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もう何もしたくなくって
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今日は彼氏達と図書館に集まる約束をした日だ。俺は朝食を食べてすぐに出かけた。目的地は図書館ではないし、俺は一人……いや、サキヒコと二人だ。
「シューカーくぅーん、あーそーぼー」
玄関扉に向かって呼びかける。ここはシュカの家だ、以前は窓から入ったりもしたな。相変わらずインターホンは壊れているようなので扉を叩いてみる。昨日の昼間にメッセージを、夜に電話を、今朝にも電話をかけたがシュカとは連絡が付かなかった。
(前に家に様子見に来た時は風呂場でボーッとしてたんですよな)
今回も似たようなことになってはいないだろうか。心配で扉を叩く手が早くなる、強くなる。でもシュカは出てこない、留守なのだろうか。
「サキヒコくんちょっと中見てきてくれない? 居るかどうか」
「分かった。ん、居たぞ?」
結論が妙に早かった。すぐそこに居るのだろうか、来客に気付いて出てくる寸前だった? いや、待ってているが扉は開かない。何の気なしに玄関扉のドアノブを掴んでみると、回った。拍子抜けするほどあっさりと開いた。
「えっ……」
彼氏の家とはいえ二度目の不法侵入をするかどうか悩む暇もなかった。シュカは玄関に座り込んでいた。なるほどサキヒコがすぐに見つけられた訳だ。
「シュ、シュカ……?」
眠っている。座ったまま、眼鏡をかけたまま、玄関扉を開けたまま……不用心にも程がある。用心深いから不眠症なんじゃなかったのか? 俺は後ろ手に扉を閉め、シュカの肩を揺すって起こした。
「んっ……んん……?」
「あ、起き……へぐっ!?」
「ミツキ!? ミツキ!」
頬が痛い。殴られた? サキヒコの心配そうな声が聞こえる。
「…………水月? すいません! 大丈夫ですか水月、あなただとは分からず……つい」
「熟慮してから殴ろうか……痛いよ」
「すいません……あなたまた不法侵入ですか?」
「鍵かかってなかったんだよ。それでも開けるのはどうかと思うだろうけど、掴んじゃったら開いちゃって、開いちゃったら居たから……」
シュカの手は俺の頬に触れている。心配してくれているのだろうか? 寝起きで体勢も悪かったシュカの拳にはいつものようなキレも威力もなかったのに。
「あぁ、大したことないよ。俺よりシュカだ、なんで玄関先で寝てるんだよ。しかも鍵かけずに、座ったままなんて……また無理してたのか?」
「そんなことはないのですが……ただ、昨日帰った時に……鍵入れを落としてしまって」
鍵入れとは靴の隣に落ちているこの小さな木製のカゴのことだろうか。中には鍵が入っているが、飛び出した鍵もある。靴箱の上にでも置いていたのだろう。
「…………それ見て、なんか、切れちゃったんです」
「何が?」
「なんでしょう……やる気? 気力? 何もかもどうでもよくなって、という思考すらなく……座って、寝てしまったみたいです」
「拾うのめんどくさかったのか?」
「……少し違います。なんだか……なんでしょう、切れたんですよ」
疲労困憊、なのかな?
