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映画は視聴環境が大切
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セイカがすっかり俺の膝で寝入った昼過ぎ頃、電話がかかってきた。
「もしもし……鳴雷です」
『もしもし、鳴雷さん、今お時間よろしいですか?』
電話をかけてきたのはサンやフタの腹違いの兄であるヒトだ。
「え? はい……何か?」
『これからこちらに来ていただくことは可能でしょうか』
同人誌は一応全て読み終わったが、今から二周目に入ろうかというところだ。セイカの頭も膝に乗っているし、出来れば行きたくないのだが、なるべくヒトの言うことは聞いておかなければフタが危険だ。
「はい、もちろん」
『では今すぐいらしてください。交通費は後ほどお渡ししますので』
「分かりました。はい……失礼します」
電話を切り、セイカの頭をそっと持ち上げて枕と太腿を交換する。空調を「おやすみモード」に変更し、タオルケットを腹だけでなく肩から爪先まで全て隠れるようにかけて、部屋を出た。
(そういえばサキヒコきゅんはまだフタさんのとこですよな。明日からまた旅行ですし、今日ついでに引き取らねば)
スマホだけを持って炎天下に飛び出した。
事務所に到着、空調の素晴らしさを改めて思い知る。ロビーで一息ついていると社員に見つかり、フタを呼ばれた。
「みーつきぃ~、どったの? 遊びに来たの?」
192センチの巨体に勢いよく抱きつかれ、少しよろける。フタの腰に腕を回し、必死に踏ん張って何とか耐え、フタを見上げた。
「あ、いえ、今日はヒトさんに呼ばれて」
「ヒト兄ぃに? なんで?」
「……フタさんと、サンさんのことで、少しお話があって」
「ふぅん……? ま、いいや。俺まだ仕事中だから相手出来ねぇし……用事終わったらまたおいで」
ちゅ、と唇が触れ合う。頬が熱くなっていくのを感じつつ、フタに向かって手を振りながらエレベーターへ。汗を手の甲で拭い、ハンドタオルくらいは持ってくるべきだったなと後悔した。
「いらっしゃい」
最上階から一つ下、フタの部屋に比べれば豪華な扉を開けると、これまた飾りの少ないフタに反して上等な調度品が並んだ、ちょっとした成功者っぽい部屋が現れる。
「お邪魔します……」
そろそろと部屋に入り、扉を閉める。コーヒーを飲んでいたらしいヒトはカップを置くと立ち上がり、二人がけの革張りのソファに移った。
「どうぞ」
「失礼します……」
恐る恐る隣に腰掛ける。二人用ではあるのだが、高身長の男二人とは想定していなかったのか足を閉じても太腿が触れ合ってしまう。当然肩も。なのでせめて上半身だけでも離そうと、肘掛けに身体をもたれさせた。
「あの、どうして今日、俺を」
呼ばれた理由を緊張しながら尋ねようとしたその瞬間、ヒトがくしゃみをした。三度ほど連続した後、僅かに潤んだ目で俺を睨む。
「…………猫触りました?」
「えっ!? い、いえ……ぁ、でも、ここ来てすぐフタさんに抱きつかれて」
説明が終わるのを待たずヒトは大きく舌打ちをして立ち上がり、粘着カーペットクリーナー通称コロコロを手に取った。ドスの効いた声で「立て」と命じられ、俺は震えながら立ち上がり、全身にコロコロを受けた。ちょっとくすぐったかった。
「すいません……気が回らなくて」
俺が座っていたソファにまでコロコロをかけている。何だかとても申し訳なくなった。
「構いませんよ」
「次からは気を付けます」
「……次。ふふ、また来てくださるんですね、こんな面倒臭い、話が合うだけの怖い男のところに。怯えてるのも緊張してるのも丸分かりですよ、来たくなかったんじゃないですか?」
「そ、そんなっ! そんなことないです!」
可愛い歳上の恋人のためだ。フタが痛がる姿を思えば俺のちょっとしたストレスなんて、何でもない。
「そうなんですか? あぁ……もしかして、私のことを狙っていたり? フタと顔が似ている自信はありますし、あんな会話の成り立たないバカよりはずぅっと私の方がいいですもんね。乗り換えたいんですか?」
「えっ、ち、違います違います!」
「……ぁ?」
冗談っぽく微笑んでいたのに、何故か突然ヤクザらしく凄まれた。
「ほ、ほんとにそんな、違うので……俺は確かに男が好きですけど、ヒトさんのこと変な目で見たりしませんから、その、えっと……警戒しないでください」
「警戒…………ふふ、牽制に感じました?」
「え……と、はい……違ったんですか?」
ヒトは素直なサンやフタが決してすることのない、含みを持った笑顔を見せた。答えを言う気はないのだろう。
「……ま、まぁ、力づくでどうこうっていう体格差じゃないですし……そんな怖がられることもないですよね、ゲイってだけでそんな…………あの、今日はどうして俺を呼んだんです?」
「映画、一緒に観ましょう。きっと私とあなたは趣味が合うはずですから」
「は、はぁ……映画ですか」
映画? それだけ? この人どんだけ他人に飢えてんだ? 結婚してるんだよな?
