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さん付け嫌がる問題
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今夜はネザメの部屋に行く予定だ、ハルがアキやシュカを誘っているゲーム大会も気になるが、そちらには行けない。
「おや、ミフユ。もう上がるのかい? ばいばい」
「はい、失礼致します」
ミフユは昨日と同様他の者達よりも早めに風呂を上がった。夕食の準備のためだろう、今日は俺に手伝えと言ってこなかった。
「……サン、ごめん。今日の髪の手入れはパスでいいかな、ミフユさんの手伝いしたいんだ」
「え~……? 水月、髪の毛してくれないの?」
「あの子にばっかり料理させる訳にもいかないでしょう。髪乾かすの俺が手伝いますよ」
歌見が爽やかな笑顔で立候補した。
「丁寧にしますよ、髪の毛引っこ抜いたりなんかしませんから。ね?」
「んー……分かった。その代わり水月、埋め合わせしてよ。晩ご飯の後にでも……二人きりになりたいな」
サンからそんなふうに誘ってもらえるなんて、感激だ。しかし今日の夜は先約がある。
「ホントっ!? めちゃくちゃ嬉しい……! けど、ごめん! 今日はその時ちょうど約束があって……明日じゃダメかな?」
「明日ぁ? 明日もどーせ髪してくれないんだよね。まぁいいか……理由が理由だしね。じゃあ明日の夜ね」
「ありがとう! ごめんね、明日は絶対……! 楽しませるよ」
サンは白っぽい目を微かに見開く。片方の目は濡れた髪に隠されていて分からないけれど、きっと同じ仕草をしているのだろう。
「不思議なこと言うね。ボクは水月と居る時はずっと楽しいよ」
「もっとだよ」
「もっと? ふぅん、ふふふっ、そう、頑張って」
上機嫌そうなサンの愛らしいこと。とても二十代後半の男の表情とは思えない。
「先輩、あんまり近くでドライヤー当てちゃダメですよ、髪焦げちゃいますからね。オイルの塗り過ぎもダメですよ、満遍なくですからね。乾いたら冷風当てるんですよ、そうするとサラサラになりますからね」
「分かった分かった。しっかしサンさんに言われるならまだしもお前に言われるとなぁ……」
「さんさんさんさん言わないでよバカみたいじゃん呼び捨てにしてったらナナくん」
「あっ、あぁ、分かってます、すいません……つい」
頭も身体も洗い終えた。今日はサンの髪を洗う役目は他に任せて、俺はミフユの元に行かなければ。
「……穂張さん、じゃダメですか?」
「それフルネームなんだよね、ヤダ。ボク三兄弟だし」
「歳上にさん付けしないというのは……!」
「サンで止まるの難しかったらサンちゃんって呼んで」
「余計無理ですぅ……」
他の彼氏達も抱いているだろう、サンが苗字呼びもさん付けも嫌がる問題。俺はさん付けも敬語も取っ払うことで何とかやれているが、俺も時々さん付けをしてしまいそうになるから、気持ちは分かる。
(他の彼氏とサンさんの話する時はサンさんって言ってますけどな)
歌見も敬語ごと取っ払えば呼び捨てにしやすくなると思うのだが、と脱衣所で身体を拭きながら一人問題解決策を練る。
服を着て髪を乾かし、料理中のミフユとカンナの元へ。
「カンナ、もう乾いたのか? んー……いい匂い、可愛いなぁ。抱っこして寝たい」
レタスを洗っているカンナを背後から抱き締めて後頭部に鼻を押し付け、大きく息を吸う。他の彼氏とは違い、頭皮の匂いがないのは不満点だが、丸っこい頭の可愛さやぷにぷにした抱き心地で十二分にカバー出来る。
「ゃ……みぃくん、料理、ちゅ……」
「今日は早いな、鳴雷一年生」
「サンさんを歌見先輩に任せて来ちゃいました、俺は何をすればいいですか?」
「ふむ、そうだな……では」
俺はミフユに頼まれたことをこなすため手を動かしながら、寡黙な二人のため口を開いた。
「サンさん、サンさんって呼ばれるの嫌がるじゃないですか」
話すのは先程の歌見とサンのことだ。
「……確かに、歳上のサン殿に対し敬称無しで呼べというのは、常識があればなかなか難しいことだ」
「ですよね、俺もたまに敬語で話しそうになっちゃって……ミフユさんはいいですね、殿ならなんかサンさん的にOKっぽいですし」
「音の繰り返しを嫌っているだけのようだからな、歌見殿にも別の敬称を勧めてみたらどうだ?」