「また介護士さん呼ぶのサボってたのか?」
「…………バイクの免許取るために、多めに頼んだので……それを取り返すために、節約を」
「節約で体壊しちゃ元も子もないよ、治す方が手間も時間もお金もかかるんだから」
「……深く反省しています。今何時ですか?」
俺はスマホをシュカに見せた。
「もうこんな時間ですか……早く朝食を、んっ? 待ってください、二十九日? 木曜日……?」
「あぁ、今日みんなで図書館行こうってなってて、シュカだけ連絡つかなかったから迎えに来たんだけど」
シュカは顔を青ざめさせ、俺を置いて走っていった。シュカが駆け込んだ部屋は確か、彼の母親が居る部屋だ。
「母さん! 母さんっ……」
「シュ、シュカ? 大丈夫か?」
日にちに驚いたように見えたが、まさかシュカの帰宅は昨日ではなく一昨日だったとか……そんなことは言わないよな。
「水月……! 水月っ、食事をお願いします。米と味噌汁、魚を……キッチンに行けば分かると思うので」
シュカは部屋の扉を少しだけ開けて顔を覗かせ、俺にそう頼んできた。
「あ、あぁ……この臭いなんだ? なんか……」
酷い匂いが部屋の中から漂ってくる。隙間はほんの少ししかないのに。この悪臭は……糞便か? 犬や猫ではない、人間の……それもしばらく放置された……
「いっ、いいから! 食事をお願いします!」
シュカはバンッと勢いよく扉を閉めた。俺はキッチンに向かい、シュカの頼み通りに食事を作り始めた。米はレンジで作れるパックご飯、味噌汁はレトルト、魚は干物がいくつかあったのでそれを使った。
「……ミツキ、あの者の様子を見てこようか?」
「いや……多分見られたくないだろうから」
シュカの母親に必要な介護は風呂やトイレに連れて行く、という程度のものではないのだろう。連れて行った先での世話も必要なのだろう。風呂なら身体を洗ってやるところなども全て。トイレなら座らせて……その後の処理も? トイレに行きたいと申告してくれるならまだいいが、それすら出来ないのだとしたら、オムツが必要になる。
(シュカたまが玄関で限界迎えてて……日時見た時の反応からして、少なく見積って丸一日はあそこでじっとしてたんでしょうな。シュカママがオムツユーザーなのだとしたら……)
臭いに言及するべきじゃなかったな。
そう後悔しつつ、食事の準備が出来たのでシュカの元へ向かった。彼の母親の部屋の扉を叩く。
「……扉の前に置いてください」
「分かった。他何か手伝えることあるかな?」
「…………ありません。お帰りください」
「シュカ……」
「図書館で約束があるのでしょう? 先に行っていてください……私も後で行きます」
「……本当に?」
「はい、後は一人で大丈夫ですから……ヘルパーさんも呼びましたし」
「分かった。じゃあ待ってるよ、どこの図書館かはチャット見てくれ。また後でな、シュカ」
多分、介護素人の俺にも手伝えることはある。シュカの指示通りに物を運んだりだとか……でも俺はしつこくはせず、引き下がった。
「ミツキ、いいのか?」
「うん、シュカなら大丈夫だよ」
シュカを信じ、彼の体よりも心を優先し、これ以上俺は立ち入るべきではないと判断した。あそこに立ち入っていいのは愛情も友情も存在しない、全く無関係の大人だ。
「何か、然るべきところに相談出来るように……シュカ、説得しないとな」
シュカの問題を共に抱えるには俺は全てが拙過ぎる。
「シューカーくぅーん、あーそーぼー」
玄関扉に向かって呼びかける。ここはシュカの家だ、以前は窓から入ったりもしたな。相変わらずインターホンは壊れているようなので扉を叩いてみる。昨日の昼間にメッセージを、夜に電話を、今朝にも電話をかけたがシュカとは連絡が付かなかった。
(前に家に様子見に来た時は風呂場でボーッとしてたんですよな)
今回も似たようなことになってはいないだろうか。心配で扉を叩く手が早くなる、強くなる。でもシュカは出てこない、留守なのだろうか。
「サキヒコくんちょっと中見てきてくれない? 居るかどうか」
「分かった。ん、居たぞ?」
結論が妙に早かった。すぐそこに居るのだろうか、来客に気付いて出てくる寸前だった? いや、待ってているが扉は開かない。何の気なしに玄関扉のドアノブを掴んでみると、回った。拍子抜けするほどあっさりと開いた。
「えっ……」
彼氏の家とはいえ二度目の不法侵入をするかどうか悩む暇もなかった。シュカは玄関に座り込んでいた。なるほどサキヒコがすぐに見つけられた訳だ。
「シュ、シュカ……?」
眠っている。座ったまま、眼鏡をかけたまま、玄関扉を開けたまま……不用心にも程がある。用心深いから不眠症なんじゃなかったのか? 俺は後ろ手に扉を閉め、シュカの肩を揺すって起こした。
「んっ……んん……?」
「あ、起き……へぐっ!?」
「ミツキ!? ミツキ!」
頬が痛い。殴られた? サキヒコの心配そうな声が聞こえる。
「…………水月? すいません! 大丈夫ですか水月、あなただとは分からず……つい」
「熟慮してから殴ろうか……痛いよ」
「すいません……あなたまた不法侵入ですか?」
「鍵かかってなかったんだよ。それでも開けるのはどうかと思うだろうけど、掴んじゃったら開いちゃって、開いちゃったら居たから……」
シュカの手は俺の頬に触れている。心配してくれているのだろうか? 寝起きで体勢も悪かったシュカの拳にはいつものようなキレも威力もなかったのに。
「あぁ、大したことないよ。俺よりシュカだ、なんで玄関先で寝てるんだよ。しかも鍵かけずに、座ったままなんて……また無理してたのか?」
「そんなことはないのですが……ただ、昨日帰った時に……鍵入れを落としてしまって」
鍵入れとは靴の隣に落ちているこの小さな木製のカゴのことだろうか。中には鍵が入っているが、飛び出した鍵もある。靴箱の上にでも置いていたのだろう。
「…………それ見て、なんか、切れちゃったんです」
「何が?」
「なんでしょう……やる気? 気力? 何もかもどうでもよくなって、という思考すらなく……座って、寝てしまったみたいです」
「拾うのめんどくさかったのか?」
「……少し違います。なんだか……なんでしょう、切れたんですよ」
疲労困憊、なのかな?