(まぁ、妻子持ちだからって寂しくない訳じゃないんでしょうけど)
だからって一緒に映画を見る相手に弟の恋人の高校生を選ぶって、どういう思考回路してるんだ? ま、弟殴るようなヤツの思考なんて、説明されたくもないけど。
「あ、これ……」
「観たことあります?」
「いえ、観たかったんですけど上映中は入院してて……配信来ないかなって思ってたヤツです」
「そうなんですか。入院理由は聞いても……?」
「古いヨーグルト食べてお腹壊したんですよ、色んなとこが荒れに荒れて入院に……退院した後もしばらく映画館行ける体調じゃなかったし」
正確には母に食事や運動その他全てを管理されて映画を観る隙がなかったと言った方が正しい。
「それはそれはお気の毒様……公開時期、春頃じゃありませんでした? 卒業式とか入学式とか行けてないんですか?」
「入学式は行けましたよ、卒業式はダメでしたけど」
「それはそれは……」
「いいんです、中学はあんまりいい思い出ないので、むしろ出れなくてラッキーっていうか」
「……そうですか?」
「はい」
「…………何があったかは聞きませんよ。ポップコーン、キャラメルと塩どっちが好きです?」
「キャラメルが好き……え、ポップコーン用意してくれたんですか? ありがとうございます! 本気の鑑賞会ですね」
机に置かれたポップコーンと炭酸飲料、大きな壁掛けのテレビ画面に映し出される映画の制作会社のロゴ。
(観たかった映画ですし、画面うちよりおっきいしスピーカーも高そうなのありますし……これ割といい休日の過ごし方でわ?)
すっかり緊張がほぐれた俺は、いつの間にかヒトと肩や太腿が触れ合うことなど気にしなくなっていた。
「もしもし……鳴雷です」
『もしもし、鳴雷さん、今お時間よろしいですか?』
電話をかけてきたのはサンやフタの腹違いの兄であるヒトだ。
「え? はい……何か?」
『これからこちらに来ていただくことは可能でしょうか』
同人誌は一応全て読み終わったが、今から二周目に入ろうかというところだ。セイカの頭も膝に乗っているし、出来れば行きたくないのだが、なるべくヒトの言うことは聞いておかなければフタが危険だ。
「はい、もちろん」
『では今すぐいらしてください。交通費は後ほどお渡ししますので』
「分かりました。はい……失礼します」
電話を切り、セイカの頭をそっと持ち上げて枕と太腿を交換する。空調を「おやすみモード」に変更し、タオルケットを腹だけでなく肩から爪先まで全て隠れるようにかけて、部屋を出た。
(そういえばサキヒコきゅんはまだフタさんのとこですよな。明日からまた旅行ですし、今日ついでに引き取らねば)
スマホだけを持って炎天下に飛び出した。
事務所に到着、空調の素晴らしさを改めて思い知る。ロビーで一息ついていると社員に見つかり、フタを呼ばれた。
「みーつきぃ~、どったの? 遊びに来たの?」
192センチの巨体に勢いよく抱きつかれ、少しよろける。フタの腰に腕を回し、必死に踏ん張って何とか耐え、フタを見上げた。
「あ、いえ、今日はヒトさんに呼ばれて」
「ヒト兄ぃに? なんで?」
「……フタさんと、サンさんのことで、少しお話があって」
「ふぅん……? ま、いいや。俺まだ仕事中だから相手出来ねぇし……用事終わったらまたおいで」
ちゅ、と唇が触れ合う。頬が熱くなっていくのを感じつつ、フタに向かって手を振りながらエレベーターへ。汗を手の甲で拭い、ハンドタオルくらいは持ってくるべきだったなと後悔した。
「いらっしゃい」
最上階から一つ下、フタの部屋に比べれば豪華な扉を開けると、これまた飾りの少ないフタに反して上等な調度品が並んだ、ちょっとした成功者っぽい部屋が現れる。
「お邪魔します……」
そろそろと部屋に入り、扉を閉める。コーヒーを飲んでいたらしいヒトはカップを置くと立ち上がり、二人がけの革張りのソファに移った。
「どうぞ」
「失礼します……」
