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寂しさの対処法
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俺が作ったハムスターのぬいぐるみを自慢しているセイカを眺めていると、ノヴェムに手首を緩く掴まれた。また俺の視線を自分に向けたいのかなと可愛らしく思いながら彼の方を向くも、彼は俺の手をじっと見ており目は合わなかった。
「……? ノヴェムくん、どうしたの?」
《けっこんゆびわ》
「マリッジリング……あぁ、これね。うん、つけてるよ」
ノヴェムは機嫌良さげにニコニコしている。一度部屋に戻って彼お手製の結婚指輪を身に付けたのは間違いではなかったようだ。
《お兄ちゃん、大好き!》
「みーとぅー、でいいのかな? お兄ちゃん英語苦手だからなぁ……進級に関わるから頑張らなきゃなんだけどさ」
テスト前はこれまで以上にセイカに頼ることになりそうだな、と情けない未来を思い浮かべた。
三十分ほどノヴェムとゲームで遊び、ピザが届いたのでダイニングに集まった。買い置きのコーラを開け、ちょっとしたパーティ気分で席に着く。
「ペパロニとサラミのピザと、シンプルなマルゲリータ。それからポテトにチキン。いやぁ幸せな光景だな」
「鳴雷、ピザ好きなのか」
「大好き。ピザ嫌いなヤツはそうそう居ないよ。スーパーには冷凍ピザとかあるけど、やっぱり……んっ、出前のピザは、ん~……美味い! 生地の厚みが違うよなぁ、超美味しい!」
「本当に好きなんだな……まぁ、片手で持てるし、美味しいし……俺も好きだけどさ」
片手かつ手掴みで食べられるピザは隻腕のセイカにとって食べやすいものだろう。普段よりペースが早いのは気のせいではないはずだ。
「さっき百鬼丸ボーイにハムスターのぬいぐるみを見せていただいたんですが、水月くんは手先が器用なんですね」
「ハムスター? あぁ、はい、いえそんな、器用ってほどじゃ……」
「過ぎた謙遜は時に無礼ですよ」
狂いのないイントネーションで、少々難しい熟語を使うネイにはどうにも違和感がある。金髪碧眼かつ一目で外国人と分かる顔立ちなのに、そこらの日本人よりよほど日本語が上手い。
「そう……ですか?」
「ええ、あなたの腕は素晴らしい。誇ってください」
ただ話しているだけのネイに違和感を抱いてしまって、自分の中にも偏見があったことを心の中だけで酷く恥じた。
ピザパーティを終え、少し遊ぶとノヴェムは寝てしまった。小さな身体をソファに横たわらせ、タオルケットを布団代わりにかける。
「ありがとうございます、水月くん」
「いえ……ノヴェムくんウチに来るといつも夕飯前にちょっと寝ちゃうんですけど、大丈夫ですかね? 夜中寝なくなったりしてませんか?」
「ノヴェムは帰ったらすぐに眠っていますよ、もちろんシャワーを浴びてからね。私に付き合わせて遅寝早起きの生活ですから寝足りないのでしょう。いくら先に寝ていてと言っても、ノヴェムは玄関で待ってしまって……」
うつらうつらと船を漕ぎながら玄関に座り込み、ネイを待っているノヴェムを思い浮かべて自然と口角が上がる。
「……その後、寝かしつけても……うなされて、泣いて、起きてしまうこともあって」
「えっ……ウチで寝た時はそんなこと、一度も」
「そうなんですか……遊び疲れて寝たからですかね」
「…………なんで泣いちゃうんでしょう?」
「母親が恋しいのでしょう。あの子はいつも母親にべったりでしたから……」
「ぁ……」
失念していた。そうだ、ネイはシングルファーザー、ノヴェムは母親を亡くしているのだ。病か、事故か、事件か、死因を聞く気にはなれない。
