冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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シミュラクラ

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昼食を終えるとみんなまた海へと走っていった。ミフユはテントに残り、犬に餌を与えている。

「あの……」

がっつくことなく上品に餌を食べる犬を眺めているミフユに、セイカが恐る恐る話しかける。

「何だ?」

「……さ、さっき……紅葉、どう思ってるか秋風に聞いた時、本当は……鈍臭いヤツって言ってて、でもそれ言っていいのかなって……つい、別のこと言っちゃって、それを……言っておきたくて。ごめんなさい……嘘、ついて」

「ふむ、そうだったのか。それはありがたい、ネザメ様は打たれ弱いからな。そんなことを正直に言われていたら相当落ち込んでいただろう」

「よ、よかった……? 嘘、ついて」

「うむ、いいように言い換えただけなのだから、それほど気にすることはないぞ。これからもネザメ様への翻訳は優しい表現で頼む」

緊張していた様子のセイカはホッと息をつき、下手くそな微笑みを浮かべた。

「……しかしネザメ様に向かって鈍臭いとは秋風も無礼だな」

さっきのビーチバレーの試合の後じゃ仕方ないと思う。自分のことをどう思っているか聞いている人に真正面から言うことか? とは俺も思うけれど。

《スェカーチカ、海行こうぜ海》

「ごめんなさい、実は結構口悪くて……」

《う~みぃ~!》

帽子やサングラスなどを装着し直したアキはセイカに抱きついて駄々をこねるように何か言っている。

「そうなのか。今は何と?」

「海行きたいって……」

「そうか、では行ってやるといい。話は終わりだろう?」

「あ、はいっ、すみませんでした……ありがとうございました」

話を終えたセイカはアキに抱きかかえられてまた海へと向かった。走っていくアキの背中を見送っていると、ワンと犬が吠えた。見下げれば犬は空になった皿を咥えてミフユに渡していた。

「うむ、完食だな。えらいぞメープル。行ってよし」

楽しげにワンワンと吠え、彼もまた海へと走っていく。砂浜に残る足跡が可愛らしい。肉球はどうしてこんなにも人を惹き付けるのだろう、

「鳴雷一年生、貴様は何故まだここに居る?」

餌皿をウェットティッシュで拭きながら、ミフユは俺を見上げて言った。

「……食べてすぐ動くとお腹痛くなるので」

「む、そうか。では少し休んでいるといい。ミフユはネザメ様の面倒を見ねば。ではな」

「行ってらっしゃーい」

皿を片付けたミフユがネザメの元へ走っていく。水泳帽を被り直した彼はやはり幼く見えた、小学生だと名乗っても疑われないたろう。



少し休んだ後、俺は彼氏達の元へ向かった。海に飛び込み、泳ぎ、彼氏に抱きついたり、泳ぎの競走をしたり、水をかけあったり、ただぷかぷかと浮かんだり……楽しかった。本当に楽しかった。

