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猫かぶりパパ
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三人でリビングに戻り、ソファに寝かせたノヴェムの様子を見る。寝返りを打つどころか腕を動かすことすらしなかったようで、タオルケットは俺が被せた時のままだ。
「寝相いいなぁ」
《兄貴は俺の兄貴なんだからな、クソガキ》
アキはソファに顎を置き、ノヴェムの頬を人差し指でつついている。愛でているのかな。こんな幼い子と触れ合ったことなんてないだろうから、物珍しさもあるかもな。
「ちっちゃい子可愛いだろ? アキ。仲良くしてくれるとお兄ちゃん嬉しいんだけどなぁ」
頭を撫でてやるとアキはにっこりと微笑んで俺を見上げた。
「セイカは英語話せるから自然と仲良くなりそうだな、アキの時みたいにさ」
「別になる気ないけど」
「そう言うなって、この子すぐ泣いちゃうけど基本は静かで素直で大人しい、子供が苦手な俺達にも易しい子供だぞ」
そんな話をしていると、アキが頬をつつき過ぎたのかノヴェムが目を覚ました。起き上がった彼は頬をさすり、首を傾げ、キョロキョロと辺りを見回した。
「ノヴェムくん」
呼んでみると彼はパァっと笑顔になり、ソファを飛び降りて俺に抱きついた。
「よしよし……アキ、ちょっとそこ座れ」
セイカによる翻訳を受け、アキはソファに腰を下ろした。俺はアキの膝の上にノヴェムを乗せ、アキの隣に座り、セイカを呼んで膝に座らせた。
《……? ミツキお兄ちゃん……? ふ、ふぇっ……ぅえぇええんっ》
泣き出したノヴェムに反射的に手を伸ばしてしまったが、ハッとしてその手を止めた。
「アキ、ノヴェムくんぎゅってして、背中トントンしてあげて。膝軽く揺すりながらな」
《……はぁ? なんで俺がんなことしなきゃなんねぇんだよ》
「頼むよアキ、アキにもそれが出来たら俺一人でノヴェムくん見なくていいからアキにもっと構えるんだよ」
《まぁ……ちょっとくらいなら子守りもいいか》
アキは深いため息をつくと俺が言った通りにノヴェムをあやし始めた。ノヴェムは次第に落ち着き、鼻をすすりながらだがアキをじっと見つめた。
「ノヴェムくん、その子はアキ、俺の弟なんだ。俺に似てるだろ? さっきは俺のことが好き過ぎてノヴェムくんに意地悪しちゃったけど、許してやってくれないかな。本当は俺よりずっと優しい子だから、きっと仲良くなれると思うんだ」
《うん! いいよ。ミツキお兄ちゃんのおとーと……えっと、アキお兄ちゃん! ノヴェムとあそんでくれる?》
《……お兄ちゃん? 俺が? ほーん……悪ぃ気はしねぇな。兄貴取らねぇなら可愛がってやんよ》
机の下に隠れていたから人見知りな子なのかと思ったけれど、実のところ人懐っこい子のようだ。アキの膝の上でもうリラックスし始めた。
《ぁ……でも、ノヴェムがいちばんすきなのは、ミツキお兄ちゃんだからね》
「ふふ、ありがとう」
「はぁ……鳴雷、喉乾いた」
「あぁ、分かった。取ってくるよ」
「連れてけ。自分で歩くから下ろせ」
共にキッチンに向かい、セイカにお茶を注いでやると彼はそれを一気に飲み干し、ふぅと息をついた。
「大丈夫かセイカ、なんか疲れてるみたいだけど」
「鳴雷ぃ……日本語とロシア語と英語入り乱れ同時通訳の難易度と疲労度、どんなもんか想像出来ないか?」
「ご、ごめん……どれくらい難しくて疲れるのかはよく分かんないけど、感謝はしてるよ」
「ふーん……?」