「…………水月くんは父親が居ないと聞きましたが、寂しさへの対処法とか……何か、ありませんか?」
「えっ、うーん……俺の場合は最初から居なかったので……そもそも居ないものが居なくて寂しくなったりはしませんでしたから……」
「……そうですか。すいません」
「いえ……ぁ、でも」
幼い日の出来事を思い返していくうちに、母に放ったらかしにされていた数年間の寂しさを見つけた。俺が産まれてから数年間、母は仕事と遊びに打ち込んでいて、恋人数人に交代で俺の世話をさせていた。
「…………でも?」
母が転職して俺との時間を作ってくれるまで、俺は確かに寂しかった。対処法なんてなかった、ただ毎日母が帰ってくるのを待って、母に構われる時を夢見ていた。
「昔、母が今より忙しくしてた時は……すごく寂しかったなって思い出したんですけど、寂しいなぁって過ごしてただけなので……すいません、対処法とかないんですよ。ごめんなさい役に立てなくて」
「……いえ、謝らないでください」
「ノヴェムくんのお世話ならいつでも請け負いますよ。夏休み終わった後も……あっ、学校終わったらこっちに来るように言っておいたらどうです? 俺はバイトやってるので帰るのは夕方過ぎになりますけど、セイカは俺より早く帰りますしアキはずっと家に居るので!」
「…………ありがとうございます」
ネイは深々と頭を下げる。
「……私も、唯乃さんのように転職を検討してみます」
「あんまり気楽なことは言えませんけど、ノヴェムくんのためだけじゃなくネイさんも睡眠とか足りてなさそうなので、そうした方がいいと俺は思います」
「ありがとうございます……水月くんは優しいですね」
「そんなことは……」
《あーにーきっ! チビ助寝たんだろ? 俺と遊ぼーっ!》
「うわっ……!?」
背後からアキに飛びつかれてふらつく。
「アキ、もぉ……なんだよ。あぁそうだアキ、学校始まったらな、ノヴェムくん見てやってくれるか? ってセイカに翻訳してもらわないと……セイカは?」
アキの後ろからひょこひょことセイカが追ってきている。彼の歩く様やその遅さを考えると、やはりより歩きやすい義足とやらが必要なのが分かる。新しい義足が出来る来週再来週が待ち遠しい。
「……? ノヴェムくん、どうしたの?」
《けっこんゆびわ》
「マリッジリング……あぁ、これね。うん、つけてるよ」
ノヴェムは機嫌良さげにニコニコしている。一度部屋に戻って彼お手製の結婚指輪を身に付けたのは間違いではなかったようだ。
《お兄ちゃん、大好き!》
「みーとぅー、でいいのかな? お兄ちゃん英語苦手だからなぁ……進級に関わるから頑張らなきゃなんだけどさ」
テスト前はこれまで以上にセイカに頼ることになりそうだな、と情けない未来を思い浮かべた。
三十分ほどノヴェムとゲームで遊び、ピザが届いたのでダイニングに集まった。買い置きのコーラを開け、ちょっとしたパーティ気分で席に着く。
「ペパロニとサラミのピザと、シンプルなマルゲリータ。それからポテトにチキン。いやぁ幸せな光景だな」
「鳴雷、ピザ好きなのか」
「大好き。ピザ嫌いなヤツはそうそう居ないよ。スーパーには冷凍ピザとかあるけど、やっぱり……んっ、出前のピザは、ん~……美味い! 生地の厚みが違うよなぁ、超美味しい!」
「本当に好きなんだな……まぁ、片手で持てるし、美味しいし……俺も好きだけどさ」
片手かつ手掴みで食べられるピザは隻腕のセイカにとって食べやすいものだろう。普段よりペースが早いのは気のせいではないはずだ。
「さっき百鬼丸ボーイにハムスターのぬいぐるみを見せていただいたんですが、水月くんは手先が器用なんですね」
「ハムスター? あぁ、はい、いえそんな、器用ってほどじゃ……」
「過ぎた謙遜は時に無礼ですよ」
