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追試の悲哀に沈む者
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夏休みを目前に控えた月曜日、セイカの件が解決したのもあって俺は非常に機嫌が良かった。
「で、ねっ……やぎさん、に……服、食、られ……て、ねっ」
日曜日に牧場に行った話をカンナの頭を撫でながら聞いた。可愛らしいハプニングがいくつか起こった楽しいお出かけになったらしい。
「しぐ、水月居らんと割と普通に話せるみたいやで。水月居るから照れてもうて話されへんねんて」
「あぁ……そういえばカミアとは普通に話してたな」
カミアの代理でやった生配信も本当にカンナがやっていたのかと未だに疑うほどの完璧具合だった。直接でないとはいえ何万人ものカミアファンに見守られながらカミアっぽいトークを何時間も続けた彼は本当にすごいと思う、そんなカンナが俺の前ではもじもじして口下手になっているなんて……もう、たまらない。
「水月がしぐ可愛がる理由っちゅうもんをまざまざと見せつけられた感じやね、一日過ごしてもう……ホンマに、なぁ」
「てんくん、すご、く……優し、かった」
二人がますます仲良くなってくれたようで嬉しい。同時に湧き出る嫉妬と悔しさすら心地いい。
シュカと合流して学校へ向かう道中、俺はヒトから渡された写真をシュカに見せた。シュカとアキを襲った刺青男ことフタの痛々しい写真だ。
「……! 水月がやった訳じゃありませんよね」
「あぁ、実はさ……」
俺はサンを助けた時のことから、彼らが土曜日にやってきたことまでを詳しく説明した。
「なるほど……やっぱり水月が引っ掛けた男が原因だったんじゃないですか。誰です? 心当たりないなんて言ってたのは」
「ぅ……繋がらなかったんだよあの人達が」
今にして思えばヒトには前髪に白いメッシュが一本、フタには二本、サンには三本というとても分かりやすい特徴があった。
「この手でリベンジしたかったんですが……まぁ、水月の新しい彼氏候補のご家族ですからね。これで手打ちにして差し上げましょう。自分達でケジメをつけられるってのはいいことですよ」
シュカの機嫌が少し良くなった。俺からすれば気分が悪くなるだけの写真なのに。
「彼氏に出来たら会わせてくださいね」
「あぁ、もちろん」
学校に着く前に写真を封筒に戻し、鞄の奥底に埋めてしまう。いつも通りの顔をして校門を抜け、教室でハルと両手を叩き合う。
「いぇーい、おはようみっつん。明日で学校終わりだね~、いっぱいデートしよーねっ」
夏休みが近いせいかクラスメイト達はみんな浮き足立っている。
「……まぁ俺赤点取ったから補習あるんだけどね」
「あー……残念だったな、惜しかったよ。うん……」
「みっつんも危なかったくせに何回避しちゃってんのぉ! なーにあの点数の上がり幅、ありえない! インチキだインチキだカンニングだぁ!」
「努力だよ努力! 中間は勉強あんまり出来てなかったってのもあるけどな。中間が調子悪くて、期末が調子よかった。結果平均点数は真ん中、追試ギリギリ回避。何にもおかしくないだろ」
「むぅ~……まぁ、りゅーよりはインチキじゃないかな~……」
リュウは本来なら追試を受けて然るべき点数を取っていたが、数学の特待生ということで数学以外の教科の赤点は二十点に設定されているという驚くべきセーフティネットに辛うじて引っかかった。つまり赤点を取って追試になったのはハルだけなのだ。
「悔しかったら特待生なってみぃ」
「ムカつく~! あっ、て言うかさぁ、フユさんのテストの点数見た!? 何アレ、超ヤバくない!? 十五教科合計1463点って……なんかおかしくない!?」
「すごかったなぁ……」
「しぐもやばいと思ってたけど、フユさんもっとやばい……もうなんか怖いもん」
浮かれた生徒達の中、ハルだけが落ち込んでいる。かける言葉が見つからず頭を撫でてお茶を濁そうと思い付いたが、今日のハルは髪を綺麗に編み込んでいたので、顔の傍で緩く拳を握るに留めた。
「…………へへへ」
ハルの方から顔を手に寄せてくるので、手の甲で頬をすりすりと撫でてやる。表情が明るくなった、励ましは成功のようだ。