「……い、今川焼き! 今川焼き、買ってきたんだ。おやつにしようと思って……色々ゴタゴタして、おやつの時間過ぎちゃったけど。晩ご飯の後のデザートにでもしよう」
相変わらずのジトっとした目が僅かに見開かれる。
「ほら、旅行中に約束したろ? 食べさせるって。甘くて美味しいぞ」
「……覚えてたのか」
「うん、デザート作る約束もな。いつでも言ってくれ」
美味いものが食べられるからというだけではなく幸せそうな笑みを浮かべたセイカと唇を重ねる──玄関から物音が鳴り、慌てて離れた。
「母さんかな……行ってくる」
慌てて玄関に向かうと予想通り母が立っていた。その背後には見知らぬ男性も居る。
「……Good evening」
「えっ、あっはい! ぐっどいぶにんぐ……?」
金髪碧眼、まるで絵本に登場する王子様だ。背の高い彼は柔らかに微笑むと、後ろ手に扉を閉めて鍵をかけた。
「ただいま水月。これ、預かった子のお父さん」
「おかえりなさい……これって、母さん……」
彼の目元には濃いクマがある、肌が白いから余計に目立っている。シングルファーザーらしいし、日本に越してきたばかり、色々と忙しいのだろう。
「やぁやぁ我こそはネイ・スネーキーズ、腕に覚えのある者よ手合わせ願う!」
歴オタかな……
「…………スベりマシタ、唯乃サン」
「だから言ったじゃない、時代劇好き外国人ぶって警戒解こうとすんのはいい作戦だけど、そろそろ通じなくなってきてるわよって」
「会社ではウケたデス……」
「……な、なんかごめんなさい! 突然だったので、あの……えっと」
地獄のような空気だ、誰か助けてくれ。
「あ、そうそう。ピザ買ってきたわよ、着替えてくるから準備しといてくれる?」
「ひゃっほい!」
ピザさえあれば空気なんてどうにでもなる。ピザは周りの人間を幸せにする力があるのだ。
「ピッツァ好きデスか?」
「はい!」
「よかったデス。唯乃サンのご子息サン、お名前は?」
「水月です。ネイさん日本語お上手ですね」
「結婚するまで日本に住んでマシタ」
「あ、そうなんですか……」
その割にはカタコトだな。可愛げがあっていいけど。
「その割にはカタコトって顔デスね」
「あ、ははは……顔に出てました? すいません……」
「この顔で日本語ペラペラだと逆に奇妙がられるのであえてカタコトっぽく話してるんですよ。日本に住むための処世術です。私日本生まれ日本育ちですけど永遠に馴染める気がしないんで」
急に流暢に話し出されるとビビる。
「日本人、なかなか攻撃的な排除はしませんけど受け入れもしてくれないんですよね~。まぁ気に入らないヤツはぶん殴ってでも追い出して、気の合うヤツとは毎週バーベキューするような国民性よりは私の性に合いますけど……」
「そ、そうなんですかぁ」
「私人間関係とか苦手なんで……面白枠に入ってると意外に楽なんですよ。面白枠って言うか珍獣枠ですかね、ハハッ」
そりゃ初対面の子供にベラベラ愚痴るような大人は人間関係を築くのが下手だろうなぁ。
「…………あ、ノヴェムどうでした? 私に似て人見知りなので苦労したでしょ」
「いい子でしたよ」
「Oh……ジャパニーズシャコウジレー、正直に受け取ってはいけマセン」
「急に外国人に戻らないでください、本当にいい子だったんですって! と、とりあえず上がってください……すいませんいつまでも玄関で」
「お邪魔します」
母に渡されたピザを持ち、ノヴェムの父ネイを先導する。
「……邪魔するなら帰ってとか言わないんですか? 十年ばっかし日本を離れている間に時代は変わりましたね」