殿とか氏とか? ミフユのような育ちの人間ではない、俺や歌見のようなネットに毒された者にとってその敬称は、昔のオタクを示すスラングのようなものだ。
「なるほどですねー……でも殿はちょっとお硬くて、庶民の俺らには難易度高いかも」
「……さ、ま?」
「様? サン様? 韓流スターのモノマネ芸人みたいだな。試しに先輩に言ってみるよ」
サンが様付けを嫌がるかどうかも気になるところだ。
「自分が悩ましいのは木芽の方だな、歳下だと言うから呼び捨てにしたのに後から歳上だと白状するなどと! 今更変えていいものなのか……」
「レイは歳下扱いされたがってますから、呼び捨てのままの方がいいんじゃないですかね」
「むぅ、しかし……」
「そういえばミフユさん達いつレイが歳上だって知ったんですか?」
「貴様が木芽の元恋人のところに乗り込んだ話を聞いた際だ。車の免許は高校生では取れんからな」
事細やかに説明したせいで車を運転したのはレイだと、レイは免許を取れる年齢だということも話さなければならなくなったんだな。
「しかしあの話で妙なところがある……木芽は攫われていたんだろう? 取り返し、木芽が車を運転して逃げた……なら、その元恋人のところまで車を運転したのは誰なんだ? そこのところは誰に聞いても答えてくれなかったんだ」
「あー……」
「運転席に乗る以前のことは知らないっす、気ぃ動転しとったからか覚えてへん、私も覚えていません、日本語分かるしないです、生まれてこの方何も見てないよ……と言われてな。貴様は知っているか?」
誰が何を言ったか一言一句覚えているとは恐れ入る。
「いえ、俺は……一足先に乗り込んで、ボロボロになった後レイが運転する車に拾われた感じなんで」
「そうか……やはり天正一年生と鳥待一年生に思い出させるべきだな。また今度聞いてみる」
真実が明らかになる時は来ないだろう。俺からすればシュカの隠し事は分かりやすいのだが、ミフユは言葉を額面通りに受け取るんだな。
「……の、時の……けが、は?」
「俺か? もう何ともないよ。まだちょっとアザとかはあるけど、もうすぐ消えると思う」
「一生懸命なのは貴様の長所だが、あの時ばかりはそうは言えん行動だったな。次また似たようなことがあった際には、相談も報告も欠かさないように」
「はーい……二度と起きて欲しくないですけどね」
話し声が聞こえてきた。彼氏達が風呂から上がったようだ。料理ももう完成する。また平和な団欒の時間が訪れるのだ。
「おや、ミフユ。もう上がるのかい? ばいばい」
「はい、失礼致します」
ミフユは昨日と同様他の者達よりも早めに風呂を上がった。夕食の準備のためだろう、今日は俺に手伝えと言ってこなかった。
「……サン、ごめん。今日の髪の手入れはパスでいいかな、ミフユさんの手伝いしたいんだ」
「え~……? 水月、髪の毛してくれないの?」
「あの子にばっかり料理させる訳にもいかないでしょう。髪乾かすの俺が手伝いますよ」
歌見が爽やかな笑顔で立候補した。
「丁寧にしますよ、髪の毛引っこ抜いたりなんかしませんから。ね?」
「んー……分かった。その代わり水月、埋め合わせしてよ。晩ご飯の後にでも……二人きりになりたいな」
サンからそんなふうに誘ってもらえるなんて、感激だ。しかし今日の夜は先約がある。
「ホントっ!? めちゃくちゃ嬉しい……! けど、ごめん! 今日はその時ちょうど約束があって……明日じゃダメかな?」
「明日ぁ? 明日もどーせ髪してくれないんだよね。まぁいいか……理由が理由だしね。じゃあ明日の夜ね」
「ありがとう! ごめんね、明日は絶対……! 楽しませるよ」
サンは白っぽい目を微かに見開く。片方の目は濡れた髪に隠されていて分からないけれど、きっと同じ仕草をしているのだろう。
「不思議なこと言うね。ボクは水月と居る時はずっと楽しいよ」
「もっとだよ」
「もっと? ふぅん、ふふふっ、そう、頑張って」
上機嫌そうなサンの愛らしいこと。とても二十代後半の男の表情とは思えない。
「先輩、あんまり近くでドライヤー当てちゃダメですよ、髪焦げちゃいますからね。オイルの塗り過ぎもダメですよ、満遍なくですからね。乾いたら冷風当てるんですよ、そうするとサラサラになりますからね」
「分かった分かった。しっかしサンさんに言われるならまだしもお前に言われるとなぁ……」
「さんさんさんさん言わないでよバカみたいじゃん呼び捨てにしてったらナナくん」
