもうヤクザ確定でいいでしょ)
盲目の青年は薄手のタートルネックを着ており、顔と手以外に肌が見えず、刺青は確認出来ない。しかし肌を隠している時点でお察しと言うか何と言うか……厄介な人に関わったものだ。
「身分を明かしておきます、どうも弟のおかげで警戒されてしまっているようなので」
「いえ、そんな……警戒なんて」
「……兄貴何かしたの?」
「フタは見た目が怪しくて口調が乱暴でしょう? それだけですよ」
と言いながらスーツの男はスマホの画面を俺に見せてきた。そこには「サンには弟があなたの友人などに暴力を振るったことを話していません、お詫びはまた別の形でもさせていただきますのでどうかサンにはご内密にお願いします」と入力されていた。
(……怖いし従っときまそ)
頷くと男はホッとした様子でスマホを机に置いた。
「私は穂張 人、穂張興業の社長をやらせていただいております。この家のリフォーム……と言いますか、離れの建設を請け負わせていただきましたね。その節はありがとうございました」
「……へっ? ぁ、アレ建てたのあなたの会社だったんですか……すいません、ああいうのは母任せで」
「坊ちゃんにはお会いしていませんでしたね。弟はもう覚えていませんが、彼も工事に参加していたんですよ」
なんだヤクザじゃないのか……ただの和彫り愛好仲良し兄弟だったんだな、よくも散々怖がらせてくれたものだ。
「弟は穂張 不堕と言います、今日は来ておりませんが……すいません、本来なら直接謝罪させるべきなのですが、どうしても外せない用事がありまして」
「いえ……お気になさらず」
「ボクの番だよね? ボクは穂張 蚕、画家をやってる」
ヒト、フタ、サン、か。名前に数字を入れるのはよく見かけるが、そのままというのは珍しい。
「もう一つの目的ってのはそれなんだよね、優しくて美人なアンタに創作意欲を刺激されちゃって、アンタをモデルにしたくなったんだ。だからどうしてももう一回会いたかった」
「なるほど……俺なんかモデルになりますかね」
「なるなる。今度アトリエに来て欲しいな。連絡先交換してもらってもいい? 本当は最初に会った時にしたかったんだけど、スマホ忘れちゃっててさ……」
彼氏達とのやり取りに使っているアプリをサンはダウンロードしていなかったので、電話番号とメールアドレスを教え合った。
「ありがとう。アンタの連絡先を手に入れるまで長かったなぁ、やっぱりちゃんと持ち歩くべきだね」
「あはは……そうですね、必需品ですから」
「アンタはその目でどうやって絵描くんだとか聞かないんだ?」
「あ、はい……あなたが描いたんだろう絵見てますし」
サンの兄達が俺を探すのに使っていた俺の似顔絵はサンが描いたものなのだろう、彼が画家だと聞いた時には合点がいっていた。
「鉛筆の? 兄貴に渡したヤツだよね。アンタの顔覚えてる間にサッと描いた雑なヤツだ、ちゃんと描けばもっと上手いんだよ、ボク。専門は油絵でね、高校生じゃまだ油絵には馴染みない? 触ったことある? アレぼこぼこしてるだろ?」
雑? アレで? そっくりだったぞ。
「あー……触ったことはないんですけど、見たことは……確かに絵の具が水性のよりしっかり乗ってるって言うか、筆跡が分かるヤツありますね」
「インパスト……厚塗りだね、アレなら触って確かめられるからアレが専門。鉛筆画は……イベント出た時とかにクロッキーやったりするんだ。ほら、アンタらだって目閉じて自分の名前書くくらいは出来るだろ? そんな感じ、一気に描き切る。彫刻とか粘土もやるよ、アレも結構好き。でも絵の方が高く売れるんだよね。ね、兄貴」
「ええ、サンは我が家の稼ぎ頭です。人物画なんて自分からは一度も描かなかったサンが人を描きたいと言うから、恩人探しを頑張りましたよ」
「描きたくなる気持ち分かるだろ? どう? 見える兄貴から見て彼は」
「……とても美しいですね。こんなにも美しい顔は俳優などでも見たことがありません」
「やっぱそうなんだ」
超絶美形である自覚はあるが、こう何度も顔に言及されると照れてしまうな。
「……あの、俺の絵って描いたら売る感じですか? その……俺、あんまり顔とか名前とか色んな人に知られるの嫌なんですけど」
「忠実に描いたのは部屋に飾るつもり。売るのはアンタの内面とか、アンタと触れ合って湧いた気持ちとかにしようと思ってる。嫌ならモデルとして名前出すのもやめとくよ」
「あ、それならいくらでも……」
「……あなたほど美しいならデッサンモデルだけじゃなく個人で写真集を作っても相当稼げると思いますよ。サンも界隈では結構名が知れていますから、あなたの名前も売り込めると思うのですが……本当に匿名にするのですか?」
彼氏が多いから金はなるべく稼ぎたいし、この顔を使えば楽に稼げそうなのも理解している。しかし、そういった人気商売では多くの彼氏の件が大きなスキャンダルになるのは分かりきっていることだ。厄介なファンがつけば彼氏達に危険が及ぶかもしれない。
(ママ上がモデルとか女優やらなかったのも好き放題ヤるためとか言ってましたしな……わたくしも生き方を真似させていただきますぞ、ママ上のような化け物じみた優秀さはないので大した稼ぎは期待出来ませんがな)
俺は自分の顔を売らないと自分の美しさを知った時から決めている。
「はい、お金よりも大切なものを守るために、目立たないように生きていきたいんです」
「……ふぅん」
「あぁ……やっぱりイイなぁ、早く描きたい……!」
ヒトには綺麗事を語る世間知らずのガキとでも思われてしまったのだろうが、サンにはウケた。盲目では美顔が通用せず落とせないと一度は諦めたが、上手くやれば十二人目の彼氏として迎えられるかもしれない。