「そんな時代俺が知る限りではなかったんですけど?」
けれど、どこかで聞き覚えのある返事だ……どこで聞いたんだっけ。何年も前じゃなくここ数ヶ月以内で聞き覚えがあるんだが……まぁいっか、こんなこと真面目に考えなくても。
「寝相いいなぁ」
《兄貴は俺の兄貴なんだからな、クソガキ》
アキはソファに顎を置き、ノヴェムの頬を人差し指でつついている。愛でているのかな。こんな幼い子と触れ合ったことなんてないだろうから、物珍しさもあるかもな。
「ちっちゃい子可愛いだろ? アキ。仲良くしてくれるとお兄ちゃん嬉しいんだけどなぁ」
頭を撫でてやるとアキはにっこりと微笑んで俺を見上げた。
「セイカは英語話せるから自然と仲良くなりそうだな、アキの時みたいにさ」
「別になる気ないけど」
「そう言うなって、この子すぐ泣いちゃうけど基本は静かで素直で大人しい、子供が苦手な俺達にも易しい子供だぞ」
そんな話をしていると、アキが頬をつつき過ぎたのかノヴェムが目を覚ました。起き上がった彼は頬をさすり、首を傾げ、キョロキョロと辺りを見回した。
「ノヴェムくん」
呼んでみると彼はパァっと笑顔になり、ソファを飛び降りて俺に抱きついた。
「よしよし……アキ、ちょっとそこ座れ」
セイカによる翻訳を受け、アキはソファに腰を下ろした。俺はアキの膝の上にノヴェムを乗せ、アキの隣に座り、セイカを呼んで膝に座らせた。
《……? ミツキお兄ちゃん……? ふ、ふぇっ……ぅえぇええんっ》
泣き出したノヴェムに反射的に手を伸ばしてしまったが、ハッとしてその手を止めた。
「アキ、ノヴェムくんぎゅってして、背中トントンしてあげて。膝軽く揺すりながらな」
《……はぁ? なんで俺がんなことしなきゃなんねぇんだよ》
「頼むよアキ、アキにもそれが出来たら俺一人でノヴェムくん見なくていいからアキにもっと構えるんだよ」
《まぁ……ちょっとくらいなら子守りもいいか》
アキは深いため息をつくと俺が言った通りにノヴェムをあやし始めた。ノヴェムは次第に落ち着き、鼻をすすりながらだがアキをじっと見つめた。
「ノヴェムくん、その子はアキ、俺の弟なんだ。俺に似てるだろ? さっきは俺のことが好き過ぎてノヴェムくんに意地悪しちゃったけど、許してやってくれないかな。本当は俺よりずっと優しい子だから、きっと仲良くなれると思うんだ」
《うん! いいよ。ミツキお兄ちゃんのおとーと……えっと、アキお兄ちゃん! ノヴェムとあそんでくれる?》
《……お兄ちゃん? 俺が? ほーん……悪ぃ気はしねぇな。兄貴取らねぇなら可愛がってやんよ》
机の下に隠れていたから人見知りな子なのかと思ったけれど、実のところ人懐っこい子のようだ。アキの膝の上でもうリラックスし始めた。
《ぁ……でも、ノヴェムがいちばんすきなのは、ミツキお兄ちゃんだからね》
「ふふ、ありがとう」
「はぁ……鳴雷、喉乾いた」
「あぁ、分かった。取ってくるよ」
「連れてけ。自分で歩くから下ろせ」
共にキッチンに向かい、セイカにお茶を注いでやると彼はそれを一気に飲み干し、ふぅと息をついた。
「大丈夫かセイカ、なんか疲れてるみたいだけど」
「鳴雷ぃ……日本語とロシア語と英語入り乱れ同時通訳の難易度と疲労度、どんなもんか想像出来ないか?」
「ご、ごめん……どれくらい難しくて疲れるのかはよく分かんないけど、感謝はしてるよ」
「ふーん……?」
「……い、今川焼き! 今川焼き、買ってきたんだ。おやつにしようと思って……色々ゴタゴタして、おやつの時間過ぎちゃったけど。晩ご飯の後のデザートにでもしよう」