「そうだ水月、今日の昼休みは抱いてもらいますからね」
「あぁ、なんか久しぶりだな」
「夏休みで取り返します。今日はひとまず一回二回で構いませんよ」
数日抱いていなかったシュカの身体に触れられるとあって俺は更に浮かれた、昼休みを待つ時間は異常なまでに長く感じられたが、ミフユの弁当を前にして考えるととても短かったように思えた。
「明日の学校は午前までなのだな……弁当は必要ないのか。少し寂しいぞ」
「一学期最後のミフユさんのお弁当なんですね、味わって食べないと……」
「夏休み中どこかに共に出かけることがあれば自分が作ってやるぞ」
「楽しみです! どこに行きましょうか……海は定番ですよね」
山や森でキャンプもいい、祭りや花火も楽しみたい。これまでろくに夏を満喫してこなかった俺の欲は留まるところを知らない。
「海に行きたいのかい? なら……えぇと、あったよね? ミフユ」
「あったって……何がです?」
「別荘。プライベートビーチ付きの。アレはまだ売ってないよね」
別荘にプライベートビーチ、もう何も言うまい。ネザメが規格外の富豪だというのは分かっていることじゃないか。
「はい、あの別荘は当主様のお気に入りですから」
「お父様に話して使わせてもらおう」
「当主様も夏にはお友達を呼ぶそうですから……」
「日程調整はするよ。君達も予定を教えておいてね」
はーい、と一年生全員で返事をする。みんなネザメに対しては可愛こぶっているように感じる、現金な子達だ。
「ごちそうさまでした」
弁当を食べ終えて手を合わせ、弁当箱の蓋を閉める。シュカの影が手元に落ち、ふっと微笑みながら顔を上げた。
「水月、いいですよね?」
「あぁ……ぁ、ちょっと待って、お茶飲む」
まだ口の中に唐揚げの味が残っている。これではキスをしてもムードが出ない。麦茶で軽く口をゆすいでミント味のタブレットを噛み、口の環境を整える。
「……私そのままなので水月だけしても仕方ないですよ」
「俺がシュカに爽やかに思われたいだけだからいいんだよ」
「…………そうですか」
シュカは俺の太腿の上に俺に背を向けたまま腰を下ろした。
「今日は背面の気分?」
「はい」
久しぶりなのだから顔を見てしたかったなと思いつつ、抱き寄せてうなじに唇を触れさせた。
「で、ねっ……やぎさん、に……服、食、られ……て、ねっ」
日曜日に牧場に行った話をカンナの頭を撫でながら聞いた。可愛らしいハプニングがいくつか起こった楽しいお出かけになったらしい。
「しぐ、水月居らんと割と普通に話せるみたいやで。水月居るから照れてもうて話されへんねんて」
「あぁ……そういえばカミアとは普通に話してたな」
カミアの代理でやった生配信も本当にカンナがやっていたのかと未だに疑うほどの完璧具合だった。直接でないとはいえ何万人ものカミアファンに見守られながらカミアっぽいトークを何時間も続けた彼は本当にすごいと思う、そんなカンナが俺の前ではもじもじして口下手になっているなんて……もう、たまらない。
「水月がしぐ可愛がる理由っちゅうもんをまざまざと見せつけられた感じやね、一日過ごしてもう……ホンマに、なぁ」
「てんくん、すご、く……優し、かった」
二人がますます仲良くなってくれたようで嬉しい。同時に湧き出る嫉妬と悔しさすら心地いい。
シュカと合流して学校へ向かう道中、俺はヒトから渡された写真をシュカに見せた。シュカとアキを襲った刺青男ことフタの痛々しい写真だ。
「……! 水月がやった訳じゃありませんよね」
「あぁ、実はさ……」
俺はサンを助けた時のことから、彼らが土曜日にやってきたことまでを詳しく説明した。
「なるほど……やっぱり水月が引っ掛けた男が原因だったんじゃないですか。誰です? 心当たりないなんて言ってたのは」
「ぅ……繋がらなかったんだよあの人達が」
今にして思えばヒトには前髪に白いメッシュが一本、フタには二本、サンには三本というとても分かりやすい特徴があった。
「この手でリベンジしたかったんですが……まぁ、水月の新しい彼氏候補のご家族ですからね。これで手打ちにして差し上げましょう。自分達でケジメをつけられるってのはいいことですよ」
