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髪も身体も洗って
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フタと共に徒歩でサンの家へと向かった。フタが持っている合鍵でサンの家に入り、フタに続いてリビングに向かうとソファの上で腕を組んだサンに出迎えられた。
「…………遅くない?」
「ごめんね、サン。社員さんにお土産渡したり猫の世話とかしてたら遅くなっちゃったんだ。髪だけじゃなくて身体も洗わせてもらうから、許してくれないかな?」
「いいよ。兄貴は? お詫びに何してくれる?」
「えぇー……? サンちゃん何して欲しいの?」
「じゃあ、水月に髪乾かしてもらってる間にマッサージして。今日はぶっ通しで絵描いてたから疲れたんだよね」
普段以上に絵の具臭いと思っていたが、そういうことか。頬や顎の青や緑は絵の具だったんだな。
「お風呂入ろっ。水月の着替え用意してあるからね、兄貴のも」
「あ、フタさんは持ってきてるよ」
「えっ……!? そうなの? いつも寝間着で来るのに……」
今日はたまたま俺が居たから着替えを止められただけで、普段は誰にも邪魔されることなく着替えを済ませているんだな。
「寝間着で来たらお風呂の後着てきたヤツ着るの?」
「ゃ、その前に寝間着で来た時のがあるからそれ着せる。それを繰り返してるから兄貴の寝間着ずっとボクの家にあるんだよね……」
「なるほど」
納得したところで風呂場に移動する。サンの家は立派な一軒家とはいえ体格のいい男三人で入るような浴室ではない。狭い。だがそれがいい。絵の具の匂いが少し邪魔だが二人の汗の匂いが混じってたまらない香りになっている。
「男臭いっ……! 最高……! もービンっビン……!」
「二人とも汗臭いなぁ……外で遊んできたんだから仕方ないけど。お風呂浸かる前にしっかり汗流してよ?」
「もちろん。つーかサンちゃんも結構じゃね?」
「絵描くのは体力使うの~」
これが二十代後半の男兄弟の戯れか? とキャイキャイはしゃぐ二人を眺めながらシャワーの温度を確認する。
「フタさん、どうぞ」
「なんで俺からぁ~……俺が一番臭い?」
「年長者ですから」
「……? へー」
「一番歳上ってことだよ、兄貴」
「あぁ!」
年長者がダメとは……もっと簡単な言葉で話さないとな、アキに話すつもりで行こう。
「フタさん。シャワー、流す、上から、ですよ。汚れ、下に流れる、しちゃいますからね」
「…………バカにしてんの?」
睨まれた。
「してないですすいません!」
俺のバカ! 俺はどうしてそう極端なんだ! アキに話すつもりになり過ぎだろう!
「年齢順なら次ボクだね。兄貴邪魔だからもう入っててよ」
「邪魔って言うこたねぇじゃーん……」
長い髪が水分を含んでより黒く、重量感を増していく。
「サンさん、絵の具顔にもついちゃってます」
「えー、取って取って。一応顔も洗ったんだけどなぁ……絵描くのに夢中になってご飯作るの遅れたからさ、急いでて……いつもは自分でちゃんと出来るんだよ? ホントだよ?」
顔を汚した絵の具を俺に剥がされながら言い訳をするサンは本当に可愛らしい。
「手は……大丈夫ですね」
「洗ったもん」
「ふふ……じゃあ次俺シャワーもらいますね」
シャワーで汗を流すも、湯船に隙間はない。まぁ寒くはないし、浸かる必要はあまりなさそうだ。
「水月、髪洗って」
「うん」
浴室用の椅子に腰を下ろすまでもなく、濡れてカールが弱くなったサンの髪は床に触れていた。座れば当然、床に髪が広がる。俺はサンの背後に屈んで髪を持ち上げ、毛先が床に触れないように太腿に被せた。
「はぁ……気持ちいい。人に髪洗ってもらうのは最高だよ」
頭皮を揉むように洗ってやるとサンは心底気持ちよさそうに呟いた。愛しい恋人に甘えられて、そんなふうに言ってもらえるなんて、彼氏冥利に尽きるというもの。
「そんなに気持ちいい?」
「最高」
「ふーん……アレとどっちが気持ちぃ? 何だっけ……アレ、ほら、今日だっけ? みつきが教えてくれたヤツ」
「水月、兄貴に何教えたの? 梱包材潰すとか?」
俺に髪を洗われる快感は梱包材のプチプチ潰しと競るくらいなのか。どうなんだろう、それ。
