冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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トラウマスイッチ

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サンの元へ行く決意を固めたが、まだその時間ではない。今はまだセイカを慰めて──いや、セイカの悩みが俺を昔虐めてしまったことなら、俺が傍に居ない方がいいのか? キッチンでフィナンシェを立ち食いしているアキに任せるべきか?

「よく食うなぁ……アキは俺と違って太りにくいのかな? 運動してるから大丈夫なだけかな」

独り言とセイカへの呼びかけ半々に言ってみる、期待していなかった通り返事はない。拳二つ分の隙間を空けてセイカの隣に座る。

「…………鳴雷」

「んっ?」

「……覚えてるか? 中一の……運動会の日、俺……フィナンシェ食べたんだ」

「運動会の日……? あ、あぁ、そうだったかな」

「俺は給食とか以外で初めてお菓子食べた。お前はいつでもお菓子食べさせてもらえたんだ、あんな美味しいお菓子作ってもらえるんだ…………何にも出来ないくせに」

中学時代によく聞いたものと寸分違わない怨嗟の声に胃の底が冷える。

「あぁお前は俺とは違うんだって、俺はお前の救世主様なんかじゃないんだって、お前はお前を助けてる気になってた俺を嘲笑ってたんだって! お前は、そんなこと……してなかったのに。周りの人間全員見下してたようなクソ野郎っ、何にも何の価値も見い出せなかったカスをっ! 唯一、好きになってくれてたのに……なんで、どうして、俺……あんな、こと」

なるほど、昨晩調子が悪かったのも今急に調子が悪くなったのも、フィナンシェが原因か。俺はあまりよく覚えていないから推測が混じるけれど、俺が運動会の日に母に持たされたお菓子をセイカに分けたのだろう。それが転換点だった、イジメのきっかけのひとつだった。

「……後悔したって仕方ないよ、過去に戻れる訳じゃないんだし」

俺と同じく過去のイジメがトラウマになっている彼にとって、フィナンシェを食べる行為はまさにトラウマスイッチだという訳だ。

「…………利き手なくして、何にも出来ない。歩くのも満足に出来ない、邪魔なだけの……デカいゴミ、なんで……なんでこんなのが、お菓子もらえたの……なんで、愛してもらえて…………抱く、なんて、言ってもら、えて……なんで、こんなの、こんなの、こんなのがそんな幸せ、だめ……」

セイカはテディベアを抱き締めたままぶつぶつと独り言を呟き始めた。俺は彼との間に空けた拳二つ分の隙間を捨て、何も言えないまま肩を抱いた。ちゃんと慰めたかったけれどセイカに引っ張られてイジメの記憶を鮮明に思い出してしまい、セイカにかけるべき優しい言葉が一つも思い付かなかった。

《兄貴~、昼飯これがいい~》

「ん、アキ、どうした? えっと……セイカ、翻訳頼めるか?」

「…………昼飯リクエスト」

「ありがとう。ちょっと待っててくれ」

キッチンをウロウロしていたアキが見つけた物を調べるためセイカの隣を離れ、アキの元へ。

「これか。分かった、お昼、これ、作る」

「ありがとうです、にーに」

昔の記憶が蘇ったりセイカへの対応に悩まされたりで荒み始めていた心がアキの満面の笑みで潤った。潤い過ぎてもはや水中だ。



しかしセイカにも困ったものだ、最近は精神状態が安定してきていると思っていたのにそうでもなかった、悪化しているような気さえする。やはりトラウマそのものみたいな俺と一緒に暮らしているのがよくないのでは?

(ってなんでわたくしがセイカ様のトラウマなんですか、セイカ様がわたくしのトラウマなんでそ。わたくし被害者ですぞ? なんで加害者のセイカ様のがダメージ受けててわたくしがそのケアしなくちゃならないんでそ)

キッチンからソファへの道中、思わず漏れたため息を誤魔化すため立ち止まって伸びをした。ついでに首や手首を回したりしていると、か細い声で「鳴雷……」と呼ばれた。

(……惚れてるからですぞ! セイカ様が加害者とか、わたくしが被害者とか、正当にトラウマ抱えるべきなのはわたくしの方とか、加害者のケアを被害者がしてるのはおかしいとか、そーんな常識に汚染された考え方……愛の前ではゴミでそゴミ! 無価値! 邪魔! 捨てまそ! わたくしはセイカ様に心底惚れていますので、セイカ様に尽くすのでそ~。見返りなんざいらねぇでそ、ぁ、やっぱ身体で返して欲しいでそ)

不安げに潤んだ瞳に「はぁ~いっ」と気持ち悪いくらいにデレッデレの返事をし、すぐさま彼の隣に腰を下ろして彼を抱き寄せた。

「どうしたセイカぁ、呼んでくれるなんてんふふふふ」

「……俺、面倒臭いから……もう、帰ってきてくれないんじゃないかって」

「お昼ご飯の相談してただけだよ~。んもぉ寂しんぼかわゆい! はぁあもうぐずぐずもだもだ面倒臭いセイカたんだいしゅき」

「…………昼、出かけるって……いつ頃帰ってくるんだ?」

「いつだろ、その辺の話はしてないからな……まぁ日は跨がないと思うけど」

セイカは俺を見つめたままゆっくりと二度頷き、震える手と短くなった腕で俺に抱きついた。

「面倒臭くて、鬱陶しくて、ごめんなさい……」

「……セイカは俺と一緒に居ると嫌な考え方しちゃったり、嫌なこと思い出したりしないか? もしそうなら俺我慢してセイカの傍に居ないようにしようかなぁって思ったんだけど」

「やだっ……! 嫌だ、嫌……話さなくても触らなくてもいいから鳴雷の傍がいいっ……」

「ありがとう……そう言ってくれて嬉しいよ、同じ思いだったな。ふふ、話も触れ合いもたくさんしたいけどな」

「ぁ、おれ、俺も……俺も、話したい……触って、たい…………話すこと、思い付かないけど」

笑顔が戻ってきた。俺は自分の手腕だと自惚れて笑みを深くし、愛に勝る療法はないのだと持論を脳内で展開した。
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