「水月ぃ、そろそろ日ぃ暮れんで。帰らんと」

夕暮れ前にリュウがそう言い出した。

「そうだな。でもまだ夕方でもないし、もうちょいいいんじゃないか? みんな楽しそうだし」

「テントの片付けやっとったら日ぃ暮れるて。はよ帰らんと」

「ちょっと暗くなってもテント片付けるくらい出来るよ、家すぐそこだしそんな急がなくても──」

「水月」

「──いい、だろ……? えっと、リュウ? なんでそんな早く帰りたいんだ?」

「日ぃ暮れてまうから、はよ帰ろ。みんな呼んだって」

真面目な顔でそう言うとリュウは海から上がった。テントの下に敷いたシートから鞄をどかし、シートを畳み始めた。

「みんなー! そろそろ帰るぞ!」

「え~? まだいいじゃん、明るいよ?」

「片付けの時間もあるだろ? シャワー浴びなきゃだし、夕飯遅くなっちゃうぞ。遅くに食ったら太るんだろ?」

「……! それは困る!」

ハルは慌ててリュウを手伝いに向かった。遅い夕飯は健康に悪いと言うとミフユとネザメも海を出た。

「随分早いですね、もう少し泳ぎたいんですが」

「夕暮れの海とか絵になるっすよね。まぁせんぱいが帰りたいって言うなら仕方ないっす」

シュカとレイはしぶしぶテントに向かった。歌見はそういえば腹が減ったと言って素直に彼らの後を追った。

「……そうだ、カンナ、お前みんなとシャワーの時間ズラさなきゃだよな? 海の後だしさっさと全身洗いたいよな、先帰るか? みんなには言っとくよ」

「いい、の? ありがと、みぃくん……」

海を上がったカンナはテントに寄らず坂を上っていく。

「アキー! セイカー! サーン! 帰るぞ!」

「浜どっちか分かんない、水月迎えに来て~」

「えっ……! い、今行く!」

サンの元へと泳ぎ、肩に掴まってもらって砂浜まで誘導した。

「陸どこか分かんなくなるって結構危ないんじゃない……? 明日は俺の傍から離れないでね」

「波の流れである程度は分かるんだけどね~、たまに分かんなくなっちゃう。ありがと水月」

「ちょっとここで待っててね、アキ迎えに行ってくるから」

サンを波打ち際で待たせ、呼びかけはしたのに浜へ戻る気配のないアキとセイカの元へ。

「アキ、帰るぞ」

「鳴雷……秋風まだ帰りたくないって。暗くなるんならそっちの方がいいって」

「あー、そりゃアキは夜の方が活動しやすいだろうけどなぁ……リュウが昨日言ってたろ? 夜の海は危ないからダメだって」

セイカが翻訳をしてくれたけれど、アキは首を横に振った。

「うーん……あ、ほら、海は日が暮れると急激に水温が下がるんだよ。アキは温かそうなの着てるけど、セイカは筋肉も脂肪もない上に普通の水着だから凍えちゃうぞ」

アキは少し考えるような素振りを見せた後、不服そうに頷いて俺に着いてくるようになった。

「よかった説得出来て。セイカ理由にしたら言うこと聞いてくれるんだな、これからも利用させてもらうよセイカ」

「えー……」

「愛されてる証拠だよ。暗くなって海が危険になったって自分は構わないけど、セイカが寒がるのは嫌なんだからさ」

「…………そうかな」

波打ち際で待たせていたサンと手を繋ぎ、テントへと向かってもう八割方終わっている片付けを手伝った。

「ふぅ……終わった。じゃ、支柱とかは俺が運ぶぞ」

「思ったんだけどさ~……これ明日も組み立てるんだよね? 置いといてよくなかった……?」

「錆びてまうんちゃう? ええからはよ帰ろ」

俺と歌見でバラしたテントとシートを運ぶ。アキはセイカを抱え、ミフユはサンを肩に掴まらせる。

「……時雨さんは」

「カンナは一人で風呂入るために先に帰ったぞ。まず俺が終わったか見に行くからみんなは帰ってもすぐに風呂に行かないでくれよ」

「了解っす」

「帰ろ帰ろ、はよ帰ろ」

坂を上る前に俺は海を振り返った。沈みゆく太陽は海を赤く染め、海面をキラキラと輝かせている。

「わ……! みんな、めちゃくちゃ海綺麗だぞ」

「え、ぁ、ホントだ! すっごい綺麗~!」

「はよ帰ろぉやもぉ」

「撮っときたいっすね。シュカせんぱいちょっと鞄持ってくださいっす」

レイはシュカに鞄を持たせ、鞄からスマホを引っ張り出して構えた。俺も撮ろうかな、スマホ出すの面倒臭いしレイに送ってもらえばいいかな。

「超キレ……ぇ?」

「レイ? どうした?」

レイのスマホを覗き込む。小さな画面に収まった美しい海、その海面に四角い枠が無数に表示されている。

「……これ、顔認証の枠、っすよ……ね? せんぱい、これ、何で」

「なっ、波の模様が顔っぽいんだよ! 丸が三つあれば顔に見えるって言うだろ?」

「え、でもスマホのカメラってそんな」

「シミュラクラだよシミュラクラ!」

「でもこんないっぱい」

「じゃあ何だ心霊現象とでも言う気か!? 怖いじゃないかやめろよシミュラクラ現象なんだよコレは! 帰るぞ!」

パシャ、と撮影音が響く。

「……なんで撮ったぁあーっ!? 消せ今すぐ消せ呪われるぞ!」

「せっ、せんぱいがただのシミュラクラ現象って言ったんじゃないすかぁ!」

「もういいから帰るぞ……!」

別荘の方へと目を向けた俺は信じ難い光景を目にした。ハルを先頭とし、彼氏達が俺達を置いて坂を駆け上がっていたのだ。

「お、置いてくなよお前らぁ!」

「待って欲しいっすーっ!」

薄情な彼氏達を追いかける俺の足は、別荘に着くまで決して速度を下げなかった。
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