シュカの機嫌が少し良くなった。俺からすれば気分が悪くなるだけの写真なのに。
「彼氏に出来たら会わせてくださいね」
「あぁ、もちろん」
学校に着く前に写真を封筒に戻し、鞄の奥底に埋めてしまう。いつも通りの顔をして校門を抜け、教室でハルと両手を叩き合う。
「いぇーい、おはようみっつん。明日で学校終わりだね~、いっぱいデートしよーねっ」
夏休みが近いせいかクラスメイト達はみんな浮き足立っている。
「……まぁ俺赤点取ったから補習あるんだけどね」
「あー……残念だったな、惜しかったよ。うん……」
「みっつんも危なかったくせに何回避しちゃってんのぉ! なーにあの点数の上がり幅、ありえない! インチキだインチキだカンニングだぁ!」
「努力だよ努力! 中間は勉強あんまり出来てなかったってのもあるけどな。中間が調子悪くて、期末が調子よかった。結果平均点数は真ん中、追試ギリギリ回避。何にもおかしくないだろ」
「むぅ~……まぁ、りゅーよりはインチキじゃないかな~……」
リュウは本来なら追試を受けて然るべき点数を取っていたが、数学の特待生ということで数学以外の教科の赤点は二十点に設定されているという驚くべきセーフティネットに辛うじて引っかかった。つまり赤点を取って追試になったのはハルだけなのだ。
「悔しかったら特待生なってみぃ」
「ムカつく~! あっ、て言うかさぁ、フユさんのテストの点数見た!? 何アレ、超ヤバくない!? 十五教科合計1463点って……なんかおかしくない!?」
「すごかったなぁ……」
「しぐもやばいと思ってたけど、フユさんもっとやばい……もうなんか怖いもん」
浮かれた生徒達の中、ハルだけが落ち込んでいる。かける言葉が見つからず頭を撫でてお茶を濁そうと思い付いたが、今日のハルは髪を綺麗に編み込んでいたので、顔の傍で緩く拳を握るに留めた。
「…………へへへ」
ハルの方から顔を手に寄せてくるので、手の甲で頬をすりすりと撫でてやる。表情が明るくなった、励ましは成功のようだ。
「そうだ水月、今日の昼休みは抱いてもらいますからね」
「あぁ、なんか久しぶりだな」
「夏休みで取り返します。今日はひとまず一回二回で構いませんよ」
数日抱いていなかったシュカの身体に触れられるとあって俺は更に浮かれた、昼休みを待つ時間は異常なまでに長く感じられたが、ミフユの弁当を前にして考えるととても短かったように思えた。
「明日の学校は午前までなのだな……弁当は必要ないのか。少し寂しいぞ」
「一学期最後のミフユさんのお弁当なんですね、味わって食べないと……」
「夏休み中どこかに共に出かけることがあれば自分が作ってやるぞ」
「楽しみです! どこに行きましょうか……海は定番ですよね」
山や森でキャンプもいい、祭りや花火も楽しみたい。これまでろくに夏を満喫してこなかった俺の欲は留まるところを知らない。
「海に行きたいのかい? なら……えぇと、あったよね? ミフユ」
「あったって……何がです?」
「別荘。プライベートビーチ付きの。アレはまだ売ってないよね」
別荘にプライベートビーチ、もう何も言うまい。ネザメが規格外の富豪だというのは分かっていることじゃないか。
「はい、あの別荘は当主様のお気に入りですから」
「お父様に話して使わせてもらおう」
「当主様も夏にはお友達を呼ぶそうですから……」
「日程調整はするよ。君達も予定を教えておいてね」
はーい、と一年生全員で返事をする。みんなネザメに対しては可愛こぶっているように感じる、現金な子達だ。
「ごちそうさまでした」
弁当を食べ終えて手を合わせ、弁当箱の蓋を閉める。シュカの影が手元に落ち、ふっと微笑みながら顔を上げた。
「水月、いいですよね?」
「あぁ……ぁ、ちょっと待って、お茶飲む」
まだ口の中に唐揚げの味が残っている。これではキスをしてもムードが出ない。麦茶で軽く口をゆすいでミント味のタブレットを噛み、口の環境を整える。
「……私そのままなので水月だけしても仕方ないですよ」
「俺がシュカに爽やかに思われたいだけだからいいんだよ」
「…………そうですか」
シュカは俺の太腿の上に俺に背を向けたまま腰を下ろした。
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