「あ、いや……ディープキスと兜合わせをちょっと」
「へぇ? 兜合わせ……って何だっけ」
「えっ、あの、ほら、アレだよ……先っぽ擦り付け合うヤツ」
「あぁ、アレ名前付いてたんだっけ? まぁ要するに射精だよね。んー……気持ちよさの種類違うからなぁ、眠くなる気持ちよさなんだよ頭洗われるのは」
「ふーん…………みつきぃ、俺もぉ」
「もちろんいいですよ」
大人の方が甘え上手なものなんだな、とセイカやシュカの素直じゃなさを思い返してくすりと笑う。
「ねぇ水月、ボクには身体を洗うお詫びも追加されてるの忘れてない?」
「もちろん、全身使って洗ってあげるよ」
「出血大サービスだね」
サンの髪を洗い終えたら、邪魔にならないよう一旦タオルで巻いておく。常にサンの背中を隠している長過ぎる髪が頭上へまとめられると、見事な倶利伽羅龍が姿を現す。ギョロッと睨まれている気さえするそれの顔を泡で隠す。
「……え? サンちゃん熱い? 炎みたい? ヒト兄ぃも? ふーん……なんでだろうね」
フタが誰かと話している。サキヒコが居るのかなと湯船に浸かっているフタに視線をやると、彼の向かいに黒いモヤのようなものが見えた。目を擦って見直すと、そんなものはどこにもない。
「わっ……あぁ、これイイ……! すごく気持ちいいよ水月ぃ……」
自分の身体の前面に泡を塗り、サンを背後から抱き締めて身体を上下に揺らす。俺の身体でサンを洗っているのだ。
「水月の肌すべすべだし……温かいし、あぁ恋人と一緒にお風呂入ってるんだなって感じがするよ。唯一難点を上げるとすれば、硬いものが腰にゴリゴリ当てられてることかな」
「どうしようもないよ……ごめんねぇ?」
「あはっ、いいよ気にしなくて。難点なんて言っちゃったけど、可愛さと健康さが分かって嬉しいよ、水月。後で抜いたげるね」
末っ子らしく甘えてきたと思ったら、今度は大人の余裕たっぷりで愛でてきた。サンのこういうところがたまらない。
「…………遅くない?」
「ごめんね、サン。社員さんにお土産渡したり猫の世話とかしてたら遅くなっちゃったんだ。髪だけじゃなくて身体も洗わせてもらうから、許してくれないかな?」
「いいよ。兄貴は? お詫びに何してくれる?」
「えぇー……? サンちゃん何して欲しいの?」
「じゃあ、水月に髪乾かしてもらってる間にマッサージして。今日はぶっ通しで絵描いてたから疲れたんだよね」
普段以上に絵の具臭いと思っていたが、そういうことか。頬や顎の青や緑は絵の具だったんだな。
「お風呂入ろっ。水月の着替え用意してあるからね、兄貴のも」
「あ、フタさんは持ってきてるよ」
「えっ……!? そうなの? いつも寝間着で来るのに……」
今日はたまたま俺が居たから着替えを止められただけで、普段は誰にも邪魔されることなく着替えを済ませているんだな。
「寝間着で来たらお風呂の後着てきたヤツ着るの?」
「ゃ、その前に寝間着で来た時のがあるからそれ着せる。それを繰り返してるから兄貴の寝間着ずっとボクの家にあるんだよね……」
「なるほど」
納得したところで風呂場に移動する。サンの家は立派な一軒家とはいえ体格のいい男三人で入るような浴室ではない。狭い。だがそれがいい。絵の具の匂いが少し邪魔だが二人の汗の匂いが混じってたまらない香りになっている。
「男臭いっ……! 最高……! もービンっビン……!」
「二人とも汗臭いなぁ……外で遊んできたんだから仕方ないけど。お風呂浸かる前にしっかり汗流してよ?」
「もちろん。つーかサンちゃんも結構じゃね?」
「絵描くのは体力使うの~」
これが二十代後半の男兄弟の戯れか? とキャイキャイはしゃぐ二人を眺めながらシャワーの温度を確認する。
「フタさん、どうぞ」
「なんで俺からぁ~……俺が一番臭い?」
「年長者ですから」
「……? へー」
「一番歳上ってことだよ、兄貴」
「あぁ!」
年長者がダメとは……もっと簡単な言葉で話さないとな、アキに話すつもりで行こう。
「フタさん。シャワー、流す、上から、ですよ。汚れ、下に流れる、しちゃいますからね」
「…………バカにしてんの?」
睨まれた。
「してないですすいません!」
俺のバカ! 俺はどうしてそう極端なんだ! アキに話すつもりになり過ぎだろう!