「また介護士さん呼ぶのサボってたのか?」
「…………バイクの免許取るために、多めに頼んだので……それを取り返すために、節約を」
「節約で体壊しちゃ元も子もないよ、治す方が手間も時間もお金もかかるんだから」
「……深く反省しています。今何時ですか?」
俺はスマホをシュカに見せた。
「もうこんな時間ですか……早く朝食を、んっ? 待ってください、二十九日? 木曜日……?」
「あぁ、今日みんなで図書館行こうってなってて、シュカだけ連絡つかなかったから迎えに来たんだけど」
シュカは顔を青ざめさせ、俺を置いて走っていった。シュカが駆け込んだ部屋は確か、彼の母親が居る部屋だ。
「母さん! 母さんっ……」
「シュ、シュカ? 大丈夫か?」
日にちに驚いたように見えたが、まさかシュカの帰宅は昨日ではなく一昨日だったとか……そんなことは言わないよな。
「水月……! 水月っ、食事をお願いします。米と味噌汁、魚を……キッチンに行けば分かると思うので」
シュカは部屋の扉を少しだけ開けて顔を覗かせ、俺にそう頼んできた。
「あ、あぁ……この臭いなんだ? なんか……」
酷い匂いが部屋の中から漂ってくる。隙間はほんの少ししかないのに。この悪臭は……糞便か? 犬や猫ではない、人間の……それもしばらく放置された……
「いっ、いいから! 食事をお願いします!」
シュカはバンッと勢いよく扉を閉めた。俺はキッチンに向かい、シュカの頼み通りに食事を作り始めた。米はレンジで作れるパックご飯、味噌汁はレトルト、魚は干物がいくつかあったのでそれを使った。
「……ミツキ、あの者の様子を見てこようか?」
「いや……多分見られたくないだろうから」
シュカの母親に必要な介護は風呂やトイレに連れて行く、という程度のものではないのだろう。連れて行った先での世話も必要なのだろう。風呂なら身体を洗ってやるところなども全て。トイレなら座らせて……その後の処理も? トイレに行きたいと申告してくれるならまだいいが、それすら出来ないのだとしたら、オムツが必要になる。
(シュカたまが玄関で限界迎えてて……日時見た時の反応からして、少なく見積って丸一日はあそこでじっとしてたんでしょうな。シュカママがオムツユーザーなのだとしたら……)
臭いに言及するべきじゃなかったな。
そう後悔しつつ、食事の準備が出来たのでシュカの元へ向かった。彼の母親の部屋の扉を叩く。
「……扉の前に置いてください」
「分かった。他何か手伝えることあるかな?」
「…………ありません。お帰りください」
「シュカ……」
「図書館で約束があるのでしょう? 先に行っていてください……私も後で行きます」
「……本当に?」
「はい、後は一人で大丈夫ですから……ヘルパーさんも呼びましたし」
「分かった。じゃあ待ってるよ、どこの図書館かはチャット見てくれ。また後でな、シュカ」
多分、介護素人の俺にも手伝えることはある。シュカの指示通りに物を運んだりだとか……でも俺はしつこくはせず、引き下がった。
「ミツキ、いいのか?」
「うん、シュカなら大丈夫だよ」
シュカを信じ、彼の体よりも心を優先し、これ以上俺は立ち入るべきではないと判断した。あそこに立ち入っていいのは愛情も友情も存在しない、全く無関係の大人だ。
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