冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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お荷物運ぶワン

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泳いで逃げるシュカを泳いで追いかける。それは遊戯として成立した。最初は疎ましそうに逃げていたシュカも、次第に笑って俺を挑発するようになった。

「遅いですよ水月! そんな調子で私を捕まえられるとでも?」

「なんでそんなに速いんだよお前っ……待てー!」

今彼が着けているのはメガネではなく度入りのゴーグル。雰囲気がいつもと少し違う。無邪気な笑顔も普段なら滅多に見られない。旅行に来てよかった、海に来てよかった、あの笑顔だけで旅行にかかる全ての手間にお釣りがくる。

「水月くん達、楽しそうだねぇ」

「お前は本当に泳がなくていいのか? フロート乗ってるだけじゃつまらないだろ」

「僕はこれが好きなんだよ、シャチくんの上でゆらゆら……心地いいよ」

「まぁ気持ちよさそうではあるが、せっかく海に来てるのに……贅沢なヤツだなぁ」

とうに足が底につかない深さだ。危険を忌避する俺にとって足のつかない深さは恐怖そのもの。シュカを追うのをやめれば、バタ足を止めれば、俺はたちまち恐怖に飲み込まれるだろう。遊んでいれば忘れていられる。

「ねぇ~、フユさん。ボールとかない?」

「自分の鞄に色々と入っている、好きに漁れ」

シュカを捕らえ損ない続ける俺の視界の端に、浜へと戻っていくハルを捉えた。

「……? シュカー! なんかハルが陸に戻ってる」

「え? あぁ、本当ですね」

あんなに逃げ回っていたのが嘘のように、シュカはすぃーっと俺の隣にやってきた。

「もう昼食の時間でしょうか」

「…………捕まえた!」

俺はシュカに警戒されないよう海中からゆっくりと腕を伸ばし、シュカに抱きついた。

「……っ!? 卑怯者!」

「なんとでも言え。捕まえたんだから言うこと聞けよ、俺達も陸に戻るぞ」

シュカは嫌そうに頷き、渋々俺と共に陸に戻った。もっと抵抗すると思っていた、意外だ。

「ハル、何してるんだ?」

熱い砂を越えてテントに辿り着くと、ハルがミフユの鞄を漁っていた。

「ボールとかあるらしいから~、探してる~……ぁ、あった! これ……だよね?」

ハルはぺったんこのボールらしきものを俺に見せた。色合いも大きさも、ビーチバレーで使うようなボールに見える。

「多分そうだな、遊びたいのか? まず空気入れないと……シュカ、あの空気入れるヤツどこに入れた?」

「まだ膨らませる物があったとは思いませんでしたから、置いてきましたよ」

「家か? じゃあ俺取ってくるよ」

「……すいません」

「いいよいいよ、まだあるなんて思わないもんな。気にすんな」

意外にもしゅんと落ち込んだシュカの頭を撫でる。

「ありがとみっつん、おねが~い」

「任せろ」

ビーチサンダルを履き、パーカーを羽織り、坂を上っていく。別荘まで後半分まで来たところで背後からチャッチャッと足音が聞こえた。

「……メープルちゃん?」

振り向けば黒と白の毛をびっしょり濡らした犬が居た。ふわふわと優雅な姿だった彼は濡れたことでみすぼらしくなってしまっている。

「何、着いてきてくれたの?」

ワン、と返事をしたのは偶然だろうか? 賢い彼なら俺の質問を理解して返事をしたとしても不思議ではない。

「電動エアーポンプ……これだな」

別荘の玄関扉を開けたが犬は中には入ってこず、俺は一人で空気入れを探した。なかなか持ち運びにくい形をしている。今はいいが、他の荷物がある帰りのことを考えると、このまま持っていくのは得策ではない。鞄を用意しなければ。

「これ……で、入るな。誰のだろ……」

誰の物かは知らないがちょうどよさげなトートバッグがあったので使わせてもらった。

「お待たせメープルちゃん、待っててくれてありがとな」

犬は群れで生活する生き物だ。群れ……みんなから離れて単独行動をする俺を心配して着いてきてくれたとか? 考え過ぎか。

「ん、なになに? どうしたの?」

犬が鞄の紐を咥えて引っ張る。普段彼のオヤツが入っている鞄なのだろうかと考え事に意識が移ってしまった一瞬の隙を付き、彼は俺から鞄を奪い取った。

「あっ……! え……?」

走り去るかと思っていたが、犬は鞄を咥えて俺をじっと見上げている。

「…………持ってってくれるの? 結構重いし俺が持つけど……持ってくの?」

鞄を渡せと手を出すと犬はぷいっとそっぽを向いた。荷物を運ぶと褒められたりしてきたのだろうか。まぁ、顎が心配になるような重さじゃないし、無理に取り返すのもアレだし、持って行ってもらうか……

「みっつんおかえり~。あっれ、メープルちゃんに持たせたの?」

「ただいま、取られたんだよ」

「おかえりなさい水月」

「ただいま、シュカ」

近寄ってきてくれたシュカの腰を抱き、唇を一瞬だけ重ねる。

「ご苦労、メープル」

犬はミフユに鞄を手渡し、ミフユは犬をわしゃわしゃと撫で繰り回した。舌を出して心地よさそうに撫でられている……アレが目当てか。俺もして欲しかったな、無理にでも取り返せばよかった。

「ミフユさん、俺がやります……シュカー、どうやって使うんだ? これ」

なでなでのご褒美目当てに空気入れを受け取ったが、初めて見た物なので使い方が分からない。

「見たら分かるでしょう。勘の悪い人ですね」

軽く罵られながら空気入れを奪われ、シュカが空気を入れ始めてしまったので今更代わるとは言えず、立ち尽くした。

「よしよし……む? 何をボーッとしている、鳴雷一年生」

「自力で仕事を見つけられない要領の悪いタイプでして」

「何を言っているかよく分からんが……霞染一年生、それはビーチバレー用のボールだが……今日は砂浜がとても熱い、素足ではとても立ってられん程にな。どうするんだ?」

確かに熱かった。犬は平気なのかと探してみれば、彼はもう波打ち際に居た。舌を出して楽しそうに走り回っている。

「足浸かるくらいのとこでやろうかなーって思ってま~す」

「ボール流されないか?」

「みっつん流される心配し過ぎじゃない?」

「ハルー、何しとるん? ボールあったんか?」

「あ、りゅー。今しゅーが膨らまして……あっ出来た? ありがとしゅー、しゅーもバレーやろ~。りゅーも、みっつんも来てね~」

ボールを持ったハルはシュカの手を取り、俺達を置いてまた海へと走っていった。

「……なぁリュウ、ボール海に落としたら向こうの方に流されたりしないか? なんだっけ、ほら、離岸流? ってヤツあるんだろ?」

「離岸流もっと向こうやから大丈夫やろ。それ以外んとこやったらいっぺん連れてかれてもまた波で戻ってくんで」

「大丈夫なのか、よかった……えっ離岸流の場所分かるの?」

「基本的には白波立ってへんとこや。坂の上から見た感じあの辺やったで。あと、岩場には近付かんときや。あっこも流れ変やから」

「詳しいなぁ……」

事前に調べていたのだろうか。

「とにかく大丈夫なんだよな? じゃあ行こう、バレーしようぜ!」

「おー、やろやろ」

ビーチバレーなんて陽キャの遊びをする日が来るなんて、昔は想像も出来なかった。この夏をめいっぱい楽しまなければ。
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