「あっ、あぁ、分かってます、すいません……つい」
頭も身体も洗い終えた。今日はサンの髪を洗う役目は他に任せて、俺はミフユの元に行かなければ。
「……穂張さん、じゃダメですか?」
「それフルネームなんだよね、ヤダ。ボク三兄弟だし」
「歳上にさん付けしないというのは……!」
「サンで止まるの難しかったらサンちゃんって呼んで」
「余計無理ですぅ……」
他の彼氏達も抱いているだろう、サンが苗字呼びもさん付けも嫌がる問題。俺はさん付けも敬語も取っ払うことで何とかやれているが、俺も時々さん付けをしてしまいそうになるから、気持ちは分かる。
(他の彼氏とサンさんの話する時はサンさんって言ってますけどな)
歌見も敬語ごと取っ払えば呼び捨てにしやすくなると思うのだが、と脱衣所で身体を拭きながら一人問題解決策を練る。
服を着て髪を乾かし、料理中のミフユとカンナの元へ。
「カンナ、もう乾いたのか? んー……いい匂い、可愛いなぁ。抱っこして寝たい」
レタスを洗っているカンナを背後から抱き締めて後頭部に鼻を押し付け、大きく息を吸う。他の彼氏とは違い、頭皮の匂いがないのは不満点だが、丸っこい頭の可愛さやぷにぷにした抱き心地で十二分にカバー出来る。
「ゃ……みぃくん、料理、ちゅ……」
「今日は早いな、鳴雷一年生」
「サンさんを歌見先輩に任せて来ちゃいました、俺は何をすればいいですか?」
「ふむ、そうだな……では」
俺はミフユに頼まれたことをこなすため手を動かしながら、寡黙な二人のため口を開いた。
「サンさん、サンさんって呼ばれるの嫌がるじゃないですか」
話すのは先程の歌見とサンのことだ。
「……確かに、歳上のサン殿に対し敬称無しで呼べというのは、常識があればなかなか難しいことだ」
「ですよね、俺もたまに敬語で話しそうになっちゃって……ミフユさんはいいですね、殿ならなんかサンさん的にOKっぽいですし」
「音の繰り返しを嫌っているだけのようだからな、歌見殿にも別の敬称を勧めてみたらどうだ?」
殿とか氏とか? ミフユのような育ちの人間ではない、俺や歌見のようなネットに毒された者にとってその敬称は、昔のオタクを示すスラングのようなものだ。
「なるほどですねー……でも殿はちょっとお硬くて、庶民の俺らには難易度高いかも」
「……さ、ま?」
「様? サン様? 韓流スターのモノマネ芸人みたいだな。試しに先輩に言ってみるよ」
サンが様付けを嫌がるかどうかも気になるところだ。
「自分が悩ましいのは木芽の方だな、歳下だと言うから呼び捨てにしたのに後から歳上だと白状するなどと! 今更変えていいものなのか……」
「レイは歳下扱いされたがってますから、呼び捨てのままの方がいいんじゃないですかね」
「むぅ、しかし……」
「そういえばミフユさん達いつレイが歳上だって知ったんですか?」
「貴様が木芽の元恋人のところに乗り込んだ話を聞いた際だ。車の免許は高校生では取れんからな」
事細やかに説明したせいで車を運転したのはレイだと、レイは免許を取れる年齢だということも話さなければならなくなったんだな。
「しかしあの話で妙なところがある……木芽は攫われていたんだろう? 取り返し、木芽が車を運転して逃げた……なら、その元恋人のところまで車を運転したのは誰なんだ? そこのところは誰に聞いても答えてくれなかったんだ」
「あー……」
「運転席に乗る以前のことは知らないっす、気ぃ動転しとったからか覚えてへん、私も覚えていません、日本語分かるしないです、生まれてこの方何も見てないよ……と言われてな。貴様は知っているか?」
誰が何を言ったか一言一句覚えているとは恐れ入る。
「いえ、俺は……一足先に乗り込んで、ボロボロになった後レイが運転する車に拾われた感じなんで」
「そうか……やはり天正一年生と鳥待一年生に思い出させるべきだな。また今度聞いてみる」
真実が明らかになる時は来ないだろう。俺からすればシュカの隠し事は分かりやすいのだが、ミフユは言葉を額面通りに受け取るんだな。
「……の、時の……けが、は?」
「俺か? もう何ともないよ。まだちょっとアザとかはあるけど、もうすぐ消えると思う」
「一生懸命なのは貴様の長所だが、あの時ばかりはそうは言えん行動だったな。次また似たようなことがあった際には、相談も報告も欠かさないように」
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