恐る恐る隣に腰掛ける。二人用ではあるのだが、高身長の男二人とは想定していなかったのか足を閉じても太腿が触れ合ってしまう。当然肩も。なのでせめて上半身だけでも離そうと、肘掛けに身体をもたれさせた。
「あの、どうして今日、俺を」
呼ばれた理由を緊張しながら尋ねようとしたその瞬間、ヒトがくしゃみをした。三度ほど連続した後、僅かに潤んだ目で俺を睨む。
「…………猫触りました?」
「えっ!? い、いえ……ぁ、でも、ここ来てすぐフタさんに抱きつかれて」
説明が終わるのを待たずヒトは大きく舌打ちをして立ち上がり、粘着カーペットクリーナー通称コロコロを手に取った。ドスの効いた声で「立て」と命じられ、俺は震えながら立ち上がり、全身にコロコロを受けた。ちょっとくすぐったかった。
「すいません……気が回らなくて」
俺が座っていたソファにまでコロコロをかけている。何だかとても申し訳なくなった。
「構いませんよ」
「次からは気を付けます」
「……次。ふふ、また来てくださるんですね、こんな面倒臭い、話が合うだけの怖い男のところに。怯えてるのも緊張してるのも丸分かりですよ、来たくなかったんじゃないですか?」
「そ、そんなっ! そんなことないです!」
可愛い歳上の恋人のためだ。フタが痛がる姿を思えば俺のちょっとしたストレスなんて、何でもない。
「そうなんですか? あぁ……もしかして、私のことを狙っていたり? フタと顔が似ている自信はありますし、あんな会話の成り立たないバカよりはずぅっと私の方がいいですもんね。乗り換えたいんですか?」
「えっ、ち、違います違います!」
「……ぁ?」
冗談っぽく微笑んでいたのに、何故か突然ヤクザらしく凄まれた。
「ほ、ほんとにそんな、違うので……俺は確かに男が好きですけど、ヒトさんのこと変な目で見たりしませんから、その、えっと……警戒しないでください」
「警戒…………ふふ、牽制に感じました?」
「え……と、はい……違ったんですか?」
ヒトは素直なサンやフタが決してすることのない、含みを持った笑顔を見せた。答えを言う気はないのだろう。
「……ま、まぁ、力づくでどうこうっていう体格差じゃないですし……そんな怖がられることもないですよね、ゲイってだけでそんな…………あの、今日はどうして俺を呼んだんです?」
「映画、一緒に観ましょう。きっと私とあなたは趣味が合うはずですから」
「は、はぁ……映画ですか」
映画? それだけ? この人どんだけ他人に飢えてんだ? 結婚してるんだよな?
(まぁ、妻子持ちだからって寂しくない訳じゃないんでしょうけど)
だからって一緒に映画を見る相手に弟の恋人の高校生を選ぶって、どういう思考回路してるんだ? ま、弟殴るようなヤツの思考なんて、説明されたくもないけど。
「あ、これ……」
「観たことあります?」
「いえ、観たかったんですけど上映中は入院してて……配信来ないかなって思ってたヤツです」
「そうなんですか。入院理由は聞いても……?」
「古いヨーグルト食べてお腹壊したんですよ、色んなとこが荒れに荒れて入院に……退院した後もしばらく映画館行ける体調じゃなかったし」
正確には母に食事や運動その他全てを管理されて映画を観る隙がなかったと言った方が正しい。
「それはそれはお気の毒様……公開時期、春頃じゃありませんでした? 卒業式とか入学式とか行けてないんですか?」
「入学式は行けましたよ、卒業式はダメでしたけど」
「それはそれは……」
「いいんです、中学はあんまりいい思い出ないので、むしろ出れなくてラッキーっていうか」
「……そうですか?」
「はい」
「…………何があったかは聞きませんよ。ポップコーン、キャラメルと塩どっちが好きです?」
「キャラメルが好き……え、ポップコーン用意してくれたんですか? ありがとうございます! 本気の鑑賞会ですね」
机に置かれたポップコーンと炭酸飲料、大きな壁掛けのテレビ画面に映し出される映画の制作会社のロゴ。
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