狂いのないイントネーションで、少々難しい熟語を使うネイにはどうにも違和感がある。金髪碧眼かつ一目で外国人と分かる顔立ちなのに、そこらの日本人よりよほど日本語が上手い。
「そう……ですか?」
「ええ、あなたの腕は素晴らしい。誇ってください」
ただ話しているだけのネイに違和感を抱いてしまって、自分の中にも偏見があったことを心の中だけで酷く恥じた。
ピザパーティを終え、少し遊ぶとノヴェムは寝てしまった。小さな身体をソファに横たわらせ、タオルケットを布団代わりにかける。
「ありがとうございます、水月くん」
「いえ……ノヴェムくんウチに来るといつも夕飯前にちょっと寝ちゃうんですけど、大丈夫ですかね? 夜中寝なくなったりしてませんか?」
「ノヴェムは帰ったらすぐに眠っていますよ、もちろんシャワーを浴びてからね。私に付き合わせて遅寝早起きの生活ですから寝足りないのでしょう。いくら先に寝ていてと言っても、ノヴェムは玄関で待ってしまって……」
うつらうつらと船を漕ぎながら玄関に座り込み、ネイを待っているノヴェムを思い浮かべて自然と口角が上がる。
「……その後、寝かしつけても……うなされて、泣いて、起きてしまうこともあって」
「えっ……ウチで寝た時はそんなこと、一度も」
「そうなんですか……遊び疲れて寝たからですかね」
「…………なんで泣いちゃうんでしょう?」
「母親が恋しいのでしょう。あの子はいつも母親にべったりでしたから……」
「ぁ……」
失念していた。そうだ、ネイはシングルファーザー、ノヴェムは母親を亡くしているのだ。病か、事故か、事件か、死因を聞く気にはなれない。
「…………水月くんは父親が居ないと聞きましたが、寂しさへの対処法とか……何か、ありませんか?」
「えっ、うーん……俺の場合は最初から居なかったので……そもそも居ないものが居なくて寂しくなったりはしませんでしたから……」
「……そうですか。すいません」
「いえ……ぁ、でも」
幼い日の出来事を思い返していくうちに、母に放ったらかしにされていた数年間の寂しさを見つけた。俺が産まれてから数年間、母は仕事と遊びに打ち込んでいて、恋人数人に交代で俺の世話をさせていた。
「…………でも?」
母が転職して俺との時間を作ってくれるまで、俺は確かに寂しかった。対処法なんてなかった、ただ毎日母が帰ってくるのを待って、母に構われる時を夢見ていた。
「昔、母が今より忙しくしてた時は……すごく寂しかったなって思い出したんですけど、寂しいなぁって過ごしてただけなので……すいません、対処法とかないんですよ。ごめんなさい役に立てなくて」
「……いえ、謝らないでください」
「ノヴェムくんのお世話ならいつでも請け負いますよ。夏休み終わった後も……あっ、学校終わったらこっちに来るように言っておいたらどうです? 俺はバイトやってるので帰るのは夕方過ぎになりますけど、セイカは俺より早く帰りますしアキはずっと家に居るので!」
「…………ありがとうございます」
ネイは深々と頭を下げる。
「……私も、唯乃さんのように転職を検討してみます」
「あんまり気楽なことは言えませんけど、ノヴェムくんのためだけじゃなくネイさんも睡眠とか足りてなさそうなので、そうした方がいいと俺は思います」
「ありがとうございます……水月くんは優しいですね」
「そんなことは……」
《あーにーきっ! チビ助寝たんだろ? 俺と遊ぼーっ!》
「うわっ……!?」
背後からアキに飛びつかれてふらつく。
「アキ、もぉ……なんだよ。あぁそうだアキ、学校始まったらな、ノヴェムくん見てやってくれるか? ってセイカに翻訳してもらわないと……セイカは?」
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