相変わらずのジトっとした目が僅かに見開かれる。
「ほら、旅行中に約束したろ? 食べさせるって。甘くて美味しいぞ」
「……覚えてたのか」
「うん、デザート作る約束もな。いつでも言ってくれ」
美味いものが食べられるからというだけではなく幸せそうな笑みを浮かべたセイカと唇を重ねる──玄関から物音が鳴り、慌てて離れた。
「母さんかな……行ってくる」
慌てて玄関に向かうと予想通り母が立っていた。その背後には見知らぬ男性も居る。
「……Good evening」
「えっ、あっはい! ぐっどいぶにんぐ……?」
金髪碧眼、まるで絵本に登場する王子様だ。背の高い彼は柔らかに微笑むと、後ろ手に扉を閉めて鍵をかけた。
「ただいま水月。これ、預かった子のお父さん」
「おかえりなさい……これって、母さん……」
彼の目元には濃いクマがある、肌が白いから余計に目立っている。シングルファーザーらしいし、日本に越してきたばかり、色々と忙しいのだろう。
「やぁやぁ我こそはネイ・スネーキーズ、腕に覚えのある者よ手合わせ願う!」
歴オタかな……
「…………スベりマシタ、唯乃サン」
「だから言ったじゃない、時代劇好き外国人ぶって警戒解こうとすんのはいい作戦だけど、そろそろ通じなくなってきてるわよって」
「会社ではウケたデス……」
「……な、なんかごめんなさい! 突然だったので、あの……えっと」
地獄のような空気だ、誰か助けてくれ。
「あ、そうそう。ピザ買ってきたわよ、着替えてくるから準備しといてくれる?」
「ひゃっほい!」
ピザさえあれば空気なんてどうにでもなる。ピザは周りの人間を幸せにする力があるのだ。
「ピッツァ好きデスか?」
「はい!」
「よかったデス。唯乃サンのご子息サン、お名前は?」
「水月です。ネイさん日本語お上手ですね」
「結婚するまで日本に住んでマシタ」
「あ、そうなんですか……」
その割にはカタコトだな。可愛げがあっていいけど。
「その割にはカタコトって顔デスね」
「あ、ははは……顔に出てました? すいません……」
「この顔で日本語ペラペラだと逆に奇妙がられるのであえてカタコトっぽく話してるんですよ。日本に住むための処世術です。私日本生まれ日本育ちですけど永遠に馴染める気がしないんで」
急に流暢に話し出されるとビビる。
「日本人、なかなか攻撃的な排除はしませんけど受け入れもしてくれないんですよね~。まぁ気に入らないヤツはぶん殴ってでも追い出して、気の合うヤツとは毎週バーベキューするような国民性よりは私の性に合いますけど……」
「そ、そうなんですかぁ」
「私人間関係とか苦手なんで……面白枠に入ってると意外に楽なんですよ。面白枠って言うか珍獣枠ですかね、ハハッ」
そりゃ初対面の子供にベラベラ愚痴るような大人は人間関係を築くのが下手だろうなぁ。
「…………あ、ノヴェムどうでした? 私に似て人見知りなので苦労したでしょ」
「いい子でしたよ」
「Oh……ジャパニーズシャコウジレー、正直に受け取ってはいけマセン」
「急に外国人に戻らないでください、本当にいい子だったんですって! と、とりあえず上がってください……すいませんいつまでも玄関で」
「お邪魔します」
母に渡されたピザを持ち、ノヴェムの父ネイを先導する。
「……邪魔するなら帰ってとか言わないんですか? 十年ばっかし日本を離れている間に時代は変わりましたね」
「そんな時代俺が知る限りではなかったんですけど?」
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