冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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小さく重たいテディベア

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都内らしい星の少ない夜空を見上げ、ため息をつき、アキの部屋へ。

「複雑ゴミと可燃ゴミだってさ、酷ぇよな」

アキの趣味である頭蓋骨の置物の隣のテディベアを持ち上げる。

「レイ……見てるか?」

両手に乗るサイズのこのテディベアはレイから贈られた物だ、カメラやマイクなどが仕掛けてある。

「見て、ないか……見てないよな、俺に会いたくないし、電話もしたくないんだもんな…………ごめん、嫌味っぽくなった」

床に座り、ベッドにもたれ、掴んだテディベアを見つめる。

「なんで……」

このテディベアを贈ってくれた時のレイの表情を思い出す。俺がカメラに気付いた瞬間の驚いた顔を思い出す。俺が毎日欠かさずテディベアに挨拶をしていることに礼を言ってきた時の幸せそうな笑顔を思い出す。

「はぁ……」

今日だけで何度目のため息だろう。ため息をつくと幸せが逃げるとはよく聞く話だが、俺の幸せはもう逃げている、俺のレイ、可愛いレイ……電話もかけるなと言った彼に会える日は来るのだろうか。考え直してもらえる幸運は俺に訪れるのだろうか。

「………………レイ」

何日もサンに監禁されたり、音信不通だったシュカとようやく会えたり、ただでさえ疲れているのにその上レイが別れたがるなんて……もう、嫌だ。

「…………っ」

これからのことは見られたくなくて、聞いて欲しくもなくて、テディベアを乱暴に毛布に包んでベッドの端に投げた。

「……っ、ぅ…………レイ……」

シーツに爪を立て、ぐすぐすと鼻を鳴らしながらみっともなく泣く。レイの家にアキと共に居候していた日々が走馬灯のように蘇る、夫婦のようだと感じ、レイも同じ気持ちだったと知り、微笑み合ったあの幸せはもう戻らない。レイはもう俺に笑ってくれない。

「…………」

俺は全ての美少年の幸せを願う。レイが俺と別れた方が幸せになれると言うのなら、仕方ない。真実の愛とは支配や独占ではない、自由にしてやることこそ愛情なのだ、それでも俺の傍に帰ってきてくれたらその時こそ本当に愛を交わせたことになるのだ。

「……………………嫌だ」

美しく可愛らしい少年達の幸せが、俺由来であればいい。俺の傍でのみ幸福を感じ、俺だけに笑いかけてくれる美少年が大量に欲しい。俺は大勢と身体を重ねるけれど、俺の少年達が他の男に股を開くのは許さない。一度俺に惚れたくせに俺を捨てるなんて許せない。俺と別れたいなんて願いは受け入れられない、離さない。

「明日……行こう…………」

泣き疲れて眠った次の日の朝、俺はベッドの上で目を覚ました。彼氏達が乗せてくれたのだろうか……隣ではシュカだけが眠っていた。

「……おはようございます」

身体を起こすとシュカは目を覚まし、眠たそうに挨拶してくれた。

「おはよう、シュカ。みんなは?」

「水月の部屋です。私が一人でないと眠れないと……例外は水月だけだと言うと、みんな快く向こうに移ってくれました」

「……そっか。もう少し寝てていいよ、朝ご飯作っておくから」

お言葉に甘えて、と二度寝を始めたシュカを置いて自室へ。音を立てないようそっと扉を開け、ベッドを覗く。

(はぁあ~! かわゆいゆい! 天国! この世の天国! 命題、天使達の午睡! 朝だけど! はぁあんたまりませんたまりませんぞぉ)

俺のベッドに三人みっちり並んで眠っている天使達、いや、彼氏達。テディベアを身体の上に乗せて仰向けで眠るセイカに、そんなセイカに抱きついているアキ、二人に腕枕をしてやっているリュウ、みんな可愛い、みんな俺の最愛、今すぐベッドに飛び込みたい気持ちとこの至宝の光景を永遠に眺めていたい気持ちが拮抗する。

(パシャリと失礼)