(この方も和彫りィイイ! 兄弟仲良くお揃いの刺青ファッション……いやもうヤクザ確定でいいでしょ)
盲目の青年は薄手のタートルネックを着ており、顔と手以外に肌が見えず、刺青は確認出来ない。しかし肌を隠している時点でお察しと言うか何と言うか……厄介な人に関わったものだ。
「身分を明かしておきます、どうも弟のおかげで警戒されてしまっているようなので」
「いえ、そんな……警戒なんて」
「……兄貴何かしたの?」
「フタは見た目が怪しくて口調が乱暴でしょう? それだけですよ」
と言いながらスーツの男はスマホの画面を俺に見せてきた。そこには「サンには弟があなたの友人などに暴力を振るったことを話していません、お詫びはまた別の形でもさせていただきますのでどうかサンにはご内密にお願いします」と入力されていた。
(……怖いし従っときまそ)
頷くと男はホッとした様子でスマホを机に置いた。
「私は穂張 人、穂張興業の社長をやらせていただいております。この家のリフォーム……と言いますか、離れの建設を請け負わせていただきましたね。その節はありがとうございました」
「……へっ? ぁ、アレ建てたのあなたの会社だったんですか……すいません、ああいうのは母任せで」
「坊ちゃんにはお会いしていませんでしたね。弟はもう覚えていませんが、彼も工事に参加していたんですよ」
なんだヤクザじゃないのか……ただの和彫り愛好仲良し兄弟だったんだな、よくも散々怖がらせてくれたものだ。
「弟は穂張 不堕と言います、今日は来ておりませんが……すいません、本来なら直接謝罪させるべきなのですが、どうしても外せない用事がありまして」
「いえ……お気になさらず」
「ボクの番だよね? ボクは穂張 蚕、画家をやってる」
ヒト、フタ、サン、か。名前に数字を入れるのはよく見かけるが、そのままというのは珍しい。
「もう一つの目的ってのはそれなんだよね、優しくて美人なアンタに創作意欲を刺激されちゃって、アンタをモデルにしたくなったんだ。だからどうしてももう一回会いたかった」
「なるほど……俺なんかモデルになりますかね」
「なるなる。今度アトリエに来て欲しいな。連絡先交換してもらってもいい? 本当は最初に会った時にしたかったんだけど、スマホ忘れちゃっててさ……」
彼氏達とのやり取りに使っているアプリをサンはダウンロードしていなかったので、電話番号とメールアドレスを教え合った。
「ありがとう。アンタの連絡先を手に入れるまで長かったなぁ、やっぱりちゃんと持ち歩くべきだね」
「あはは……そうですね、必需品ですから」
「アンタはその目でどうやって絵描くんだとか聞かないんだ?」
「あ、はい……あなたが描いたんだろう絵見てますし」
サンの兄達が俺を探すのに使っていた俺の似顔絵はサンが描いたものなのだろう、彼が画家だと聞いた時には合点がいっていた。
「鉛筆の? 兄貴に渡したヤツだよね。アンタの顔覚えてる間にサッと描いた雑なヤツだ、ちゃんと描けばもっと上手いんだよ、ボク。専門は油絵でね、高校生じゃまだ油絵には馴染みない? 触ったことある? アレぼこぼこしてるだろ?」
雑? アレで? そっくりだったぞ。
「あー……触ったことはないんですけど、見たことは……確かに絵の具が水性のよりしっかり乗ってるって言うか、筆跡が分かるヤツありますね」
「インパスト……厚塗りだね、アレなら触って確かめられるからアレが専門。鉛筆画は……イベント出た時とかにクロッキーやったりするんだ。ほら、アンタらだって目閉じて自分の名前書くくらいは出来るだろ? そんな感じ、一気に描き切る。彫刻とか粘土もやるよ、アレも結構好き。でも絵の方が高く売れるんだよね。ね、兄貴」
「ええ、サンは我が家の稼ぎ頭です。人物画なんて自分からは一度も描かなかったサンが人を描きたいと言うから、恩人探しを頑張りましたよ」
「描きたくなる気持ち分かるだろ? どう? 見える兄貴から見て彼は」
「……とても美しいですね。こんなにも美しい顔は俳優などでも見たことがありません」
「やっぱそうなんだ」
超絶美形である自覚はあるが、こう何度も顔に言及されると照れてしまうな。
「……あの、俺の絵って描いたら売る感じですか? その……俺、あんまり顔とか名前とか色んな人に知られるの嫌なんですけど」
「忠実に描いたのは部屋に飾るつもり。売るのはアンタの内面とか、アンタと触れ合って湧いた気持ちとかにしようと思ってる。嫌ならモデルとして名前出すのもやめとくよ」
「あ、それならいくらでも……」
「……あなたほど美しいならデッサンモデルだけじゃなく個人で写真集を作っても相当稼げると思いますよ。サンも界隈では結構名が知れていますから、あなたの名前も売り込めると思うのですが……本当に匿名にするのですか?」
彼氏が多いから金はなるべく稼ぎたいし、この顔を使えば楽に稼げそうなのも理解している。しかし、そういった人気商売では多くの彼氏の件が大きなスキャンダルになるのは分かりきっていることだ。厄介なファンがつけば彼氏達に危険が及ぶかもしれない。
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俺は自分の顔を売らないと自分の美しさを知った時から決めている。
「はい、お金よりも大切なものを守るために、目立たないように生きていきたいんです」
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「あぁ……やっぱりイイなぁ、早く描きたい……!」
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