「年齢順なら次ボクだね。兄貴邪魔だからもう入っててよ」
「邪魔って言うこたねぇじゃーん……」
長い髪が水分を含んでより黒く、重量感を増していく。
「サンさん、絵の具顔にもついちゃってます」
「えー、取って取って。一応顔も洗ったんだけどなぁ……絵描くのに夢中になってご飯作るの遅れたからさ、急いでて……いつもは自分でちゃんと出来るんだよ? ホントだよ?」
顔を汚した絵の具を俺に剥がされながら言い訳をするサンは本当に可愛らしい。
「手は……大丈夫ですね」
「洗ったもん」
「ふふ……じゃあ次俺シャワーもらいますね」
シャワーで汗を流すも、湯船に隙間はない。まぁ寒くはないし、浸かる必要はあまりなさそうだ。
「水月、髪洗って」
「うん」
浴室用の椅子に腰を下ろすまでもなく、濡れてカールが弱くなったサンの髪は床に触れていた。座れば当然、床に髪が広がる。俺はサンの背後に屈んで髪を持ち上げ、毛先が床に触れないように太腿に被せた。
「はぁ……気持ちいい。人に髪洗ってもらうのは最高だよ」
頭皮を揉むように洗ってやるとサンは心底気持ちよさそうに呟いた。愛しい恋人に甘えられて、そんなふうに言ってもらえるなんて、彼氏冥利に尽きるというもの。
「そんなに気持ちいい?」
「最高」
「ふーん……アレとどっちが気持ちぃ? 何だっけ……アレ、ほら、今日だっけ? みつきが教えてくれたヤツ」
「水月、兄貴に何教えたの? 梱包材潰すとか?」
俺に髪を洗われる快感は梱包材のプチプチ潰しと競るくらいなのか。どうなんだろう、それ。
「あ、いや……ディープキスと兜合わせをちょっと」
「へぇ? 兜合わせ……って何だっけ」
「えっ、あの、ほら、アレだよ……先っぽ擦り付け合うヤツ」
「あぁ、アレ名前付いてたんだっけ? まぁ要するに射精だよね。んー……気持ちよさの種類違うからなぁ、眠くなる気持ちよさなんだよ頭洗われるのは」
「ふーん…………みつきぃ、俺もぉ」
「もちろんいいですよ」
大人の方が甘え上手なものなんだな、とセイカやシュカの素直じゃなさを思い返してくすりと笑う。
「ねぇ水月、ボクには身体を洗うお詫びも追加されてるの忘れてない?」
「もちろん、全身使って洗ってあげるよ」
「出血大サービスだね」
サンの髪を洗い終えたら、邪魔にならないよう一旦タオルで巻いておく。常にサンの背中を隠している長過ぎる髪が頭上へまとめられると、見事な倶利伽羅龍が姿を現す。ギョロッと睨まれている気さえするそれの顔を泡で隠す。
「……え? サンちゃん熱い? 炎みたい? ヒト兄ぃも? ふーん……なんでだろうね」
フタが誰かと話している。サキヒコが居るのかなと湯船に浸かっているフタに視線をやると、彼の向かいに黒いモヤのようなものが見えた。目を擦って見直すと、そんなものはどこにもない。
「わっ……あぁ、これイイ……! すごく気持ちいいよ水月ぃ……」
自分の身体の前面に泡を塗り、サンを背後から抱き締めて身体を上下に揺らす。俺の身体でサンを洗っているのだ。
「水月の肌すべすべだし……温かいし、あぁ恋人と一緒にお風呂入ってるんだなって感じがするよ。唯一難点を上げるとすれば、硬いものが腰にゴリゴリ当てられてることかな」
「どうしようもないよ……ごめんねぇ?」
「あはっ、いいよ気にしなくて。難点なんて言っちゃったけど、可愛さと健康さが分かって嬉しいよ、水月。後で抜いたげるね」
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