写真を撮り、キッチンに戻って朝食を作った。昨晩も思ったが、七人分の食事を用意するのは骨が折れる。

「よし……」

完成したらみんなを起こし、寝ぼけ眼な彼らが朝食を食べながら少しずつ目を覚ましていく様子を楽しみ、完食を見守る。

「ごっそさん」

「ごちそうさまでしたー」

「ごちそうさまでした……」

「……ごちそー、さま、です! にーに」

「お粗末さまでした。あのさ、今日……レイの家に行ってみようと思うんだけど、どうしようかな、やっぱ朝からはまずいかな」

朝食の皿を運びながら四人に、いや、三人に相談する。

「そうだな……昼前くらいがいいんじゃないか?」

「木芽さんは自分に手間をかけてくれる人が好きそうじゃないですか? 朝に行くくらいの気概を見せた方がいいかと……いえ、私は彼との付き合いは浅いので……水月の次に深いのはこの中で言うと天正さんですよね。どうですか?」

「えー……分からんよそんなん。やっぱり水月が一番よぉ知っとるやろうし、このめんが好きそうな動きしたったら?」

「…………うん」

「せやったら俺は着いてかん方がええかなぁ」

他の彼氏と共に行っても目に見えて嫌な顔はしないだろうが、俺一人で行った方が喜びそうだ。

「うーん……うん、そうだな。俺一人で行ってくるよ。連続で留守にしちゃうからさ、アキ見ててやってくれないか?」

「ええよー、暇やし。連続では泊まられへんから夕方頃には帰んで」

「あぁ、帰るタイミングは自由に……シュカはどうする? 今日も泊まるか?」

「いえ、この後すぐに帰ります」

「ぁ……そぉ?」

「……ちゃんと連絡は取りますよ」

くすっと微笑んだシュカに癒されていくのを感じる。俺は結局朝からレイの家を訪問すると決め、シュカと共に家を出た。

「デート代は水月が出してくださるそうなので、節約は今日までにします。無理なくヘルパーさんに頼りますよ、目標の金額も貯まりましたし」

「そうしてくれ、心配で仕方ないよ。しかし昨日今日と普通に箸使ってたけど……手、大丈夫なのか?」

皿の破片を握っていたシュカの右手には切り傷がある、手当てはしたが痛みはまだまだ新しいはずだ。

「別に……このくらいなら大丈夫です」

痛みに慣れているということだろうか、あまり喜ばしくないな。

「そっか。ところで目標の金額って? 何か欲しいものでもあるのか?」

「バイクの免許が欲しいんです」

「あぁ……そういえば言ってたなぁ! そっか、カッコいいんだろうな、バイクに乗ったシュカ」

「後ろに乗せてあげますよ」

「遠慮するよ……」

駅が近付いてきた、電車内で何駅分一緒に居られるんだっけ?

「ネザメさんが別荘連れてってくれるのそろそろだけど、免許取ってる時間ありそうか? 何日くらいで取れるんだ? あれ」

「普通を取る予定なので……最短九日でしたかね」

「意外と短い。何となく一ヶ月くらいかかると思ってた」

「ふふっ、水月って変なところで常識ありませんよね」

「ぅ……」

「可愛いところだと思いますよ?」

俺は彼氏達にはカッコいいと思われていたいんだ。

「……そういうところがあるから、レイにフラれたのかな」

「飽きた説は可能性が低いんでしょう?」

「俺の希望的観測だよ……泣いてたって言っても、俺に幻滅してたからかもしれないし……」

「それならそれで家まで行って男らしさを見せればよりを戻せますよ。木芽さんにフラれてしまったら、せっかくの別荘旅行がお通夜です。しっかり口説き直してきなさい」

「……うん、ありがとう。頑張るよ。じゃ、気を付けて!」

レイの自宅の最寄り駅で降り、シュカを見送る。一人になるとマイナスな方面に考えが向いてしまうダメな頭を持っているけれど、シュカにかけられた発破の効きが良く、レイの自宅に着くまでは希望を持っていられた。

(来ちゃった……でそ。ぅうぅ……どう思うんでしょうレイどの)

マンションを目の前にすると、その大きさに圧倒されるように気が萎んで、インターホンを押すまでに随分時間がかかった。
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